23話 モグモグバーガーにて
午後六時、私たちはモグモグバーガーに来ていた。当初の待ち合わせ時間からは五時間遅れだ。
あのあと、駆け付けた警察の取り調べは夕方まで続いた。瀬下は連行され、私はことの一部始終を話した。もちろん、一昨日の学校での一件についてもだ。さすがにこれで学校側も隠し立てはできなくなるだろう。
凛花も今までの経緯について丁寧に受け答えをしていた。まあ「丁寧」と言っても警察に対してのタメ口には感心しなかったが。
一番、申し訳なかったのはあかりちゃんにも迷惑を掛けてしまったことだ。
コンビニに入る直前、私は彼女にあるお願いをした。「位置情報アプリ」で私の動きを見ていてくれ、と。お昼のお弁当を食べながらそれを見ていた彼女は、私の動きが、ある一点から動かなくなったことを知った。不自然に思った彼女はすかさず凛花に連絡。ちょうどこっちに向かっている途中だった凛花がバス停に到着するのを待って、揃って瀬下のアパートまで来てくれた。そして事件に遭遇、その後の取り調べが長引いたせいで、結局、今日はバイトをドタキャンすることになったのだ。
「それにしても、よく瀬下の部屋まで解ったわね」
「はい、私いつもバイトの前とかにこの辺をジョギングしてるんです。それで前に瀬下先輩があの部屋から出て来るのを見たことがあって」
「まあ、何にしても今回はあかりのファインプレーだな」
「そうよね、ありがとうあかりちゃん」
「いえいえ、私は先輩に着いて行っただけですから」私たち二人にお礼を言われたことに照れたのか、いつかのようにその右手を大きくぶるんぶるんと振って謙遜する。
「それに玲も大したもんだぜ。前もって手を打っておくなんてよ。まあ、勝手に一人で先走ったのは玲らしくなかったけどな」
「そうね、私も反省してる。今から考えると自分でも軽率だったと思う」
そう、男の人のアパートに一人で乗り込むなんて。それも相手が一番の容疑者ともなれば危険極まりない行為だ。捨て身の覚悟があったにせよ、自分でも何であんな行動に出たのか説明ができない。
「それよりさ」急に凛花がかしこまったように小声になって私を見つめる。
「ん? なあに?」
「それより玲、お前アレ、大丈夫だったのかよ」ぶっきらぼうに言う彼女の顔がまた心配そうに少し歪む。
「アレって?」
「アレってアレだよ」
「だから何?」
「だから、その・・・」少し顔を赤くしながらも心配そうに口ごもる凛花。凛花がこんな表情をする時はいつも決まっている。私は恩人に対して失礼だとは思いながら、小首を傾げて知らないフリをする。すると見かねた凛花がいつもの音量に戻って言う。
「だから、アレはアレだよ! その・・・
テーブルに置いた手に力を入れてストレートに聞いて来る。その拍子に華奢な作りのテーブルがグラリと揺れる。
「・・・ぷっ! 操って!」失礼と思いつつも、つい吹き出してしまう。
「え? みさおって何ですか?」
「なんだよ! 何が可笑しいんだよ!」
「ごめんごめん! そうね、大丈夫よ。凛花とあかりちゃんのお陰で何事もなかったわ」
「なんだよ! ふざけんなし!」凛花は力が抜けたようにどっと背もたれにカラダを預ける。隣ではようやく意味がわかったらしいあかりちゃんが少し下を向いて顔を赤らめている。
「笑っちゃってごめんなさい。なんか緊張が解けたからかなあ。失礼だよね」
「本当だぜ! こっちは取り調べ受けてる時から気になって仕方なかったんだからな!」
「本当にごめん! それに心配してくれてありがとうね!」
「もう!」そう言って口を尖らせる凛花。だって今どき「操」なんて言葉を使うJKいる? そう思ったがさすがにこれ以上は言えなかった。
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