27話 大団円は新たな始まり
翌朝の教室は蜂の巣を突いたような大騒ぎだった。
事件の一部始終はクラス中に広まり、大仰に頭に包帯を巻いて登校して来た太刀川は、ことの経緯をさも自分の武勇伝かのごとく、得意になって話し続けていた。普段は彼を無視している連中も今や「時の人」となった彼を取り囲んではワイワイと囃し立てている。
そんな中、こっちを向いた凛花は眉間にシワを寄せながら隣の喧噪に顔を歪ませている。
「まあ、事件も解決ってことで、めでたしめでたしだね」
「そりゃあそうだけどよ・・・」
彼女の表情が冴えないのには、私にも色々と心当たりがある。
「あんなヤツのために玲が危険な目に遭ったのかと思うと、なんて言うかな・・・」
「もういいわよ。それにアレは私が自分の意思でやったことだしさ。まあ、今後の反省点と言うことで。凛花にも心配掛けてごめんね」
私は元気のない彼女の頭を軽く撫でる。
「はぁ・・・」
「もう! 元気出してよ! そうだ、ほら! アレやろうよアレ!」
「・・・ん? アレ?」
「そう! 行くわよー・・・『きらっと参上!~』はい!」と言って凛花を促す。
「あ・・・『きゅーとにかいけつ・・・』」
「・・・もう! いつまで落ち込んでるのよ!」
私は頬杖を着いたその両手を無理矢理奪うと、いつものように軽く握り締める。
「!!」
凛花が一瞬「ハッ!」とした表情でこっちを見る。
朝から真夏の太陽が降り注ぐ窓際の席、女子二人が手を握って見つめ合っている。しかし、今の教室の話題は太刀川が全部持って行っている。私たちの様子を気にする人はいないようだ。
「ありがとう」
しばらくして、いつになくしおらしい凛花はそう言うと、少し照れたように握り返していたその両手をそっと離す。
「けど、なんだな」
「ん? どうした?」
「それにしても今回の件、オレは全く役に立ってなかったな」
結果として今回は単独捜査やら事件解決やら、オイシイところは私が持って行った感がある。自称「美少女探偵」の彼女としてはその点も落ち込む要因なのだろう。
「そんなことないわよ。そもそも凛花の積極的アプローチがなければこんなに早く解決しなかったんだし、あかりちゃんとの連携だって見事だったわ。ほんと助かった」
「そっかなあ」
「そうよ、たまたま今回は私の方が目立つ役回りだったってだけよ」
「ならいいけどよ」
「昔から言うじゃない『籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を作る人』ってね」
「ん? なんだよそれ」
「要はその場その場で人には重要な役割がある、ってことよ」
「そっか・・・なんか解ったようなわからんような・・・って、なんか玲ジジ臭えなあ」
「アンタに言われたくないわ」
「そうか?」
「そうよ」
あはははは!
ようやく凛花の顔にも笑顔が戻る。
そんな折、私たちを取り巻いていた喧噪の渦が一瞬途切れる。みんなが声を沈める中、人だかりをかき分けて太刀川が近づいてきた。
「・・・あのよ・・・市之瀬、川島」
ついさっきまでとは打って変わり、小声の彼は今まで見た事のないような神妙な面持ちで私たちを見る。
「今回は・・・今回はありがとな!」
彼は照れくさそうにそれだけ言うとすぐにまた自分の席に戻って行ってしまった。すかさず周囲の連中が騒ぎ出す。「市之瀬や川島も関係あるのか?」「凛花たち、何かしたの?」それを受けた太刀川がまた得意そうに話始めている。
―――太刀川君が人にお礼を言うなんて珍しいわね。
「あいつにも少しはまともなトコがあったんかな」
私の心の呟きに同調するように凛花が声を漏らす。
「うん、そう思えば私たちがやったことだって少しは報われるわね」
「だな」
窓辺からの陽射しは今も私の左腕を親のカタキのように突き刺している。今日も猛暑日になりそうだ。
窓の外、飛行機雲が東へと伸びている。再来年の春には私たちもこの町を出て行くのかもしれない。
でも今は大切なこの瞬間を思い切り楽しもう。
私たちの『夏』は始まったばかりだ。
――― File1. 「名探偵、初めての事件に挑む」 解決!
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