第4章 急展開・急転回?

18話 あかりちゃんと下校


 翌日は三者面談の最終日。先の中間テストで特に成績の芳しくなかった生徒が、三十分と言う昨日までの倍の時間で面談のスケジュールが組まれていた。夕方までにそれが終わるようにと、授業も今日は二限で終わりだ。


 私は最初から三番目、十一時半から面談の予定になっているという凛花と、その時間まで推理の続きをする予定になっていたのだが、「時間を間違えた」と言ってやってきた彼女の母親に遠慮して、一足先に帰ることにした。普段、進路について親とは全く話さないらしいから、この機会にじっくりと話した方がいいと言う私なりの配慮だ。


 今日は祖父の病院に着替えを届けに行かなくてはらない。それぞれの予定が終わり次第、病院の近くで落ち合う約束をして私は凛花と別れた。


 ちょっとした用を済ませ、生徒玄関で外履きに履き替えていると元気な声に話しかけられる。


「川島先輩、お帰りですか!」

「ああ、あかりちゃん」

「凛花先輩は? 今日が面談ですか?」

「そうなのよ。あの子、中間が真っ赤っかだったから、最終日なのよ」笑いながらそれに答える。

「あは! そうなんですね!」この暑さでも相変わらずあかりちゃんは明るく元気だ。

「あかりちゃんは真っ直ぐ帰るの?」

「あ、いえ、今日はシフトが入ってるんで。バイトです!」

「あら、またこの間のコンビニ?」

「はい!」

「そう。じゃあ一緒に帰らない? 私もそっちの方まで祖父のお見舞いに行かなくちゃなの」

「ああ、関屋病院ですね!」

「そうなの」

「おじいさん、具合悪いんですか?」

「いや、たいした事ないのよ。でも、家にいても誰も面倒を見る人がいないから、大事を取って入院してるの。この前もそこの帰りだったのよ」


 私は初めてあかりちゃん会った日の事を話した。


「そうなんですね! だったら同じバスですね!」そう言うと自分の腕時計に目をやる素振り。私は玄関先で見かけた用務員の中島さんにひと言ふた言交わすと「すぐのバス、ありますよ」と言うあかりちゃんと一緒にバス停へ向かった。


***


 バスの窓から見える街並みは少し揺らめいているように見える。これを陽炎と言うのだろうか。午前中からこれでは、今日もかなり暑くなりそうだ。


 事件から今日で丸二日。そろそろ決着を着けなければ。私は決意を新たにする。


 隣に立つあかりちゃんはつり革に掴まりながら、バスの広告を興味深げに見つめている。真っ直ぐに伸ばした右手が可愛い。話しかければ元気よくそれに答えるし、こうして私が考え事をしていればソレと察してかそっとしておいてくれる。誰からも好かれるであろうことが良くわかる。そんな彼女に話しかけてみる。


「あかりちゃん、バイトは何時からなの?」

「今日は午後一時からなんです」

「午後一時? じゃあまだ時間あるのね」

「はい。あ、でもいつも早めに行って控え室でお昼食べたりするんです。賞味期限切れのお弁当とか、結構もらえるので助かるんですよね。あ、これ内緒ですけど!」と言うとペロっと舌を出す。こう言う仕草も本当に可愛い。

「川島先輩はお昼、どうするんですか?」

「え、私? 私は病院行ったあと、凛花と近くのモグモグバーガーで待ち合わせてるの」

「ああ、図書館の隣ですね! そしたら、それが終わったらまたウチの店に寄って下さいよー!」

「ふふふ、そうね、すぐ近くだもんね」


 そうこう言っているうちにバスは目的地に到着。バス停に降り立つと同時に、灼熱の太陽が私たちに襲いかかる。


「暑いわね・・・」ついグチっぽい言葉が口を突く。

「そうですね! でも私、夏は大好きなんです!」いかにも真夏の太陽が似合うあかりちゃんが言う。この暑さの中でも彼女の足取りは軽やかだ。一年しか違わないのに、この若さと元気が羨ましい。


「先輩、じゃあ私はここで!」気が付くともうコンビニの目の前まで来ていた。大きく手を振って中に入ろうとする彼女。そんな彼女を慌てて呼び止める。


「あ、あかりちゃん、ひとつお願いがあるんだけど・・・いいかなあ?」すこし図々しい気もするが、彼女なら許してくれるだろう。案の定、その用件を聞くと彼女は真剣な顔をして「任せて下さい!」と元気よく応えてくれた。

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