第5話 家具を作りまくってみんなハッピー

「この村には家具を作れる人がいないよね? 僕が作りたいんだ」


 その晩、私は己の意志を両親に伝えてみた。


「すごいじゃないか、クラスト! お前にそんな才能があるだなんて、父さんは嬉しいぞ!」


「村のみんなの役に立ってあげて!」


 両親が華やいだ声で私を祝福してくれた。

 彼らも賛成してくれている。これほど嬉しいことはない。


「家具を作るのはいいんだが、クラスト。お前、あの椅子を作るとき工具を使ったのか?」


「怖かったけど、頑張ったよ!」


 父のもっともな質問に、嘘っぱちな答えを返した。

 父親の顔に不安げな表情が浮かぶ。確かに5歳の子供がハンマーやらノコギリを使ったとすれば眉をひそめるのが親の反応だろう。


 それはわかるのだが、

 ――心配しないで! 使ってないよ! だって、僕は手刀で木を切断できるし、指の力だけで釘をねじ込めるからね!

 という答えが普通とも思えない。


 隠し切れるとはあまり思ってもいないが、今のところは、全てを明かさないほうがいいだろう。具体的な作業は見せられないので、専用のアトリエを用意してもらう必要があるな。


「作るのは構わないが、お父さんが一緒に手伝ってもいいか?」


「大丈夫、僕一人でできるから。お父さんがいると緊張しちゃうよ!」


 そこは譲れないので抵抗する。

 結局、子供の自主性を尊重するという家風のため、許可をもらえた。


 翌日から早速、私は家具作りに取り掛かった。


 とはいっても、いきなり5歳児が家具を作る! とか言い出しても多くの村民は困るだろう。まずは私への信頼度の高い自分の家と、みっちゃんの家への提供を進めて、そこから信頼が波及するのを待つべきだ。


 取り掛かりの時点で、両親が村長だというのが大きく役に立った。


 小さな村でしかないが、少なくとも、この村において両親は最も偉く大きな権限を持つ。それを濫用するような人ではないが、今回は『息子が村のためになることをする』ということで、色々と口利きをしてくれた。


「へええ、坊ちゃんが木工をされるので?」


 40くらいの髭面の男が、父に私を紹介されて驚きの表情を浮かべた。

 彼の名前はハント。この村では狩人をしているが、薪用の木を集めて管理している人物でもある。実際、彼の家の横には伐採された樹木が積まれている。彼に頼めば工作に適した乾かした木材がいくらでも手に入るというわけだ。


「木の工作に興味があるみたいでね。この子が欲しいといったら分けてくれ。代金は私が払うから」


 当面は、木の工作、で父は話をつけることにしたらしい。

 確かに、自分の5歳児が家具作りをするから協力してくれ、と言われれば、領主の頭の中を疑われてしまう結果になるからな……。


 そんなわけで木材の供給に目処がついた。

 次は作業場所だ。


 そこは父親を説得して、ハントさんの家から近い空き家を提供してもらった。これで人の目を気にせずに作業ができる。思う存分、100年の鍛錬が編み出した秘技を駆使できるな。


 その日から、私は暇な時間があれば、この秘密基地を訪れて家具作りに勤しんだ。

 基本的には、リプレイス。


 家にある家具はどれも古く傷んでいるので、新しいものへと置き換えていく。悪くはない作業だった。私は新参者なので、何かを始めるとき模倣から進めるのは至極普通のことだから。これこそが守破離の守だ。前世においては3歳にして離の境地に達していたことを思えば亀の歩みのように思えるが、まずは焦らず着実に進めていくことが肝要だ。

 まずはリビングにあるテーブルセットを新品に置き換えた。


「す、すっごおおおおおおおおおい!」


 母親が感動の声を上げてくれた。


「5歳児が作れるものとは思えない! すごい、天才じゃない!?」


 実際のところ、木工スキル保持者の私視点だと至らぬ点が多い。それは粘土遊びのときと同じく、ベースとなる木工スキルが低いからだ。本来であれば問題外の代物を、前世で鍛え抜いた精妙な技量で補っている感じだ。

 ただ、素人である利用者にはわからないので、問題はないのだろうが。


「えへへへ、ありがとう」


 私は年相応の笑顔で喜びを表した。

 私の家の家具が変わっていることに、さしものみっちゃんも気付き始めた。二人でよくお絵描きしたテーブルを手でサワサワしながら首を傾げる。


「あれれ? 机が綺麗になってる?」


「うん。僕が新しい机を作り直したからね」


「え、すごい! そんなことできるんだ!」


 みっちゃんの目にキラキラとした尊敬の輝きが生まれる。大人とは違った、ストレートな感情の発露は、それはそれで私の気分をよくしてくれる。


「ねえねえ! 私の机も作って欲しい!」


「いいよ」


「本当!?」


 その、本当!? は心の底からの喜びを表したものだった。まるで落ちている宝石を見つけたときのように高揚している。


「うん。だって、もともとそうするつもりだったからね」


「嬉しいなー。私のお願いした通りに作ってくれる?」


「みっちゃんのお母さんもいいよ、って言ってくれたらね」


 しかし、みっちゃんのハート型のテーブルという異様にファンシーな提案は、現実主義者であるみっちゃんの母親に却下された。みっちゃんは大泣きし、床に寝転び、両手両足をバタバタとさせて遺憾の意を表したが、みっちゃんの母親が揺らぐことはなかった。


「ママ嫌い! ええええん!」


 みっちゃんはたいそう不満であったが、意見決定者の意思に抗うことなどできるはずもなく、私はみっちゃんの母親の意見を丸呑みにして普通のテーブルを作った。

 だが、新品のテーブルは、新品というだけでみっちゃんのポイントが高かった。


「うううう……新しい机、好きー。すべすべして気持ちいい……」


 みっちゃんはテーブルにぷっくりとした頬を押し付けて、両手でテーブルの表面を撫でながら、うっとりした声で言った。

 どうやら、気に入ってくれたようで本当によかった。


 そんな感じで私は実家とみっちゃんの家の家具を作り続けた。おかげで木工スキルももりもりと上がっていき、自分が作るものに対して少しばかりの満足感を得られるようになってきた。


 そして、その頃には私の家具作りも村で知れ渡り始めていた。

 ある日、ハントの家に木材をもらいにいくと――


「おいおい、坊ちゃん。木工にしては木材を使う量が多いと思っていたら、家具を作っていたのかい?」


 ハントにまでそんなことを尋ねられる。


「はい、実は……」


「凄いな、そんなガキのうちから! なあ、うちの家具も作ってくれよ!」


「いいですよ」


「そうか、やっぱダメかよって……え!? いいのかよ!?」


「はい」


 もともとの目標は村を豊かにすること。そこには村人たちも含まれているのだから、問題はない。私の家具作成は村人たちからの依頼も受け付けることになった。


「ありがとうよ!」


「凄いな、坊ちゃん!」


「これはうちの村、将来も安泰だなあ!」


 家具を届けるたびに村人たちの気分が高揚していく。ああ、こうやって人に幸せを感じてもらうこともできるのか。前世とは違う喜びを知り、私は気分がよくなった。

 その村は外から見れば小さくて寂れているが、村人たちが住まう家の中には立派な家具が備え付けられている。そして、彼らの顔には笑顔があった。


 楽しく胸を張れる日々を過ごしながら、私は7歳になった。


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名前『クラスト・ランクトン』

性別『男』

年齢『7歳』

特性『全生産適正』


習得スキル

『作図Lv32』『造形Lv27』『木工Lv51』

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