第159話 怪獣大戦争とお優雅怒りの鉄拳連打


「おい……あいつ……こんなときに……なにを食ってる……?」


 猫屋敷忍は普段の口調すら忘れて愕然と声を漏らしていた。


 奈落級モンスターとの戦闘中というこれ以上ないド修羅場の真っ最中に、カリンがいきなり肉をパクついていたのだ。


 纏う魔力からして恐らくはモンスターの肉から作られたハンバーグ。


 それは近くに〈ぱくぱくもぐもぐ〉保有者であるダンジョン女王シャリファー・ネフェルティティがいなければただの美味い肉でしかないはずで、間違ってもこの局面で呑気に「パクパクですわ!」するようなものではないはずだった。


 だが、


「ふー! いい具合に色々回復ですわ!」


「は……!?」


 それはいよいよ悪夢だった。

 巨人が回復に専念していた一瞬のうちに飢えた野犬のような勢いでハンバーグを飲み込んだカリンの魔力体力気力が見るからに充実していたのだ。

 

 さらには、


「まふ……親友から魔力が7割を切ったくらいで補給しておくと攻略が安定すると言われてましたが、確かにこのくらいで回復するのがよさげですわね! 今後のいい指標になりそうですわ!」


「7……割……?」


 はったりか妄言、あるいは数字に弱いだろうカリンの言い間違いとしか思えない発言に耳を疑う。いやだが、いまはもうこれまでの道程でカリンの魔力が3割しか削れていなかったとかその無茶苦茶な事実すら些事でしかない!


(回復した!? モンスターの加工肉で気力も魔力も体力も!? あのダンジョン女王が近くにいるわけでもないのに!? どうなってる!?)


 シャリファーの動向は今回の作戦の可否に影響するため、世界中に散らばる同志がしっかりと眼を光らせている。いまも隣国の侵攻に備えてアフリカに留まっているはずで、少なくともこのダンジョンにこっそり潜り込んでいるなんてことは絶対にないはずなのに!



〝!? お嬢様なに食べてますの!?〟

〝!?!?〟

〝突然のおやつタイム!?〟

〝推定奈落級を前にいきなりなにしてんですのこのお嬢!?〟

〝え……てかちょっと待てお嬢様これなんか魔力回復してない!?〟

〝おいなんだこれ目に見えてお嬢様の調子があがってねぇか!?〟

〝なんか有識者っぽいアカが次々となんか言ってるけどこれ魔力回復してんの!?〟

〝マ!?〟

〝シャリー様いないのに!?〟

〝さすがにダメージまでは回復してないみたいだけど……え、どゆこと!?〟

〝どうなってんだ!?〟


 

 と、猫屋敷をはじめ視聴者たちがどよめくなか。


「あ、ちなみにこれは通常の加工スキルではなく!」


 カリンはそのカラクリを口にした。


「そのせいかわたくし自身で食べるぶんにはシャリー様が近くにいなくても色々回復するようになりまして! なので無駄に時間を浪費したわけではないのでご心配なくですわ!」



〝〈神匠〉で加工した肉!?〟

〝それでシャリー様いなくても回復できるようになったの!? マジで!?〟

〝嘘だろ!?〟

〝シャリー様が今回参戦できないの惜しいと思ってたらとんでもねぇサポートしてましたわ!?〟

〝その手があったか! ってこのお嬢様また〈ぱくぱくもぐもぐ〉の制限突破してんじゃねえか!?〟

〝〈神匠〉の仕様突破以外なんでもできる女〟

〝いやこれさらっと言ってるけどあのトンデモ容量のアイテムボックスと併せたら補給無限じゃん!?〟

〝さっきからどんだけ切り札隠し持ってんですの!?〟

〝九重紅葉にワープに〈神匠〉肉と裏でめちゃくちゃ念入りに切り札用意しまくってて草ァ!〟

〝パクパクですわ! これさえあれば勝ちですわ!〟

〝おいマジで勝つぞこれ!?〟

〝さすがにコメチェックはできてないっぽいけど奈落級を前に解説する余裕すら出てきてますわー!?〟



 直近の戦闘で腕に装着されていたスマホはさすがにガタが来ていることもあってカリンはコメントのチェックこそろくにできていない。しかしここ最近の配信でしっかり説明するクセがついているようで、カリンは視聴者たちを安心させるように自然とその解説を口にしていた。


 その内容にコメント欄がさらに沸き立ちぶち上がる。


 一方でカリンが繰り出すトンデモの数々にわなわなと震えるのは猫屋敷忍だ。


「つ、ぎから次へと……!? ふざけるのも大概にしろよ……!?」


 普段の理知的な口調も表情も完全に崩壊。

 胸の内に宿るのはもはや抑えようのない危機感である。


 こいつは……このバケモノは確実にここで潰しておかねば!

 ……以前から懸念されていたように、この怪物が存在し成長を続ける限りそれも叩き潰される可能性がやはり極めて高い! これ以上成長される前に、これ以上常識を破壊される前に、一分一秒でも早く潰しておく必要がある!


 無論それは容易なことではない。

 だが同時に不可能なことでもなかった。


 この状況にあって唯一の希望。

 それは〈神匠〉製の肉とやらでもカリンの傷やダメージが回復していないことだ。


 ダンジョンの出現でこの世界の理は大きく変容し、既存の物理法則を超える様々な魔法装備やマジックアイテムが多く生み出されてきた。だがそんな状況で数十年が経ってなお傷病の回復手段はかなり限られており、高レベル獲得による自然回復力増強や回復促進剤(あくまで促進)の製造が精々。フィクションにおけるポーションのようなものは存在せず、〈神匠〉で加工したモンスター食材でもそれは同様らしかった。


 ならば、


「一撃です……! 巨人の耐久でヤツの無茶苦茶を耐え凌ぎつつ、ダメージの蓄積した山田カリンの急所にガードすら許さない一撃を当てれば回復の余地なく潰せる……!」


 そう確信した忍は、カリンに追随するように自らも切り札を切った。


「遠隔憑依――同期率最大!」


 忍と巨人を繋ぐリンクの密度が跳ね上がる。

 巨人をより精密に操ることが可能となり、そのフィジカルを十全に引き出せるようになる奥の手だ。


 そんなに便利なものがあるならとっとと使っておけという話だが……もちろんこれまで使わなかった理由はある。同期率をあげすぎると痛みのフィードバックがこちらの限界を超える可能性があったのだ。


 だがもう、そんなことを気にしていられる状況ではない!


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 先ほどまでとは隔絶した動きでもって巨人が咆哮。回復した身体でカリンへと襲いかかる。


「なにやら動きが変わりましたわね。ではこちらも――行きますわよ!」


 そしてカリンもまたそれに応戦。

 強化された身体能力と回復した魔力をもって巨人と激突。


 これが最後とばかりに大広間を震わせお互い全力の殺し合いを演じるのだが――それは最早一方的な展開となっていた。


「おりゃおりゃおりゃですわー!」


「~~~~~っ!?」


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオン! ゴガガガガガガ! ぱぱぱぱぱぱっ! ドグシャアアアアアアアアアア!


「オオオオオオオオオオオオオオオ!?」


 魔力をしっかり回復したことで、恐らくは身体能力強化だけでなくかつてきさらぎダンジョンを破壊した際に使った感知強化の魔法装備も併用しているのだろう。動きのキレが増した巨人の感知殺しすら貫通して動きを完全に先読みしており、そこに瞬間移動まで惜しみなく使っては一方的にぶちのめす。


 さらには当然、体内で発動を続けるバフ装備によってカリンの身体能力は開戦時とはもはや別物となっており、


「猫騙しですわ!」


 ドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 巨人の眼前で手の平を打ち鳴らせば凄まじい衝撃が爆ぜて巨人の頭部を粉砕。ただの牽制でしかないはずの小技で奈落級の目を耳を破壊しながら無数の拳を叩き込むなどもう無茶苦茶だった。


 火力こそ桁違いだがそのぶん隙も大きい原作再拳にこだわっていたときのほうがまだ巨人に勝ち目があったのではと思えるほどで、それはもはや一方的な蹂躙劇だ。



〝うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?〟

〝なんかよくわかんねぇけど圧倒してんぞおおおおおおおおおおおお!?〟

〝いけますわよおおおおおおおおおおおおお!〟

〝いやでもこいつ回復力どんだけだよ!?〟

〝核がないとか言ってたけど体力削りきらねぇと駄目ってことか!?〟

〝ずっこいですわ!!〟

〝いやでもこれなら……!〟

〝マジで奈落級を素手で潰すぞこれええええええええええええ!?〟

〝カリンお嬢様の存在のほうがズルですわあああああああああ!〟



 しかしその一方的な展開のなかにあって、


(……っ! いまのうちにそうやって調子に乗っていればいい!)

 

 忍は一発逆転の勝機を見据えてカリンの猛攻に耐えながら悪辣に瞳を光らせていた。


(一撃、一撃です……! 巨人を削りきらねばならない山田カリンと違い、こちらは相手の急所に一撃当てるだけでいい……! そしてそのための決定的な隙を生み出す最終手段は、この同期率上昇以外にひとつだけ残っている!)


 それは本当の本当の切り札。人為的な存在の介入が想起されすぎることもあって同期率上昇と並んでできれば使いたくはなかった奥の手だが――そのぶん予想される効果は絶大。


(お前がいくら強かろうと、所詮は考えなしに自らの情報を世界中に発信する間抜け! 生態も弱点も丸出しの猛獣でしかない! 散々こちらをコケにしてくれた代償に、お前の大好きな存在に足をすくわれて破滅するがいい! ……そこだぁ!)


 カリンがより強力な一撃を放とうと振りかぶったその瞬間――忍はその切り札を発動させた。



『攻撃をやめてくださいましカリンお嬢様!』

『助けてくださいまし! わたくしこの巨人の内部に囚われてしまって……この巨人が死ぬとわたくしも死んでしまう!』

『痛いんですの! 攻撃をやめてくださいまし!』


「……!?」


 瞬間、瞬きすら許されないような高速戦闘のなかにあって、カリンの瞳が大きく見開かれた。


 なぜならそれは――カリンが憧れる存在。鬼龍院セツナの声で紡がれる悲痛な叫びだったからだ。

 

 鬼龍院セツナの声優「菊之丞ミカ」のボイスデータを利用し、声真似で探索者を惑わすモンスターの素材と国家レベルの技術を結集して作られた本物そのものの合成音声。


 それこそが猫屋敷忍がカリンを確実に仕留めるため用意しておいた最後の切り札。同期率の上がった忍の魔力を介して巨人の口内から発されたカリンの動きを縛る毒薬だった。

 

(我ながら姑息! 怪しいこと極まりないアホな策! しかしこのイカれた猛獣には下手な絡め手や力押しよりよほど効果覿面でしょう!? ゆえに――これで終わりです!)


 そして満を持してその策を発動させた猫屋敷忍は、これまでの防戦が嘘だったかのように巨人の内に秘められた暴虐を一気に爆発させた。全身全霊の魔力を拳に込め、硬直したカリンの頭を叩き潰そうと巨大ハンマーがごとき拳を奔らせる――次の瞬間。


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「はぇ……?」


 猫屋敷の口から間の抜けた声が漏れていた。

 

 巨人への攻撃を躊躇うどころか、動きを止めるどころか――


 かと思えば、


「てめぇ……記憶を読む声真似モンスター系の能力まで持ってんのかなにか知らねぇが……ふざけてんじゃねぇぞ……!」


 地獄の底から響くようなドスの利いた声がカリンの喉から低く響いて、


「あのセツナ様が! 万が一捕われたとして!! そんなお優雅でない命乞いするわけねえだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「なっ!?!?!? ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 忍が呆気にとられたのも一瞬、とてつもないラッシュが巨人の全身に叩き込まれはじめた。


「なにが痛いだ! なにが攻撃をやめろだ! 命惜しさにセツナ様が他者を危険に晒すとでも……!? 侮辱も大概にしろよ……! ダンジョンアライブ100万回観てこいですわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



〝うわあああああああああああああああ!?〟

〝なんかいきなり巨人からセツナ様の声したと思ったらカリンお嬢様がブチ切れてましてよおおおおおおおおおおおおお!?〟


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うおおおおおおおお! セツナ様の声でふざけたこと抜かしててくれたその姑息なゴミカスぶっ潰してくれお嬢様あああああああああああああああああああああ!!

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〝!?〟

〝うわあ!? なんだこのスパチャ!?〟

〝原作者直々の無言肯定スパチャ無限打ちは草草の草ァ!!〟

〝おいこれたまご先生どころかセツナ様の声優さんまで混ざってねぇか!?〟

〝そうですわああああああああ! カリンお嬢様の仰る通りですわあああああああああ!〟

〝そうだそうだ! セツナ様はそんなこと言わない!〟

〝ここまで露骨な偽物もそうないですわああああああああああ!〟

〝ダークマイト並の解釈違いでしてよおおおおおおおおおお!〟

〝原作者に追随して古のセツナ様ファンまで騒ぎはじめた!?〟

〝この巨人声真似能力まであんのかと驚いてたらカリンお嬢様が全読者の代弁したあげく原作者も荒ぶってて草ァ! 


¥50000@四条光姫

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〝うわぁ!? 光姫様まで便乗貢ぎ様として復活してる!〟

〝生きとったんかいワレェ!?〟

〝ただし語彙力は死ぬ〟

〝語彙どころか言語能力そのものが荼毘に付してない?〟

〝怒濤の展開で絶対死んでると思ってたからちょっと安心ですわ!〟

〝ほんとに大丈夫? 光姫様これ悪霊化してスパチャしてない?〟

〝全力強火ファンしかいねぇぞこの配信!〟


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ああもうなんでもいいもうどうせお嬢様画面見れてないし光姫様やたまご先生も荒ぶってるしスパチャ我慢解禁だいっけえええええええええええええお嬢様あああああああああああああ!


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そのままいっちまえええええええええええ! そのクソやば解釈違いパンチで奈落級のクソモンスぶっ飛ばせええええええええええ!!


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これまでみんな我慢してたぶん凄い数のスパチャ声援が集まってきてる! その数500億!


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マジで500億いく勢いだオラアアアアアア! チンピラお嬢様がんばえええええええええええ!


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俺たちの応援(お金)の力! お嬢様に届けええええええええええええ!


¥50000

いっけえええええええええええ! 現金玉あああああああああああ!!



「うおらあああああああああああああああああ!!」


 カリンの解釈違い絶対許さないラッシュを見てブチ上がった視聴者たちの声援が届いたかのように、あるいは引き続きブチ切れが継続しているかのようにカリンのラッシュは止まらない。


「ああああああああああああああ!? バカなああああああああああああ!?」


 そしてその怒りの鉄拳のなか悲鳴をあげるのは、最後の策があっさり破られた猫屋敷忍だ。 


(まずい! まずいまずいまずい! 鬼龍院セツナの命乞いまで通じなかったとなれば……本当に負ける!? あらゆる策を注ぎ込んだこの奈落級が!?)


 

 追い詰められた忍の脳が猛烈に回転し活路を探す。だがその濃縮された時間のなかでいくら考えようと逆転の目などなく、脳裏をよぎるのは最悪の結末。

 

 すなわちこのまま敗北して山田カリンを潰せないばかりか、という墓穴もいいところの未来で。


(それだけは……それだけはダメです! だとしたらもう……〝あの手〟で山田カリンに経験値が渡らないようにしつつ深淵崩壊だけでも完遂するしか……!  山田カリンでも深淵崩壊は止められなかったという事実をもってして社会に混乱の種を植え付ける! そしてそのためには……!!)


「遠隔憑依同期率限界突破……!」


 瞬間、忍は巨人との遠隔憑依の同期率をこれ以上ないほど引き上げた。

 伝わる痛みが限界を超えるどころか下手をすればフィードバックする痛みでショック死する可能性すらある諸刃の剣。命がけの最終手段。


 だがそのぶん引き出せる奈落級のポテンシャルは最大最上。


 そうして巨人とほぼ一体化した忍は、「激怒で冷静さを失っているカリンが大技へと以降する前に!」とそのラッシュから強引に逃れ悪意極まる最後の一手を打とうと全身全霊を込めた――そのときだった。


「あ?」


 突如。身体能力の爆増したカリンが巨人の拳を当然のように受け流しつつ、ぬっと巨人の顔面に顔を寄せてきたのは。そしてその凝縮した時間のなかで、


「てめぇ……まさかあのときセツナ様のフィギュアを破壊してくれたクソアマか……?」


「っ!?!?!? ひ――!?」


 瞬間、視界いっぱいに広がったカリンの無表情と圧、なによりあらゆる理屈を超えてこちらを認識しているとか思えない言葉に、猫屋敷の全身が凍り付いた。


 な、なんでこの巨人が私だと!? 憑依の密度をあげたから!? いやそれにしたって!? そもそもあの映像は文言こそ自分が作ったが破壊は男の部下にやらせて特定などできないようにしたのにどうして――!? 野生の勘!? というかいまいきなり眼前に突っ込んできた速度は!? まさかまだ身体強化に上があるとでも――


 と湧き上がる本能的恐怖から逃避するように溢れた思考で猫屋敷の挙動が一瞬だけ完全停止して――それが敗着だった。


 先ほどカリンの動きを止めようと放った策をそのまま返されたように巨人が動きを止めて決定的な隙を晒すとほぼ同時、


「原作再拳NO.9――九重紅葉!」


「―――――――――――――――――――――ッ!?!?」 


 怒り狂ってなお冷静なカリンがその隙を突くように巨人の腰を完全に粉砕。


「さすがに気のせいでしょうか……けどなんにせよ、お排泄物な猿真似でセツナ様を侮辱したてめぇは万死に値しますわ……!」


 そしてカリンの全身に今配信最大の魔力が凝縮し、


「歯ぁ食いしばりやがれですの……! 原作再拳――!」


「ちょっ、ま――!?」



「――無限双璧!!」



 ド――ッ!! ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――!!


 忍の制止など食いちぎるように、機動力を失った巨人目がけてとんでもないラッシュが放たれた。


 それは相手が死ぬまでただひたすら両の拳で連撃を叩き込み続ける究極のゴリ押し技。


 しかし拳のひとつひとつが相手の肉体的急所及び魔力の流れの要所へと叩き込まれる、すべてが必殺の連続拳。相手の防御も反撃もすべて読み切り一方的に放たれ続ける、極めて高度な技術が凝縮されたゴリ押しだった。


 以前カリンがきさらぎダンジョンをぶち破る際に使われた感知強化の魔法装備も多重発動し、動きの読みづらい巨人の一挙手一投足をも正確に感知して行われる原作再拳。そして一度始まったその絶え間ない拳の豪雨は奈落級をもってして反撃はおろか再生すら間に合うものではなく、


「オラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 痛みで殺される! ……憑依解除……!? リンク……切れな――!?」


 もはや抜け出すことなど叶わない連激に、巨人本体はもちろん憑依を解こうとしていた忍の意識も衝撃に飲み込まれ――それでもなおラッシュは続き、


「オラアアアアアアアアアアアアアア! ですわあああああああああああああああ!!」


 ドゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 一体何百発打ち込まれた末か。


 一際力強い雄叫びとともに放たれた最後の一撃でボロ雑巾のようになっていたその巨体がトドメとばかりにダンジョン壁へと叩きつけられて――それまで凄まじい轟音が響いていた深淵最奥が、しんと静まりかえった。


 やがて、


「……ふぅ!」


 シュウウウウウッ! と両の拳から謎の煙を吹き上げたカリンがすっきりしたように大きく息を吐いて、


「っしゃああああ! やりましたわあああああああああああああ! 奈落級モンスター、がっつり討伐完了ですの!」


 殴り飛ばした獲物の絶命を目視と感知両方で確認。のちに歓声。


 カリン自身が放った衝撃によってボロボロになったドレスが再生していくのとは反対に、ボッコボコに粉砕されていた奈落級の巨体が今度こそ塵となって消えていくのだった。




 ――深淵に入ってから有用な素材のドロップが渋かった反動か、あるいは極めて強力なモンスターを人為的に作り操っていた副作用でもあるのか。その場に奈落級のドロップアイテムを3つも残して。


――――――――――――――――――― 

東京喰種の錦先輩いいですわよね

そしていちおう先に断言しておくと猫屋敷様は廃人になったりせずちゃんと生きてますわ!

まあメンタルダメージはかなりのものでしょうが……

一方犬飼洋子様のほうはといえばいま人生一番の大爆笑してるまでありますわね


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