26話 いわゆる解決編のようなもの②

 彼が切り札として出してきたのはコンビニのレシートだった。犯行時間直前に、近所のコンビニに寄ったと証明するための。


 レシートの日付、時間に問題はなかった。あの日、あの時間に買い物をしていれば犯行は不可能だ。しかし、問題はそこではなかった。彼が買った「商品」。私はレシートに印字されている商品名を見た。


『ウーロン茶、サンドウイッチ、ポテチ・・・乳液、生理用品!』


 乳液ならワンチャンあり得る。彼には不釣り合いだが、顔出しで配信していることを考えると肌の手入れをしていたのかもしれない。しかし生理用品はどうか? 彼に女友達の気配を感じたことはないし、知ってのとおり彼は男一人暮らしだ。必要ない。これは彼が買い物したものではないのだ。


 ではこのレシートはどうしたのか?


 彼はこの三月までそのコンビニでバイトをしていた。言うなればあかりちゃんの先輩に当たるわけだ。これも昨日、バイトの先輩からの話としてあかりちゃんから聞いた話だ。もっとも彼が働いていたのはわずか二~三ヶ月だったと言うが、当然、そこで働いていた彼なら、ゴミ袋が回収日まで建物ウラのゴミ置き場に置き去りにされていることも知っている。事件の夜にでも取りに行ったのだろう。わざわざ万が一の保険としてそのレシートを用意している行動こそが彼が犯人だと言うことを物語っている。


「瀬下君がレシートを差し出してきた時、私の頭の中でいくつものパーツが一つになったの。でもそれが顔に出しまったのね・・・それで彼、私の口を塞ごうと録画した状態で私を・・・」

「録画してそれをモトに脅迫するってか!? あの野郎――っ!!」

「ヒドイですーー!!」


 私の話を聞いて、凛花とあかりちゃんは改めて怒りをあらわにした。


***


 瀬下祐二、彼はあの日、女子になり切って太刀川に手紙を書いた。


『三時に音楽室で待っています』


 それを真に受けた太刀川は、なにも疑わずに音楽室に赴く。

 そこでしばらくその手紙の主が現れるのを、ピアノのイスに腰掛けて待った。

 

 一方、放送室で生配信をしていた瀬下は約束の三時になったことを確認する。

「トイレに行く」と一旦画面から姿を消し、内扉から隣の放送準備室へ移動、そこで何かしらの物音を立てる。


 それに気付いた太刀川は放送準備室のドアを開け、足を踏み入れる。その瞬間、瀬下が背後からこん棒で彼の頭を強打。気を失った太刀川を音楽室まで引きずるとそのまま放置し、また内扉を通って放送室に戻り、何食わぬ顔で配信を続けた。


***


 傷害事件に婦女暴行。

 確かに彼は大きな罪を犯した。おそらく彼が教室に戻って来ることはないだろう。


 彼が唯一、心を開いていた動画チャンネル、これも相応の機関によって閉鎖されるかもしれない。


 彼が「信者」と言っていたそのフォロワーたち。いったい彼等は瀬下の何に共感し、何を支持していたのだろうか。瀬下が配信の中でやっていた社会批判や炎上商法と呼ばれても仕方のない愚行の数々。

 もしかしたらそれは自分にはできない事への憧れや欲望のはけ口、自分の代弁者として彼を見ていたのかもしれない。

 だとすると瀬下が捕まった今、彼等はどうするのだろうか? 更に危険な思想を持った第二第三の瀬下祐二が現れることだってあるのではないだろうか。


 窓の外、立派な公約を掲げた選挙カーがまた一台通り過ぎていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る