8話

「どう言うこと?」


 放送準備室への内扉の前に立ち尽くす彼に話しかける。


「さっき俺、この扉をガッ! と開けてサッ! と中に入ったんだよ。そんでその途端にガーン!! って!」


 やけに擬音の多い彼の言わんとすることは、「この扉を開けて放送準備室に入った途端、何者かに殴られ気を失った。そして気が付いたら隣の音楽室で倒れていた」と言うことらしい。そのように要約して彼に確認する。


「ああ、だいたいそんな感じだ」扉を開けることを諦めたのか、こちらを振り向くと私たちに向かってこれまでの経緯を話し始めた。



「学校が終わった後、一旦、カドのファミレスまでメシを食べに行ったんだ。そんでマンガ読んで時間潰して二時半過ぎにそこを出た。三時にここでちょっとした用事があったからな。何の用事かって? まあ、それはいいだろ。まあとにかくここに来た俺は辺りを見渡した。といってもこのピアノくらいしか障害物はないから、音楽室に誰も居ないのはすぐ解った。仕方ないから少し待ってたんだ。そう、このイスに座ってな」そう言ってピアノの小さな椅子を指さす。

「そしたらしばらくして、隣の準備室で何やら物音がするんだよ。それで誰かいるのかと思って覗いて見たんだ。そしたらガーン!! ってな」


 若干興奮気味の声で、一部重複する彼の話が終わると同時に凛花が戻って来た。


「遅くなってゴメン! 先生たち、ほとんど出払っていて!」


 あとで解った事だがこの時間、学校前のスーパー店頭で教育委員会関係の立候補者による街頭演説会があったらしい。そこに教師一同「サクラ」として駆り出されていたとのこと。中立であるはずの教師がそれで良いのかと言う疑問もあるが、話が逸れるのでここでは触れないでおこう。


 凛花から遅れること約三十秒、大きく息を切らしながら教頭先生がやって来た。

「どう言うことかね!!」私たちの顔を見るなり、険しい顔で聞いて来る。そんな教頭先生に向け、興奮状態の太刀川に代わって今ほど聞いたばかりの話を端的に話して聞かせる。


「殴られた?」

「そうだ! 殴られたんだよ! 早く警察呼んで犯人をとっ捕まえてくれよ!」


 そんな太刀川の懇願に対して、教頭先生は意外な反応。


「死にかけているって言うから驚いたが・・・なんだ、ピンピンしてるじゃないか」

「死にかけって・・・オイ!」そう伝えたのであろう凛花に向かって太刀川が吠える。

「ああ生き返ったようだな、すまん!」悪びれることなく、凛花は軽く右手でスマン! のポーズ。

「全くよお! ま、いいや。それよりも! な、先生、警察だよ警察! 早くしねーと犯人が逃げちまうぜ!」


 打撲の痛み以外は元気になったようで、太刀川がいつものタメ口で教頭先生を急かす。


「警察だと!?」

「ああ、そうだよ警察だよ!」そう言う太刀川の言葉を無視するかのごとく、教頭先生は意外なひと言を発した。

「警察なんて呼ぶ必要ないだろ!」


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