6話 その翌朝
7月22日(水曜日)―――
翌朝、教室に入った私は、前日以上の喧噪に圧倒されることになった。
自分の席に着くなり近寄って来た太刀川から聞いたところによると昨日の帰り、今度は真冬君のサドルが盗まれたらしい。更に、隣で落ち込んでいる真冬君曰く、昨日駐輪場であたふたしているとかおる子先生までもが「サドルが盗まれた」と言い出して駐輪場は一時、大変な騒ぎになったそうだ。
更に更に被害情報は続く。
五分ほど遅れて登校してきた凛花は、息を切らしながら私の席まで来ると、周囲が見ているのも気にせずその大きな地声のまま言った。
「大変だ玲! あかりのサドルが盗られたらしいぞ!」
一年生ながら学校から特別許可をもらって自転車通学をしているあかりちゃん。彼女の自転車までもが被害にあったと言う。
一昨日は優子、
昨日は真冬君、かおる子先生、そしてあかりちゃん。
男女年齢関係なく被害に遭っている。
いよいよこれは探偵の出番だ。
凛花も同じように考えていたのだろう、お昼休みになるとお弁当箱を手にこっちを向いて言う。
「なあ、これって完全な事件だよな!?」
その瞳はキラキラと輝いている。
「そうね、確信犯の仕業ね」
「どうせ学校は警察には届け出ないよな?」
「ううーん、どうだろ。でも太刀川君が殴られた時でさえ、届け出なかったくらいだから、サドルが三~四個盗まれたくらいじゃ、まだ言わないかもね。しかも今回も生徒か職員の中に犯人がいる確率が高いし」
そう言うと凛花の瞳は益々眩しい輝きを見せる。
「だよな! となればオレたちの出番だよな!」
「そうなる・・・かな」
「よーし! そうと決まれば調査開始だ! 前回は玲に負けたけど、今回はオレが勝つからな!」
「もう。『勝ち負け』の問題じゃないでしょ!」
「いやー、オラわくわくすっぞ!」
「何? 伸びる棒でも出すつもり?」私は白い目で彼女を見る。
そんな中、教室に太刀川が戻って来た。トイレにでも行って来たのだろうか。いつものように後ろに真冬君を引き連れている。―――男子二人で連れションですか!?
そんな二人の姿を確認すると、凛花が真冬君に話しかける。
「おう真冬。それにしても昨日は災難だったな」
「え、あ、うん。ビックリしちゃったよ」
てっきり太刀川の方に話しかけると思っていたのか、一瞬、顔をビク付かせて彼が答える。
「それでさ、お前何か心当たりとかないの? 誰かに恨まれているとか」
「う、恨まれているなんてそんな・・・」
そう言うと彼は、もともと色白なその顔色を更に曇らせる。
「まあいいや。ところで今日はどうやって学校まで来たんだよ? バスか?」
「ううん、仕方ないから昨日の帰りから立ち漕ぎで乗って来てる」
「はあ? サドルのないままか?」
「だってウチ、お金ないからバス代とかもったいなくて」
「ひえー、このクソ暑い中、根性だな!」
「それを言ったらあかりちゃんだってそうじゃない。学校まで走って来たんでしょ?」
「ああ、あいつは体育会系だからな。朝飯前だろ」
そんな会話に太刀川が首を突っ込む。
「なあ、お前たちは誰の仕業だと思う?」
どうやら彼もまた、一旦やめた犯人捜しに再び興味が湧いている様子だ。
「なんだ太刀川。昨日は名探偵気取りだったけど、もうギブアップか?」
「なんだと! ・・・って、まあそうじゃなくてよ。こう言うのは探偵同士、共同戦線で望んだ方がいいだろ」
「ふーん、探偵ね・・・」
「なんだよ」
「私たちのことも探偵って認めるんだ」
「そりゃあ、まあ・・・そうだな」
よほど前回の事が薬となっているのだろう。あの事件依頼、私たちに一目置いているのをちょいちょい感じて少し可笑しくなる。
「じゃあオマエはどう思っているんだよ。まずはオマエの意見から聞かせろよ」
挑発的な視線を投げかける凛花に一瞬、太刀川は目を見開く。そんな彼の表情を、真冬君が興味深そうに見ている。周囲の視線が自分に集まっているのを知って、少し得意げに胸を張ると、彼は揚々と話し出した。
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