第148話 深淵第3層へ
コメント欄は電波が途切れたかのように静まりかえっていた。
なにせカリンが居合い勝負を宣言した直後、生きた鎧の姿が掻き消えたかと思えば一瞬でカリンの背後に移動しており、お互いが微動だにしない息の詰まるような静寂が場を満たしていたのだ。。
だがそんな時間が数秒続き、誰かが痺れを切らしたようになにか書き込もうとした直後――ずるっ、ガシャン!
身に纏う刀剣や手に握る刀剣塊ごとバラバラに刻まれた鎧が崩れ落ちカリンが討伐を断言した瞬間、歓声が爆発した。
〝や、やりましたわああああああああ!(←なにが起こったのかイマイチわかってない)〟
〝深淵第2層ボス撃破ですのおおおおおおおおお!〟
〝最強最強お嬢様! 日本の守護神(ガチ)お嬢様!〟
〝剣の結界粉砕したうえに特殊行動っぽいボスの技も真正面からぶち破ってるんですけどこのお嬢様!?〟
〝そりゃ武器も技量も差がありすぎて負ける要素なんてねぇんだよなぁ!(事後諸葛亮)〟
〝てかカリンお嬢様また無傷じゃねえか!?〟
〝常時成長してるタケノコお嬢様説あるとはいえお嬢様の髪の毛落としたあの空間魔法ボスの株が上がる上がる……〟
〝完全に少年漫画の終盤で「序盤に出てきたあいつ実はヤバかったのでは」扱いされる枠!〟
〝よ、鎧さんもいちおうお嬢様の武器に傷つけたから……〟
〝戦いの途中で加工なんかやっててなんで実質無傷なんですかねぇ(震え声)〟
〝ですわ! ですわ! トンテンカン♪ ←これもう実質処刑用BGMだろ〟
〝Deathわ! Deathわ! トンテンカン♪〟
〝お嬢様キャラの「ですわ」口調は敵への死の宣告だった……?〟
¥10000
シンプルに草
(以下光姫様ツブヤイターアカウントから引用)
『神代穂乃花の代理投稿です。先ほどカリンお嬢様が行った深淵第2層ボス攻略によって光姫さんが公共の場に出せない状態になったのでしばらくネットから引き剥がします。生きてはいるのでご安心ください』
〝草ァ!〟
〝久々のおハーブ大農園〟
〝そりゃあんなの見せられたら光姫様もトびますわ!?〟
〝まーたお嬢様がモンスターと光姫様を同時撃破してる……〟
〝めちゃくちゃバズってておハーブ〟
〝異常お嬢様愛者ムーブで毎回鬼のようにバズる女〟
〝伝 統 芸 能〟
〝親 の 顔 よ り 見 た 奇 行〟
〝もっと親の奇行見ろ〟
〝これは未来のホワイトナイトエースの風格〟
〝ホワイトナイトの風評はもうボロボロ〟
〝相変わらずなんも悪いことしてないのに光姫様の扱いが散々で草〟
〝これはまたお嬢様の快進撃を知った人たちが配信に流れ込んできますわ!〟
〝なんにせよ深淵第2層無傷突破おめでとうございますですわー!〟
「皆様ありがとうございますですの! にしても、武器ありとはいえ今回はなかなかお優雅に攻略できましたわね! いい感じに〈神匠〉が役に立ってくれましたわ」
大盛り上がりのコメント欄にカリンもニコニコで応じる。
さすがにカリンも深淵でお優雅配信をどこまで続けられるか少々心配な面があり、今回のボスはちょっとお優雅でない攻略になってしまうかもと思っていたのだが……蓋を開けてみれば結果は上々。
色々と博打ではあったが、〈神匠〉の制限を利用した攻略でどうにかお優雅攻略することができたのだ。戦闘中の加工(それも深淵で)はカリンとしても新境地であり、配信を盛り上げてくれている光姫とあわせて特殊素材(モンスター食材)を大量に加工させてくれたシャリーには大感謝である。アレがなければ〈神匠〉の練度が足りず、いくらカリンでも今回の高速加工はなしえなかっただろう。
おかげで配信の雰囲気はより明るくなっている。
この荒川ダンジョンには美味しそうなモンスターも多く見受けられるし、無事に崩壊を食い止めることができた暁にはお礼も兼ねてシャリーたちと第1層水中ステージで海鮮祭りとかしたいくらいだ。じゅるり。
と、そこでカリンの発言を受けたコメント欄がふと冷静になる。
〝いやほんと……敵の武器を奪って自分しか使えないようにするのは反則でしたわね……〟
〝冷静になって考えれば考えるほどヤバいんだよね怖くない?〟
〝ここにきて〈神匠〉のヤバさがさらに上がるとか誰が予想できんだよ!〟
〝アレ下手したらお嬢様の加工用ハンマーと打ち合っただけで武器奪われるようになるのでは……?〟
〝つまりお嬢様とやりあうには素手じゃなきゃいけない……?〟
〝このお嬢様素手のほうが技量高いうえに自分は一方的に武装使ってくるんですがそれは……〟
〝てか戦闘しながら加工できるようになるとかお嬢様の成長曲線どうなってんですの……?
〝14歳でダンジョン入れるようになってから2年でここまで来てるからなこのお嬢様……〟
〝2年後にシャボンディ諸島で再会したチョッパーがカイドウになってるレベルのバグ〟
〝いやあの……そういえばなんだけどあのデスワームちゃんを破損させた剣を大量に束ねて作った〈神匠〉製ソードとかあまりにもヤバすぎなのでは……?〟
〝下手したらダンジョンごとぶった切るだろ……〟
「あー、それなんですけど」
配信画面をチェックしていたカリンがいくつかのコメントに気づいて少々申し訳なさそうな声を漏らす。
「さすがにそこまで都合よくはいかないようですわね。やはりモンスター様からドロップ品以外のものを拝借するのは難しいですの」
とカリンが浮遊カメラの角度を変えれば――生きた鎧が崩れてダンジョンに吸収されていくと同時、カリンが作り上げた巨大刀剣もまた形を失っていった。
〈神匠〉で加工し支配権を奪ったとはいえ、生きた鎧が生み出した刀剣はモンスターの一部扱いのようで、本体の消滅ととともに消えてしまったのだ。
「まあこうなりますわよねぇ。以前もタイタンナイトボーン様の四肢を破壊して動けないようにしてから大剣を奪って加工ってのを何度か試したんですが、どうやっても最後はモンスター様と一緒に消えちゃいましたし。これも〈神匠〉の仕様と一緒でなかなか突破できそうにないダンジョンのルールっぽいんですのよねぇ」
〝あ、マジか〟
〝あー、まあよく考えたらそりゃそうか。モンスターの持ってる武器って最終的にモンスターと一緒に消えるから体の一部みたいな判定っぽいし〟
〝あの、さらっと中層ボスでおなじみのタイタンナイトボーンさんが酷い目に遭ってるんですがそれは……〟
〝何やってんだお前ェっ!?〟
〝突如生えてきたタイタンナイトボーン様の悲しき過去……〟
〝俺が下層に到達するまでに何度もこっちを酷い目に遭わせてきたヤツだからセーフ!〟
〝(法律だけに飽き足らずナチュラルに世の摂理の抜け穴まで探ってるのなんなんですの……?)〟
〝そっかさすがに制限あるか〟
〝ぶっちゃけこのまま深淵攻略してくなら頼もしい武器はひとつでも多くほしかったが……〟
〝いやまあこのお嬢様ならきっと誤差みたいなもんですわ!〟
〝下手したらこの先現れるモンスターの角へし折って加工とかしそうだしな!〟
〝なんやかんやで深淵の半分まで無傷できてるわけだしな! 全然いけましてよ!〟
〝あ、そっかこれもう折り返しなのか!?〟
〝ほんまや攻略法がアレすぎて気づくの遅れたけどもうこれ深淵半分いっとるやんけ!?〟
〝おいおい心配しまくってたのがバカみたいな快進撃じゃん!?〟
〝最後の最後まで気は抜けない――とはいえマジのマジで深淵ソロ攻略が現実味帯びてきましたわあああ!〟
〝もうこの調子で一気にいけちゃいますわよ!?〟
と、せっかく作った武器が消えてしまったことに少し残念そうな空気が流れるものの、深淵がもう折り返しという事実にコメ欄が再度盛り上がる。
そして深淵を進んでいくごとに以前のような空気感が戻ってきていると実感できるその盛り上がりをカリンが見逃すはずもなく、
「ではでは。この調子で先に進んでいきますわね! お優雅に核を破壊してダンジョン崩壊を食い止めるまでもう少しですの!」
と、カリンは破損した〈モンゴリアンデスワーム〉の刀身を少々短くしながら加工スキルで瞬時に修繕。
熱が冷めないうちにとばかり、カゼナリ装備のままで深淵第3層へと進んでいった。
――――――――――――――――――――――――
分割更新。というよりボス戦後の一段落回という感覚、ですわ!
それからこのたびお嬢様バズがさすがに年間1位から退きましたが、なんやかんやで5ヶ月も1位にいたうえに連載1周年を過ぎてからも1ヶ月近く年間1位にいることができましたわ!(年間ランキングの仕様上、連載から1年すぎると割とすぐランキング陥落してしまうはずなんですが)。マジで皆様のおかげですの! ありがとうございますですわ!
というわけでこれからもより多くの方にお嬢様の活躍が届くよう、面白いと思っていただけたら☆やフォローで応援いただけますと嬉しいですわー!
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