第160話 平和の象徴


 先ほどまでの激戦が嘘のように静まりかえる深淵最奥。

 それを映し出すカリンの配信画面もまた視聴者たちの声援が完全に消え失せ、呆然とするようにコメント欄が停止していた。


 とんでもないラッシュを終えたカリン。動かなくなる推定奈落級の巨人。


 しかし巨人がこれまで見せてきた再生力は異常であり、これだけの攻撃を叩き込んでなお次の瞬間にはまた動き出すのではないかと誰もが固唾を呑んで見守っていたのだ。


 だがそんな時間が数秒ほど流れたあと


「っしゃああああ! やりましたわあああああああああああああ! 奈落級モンスター、がっつり討伐完了ですの!」


 珍しくカリンが万歳して巨人の討伐を宣言し、あれほどしぶとかった巨人の身体がゆっくりではあるが塵となって消えていく様子が映し出された途端――歓声が爆発した。



〝うわああああああああああああああ!? マジでやりやがったああああああああああああああああああ!?〟

〝マジかマジかマジかマジかあああああああああ!〟

〝お嬢様やっべえですああああああああああああああああ!?〟


¥50000

ああもう我慢できねぇ赤スパだオラアアアアアアアアアアア!


¥50000

マジで推定奈落級討伐したのかよお嬢様あんたあああああああ!


¥50000

いやもうこんなん貢がないの無理でしてよおおおおおお!


¥50000

奈落級相手にビビるどころか「もっとセツナ様に近づける」とかいうバーサーカームーブかましたうえに実際に勝つとかスパチャ止まんねぇですわああああ!


¥50000

お嬢様も東京も全部失うかと思って絶望してたのにそこからのこんなアニメみてぇな展開見せられたら今月の給料全ブッパしねぇと嘘ですわああああああああああああああ!


¥50000

なんかもうわたくし脳が焼かれすぎて光姫様化しそうですのおおおおおおおおおおお!


¥50000

国民栄誉賞どころの騒ぎじゃねえよこんなん大勲位菊花大綬章級だろマジでよおおおおおおおおおおおおお!


¥50000

うおおおおおおおお! でも国民栄誉賞で死にそうになってたお嬢様がそんなもん授与したら式典でなにやらかすかわかんないからとりあえず代わりに俺たちから追加の現金玉ですわああああああああ!



「うぇ!? ちょっ、み、皆様!?」


 と、真冬に渡されていた予備のスマホと対衝撃手作りカバーをアイテムボックスから取り出し久々に配信画面に目を向けたカリンの口から、お優雅でない声が漏れた。


 なにせ歓声をぶちあげるコメントすべてが赤スパ……どころか一度のスパチャで課金可能な上限5万ばかりだったのだ。


 いや……事態はもはやそれどころではない。


 コメントのすべてが真っ赤に染まって血河のようになっている様はこれまでも何度か経験しており、もしかしたら今回もそんな事態になってしまうのではと実は覚悟していたカリンだったのだが……今回はもはやコメントの絶対数が違う。


 増強しまくったサーバーをかくつかせるほどの数のコメントすべてが5万の赤スパという異常事態を超えた異常事態になっていたのだ。


¥50000

ああもう最高すぎる……! あの最悪の絶望をよりにもよってセツナ様の必殺技で打ち破るとか……わたくし光姫様じゃないですけど一生ついていきますわああああああああああ!


¥50000

リアル九重紅葉だのリアル無限双璧だの……古参ダンジョンアライブファンのわたくし絶頂もんでしたのおおおおおおおおおおおおおおお!!


¥50000

ああもう推定奈落級をぶっ倒すわ原作再現ぶちかますわ東堂化するわホントにコミックから飛び出してきてんだろカリンお嬢様!


¥50000

日本がダンジョン後進国だなんてとんでもない!

君たちの国には正真正銘の神様がいるよ!(英語)


¥50000

あなたが神か……(英語)


¥50000

なんか英語圏でそれ言って大丈夫かってコメも複数あるけどこんなんもうしゃーねぇですわ!


¥50000

とんでもねえ奴と同じ時代にうまれちまったもんだぜ……(歓喜)


¥50000

スパチャの勢い凄すぎておハーブ


¥50000

お嬢様の功績が半端なさすぎるからな! むしろ都民としてはこんなもんじゃ足りねぇよ!


¥50000

おハーブ

これ最終的に億どころじゃ済まんだろwwwww


¥50000 @Captain pizza

アメイジング! 本当の本当の本当に最高だぜお嬢様! クソッタレなテロリストどもの企み……かは確定じゃないがとにかくあの試練をコミックみたいに吹っ飛ばしちまいやがった! 俺はもうすっかりあんたのファンさ! なにかあったらあの狂犬……もといアフリカの女王様みたいなレディと一緒にいくらでも力になるぜ!


¥50000 @motimotimotiomti

カリンお嬢様……本当の本当に、ダンジョンアライブを、鬼龍院セツナ様を好きになってくれてありがとうございます……!


¥50000 @四条光姫

¥50000 @四条光姫

¥50000 @四条光姫

¥50000 @影狼砕牙


¥50000

カリンお嬢様本当に最高ですわ!

あと光姫様無言スパチャは怖いのでやめてくださいまし!


¥50000

おい光姫様に混じって影狼お前スパチャ用のアカウント切り替え忘れてんぞwwww


¥50000

草ァ!


¥50000

スクショだオラァ!


¥50000

前に応援コメ書き込んでたアカウント特定されても違うって言い張ってたのにもう言い逃れできないねぇwwww


¥3000 @穂乃花

本当に本当に、無事に勝ててよかったですカリンお嬢様……!




「皆様ーー!? ちょ、お気持ちは本当に嬉しいですがまだ今回の配信の目的も達成できていないのにこれはあまりに――穂乃花様もそんな大金はご家族のためにお使いくださいですわー!? え、ちょ、なんか全然止まりませんの!?」


 あまりに異様な状況にカリンは慌てふためき制止をかける。


 だがそれでも深淵攻略中カリンの邪魔にならないようずっと我慢していた反動もあってか、視聴者たちは「草」の一言にすら5万をつぎ込むなど熱狂しまくっており「すまねぇお嬢様これしか感謝を伝える方法がねぇんだ!」「むしろお嬢様に国を守ってもらえた身としてはこんだけじゃ足りませんの! 大人しく受け取るんですの!」とちょっとやそっとでは止まらない勢いだった。


「あ、あわわ……」


 と奈落級との遭遇でもビビることのなかったカリンはぷるぷると震えながら全身を汗でびっちょびちょにしてその真っ赤っかなコメント欄に釘付けになっていたのだが……そのときだった。


「こ、これは一体どうすれば……って、ん? え!?」


「今回の報酬」が、億など軽く超えそうなスパチャだけではないとカリンが気づいたのは。


「あ、あれってもしかして……奈落級モンスター様の素材ではありませんの!?」



〝え〟

〝え〟

〝え〟



 カリンの発言にスパチャで埋まっていたコメント欄が一瞬停止する。

 そしてそんな視聴者たちを尻目にカリンが声を震わせながらゆっくり崩れていく巨人の残骸にシュババババ! と駆け寄れば、カリンが感じ取ったとおり、そこには堅牢そうな皮、巨大な拳をかたどる骨、そして一際強い魔力を帯びた宝玉のようなものが落ちていた。


「や、やっぱりですわ!? 正真正銘奈落級モンスター様の素材ですの! それも3つも! これはちょっと……いや半端ねぇ大大大収穫でしてよ!?」



〝!?〟

〝マジですの!?〟

〝奈落級の素材!? マジで言ってる!?〟

〝俺のサイドエフェクトが囁いてないんだが……素材の格が感知できないって冗談抜きでやばい素材だぞあれ……〟

〝サイエフェ兄貴!?〟

〝嘘だろ!? と思ったけどカリンお嬢様がモンハンでラスボス級モンスの龍神玉が出たときのわたくしと同じ顔してますしこれはガチですわー!?〟

〝いやつーか3つ!?〟

〝そんなことある!?〟

〝深淵が全体的にドロップ渋いなと思ってたらとんでもねぇ運の揺り戻しがありましてよ!?〟

〝イレギュラーを超えたイレギュラーだったしドロップもなんかバグってんのか!?〟


¥50000

いやちょっと待ってこれ奈落級素材3つっていまんとこ深淵級装備までしか持ってないだろう状態でこんな有様のお嬢様がもっとヤバいことになりません!?


〝うーん、これはもうそろそろガチで人間核弾頭〟

〝国際連合緊急特別総会待ったなしでは……?〟

〝お嬢様が冗談抜きで世界を滅ぼせる戦力になりませんこと……?〟

〝ま、まあええやろ!〟

〝なんかもう日本の守護神どころか世界の守護神まであるから好きなだけパワーアップしてくださいですわ!〟

〝漫画の必殺技撃ってる時点でいまさらですわ!〟

〝パワーアップしてくれたら今日みたいに冷や冷やすることもなくなりそうですし!〟

〝他の人も使えるアイテムボックスとか生み出さん限りはまあええやろ!!〟

〝てゆーかもうここまできたら当然すぎる報酬だしな!〟


¥50000 @ダンジョン庁

本当に本当に感謝の念で言葉もありませんカリンお嬢様! そちらはカリンお嬢様が獲得した当然の報酬ですので、(いちおうまだダンジョン内で下ごしらえだけしてもらって)安心して好きにご利用ください!


〝草〟

〝ダンジョン庁、投げた!〟

〝ヒトガタのときと違ってダンジョン庁がすんげぇ物わかりよくておハーブ〟

〝そらまあ仮にも取引記録あるらしい空間魔法ボスの素材と違って奈落級素材とか持て余すどころの騒ぎじゃないしお嬢様のほうで処理してもらうしかないww〟

〝そもそもダンジョン庁は奥多摩事件で中の人かなり変わってるし〟

〝これSNS担当いろんな意味で震えながら書き込んでるやろww〟

〝(しかしこれ奈落級の経験値と素材入手したお嬢様ってどんだけ伸びるんだ……!?)〟

〝これもうガチで現人神になるのでは……?〟

〝お嬢様伝説の幕開けだァ!〟

〝ここからさらに幕開けるのか……(震え声)〟


「えへへ。覚悟していたよりもちょっとばかり激しくお優雅でない戦闘を配信することになってしまったりと色々ありましたが……奈落級と戦えたばかりか素材までこんなに手に入るなんて最高ですの!」


 これをしっかり加工してさらに鍛錬していけば、今回はまだ不完全だった原作再拳もいずれは当初の目標どおりセツナ様のように底上げ装備なしで撃つのも夢じゃないかもしれませんわ! と、カリンはスパチャショックも(一時的に)吹っ飛んだように大喜びだ。


 しかし当然、そんななかでも今回の配信の本分を忘れてはおらず、


「さて……それではなぜかさっきの巨人様登場と同時に閉じてしまった、ダンジョン核のある部屋に続く扉ですが……。この奈落級モンスター様をボスと認識してのことなら死体が消え次第ちゃんと開くはず。そしたら今度こそ核を破壊してダンジョン崩壊を止めないとですわね!」


 と奈落級素材をひとまずアイテムボックスにしまったカリンが完全なる大団円に向け、すぐ近くの地面にあったさらに下方へと続く扉へ首を巡らせた、そのときだった。


 まるでそんなハッピーエンドは許さないとばかり――


「っ!!」


 気を抜くことなく感知を発動し続けていたカリンがばっと顔を向ければ、その視界とカメラに信じがたいものが映り込んだ。


 ロウソクが最後に一際強く燃え上がるように、巨人の頭部が凄まじい魔力の塊に変じていたのだ。


「――!」

  

 とてつもない威力を秘めた自爆の気配。

 かつて奥多摩ダンジョンで対峙した〈ギガント・フォートレス〉と似た挙動にカリンがすぐさま〈モンゴリアンデスワーム〉を取り出し切り刻むが、効果なし。


 半ば魔力そのものと化しているのか、単純な物理攻撃では膨脹する魔力は止まらなかった。



〝!?〟

〝は!? なんだアレ!?〟

〝おいこれまさかキャノンクラブ系モンスターが最後っ屁にやる自爆の類いか!?〟

〝こいついくつふざけた特性持ってんだよ!?〟

〝お、お嬢様なら平気でしょ〟

〝いやでもこれなんかヤバくね!?〟



 視聴者たちが慌てた様子を見せつつお嬢様ならという声もあがる。

 だがその爆発の予兆はただの破れかぶれな最後のあがきなどではなく――ひたすら悪意にまみれたものだった。



 ¥50000 @Captain pizza

 おいまずいぞお嬢様! こいつの威力はヤバすぎる! 知ってると思うが深淵は次元が歪みまくってる関係で下手にダンジョン壁を破壊しまくってショートカットしようとするとダンジョンがへそ曲げて修復されるまで次階層に辿り突けなくなることがあるんだ! この爆発の威力で扉やその周りまで破壊されると下手すりゃしばらく核のある部屋に入れない! ダンジョン崩壊阻止に間に合わなくなっちまうぞ!



 それは先ほど追い詰められた猫屋敷忍がやろうとしていた最後の秘策。


 実際にはカリンに巨人を討伐されて奈落級の経験値どころか素材まで献上する結果となってしまったが……もし巨人がやられた場合にも自動で作動するよう仕込んでおいたのだ。魔法装備封じ証拠品などの残骸を消し去りつつ、ダンジョン崩壊だけでも成し遂げるために。


 

〝はああああ!?〟

〝おいピザニキ本気で言ってんのか!?〟

〝確かにお嬢様も次元が歪んでてショートカットしづらいとか言ってたけどここまできてそんなことある!?〟

〝いい加減にしろよバカタレええええええ!〟

〝奈落級理不尽すぎねぇ!?〟

〝カリンお嬢様より理不尽だろこれ!〟

〝最後の最後にふざけんなよ!?〟

〝爆発はドラゴンカノンの砲撃みてぇに受け流せねえぞ!?〟



 しかも巨人の頭部が消えるまでは扉が開かない仕様なのか先に核のある部屋まで辿り着くこともできそうにない。その悪辣極まる狙いを一定以上の実力者たちは一瞬で察知しており、スパチャによる警告を見た視聴者たちの間でも畳みかける悪意に悲鳴があがる。


 だがそんななかにあって、


「なるほど。ではこうするしかありませんわね!」


 Captain pizzaこと国家転覆級カービィと同じ危惧により早く辿り着いていたカリンは既に動いていた。


「皆様ご安心くださいですわ! 扉はわたくしがお優雅に守り抜きますので!」


 そう言って浮遊カメラを手元に引き寄せつつ――欠片の迷いなく膨脹する頭部と扉の間に仁王立ちしていたのである。まるでその身ひとつで爆発を受け止めてみせるとばかりに。



〝!?〟

〝お嬢様!?〟

〝まさか身体で受け止めるつもりか!?〟

〝いやそこまでしなくていいってさすがにそれはヤバい!〟

〝本気で言ってんの!?〟

〝間違いなく爆炎石とかの比じゃねえ威力でしてよ!?

〝いくらお嬢様でもあかんて!!〟

〝そこまでしなくていいから早くそこから逃げてお嬢さ――〟



 しかしその悲鳴じみた視聴者たちの声がカリンに届く間もなく――ドッッッッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 凄まじい光と轟音がすべてを吹き飛ばした。

 配信画面が大きく乱れてなにも見えなくなり、その衝撃にコメントが一気に減った。

 

 

〝え〟

〝え、ちょ、お嬢様……?〟

〝おいマジかここまできて嘘だろ!?〟

〝いやあのお嬢様だし生きてるだろ! 生きてるよな!?〟

〝いや生きてても大怪我とかしてたらどのみち深淵から帰還できなくて詰みでは!?〟

〝もともと巨人戦でそこそこダメージ蓄積してたっぽいしヤベェんじゃねえのかこれ!?〟

〝なんも映ってないんだが浮遊カメラ消し飛んでねぇ!?〟

〝おいやめてくれよマジで!〟

〝お嬢様頼むから返事してくれ!〟



 僅かに流れるコメントはカリンの強さを信頼しつつも悲壮にまみれており、真っ暗な画面に不安をかき立てられるように止まらない。


 しかし、その直後だった。


 ザ、ザザザ――ッ。


 衝撃によって一時的に映像が乱れていた配信画面が復活したかと思えば、


「――ふぅ! ほかのもうちょっと安全そうな方法でいけるか検証している暇もなかったので確実性の高い盾になる方向でいきましたが……正解でしたわね!」


 当然のように再度浮かび上がった浮遊カメラによって、その映像が映し出された。


 埒外の爆風によって床も天井も無茶苦茶に崩壊している大広間。底が見えないほどに崩落している地面。しかしそれとは対照的に――ドレスの端っこや髪の毛の先端が少しボロボロになっている以外完全に無傷のカリンがカメラにドヤ顔を見せ、その後ろにある扉もまた、周囲の地面とともに健在だった。

 


〝ふぇ!?〟

〝え、お嬢様無事!?〟

〝うわあああああああああああああああお嬢様無事だあああああああああああ!?〟

〝い、いや無事なのはいいんだがなんか無事すぎない!?〟

〝お嬢様無事どころかドレスも吹き飛んでないしその場から一歩も動いてないっぽいぞ!?〟

〝な、なんか広間全体がさっきの戦いの余波どころじゃねぇ大破壊食らって地面とか底が見えないレベルで破壊されてるのに……?〟

〝お嬢様なら大丈夫じゃないかとは思ってたけどこれはおかしいだろ!?〟

〝どゆこと!?〟

〝なんでお嬢様ドレス含めて全然無事なんですの!?〟



 映し出されたそのチグハグな光景に、安堵よりもむしろ混乱が勝るような声が流れていく。

 そんな視聴者たちにカリンは少々申し訳なさそうに、



「ご心配おかけして申し訳ありませんの。時間がなかったので説明できませんでしたが――こんなこともあろうかとわたくし、容量と一緒にアイテムボックスの入り口も拡張しておいたのですわ! わたくしの周り限定ですが、爆風や衝撃の類いは全部しまっちゃいましたの!」



 つまりなにをしたのかと言えば、カリンは自分の前方にアイテムボックスの入り口を最大範囲で展開。それこそ以前ヒトガタがカリンの放った魔力弾や殴り飛ばしたダンジョン壁の欠片を異空間に飲み込んだように、爆発をすべて〝収納〟したのだ。


 加えて一瞬で展開したカゼナリ(予備)の暴風によって可能な限り爆風を上部へと逸らし、爆風の余波による自分や地面へのダメージも軽減。自らの防御力を底上げする魔法装備も念のために発動して万が一の安全確保もしており――自分自身はもちろんダンジョン核のある部屋へと続く扉とその周辺を完璧に守り切っていた。



〝うっそだろお前!?〟

〝そういやあの深淵ボスがそうやって遠距離攻撃凌いでましたわああああああああああ!?〟

〝いやそれにしたってアイテムボックスで同じことできんのかよ!〟

〝そうか……爆発寸前の半死体だと微妙判定だけど爆発そのものは完全に無機物? 判定で操られてない水や飛んできたダンジョン壁と一緒でしまっちゃえるのか……〟

〝多分お嬢様の加工能力ありきとはいえアイテムボックス万能すぎませんこと!?〟

〝アイテムボックスとかいう収納だけじゃなく攻防にも使えるやべぇ袋〟

〝これが、数千億で取引された疑惑のある素材からできたマジックアイテムの力ァ!〟

〝マジかあああああああああああ!?〟

〝あまりにあっさり爆発防いだうえに無傷すぎてコメント欄が安堵より困惑寄りで草ァ!〟

〝いやもうなんでもいいですわやったあああああああああああああああ!〟

〝わけわかんなすぎて呆然としてたけどとにかくお嬢様無事でよかったですわあああああああああ!〟

〝しかもマジで扉守ってるし今度こそ完全勝利でしてよ!〟

〝なんかもうさすがにここまでくるといちいち心配してたこっちがアホみてぇですわ!〟

〝最後っ屁巨人ざまああああああああああ!〟

〝ガチモンの英雄だよお嬢様あああああああああああ!〟


¥50000 @四条光姫

¥50000 @四条光姫

¥50000 @四条光姫


〝光姫様の無言スパチャ芸も今回ばかりは仕方ねぇですの!〟

〝なんか1日の課金限界突破してね?〟

〝今日のために光姫様をはじめとした一部異常お嬢様愛者が配信サイトに圧かけて上限撤廃させた説〟

〝うおおおおおおおおおお! お嬢様最強お嬢様最強!〟



 そうして戸惑いから歓声に変わっていくコメント欄の盛り上がりをさらにぶち上げるように……ガコン!


 巨人の完全消滅によってようやくボス討伐判定となったのか、ダンジョン核のある部屋へと繋がる扉が解錠。大破壊によって次元が歪んでいるようなこともなく先へと進めるようになっていた。いよいよ盛り上がりは最高潮で、既にとんでもない数字になっていた同接がここにきてさらにゴリゴリ伸びていくほどだ。


「ふぅ。最後の最後まで予想外なことが続きましたが、なんやかんやでどうにかなりましたわね。あとはこの先にある核を破壊するだけ……とはいえまだもうちょっとだけ時間がありますし、それより先にこっちをどうにかしておかないとですわ」


 カリンはそのヤバい同接に気づくより先にいましがた大活躍した皮袋を見下ろす。

 さすがに爆発の規模や威力がでかすぎて、容量を拡大しまくったアイテムボックスがぱんぱんになっていたのだ。


「お水を入れても相互干渉しない仕様とはいえこれだけの魔力だと中の装備やお肉が変なことになる恐れもありますし……安全な方向に少しだけ放出しちゃいますわ」


 とカリンはレールガンをぶっ放したときのように周囲を索敵。階層間の移動やダンジョン外部に影響がない方向へ、爆発の一部を放出した――次の瞬間。



 ブビイイイイィィィ! ボバババババ! ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!! ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! プピッ



「」


 カリンが笑顔のまま硬直した。


 ――収納されていた爆発の威力ゆえか。あるいは放出される爆発の威力を調整するために皮袋アイテムボックスの入り口をカリンが手でしっかり握っていたことで変な空気の振動が起きてしまったのか。


 飛び出した爆風とともに、極めて下品な爆音が鳴り響いていたのである。


 その音はなんというか、少々口にするのが憚られるようなタイプのアレというかブーブークッションの激しいものというか……さらには荒れ狂った爆風がカリンのスカートを軽く舞い上げる様はまるでカリンがその爆音を〝発射〟したかのような絵面になっていて、



〝!?〟

〝!?〟

〝お嬢様!?〟

〝wwwwwww〟

〝おいなんだいまの!?〟

〝完全にオナラで草〟

〝不意打ちでとんでもねぇ爆音響いてて臭〟

〝お嬢様なにやってんですの!?!?!?!?〟

〝wwwwwwwww〟

〝ふざけんなwwww 最後の最後になにやってんだwwww〟

〝お嬢様固まってて草〟

〝おいカメラ止めろ!〟

〝カメラより先にお嬢様が停止しちゃったので無理です〟

〝カリンお嬢様思考停止してて草〟

〝大放屁お嬢様!?〟

〝風の余波でお嬢様のドレスが微妙に舞い上がってるのが絵面最悪すぎるwwww〟

〝この場面だけ切りとったらお嬢様がいきなりとんでもねぇ大砲撃かましたようにしか見えねえだろwww〟

〝さっきまでの緊迫感と大団円の雰囲気返せですわwwwww〟

〝これは女児だけじゃなくて小学生男子にも人気爆発しちまうなぁ!〟

〝ブビイイイイィィィ! ボバババババ! ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!! ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! プピッ〟

〝文字起こしやめろwwwwwww〟

〝絶対音感(?)の無駄遣いやめろwwww〟

〝草〟

〝臭〟

〝草〟

〝研究所の爆炎石握りっ屁疑惑といいなんで爆発阻止すると毎回そっち方面にぶっ飛んでいきますの!?〟

〝完全に汚名を挽回してて草〟

〝ダンジョン崩壊テロを阻止して世間の不安を払拭しながら笑いもとる……これもう屁イワの象徴だろwwww〟

〝お優香〟

〝漢字!!!!!〟

〝おいお前らやめたれ深淵崩壊テロ阻止に成功しつつある大英雄やぞw〟

〝ま、まあ個人的にはこれでお嬢様を変に神格化する流れがちょっとは抑えられそうで安心というかなんというか〟

〝これもうわざとやってるだろお嬢様wwww〟

〝お嬢様にそんな腹芸は……〟

〝腹芸(意味深)〟

〝おハーブ(臭み消し)〟

〝おハーブ(消臭)〟



「ち、違いますのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 と、カリンは最後の最後に爆発してしまったやらかしに絶叫するのだった。




 ――そしてその後。カリンは言い訳と釈明を重ねながら配信を継続。時間がくると同時に今度こそなんの妨害もイレギュラーもなくダンジョン核を破壊。


 途端、カリンの感知はもちろん地上で観測を続けていたチームからも崩壊の予兆が消えたと発表があり、その後どれだけ時間が経っても荒川ダンジョンは崩壊の気配すら見せることはなく――コメント欄では再び莫大なスパチャや歓声が乱れ飛んでは大放屁疑惑など霞むほどのお祭り騒ぎ。


 それをもって「荒川ダンジョン崩壊阻止」配信依頼は無事に完遂され――カリンは未曾有のダンジョンテロを食い止め不安を抱いていた人々に(色々な意味で)笑顔をもたらしたお優雅な平和の象徴として世界にその名を轟かせるのだった。



――――――――――――――――――――――――

色々あって長くなってしまった深淵攻略編、これにてひとまず終了ですの!

あとは猫屋敷様周りの諸々や掲示板回など色々エピローグを挟んで新章(真冬の言っていたカリン1人に負担がのしかかりそう云々対策ですね)にいく予定ですが、以前も報告したように見通しの立ちづらい体調の具合だったり他シリーズの締め切りがヤバかったりなので、のんびり更新していければですの

体調、ましにはなってるんですがお嬢様様バズを書き始めた時期のような好調とは言いがたいので、様子見つつやっていければですわね(周辺環境にメチャクチャ左右されるので風邪とかと違って休んでどうにかなるものではないんですわよねぇ)


というわけでさすがにそろそろガチで更新が不安定になりそうなので、作品フォローしておいていただけると更新見逃しもなくなるので是非ですわ!(エピローグくらいは急ぎ週1くらいで更新したいですが、まだちょっと次回更新はいつになるか不明ですの 汗)


そんなこんなで色々ありはしつつひとまず深淵編が一段落したということで、面白いと思っていただけたらもうちょい下に進んでフォローや☆をクリックしていただけると嬉しいですわ! ☆やフォローなどで応援していただけるとランキング浮上によってお嬢様の大暴れがより多くの方に届きますので!


追記:そういえば本話と一日ズレでこのラノ2025の投票も始まってますので、もしよろしければそちらでもお嬢様バズへの投票お願いいたしますわー! こういった場での結果もカリンお嬢様の知名度上昇、ひいてはアニメなど各種メディアミックスへの弾みになりますので!

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