第2章 こうして事件は起こった
6話
「やっぱ、ミステリーじゃね?」
しばらくの沈黙を破って凛花が顔を上げる。
「そうね、私もそう思ってたところ」実際、私は今まで、それ以外のジャンルを描いたことがない。なので「恋愛モノだ」「ファンタジーだ」と言っても勝手が解らないのだ。私もすぐに同意した。
「そうだよ! やっぱ『困った時は初心に帰る』って言うじゃん! 当初の計画通り、ミステリーで行こうぜ!」
凛花はまるで憑きものが取れたかのように晴れ晴れとした表情で言う。
「でもさ・・・ミステリーにしたって、結局はネタが必要なワケじゃない? なかなか思い浮かばないわよ・・・」
「だよな・・・。なんかさ、実際に事件でも起きれば良いんだけどな! 例えば誰もいない夜の校舎で殺人事件が起きる! とか!!」
「ちょっと! やめてよ、縁起でもない!!」
「あははは! 玲、ビビってんのか? 大丈夫だって! そしたら空手ウン段のこのオレが、犯人に回し蹴りでも喰らわせてとっ捕まえてやっからよ!」
「もう! それってミステリーじゃなくない?」
「いや、これだって立派なミステリーの展開じゃんか」
そんな凛花の冗談とも本気とも言えない言葉が終わった時だった。
『キャーーッ!!!』
「えっ!?」
「なに!??」
廊下の方からかすかだが確かに聞こえた叫び声。聞き間違いでなければ、それは若い女性のようだ。
「い、今、き、聞こえたよな」
「ええ、確かに誰かの叫び声だったような・・・」
「ま、まさかマジでさつじん・・・」
さっきまでの威勢はどこへやら、声を震わせながら凛花はその場に立ち尽くす。
「取りあえず行ってみましょ! きっとそんなに遠くはないわ」
「い、行くのかよ? ヤバくないか・・・?」
「ここに居たって同じよ。いつここにも被害が及ぶかもしれないわ。それにこの教室は袋小路よ。ここに居るより、外に出た方が良い!」
「そ、そ、そうだな、出た方がいいよな」
私は貴重品を小脇に抱えると「こんなご都合主義があっていいのかよ」と泣き言を言う凛花の手を掴んで廊下に出た。
図書室のある特別棟は一階から三階まで、ほぼ同じ構造になっている。三階に位置するこのフロアーは、一番奥の図書室を出ると左手に男女のトイレ、続いて階段を挟んで特別教室が続いている。こちらから「放送室」「放送準備室」「音楽室」の順だ。一方、右手は窓が続いている。手前の窓の下にはプール、普通教室へ向かう渡り廊下を挟んでその先の窓の下には中庭が広がっている。今の季節はマリーゴールドが黄色とオレンジに中庭を彩っている。
「そんなに遠くなかったわよね」
私たちは男子トイレ、女子トイレとその個室の中まで手早く確認した。もっとも「私たち」と言っても確認作業をしたのは私だけ。「空手ウン段」の凛花は、私が動き回る中、廊下で落ち着きなさそうに私の動作を眺めていた。
次に階段の上下、渡り廊下の先に向かってそれぞれ声を掛けた私は、続いて放送室をノック。
「誰かいますかー!?」
私がその扉を開こうと手を掛けた時だった。ひとつ先の音楽室から、制服姿の女子がフラフラと姿を現した。
「今、叫び声が聞こえたんだけど何かあったの!?」
慌てて駆け寄った私たちに、彼女はただただ震えながら音楽室の中を指さしている。蒼白になった顔が、その大柄な体軀に比してとてもアンバランスに感じられる。
「この中ね!」私は彼女と凛花を入り口に残すと、一人音楽室に踏み込んだ。
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