第27話 元・英雄、料理を作る

 王都を歩きながら、買うものを頭で整理していく。

 ゴールはルーローハンを作ること、である。レシピは不明。もちろん、よく食べているので主な構成要素はわかるのだけど……。


 対策には書籍が必要だろう。


 ルーローハンの作り方が載っているものだ。それと、全く料理の知識がないので、基礎から学べるようなものが欲しい。なんちゃら切りとか、包丁での切り方にどれほどのレパートリーがあるのか。


 次は、包丁など調理器具類。

 そして、食材だ。

 食材や調味料は、レシピを見て、それ通りに買うことにしよう。

 順番的には、まずは書籍、続いて調理器具類、食材の順になるだろう。


 ううん……実に楽しみだ!


 何かを始めるというのは実に気分が楽しいなあ!

 王都のメインストリートには色々な店が並んでいるので、大抵のものはここで手に入る。


 まず最初に本屋に立ち寄った。


 魔法によって印刷の技術を確立されているため、こうやって本が気軽に買えるのはいいことだ。それなりの値段はするのだけど。

 初心者用の料理本と、ルーローハンのレシピが載っている料理本だ。他にもいろいろなレシピが載っているので、時間を見つけて作っていきたいものだ。

 次に調理器具類を売っていそうな店へと向かう。


「いらっしゃい」


 包丁など金物がずらりと並ぶ店の中へと入っていく。

 私を見るなり、店長が怪訝な表情を浮かべた。


「おいおい、子供がこんなところに来ちゃダメだろ! 刃物があるんだ! 危ないぞ!」


 本気で追い出されそうになる。

 確かに、8歳児が包丁を買いたいと言ったら、普通の大人は止めるよな……。

 だけど、実際の私は包丁の扱いがとんでもなくうまい。刃物である以上、それは武器。前世のスキルを使えば、剣聖の如き美技で包丁を扱ってみせよう。


「お父さんに買ってこいと言われて……」


「なら、お父さんを連れおいで。でないと、包丁は絶対に売らんから。それ以外のものなら売ってもいいけど」


 むう……当然の反応すぎて困る。

 じゃあ、他の店! でもいいのだけど、おそらく同じ反応をされるだろうな。逆に、8歳の子供に刃物を平然と売る店のほうが怖い。

 なら、別に『ない』でもいいだろう。なんとかなるので。幸い、切るのは得意だ。

 包丁は無しで料理を作ることにする。


「あの、お米を炊くにはどうすればいいんですか?」


「米? 土鍋を使えばいいぞ」


 この店でも扱っているらしいので、それを買うことにした。他にも、おたまや大小の鍋、フライパン、まな板など順に買っていく。


 ……この辺、実は置いておく場所がないんだよなあ……。


 一人暮らし用のためか、とにかくキッチンが小さい。あれで料理できるのだろうか、という一抹の不安が起こるくらいの狭さだ。なので、食器棚を置いておく場所がキッチン周辺にはない。やかんとカップくらいでわずかなスペースは塞がっている。

 作業場には広大なスペースがあるので、その辺にでも置いておこう。いずれは食器棚を自分で作って作業場に置くのもいい。

 うんうん、住居がアップグレードする妄想は楽しいなあ。

 刃物以外のものは気前よく売ってくれたので、それらを買い物用のリュックサックに詰めて店を出た。


 また王都の雑踏を歩き、今度は食材を買いに向かう。


 食糧とは毎日求められるものである。よって、食料品を扱う店は王都のあちこちにある。私は家から最も近い『クワックル市場』にやってきた。

 さて、お望みの食材を探さなければ。

 必須なのは白米である。次に豚肉。玉ねぎもあったな。醤油……これ以外はなんだったかなあ……ではカンニング――もとい、書籍の力を借りよう。

 なるほどなるほど、ニンニクと生姜か。

 砂糖は家にあるので不要だ。

 順番に買っていっていると、


「あらあら、お手伝い? えらいわねぇ」


 などと言われる。8歳児なのだから、そう思われても仕方がないか。

 ちなみに、料理酒が買えて少しホッとした。

 この世界にアルコールは何歳から! とかいう明確な基準はなく、わりと適当である。ただ8歳はさすがに幼すぎるので包丁の件と同様に断られるかとも思ったのだが、そんなこともなかった。


 よかったよかった。

 買い出しが終わった私は家へと戻る。


 ……キッチンは狭すぎるので、作業場に入って荷物を解いた。

 もう時間は昼過ぎで、朝ごはんと昼ごはんは外に出ているうちに食べておいた。なので、これから作るものは夕食というわけだ。

 まずはご飯を炊くところからだ。

 お米の炊き方は買ってきた虎の巻『これだけ知っておいて! 料理の基本講座!』を見る。ちなみに、この本をサラッと読んだだけで『調理Lv1』になったので、かなりいい本だと思っている。他の本ではそうならなかったので。


 米を水で研いでから、しばらく土鍋に水と一緒につけおく。

 30分ほどそうしてから、火をつけて米を炊く――


 なるほど、それほど難しくはないな。問題は、コンロが1つしかないことだ。狭いキッチンの辛いところだ。ご飯を炊きながらルーローハンのおかず部分を作るのは難しい。


 料理を継続してやるなら、携帯用のコンロを買わないとな。

 ちなみに、コンロも洗濯機と同じく魔石で動く代物だ。魔石をセット、スイッチONで簡単に火がつく。

 ま、それほど大掛かりな料理をするわけではないので、今日はこれで頑張るとしよう。


 次は豚肉をバラバラに切ることだ。

 で、包丁がない。


 さて、それではどうするのか? 大丈夫だ、問題ない。

 私は握った拳から人差し指と中指の2本だけを立てる。そして、その指先を豚のブロック肉に押し付けた。


 ふっと、私は息を小さく吐き――

 すっと、指先を引く。

 直後、豚肉がばっさりと真っ二つになった。


「うん、腕は鈍っていないな」


 これもまた、前世の私の技だ。全身凶器と呼ばれた私に切断できないものなどない。いくつもの村を壊滅させた暴君オークエンペラーを、この2本の指先で切り刻んだのも懐かしい記憶だ。

 サクサクサクと豚肉をバラしていく。

 大きさは屋台の豚肉を参考にして指先サイズくらいに切断しておく。

 よし、できた!

 続いて、玉ねぎ、ニンニク、生姜を処理する。

 こちらも指先一本でサクサクと細かく切っていく。

 さて、いよいよ、火を使うところだ。私はフライパンにコンロをかけて火をつけた。そろそろかな? フライパンが熱をもったところで豚肉と玉ねぎを投入する。

 じゅうううううう〜!

 なかなかいい音をじゃないか!

 肉がいい音を立てて、じゅうじゅうと焼けていく。実に心地いい音だ。茶色く色づき始めたところで、にんにくと生姜を入れていく。

 ……さて、そろそろいい感じかな?

 ここで、水と醤油と砂糖と酒と酢を入れる。分量はもちろん、買ってきたほんの通りだ。へえ、これがあの煮汁のレシピなのか。ひとつひとつを見ると、普通の材料なのに、あんなにも深い味になるなんてなあ……。

 料理って面白い!


 ぴこん。


 私に『料理Lv2』になった。これは気分がいい。今のところ、レシピを見たところで味の想像ができないけれど、いつかはできるようになるのだろうな。

 それから30分ほど煮込んで料理が完成した。


「ふふふ、よしよし……!」


 香りを嗅ぐだけで上機嫌になる。香り立つものだけで、幸せになれる。

 白米を丼によそい、おたまですくったルーローハンの具をご飯の上に乗せる。たくさん買っておいた豚肉をもりもりと乗せて、タレは存分にぶっかける。楽しいなあ!

 試食タイム。

 もちろん、うまい! 

 それ以外にはない。自分なりによくやったんじゃないだろうか? 自分の手で食材を料理にしていく過程は興味深い。前世でも今世でも食べるのが好きだったので、料理人には敬意を持っている。せっかくの生産職の才能だ。料理にも適性があるようなので、育てていきたい。

 食べ終わった。

 はああああ……幸せ。

 美味しいものを食べると、こんなにも幸せになれるのはなぜだろうね?

 食事が終わった後、私はロイドから借りた設計に関する本を少し読んでから、隣の作業場で家具作りの作業を始めた。

 ゆっくりと夜は更けている。

 私はしたいことだけをし、楽しく暮らしている。

 実に素晴らしい休日だった。


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名前『クラスト・ランクトン』

性別『男』

年齢『8歳』

特性『全生産適正』


習得スキル

『作図Lv44』『造形Lv35』『木工Lv67』『革細工Lv22』『解体Lv25』『料理Lv2』『建築Lv5』

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