第155話 ラストステージ その2
〝!?〟
〝なんだ!?〟
〝狼!?〟
〝どっから出てきたこいつ!?〟
〝いよいよお嬢様の拳から生命が誕生しましたの!?〟
〝バイオハザードだろそれ!?〟
〝え、てか稲妻が止まってる!?〟
〝なにが起きた!?〟
〝は? まさかこいつボスか!?〟
〝お嬢様ああああ!? なにがどうなってましてええええええ!?〟
コメント欄は大混乱に陥っていた。
なにせ雷そのものが襲いかかってくるという攻略させる気がないボスの出現に右往左往していたところに、カリンがその雷を叩き伏せたのだ。
いやそもそも雷を叩き伏せたと認識できている者もほぼおらず、突如姿を現して地面にめり込んでいた狼型モンスターにコメントが大量の疑問で埋め尽くされる。
「この方が第4層のボス様ですわね。どうも雷と一体化して移動できる性質があるようですが、ミスト様と違って肉体はあるようなので殴らせていただきましたの!」
カリンが視聴者たちの疑問に端的に答えていれば、
「グ、グガアアアアアアアアアアアアアア!!」
いくらカリンの拳が異次元の威力を持つとはいえそこは深淵ボス。
地面に叩きつけられていた二叉の狼――雷獣は明確なダメージを負いながらも怒気の交じった獣声を響かせ当然のように立ち上がり、カリンから凄まじい瞬発力で距離を取る。
かと思えば――ピシャアアアアアアアアアアアアア! ゴロゴロゴロゴロ!
その身が発光すると同時に姿を消し、カリンの言葉を証明するように再び雷そのものの速度でボス部屋を疾走し始めた。
〝!?!?〟
〝狼が消えた!? 稲妻も復活した!?〟
〝マジで雷と一体化するボスモンスなのか!?〟
〝はぁ!?〟
〝落雷の直撃にしては刀が真っ二つなのおかしいと思ってたけど……こいつまさか雷の速度で物理攻撃までしてたってこと!?〟
〝詳細が判明してなお反則級のボスモンスなんだが????〟
〝いやじゃあその反則ボスを普通に殴り飛ばしたとか言ってるお嬢様はなんなの!?〟
〝え、ちょっ、つまりお嬢様いま雷を殴ったんですの!?〟
¥10000
ちな雷の速度は秒速150㎞で狙撃銃の弾速の150倍です(震え声)(思わずスパチャ)
〝いくらなんでも動体視力どうなってんねん!?〟
「あ、いえいえ。誤解されてるようなので捕捉しますと、わたくしの感知もさすがにまだ雷は捉えられませんわ」
カリンは雷と一体化した雷獣が反撃の機を窺うように雷鳴を轟かせて奔り回る中、ぷるぷると手を振って、
「ええと、なんて言えばいいのか……なんかあのボス様が突っ込んでくる直前にビリビリチリチリした静電気みたいなのがきますの。なので雷そのものが見えずともわたくしにとっては……ええと、アレ、アレですの、もしもしパンチみたいなものなのでカウンターも容易なのですわ! ――こんな風に!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!
「グギャアアアアアアアアアア!?」
カリンが自らの語彙力を総動員して雷速に反応できた理屈を説明すると同時――先ほどの一撃がまぐれでもなんでもないと証明するように、再度突っ込んできた雷獣をカリンの拳が捉えた。
その異次元の戦闘にいよいよもって沸き立つのはコメント欄だ。
〝うおおおおおおおおおおおお!?〟
〝うわなんかまた雷のボス殴ってる!?〟
〝もうわけわかんねぇですわよ!?(本日n回目)〟
〝ってかお嬢様なんか説明してたけどまったく理解できなかったんだが!?〟
〝なんて????〟
〝徹頭徹尾なに言ってんですのこのお嬢様!?〟
〝#ちゃんと人類の言葉で説明してお嬢様〟
〝誰かこのお嬢様語翻訳してくれ! わけわかんねぇですわ!?〟
¥5000
え、ええと……多分だけどあのボスが突っ込んでくる進路には本物の雷と同じで先行放電ってやつがあるから事前に軌道とタイミングが予測可能。ゆえにお嬢様にとってはテレフォンパンチ(どこにどう攻撃するか事前に電話で知らせてくれるような見え見えの攻撃)みたいなもんでそこに拳を合わせた……ってこと!?
〝お嬢様の思考を追えるお優雅検定1級ニキ!?〟
〝ようやくカリンお嬢様がなに言ってんのかわかりましたわ!?〟
〝いやわかったけどわけわかんねぇよ! なんでそれでいきなり雷速の敵に対応できてんですの!?〟
〝最初の2発は刀を避雷針にして見切る間があったから……〟
〝というか「まだ」雷を見切れないってなんですの……!?〟
〝いつか到達しそうな言い方はやめてもろて……〟
〝まあ刹那様の領域目指してる時点で……〟
「まあつまるところ――」
とカリンは視聴者たちが混乱するや興奮するやでしっちゃかめっちゃかになるなか、
「確かにこのボス様は相手によっては無敵。一定の強さがなければ創意工夫での攻略や一発逆転も不可能な手合いで深淵最奥のボスにふさわしい格はありますけど……逆に言えば、一定以上の感知能力と最低限の雷耐性があればカモも同然な部類のボス様ですわ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ひたすら突っ込んでくる雷獣にカリンは何度も何度もカウンターを炸裂。
魔龍鎧装・雷式には拳から流れ込んでくる電気を遮断する効果もあるのだが、それによって雷獣との接触で伝ってくる電気を軽減しつつ、鉄拳を叩き込みまくっていた。
〝うおおおおおおおおおおおおお!〟
〝お嬢様マジでやべぇですのおおおおおおお!〟
〝おいおいこれマジでいけるぞ!〟
〝いっけえですわああああああああああああ!〟
カリンがなにをしているのかようやく理解できたコメント欄が度重なるカウンター炸裂にいよいよ凄まじい熱を帯びる。
「グ……グルアアアアアアアアアアアアアア!」
だがしかし相手は仮にも深淵最奥ボス。
カリンの拳を何度か受けたにもかかわらず絶命には至らず、その獣声に呼応するように上空の雷雲がかつてないほどの稲光を纏った。
「ふむ。しかしさすがは深淵ボス。カゼナリの帯電性能である程度は防げるとはいえビリビリきますし、拳だけではなかなか仕留めきれませんの。でしたら――」
そしてカリンもまた最後の力を振り絞る深淵ボスに対して手は抜かないとばかり、懐からそれを取り出した。先ほど破損した大刀の予備。2本目の〈モンゴリアンデスワーム〉だ。
カリンと雷獣、2体の規格外が睨み合い魔力が膨れ上がる
瞬間――バジジジジジジジィ!
先に動いたのは雷獣だった。
上空の雷雲が凄まじい放電を行う。
それに伴い放出されるのは――幾筋もの先行放電。
攻撃のタイミングと軌道が読まれているというのなら、本体以外にも攻撃があればどうだとばかりに放たれる雷獣の奥の手。様々な角度から一斉に襲いかかる雷撃。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアア!」
そしてカリンに致命の一撃を放つべく雷獣が雷と化し、幾筋もの稲妻とともに雷鳴が轟いた――刹那。
「奥の手を披露されているなか申し訳ありませんが――」
コンマゼロ秒以下の引き延ばされた時間の中、すべての雷撃の軌道を見切り回避行動をとっていたカリンのその声が確かに響き、
「一定以上の感知能力があればどれがあなた本体から発せられたビリビリか――手に取るようにわかりますの!」
キンッ!!
大気ごと雷鳴を叩ききるような静かな金属音が、広大なボス部屋に小さく響いた。
続いて訪れるのは先ほどまで轟いていた雷鳴が嘘のような静寂。
そして――パチンッ。度重なる打撃で雷獣が弱っていた影響か、電熱で融解することなく美しい刀身を保っていた〈モンゴリアンデスワーム〉が鞘に収められると同時――ズルッ。
ドシャッ。
最初に破壊された〈モンゴリアンデスワーム〉の仇とばかり、2本目の大刀が雷獣の身体を真っ二つに切り裂いていて――。
「……ふむ」
広間の天井付近に発生していた雷雲が霧散し、配信画面も大広間も静寂に包まれるなか。
「なかなかに強力なボス様でしたが――相性勝ちですわね。少しビリビリきちゃってるのでわたくしとしてはいささか不満ではありますが……どうにかお優雅に討伐完了ですわ!」
ガゴンッ。ボスの絶命を証明するように、ダンジョンの最奥――核のある部屋へと続く扉の開く音が響くと同時、カリンがボスの討伐を宣言した。
途端、時停止していたコメント欄が――文字通り爆発した。
〝う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?〟
〝マジでやりやがったああああああああああああああああああああああああああ!〟
〝うわああああああああああああああああ! お嬢様ああああああああああああああああ!〟
〝あびゃああああああああああああああ!〟
〝サーバーの負担なんざ知ったことかお嬢様うおおおおおおおおおおおおおお!〟
〝荒川ダンジョン完全攻略ですわああああああああああああああああああああああ!〟
「うおぇ!?」
もはや画面を埋め尽くすだけでは足りないその弾幕は、異次元のコメント数などに多少は耐性のついてきたカリンが思わずお優雅でない声を漏らしてしまうほどだ。増強しまくったサーバーもぶっ飛ばさんばかりに文字が流れ、ここにきて初めて配信画面がかくつくほど。だがそれでもサーバーなど知ったことかとばかりに勢いは止まらなかった。
〝マジか……マジかのこのお嬢様……ガチで深淵ソロ攻略しやがったぞ……〟
〝崩壊阻止の核破壊可能時間までだいぶ早いしそのうえほぼ無傷だしで余裕すぎんだろ!?〟
〝こんなんもう今後確実に深淵崩壊テロとか通用しねえじゃん!?!?!?〟
〝アホテロリストどもざまあああああああああああああああ!〟
〝カリンお嬢様にだけ今後対策を負担させるような流れは断固阻止しないとだが……〟
〝そんでもこれだけ余裕で深淵最奥まで到達できる戦力がいるってわかった時点ですんげぇ功績でしてよ!?〟
〝スパチャ……はさすがにもうちょっと我慢とはいえマジヤバいですのおおおおお!〟
〝@motimotimotimoti:本当に、本当にお疲れ様です……! いままでも何度も思いましたが、漫画家という職業を選んで本当によかった……!〟
〝@Captain pizza:アメイジング! 素晴らしすぎるぜお嬢様! あのクソッタレなテロリストどもへの〝最高のプレゼント〟だ!〟
〝@穂乃花:お嬢様……! 本当に凄いです……!〟
〝@四条光姫:うわああああああああああああ! 一生どころか生まれ変わってもついていきますお嬢様ああああああああああああああ!〟
〝時空を超えたストーカーおって草〟
〝また光姫様脱獄しとるやんけ!〟
〝穂乃花様も一緒だからセーフ!〟
〝あとは核破壊でダンジョン崩壊が阻止できるって完全証明するだけですわあああ!〟
〝いやもうこれ万が一崩壊止められんかったとしても安心感がエグいだろ……〟
〝深淵でこんだけ無双やらかすお嬢様がいれば深淵モンスが溢れてきてもなんとかなる気がしてきたな!?〟
〝いやまあ崩壊の問題は周囲の地価とか川崩壊とか経済的な問題もあるけど……なんか平気な気がしてきたわたくしがいますわ!?〟
〝万が一崩壊止められなかったとかなってもこの戦力が秩序側にいる時点でなんかもう気分は大船でしてよ!〟
実際に阻止が確認されるまで油断は禁物という声もあるにはあるのだが……深淵ソロ攻略配信という無理難題を本当にやり遂げてしまったカリンへのとんでもない歓声と賞賛が止まらない。
光姫や穂乃花をはじめ、これまで攻略の邪魔にならないようにと書き込みを控えていたもちもちたまご先生まで声をあげているくらいだ。
「ちょっ、み、皆様!? まだ本題のダンジョン崩壊が食い止められたわけではございませんのよ!?」
と、崩壊阻止という大仕事がまだ完遂できたわけでもないのに爆発する歓声にカリンも思わずあわあわしてしまう。テロへの不安払拭が重要な課題だったとはいえ、この段階でこれはちょっと不安が払拭されすぎである。なんかもうこのまま配信がハッピーエンド扱いで終わってしまいそうな勢いだ。今回の配信の本番はここから。実際に核を破壊して崩壊を阻止できるかどうかが本題だというのに。
とはいえ……。
(ダンジョン崩壊直前のダンジョン核近くになんて初めて来ましたけど……確かになんだかどこかからとんでもない力が集まってきてると同時に、崩壊まで1、2時間を切った状態で核を破壊しておけばガス抜きの要領で崩壊を防げる感がパないですわ。こりゃ偉い人たちの研究どんぴしゃ、いいタイミングで核を破壊すれば崩壊を止められるというのは本当ですわね)
いまなお強力な感知で周辺の様子をつぶさに把握していたカリンは確信する。
深淵でのお優雅攻略をどこまで貫けるかという点を除けば、今回の案件配信はそこが唯一最大の懸念だったのだが……さすがはダンジョンアライブでも描かれていた理論。さすがである。
となると当面の問題は、
「思ったよりも攻略が楽でかなり早くここまで到着しちゃったことですわね……核破壊の時間までだいぶ時間が余っちゃいましたわ」
カリンは少々困ったように腕を組んだ。
いやまあ崩壊に間に合わないよりは全然いいのだが……。
ボス部屋というのは通常、探索者の長居を拒むように無数のモンスターが湧いて出たり経験値も素材もよこさないボスが湧いてきたりする。
だがダンジョン最奥の広間はほかのボス部屋に比べると「探索者の追い出し」機能の発動までそれなりの猶予があり、いまから核破壊で崩壊が止められる時間になるまでなら大丈夫そうなのだが……今回はそれが逆にあまりよろしくなかった。
なぜかといえば……配信の間が持たないのである。
(うーむ。どうしましょう。皆様の不安を払拭するために可能な限りお優雅かつ確実に深淵を攻略、なおかつ刹那様を侮辱したゴミクズどもの計画をぶっ潰すための準備にかかりきりで、こういう場合のことを考えてませんでしたわ)
こうなったら第3層のバフゴリラたちを相手に先ほどは発揮できなかった「受け流し」などを仕掛けまくって練度を上げる様子でも配信しましょうかしら――などと崩壊阻止が可能と確信したカリンがある種の余裕をもってそんなことを考え始めていた、そのときだった。
――ガゴンッ!
「え」
その大広間にあり得ない音が響いた。
それは、ダンジョン核のある最奥の小部屋に続く扉が閉まる音で。
え、とカリンがその異常に気を取られるとほぼ同時、
「ッ!?」
先ほどまでの余裕が消し飛んだように頭上を振り仰いだカリンの髪の毛がこれでもかと逆立ち莫大な魔力を解き放った。
〝ん?〟
〝カリンお嬢様どうした?〟
〝え、マジでなに?〟
〝なんかお嬢様凄い顔してない!?〟
〝なんだ!?〟
〝シャリー様と会ったとき以上のガチ顔してません!?〟
「これは……一体いつの間に、どこから――!?」
とカリンはこれでもかと目を見開きカゼナリの全力発動のもと〈モンゴリアンデスワーム〉を抜刀。これまでにないほど鋭い視線を巡らせた――刹那。
ズンッ!
「!」
全力で周囲を警戒していたはずのカリンの死角に突如巨大な影が降り立って――
「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ドッッッッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
響き渡るは人智を超越した巨人の咆哮。
深淵ボスすら足下に及ばない魔力の奔流。
振り下ろされる拳による厄災がごとき破壊の調べ。
荒川ダンジョン第4層大広間全体を揺るがし粉砕するような衝撃にカリンの姿が飲み込まれて――上空に逃げていた浮遊カメラの乱れる映像に、大きく千切れ飛んだドレスの一部だけが映り込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――
色々事情もあって大変お待たせすることになってしまいましたが――荒川ダンジョン深淵編、ラスボス戦開始ですの!
というわけで次回更新は水曜日、ちょろっとだけ週2更新に戻しますわー!
※そういえば前回の「汚名挽回」、コメ欄で意見が割れてたので調べてみたところ、なんと「正しいと思う思わない」のNHKアンケート比率がほぼ拮抗、さらには間違いではないとしている辞書も結構あるとのことでちょっとびっくりしました(理屈としては疲労ではなく身体を回復させるはずの「疲労回復」が正しいのと同じ?らしいです)。
誤用が正しい使い方として定着したものかと思ってたのですがむしろ「汚名挽回は誤用」という指摘自体があとから出てきたものまであるようで、元々は普通に正しい使い方だったみたいですわね。意外ですわ…!
ただ言葉とは生き物。拮抗しているということは正しい正しくない論争が起きるということなので(前回は応援コメントどころか近況ノートやおすすめレビューにまで誤用指摘が飛んでくる勢いでしたからね)、これは現状「今川焼き大判焼きベイクドモチョモチョ」のように下手に使うと争いが起きるだけの呪われた言葉なのでは…? ということで使わないほうが色んな意味で無難っぽいですわ! 皆様お気を付けくださいまし!
ただカリンお嬢様はこれまでの傾向からして普通に「汚名を挽回」してもおかしくないのでひとまずこのままですわー!
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