第21話 学園のマドンナはビーチバレーをする

「「「「「グーチョキパーで合った人!」」」」」


 その場に出された手は、グーが二人にパーが二人、チョキが一人と綺麗にわかれた。


「それじゃあ、石川が審判で俺と渡辺さん、相川と沢口がペアってことでいいな?」


「問題ないし」


「オッケー、相川っちよろしくねっ!」


「うん、こっちこそよろしく!」


「相沢君、よろしくお願いしますね」


 その場の全員が了承したのでゲーム開始だ。

 俺と沢口さんはネット越しに相沢と渡辺さんをみる。


 ここは海の家カフェの近くにあるビーチバレーが出来る場所で、相沢と沢口さんの提案により、まずはビーチバレーをしようということになった。


 そんなわけで、じゃんけんによりペア分けが行われたのだが、俺のパートナーは沢口さんになった。


「それじゃあ、試合始め!」


 審判台には石川さんが座り、俺たちの試合の判定をしてくれる。


「勝った方が負けた方の飯奢りだからな!」


 相沢が目をギラつかせ不敵な笑みを浮かべてきた。


「何おう! 返り討ちにしてやるんだからっ!」


 売り言葉に買い言葉、沢口さんは俺の方を向くと、


「相川っち! 今こそ全力を出す時だよ!」


「いや、相沢はサッカー部のエースだし、勝てないと思うんだけど……」


「やる前から弱気な! そんなんじゃ、勝てるものも勝てないからねっ!」


 無茶を言う、だけど、確かに言われてみればその通りだ。最初から勝てないと思って手を抜くのは違う気がする。


「全力は尽くすよ」


「うん、それでいいよ!」


 沢口さんは笑顔で答えた。


「それじゃあ、行きますよー」


 渡辺さんからのサーブで、ボールが沢口さんのいる地点に落ちる。

 彼女は難なくボールを受けると、


「相川っち、よろ!」


 俺に声を掛けてきた。

 ぶっつけ本番でボールの飛び方もわからない。中途半端な場所でトスを受けることになった俺は、沢口さんが頷くのを見て高くトスを上げた。


「お返しだよっ!」


「あっ、わわっ!」


 ペチッと音がして、縦回転が加わったボールは、ネットをギリギリ超えたあたりに落ちる。


「フェイントが上手く決まった!」


 どう見ても打ちそこないなのだが、自分のところに飛んでくると身構えていた渡辺さんは態勢を崩し前のめりに右腕を出して倒れていた。


「大丈夫か、渡辺さん」


「う、うん。ありがとう、相沢君」


 相沢の手を借りて立ち上がった渡辺さんは、身体に着いた砂を払う。

 二人の間に緩い空気が流れるのだが……。


「ゲーム、1-0」


 石川さんがムッとした表情でカウントを告げる。


「よーし、この調子で行くよー」


「了解!」


 先取したので、この勢いに乗りたいところだが……。


「このまま行けると思うなよ?」


「真帆さん、負けませんから!」


 今のプレイが二人に火をつけたらしく、目に炎を灯すと俺たちを見てきた。


 そこからは白熱した試合が続くのだが、


「あうっ!」


 沢口さんがボールを追いきれずに転ぶ。


「大丈夫?」


 俺は彼女に手を貸し立ち上がらせると、


「向こうは沢口さんを狙ってきているようだな」


 先程から自分がボールに触れる機会が減ったことからそう考えた。

 徐々に差が付いてきて現在のスコアは「15-17」とリードされている。


「それにしても、やり辛い……」


 いつの間にか周囲には観客ができていた。

 この場にいるメンバーは学園でもトップカーストの四人なので、どうしたって人目を惹く。


「ふふふ、私は見られる程に強くなる! 観客を味方につけて一気に行くよ!」


 人目を気にして緊張している俺とは違い、沢口さんは元気に立ち上がるとボールを構えた。

 俺はそんな彼女が眩しく、何か奇跡を起こしてくれそうだと期待をしてついて行くのだが……。


「ゲーム、21-16。相沢-渡辺ペアの勝ち」


「えへ、駄目だったね」


 沢口さんの身体がついて行かず、ミス連発であっという間に負けてしまうのだった。




 それから、俺たちはビーチバレーを切り上げて海で泳いで遊ぶことにした。


 ペアを変えて試合をすることも考えたのだが、無駄に注目を集めてしまっているので、あまり続けたい気分でもなく、石川さんも「見ているだけで充分汗掻いたから」と、特にビーチバレーをやりたそうなそぶりを見せなかった。


 そんな訳で、運動で掻いた汗を流すべく、浮き輪に浮かび、波にの揺れに任せて漂っている。


「いやー、それにしても白熱したいい試合だったよねー」


 沢口さんは海に身体を沈め、腕を浮き輪に回して薄目をして眠そうにしている。


「ほとんど、真帆のミスで終わったけどな」


「そっちが卑怯なんだよ! 私ばっか狙って!」


「作戦だろ? そう言うなら、そっちも渡辺さんを狙えば良かったんだ」


 確かに、作戦で弱い方を狙うというのはありだが……。


「狙う隙がなかったからな」


 相沢が落とす場所は沢口さんがギリギリ拾えるかという場所ばかりで、たとえ拾ったとしてもコントロールのつけようがない。


「楽しかったからいいじゃないですか」


 渡辺さんが、ビーチバレーの感想を言う。彼女は俺と沢口さんに万遍なくボールを回していたので、勝敗よりもゲームを楽しんでいた。


「それにしても、サッカー部のエース相手に良い勝負するなんて、相川は部活はいらないの?」


 石川さんがそんなことを聞いてくる。


「いや、沢口さんとの連携が上手くいっただけだし、俺自身はそこまででもないし」


「そう? 結構よい動きしていたと思うんだけど?」


 俺がそう答えると、石川さんは首を傾げた。


「それよりも、晩飯奢りの件だが何を奢ってもらおうか?」


 相沢が勝ち誇った笑みを浮かべている。相沢と渡辺さん、審判の石川さんに俺たちは飯を奢る賭けになっていたからだ。


「渡辺さん、何か食べたいものあるか?」


 相沢は、奢らせる食事内容について渡辺さんの意見を聞いた。


「私はですね……えっと……」


 浮き輪に背を預けて浮かんでいた渡辺さんは身体を起こし、浮き輪から降りて海に入る。

 そのままの状態で少し考えこむと……。


「私、相川君の釣ったお魚が食べたいです」


「えっ? 俺の釣った魚?」


 予想外な提案に思わず聞き返してしまった。


「以前、中庭で見たお魚の揚げ物も美味しそうでしたし、昨日の食事も美味しかったので。駄目ですかね?」


 渡辺さんは首を傾げると、じっと俺を見て返事を待った。


「もうすぐ夕マズメだから、手さえ足りてればそこそこ釣れるとは思うけど……」


 この人数分を確保するには一人では足りないかもしれない。俺がそのことを告げると……。


「そうですよね、だったら私が――」


「なら、私が相川っちと一緒に釣りをするよ!」


 渡辺さんが咳ばらいをし、何かを言おうとしていると、沢口さんが協力を申し出てきた。


「負けたのは私と相川っちのペアだし、連帯責任ってことでいいよね?」


「そりゃ、手伝ってくれるなら俺は助かるけど……」


 妙に乗り気な沢口さんに、俺は気圧されてしまう。


「えっと、今からだとちょっと急いで釣りをしなきゃいけないから、海水浴を切り上げる必要があるんだけど?」


 せっかく楽しく泳いでいるのだ、沢口さんも楽しみ足りないのではないか?

 そう揶揄してみるのだが……。


「勿論大丈夫だよ!」


 眩しい笑顔で断言する。


「それじゃあ、里穂、美沙。それに相沢。私たちは先に引き上げるから、適当な時間になったら宿に戻ってくるようにね!」


「あんた、あまり相川に迷惑掛けないようにね」


「大物を釣って来いよ!」


 俺と沢口さんが釣りをするのが確定してしまった。

 俺は先程から黙り込んでいる渡辺さんを見ると、


「真帆さん、相川君も頑張ってくださいね」


 彼女と目が合うと、渡辺さんはニコリと笑い俺たちを応援してくれるのだった。


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