7話 またもや太刀川の推理

 私たちの注目が自分に集まっていることを確認すると、太刀川は得意げにその口を開いた。


「俺はこの事件のウラには、複雑な人間ドラマが絡んでいると見ている」

「ドラマ?」

「そうだ。いいか真冬、普通こう言う事件が起きると周りはどう思う? おそらく優子のことが好きな男子、もしくはかおるこのような年増な女が好きなヤツ、あるいは真冬のような美男子が好きな変態の仕業、そう思うだろう」

「え? まあ・・・そうかな・・・」

「だが俺はそうは思わない。犯人の目的は他にある」

「えっ? 他にあるって?」


 そう尋ねられた彼はお得意の『溜め』を作ってから人差し指を立てるとトーンを挙げる。


「ズバリ、これは金目当ての犯行だ!!!」


 そう言うと、一旦言葉を切ってみんなの顔色を伺う。

 そんな太刀川の大声に、前の席の女子が振り返ってこっちを見る。どこか不機嫌そうな表情だ。


 実はこう言ったことは最近、ちょっくちょくあるコトだ。まだクラスの全員が太刀川を許しているワケではない。はたから見れば以前と変ることなく、教室で大騒ぎしている彼を面白く思っていない生徒も多いのだ。

 さらにそんな彼と普通に話をしている私たちのことも、理解できないでいる友達も何人かいる。優子からは冗談ながらも直接聞かれたし、萌絵に至っては廊下側の席からことある毎にわざわざ振り返って、こちらを凝視していることもある。

 まあ、そう言った気持ちも充分すぎるほど理解できるのではあるが・・・。


 そんなことを考えながら、彼の言葉に反応しないでいると、私たちが理解していないと思ったのか、残念そうに首を傾げながら彼は更に続ける。


「まあ、お前らには解らないだろうな。まあいい、俺が説明してやる」


 彼に話を振った凛花は早くも興味を失ったのか、頬杖を付いたままシラっとした顔で窓の外を眺めている。そんな凛花に気付く様子もなく、彼は話し続ける。


「被害に遭ったのは優子、真冬、かおるこ、あかりの四人。この四人に共通点はあるか?」


 探偵気取りな彼の投げかけに真冬君は首を傾げたポーズでそれに答える。


「じゃあ、教えてやろう。みんなも解るようにこの四人自体に共通点はない! しかし!」


 そう言うと更に彼はトーンを上げる。


「四人に共通点はないが、この『四台』についてはある共通点があったんだ!!」


 どうだ! と言わんばかりの表情で私と真冬君を交互に見つめる彼。そんな彼に窓の外を見つめたままの凛花がボソッと口を開く。


「新品・・・」

「ぐっ!・・・」


 一瞬、動きの止まった太刀川。しかしすぐに我に返ると慌てて言葉を繋ぐ。


「そ・・・そう! そうだ! この四台に共通している点。それはどの自転車も買ったばかりの新車ってことだ!」


 そう言いながらも答えを当てられた彼は少し悔しそうな表情で凛花の横顔を見やる。


「新品だとどうなるの?」


 真冬君が律儀にも太刀川に尋ねる。


「つ、つまり・・・犯人はその新品のサドルをネットオークションで売りさばくつもりなのさ! 個人がネットで売るにしたって、数や種類が多い方が目に留まるし、ニーズにも答えられるからな。毎日、学校でサドルを盗んで高値で売る。コメントに『女子高生が使用していました』とか書き込めば違った層からも需要がありそうだしな! 要するに犯人はそう言ったことをしてまで金が欲しい貧乏人の仕業ってことだ!」


 凛花に先を越され、バツが悪そうにしていた彼だったが話して行くうちにまたいつもの自信満々な態度で持論を語る。ちなみにこれが彼の言う「複雑な人間関係」なのだろうか。


「そうなのかな・・・」

「そうに決まってるだろ」

「じゃあさ、ネットでたくさん売りたいなら、まだ被害は続くってこと?」


 本当に素直に育ってきたのだろう、太刀川の言葉を疑う素振りも見せず、真冬君が聞いて来る。その純粋さがまぶしい。


「ああ、可能性は高いな。だから俺たちは今日から張り込みを開始する」

「俺たちって、僕も?」

「そうだ、当たり前だろ。いやなのかよ」

「いや、それはいいけど・・・」


 そう答える真冬君。イヤならイヤって言ってもいいのよ!


 対して太刀川は自分の推理に自信満々。このクラスで金のないヤツは誰か、などと失礼な想像を始めている。


―――ううーん、そのセンも無いとは言えないけど・・・。私は彼の自尊心を傷つけないように聞いてみる。


「その可能性もあるかもしれないけど、その動機だけで絞っちゃっていいのかなあ?」

「んん? 他にもあるってか? ・・・まあ、女好きな変態ってセンも可能性としては残っているがな。いずれにしろ探偵たるモノ、常に多角的に考えないとな!」とエラそうな台詞。


―――だからそうなると捜査線上にアナタも上がってくるのよ! 私はノドまで出掛かった言葉を再び飲み込んだ。


 凛花は凛花で相変わらず窓の外を見て黄昏たそがれれている。窓辺に佇む美少女の色白の肌は、夏の陽射しを受けてほんのりと火照っているように見える。


 珍しくおとなしい彼女は何を思っているのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る