第147話 強奪
〝……え?〟
〝は……?〟
〝ちょ、これお嬢様なにやってんだ!?〟
〝なんか「ですわ! ですわ!」って鳴き声が聞こえるんだけど気のせいだよな!?〟
〝いやなんかすげぇ魔力が凝縮してんぞ!?〟
〝はぁ!? おいこれあのイカれお嬢様まさか……!?〟
〝戦闘中に加工スキル発動してねぇ!?〟
先ほどまで深淵第2層ボスの脅威に戦いていた視聴者たちが、いまはまったく違う〝異常〟に目を剥いて数多のコメントを書き込んでいた。
なにせいま配信内ではあろうことかカリンが「ですわ! ですわ!」と聞き慣れた声を響かせ、激しい戦闘のなかでトンテンカン♪となにかを叩くような音まで響かせていたのだ。
人の知覚を逸脱するような戦闘の最中。浮遊カメラに映し出されるカリンの姿はぶれまくっており、詳細が目視できないこともあって視聴者たちは「いやまさか」「さすがに気のせいだろ」と脳裏をよぎったその仮説を自ら否定する。
だが――それは決して気のせいではなかった。
「――――っ!!」
極限の集中。
シャリーと出会い極めて特殊な素材である「下層以降のモンスター食材」を加工をしまくったことで〈神匠〉をはじめとした加工スキルの練度が跳ね上がっていたカリンは、水神龍の素材を加工したとき以上の集中と高性能の加工道具をもってして〈神匠〉を発動させていたのだ。あるいは深淵ボス部屋というこれ以上ないほど高密度の魔力が満ちる空間で加工スキルの精度が上がっていることも要因のひとつだろう。
そしてカゼナリによる速度上昇と反射速度向上によって飛ぶ剣戟を避けまくりながら異次元の魔力を集中させ続けたその先で、
「ですわ! ですわ!」
トンテンカン!
強奪した2本の剣に仕上げとばかり一際強く加工用ハンマーを叩きつけた。
次の瞬間――ボワン!
「! いけましたわー!」
黄色い声をあげたカリンの手の内で、先ほどまで2本あった刀剣が合成されてまったく別の形をした1本の剣へと変じていた。
違うのは形だけではない。
光沢、鋭さ、内包する魔力――あらゆる要素が先ほどまでの刀剣とは一線を画しており、
「それではひとつめの賭けに成功したとことで――試し切りですわあああああああああ!」
カリンがその新しく生み出された剣を思い切り振るえば――キンッ!
カリンの周囲で高速飛翔していた剣のうち数本が、鋭い金属音とともに真っ二つとなって地面に落下した。
〝え〟
〝は!?〟
〝あ!? なんか剣が真っ二つになって落下してね!?〟
〝なんだ!?〟
しかしそれは単に2本の刀剣を合体加工して切れ味が増したから、だけが理由ではない。その異変に気づいた一部の(恐らく一般人ではない)視聴者たちが驚愕を漏らすなか、カリンは「おお! やりましたわ!」と目を輝かせ、
「やっぱり! 〈神匠〉で加工したものは加工者本人しか使えないというお排泄物な仕様がちゃんと効いてますわ! あの鎧様の刀剣操作を完全に無効化できましたの! これなら勝手に動こうとする剣に抵抗されることなく光姫様から教えていただいた剣術をしっかり活かせましてよ!」
言ってカリンは〈神匠〉によって自分だけが使えるようになった刀剣を再度一閃。
そのフィジカルと技量を存分に剣に乗せ、高速飛翔する刀剣の群れを斬って斬って斬りまくる!
〝はああああああああああああああああああああ!?〟
〝ちょっと待て! マジで待って!?〟
〝情報量が多すぎて頭も書き込みも追いつかねぇんだが!?〟
〝いや、ちょっ、このお嬢様マジであのヤベェ戦闘中に加工しやがったのか!? 自分で高速飛行しようとする剣を!?〟
〝水龍素材を加工してた時点でスキル練度上がりまくってんのはわかってたけど限度があんだろ!?〟
〝意味わからんすぎましてよ!?〟
〝いやそれよりこれ……相手の武器を〈神匠〉で加工して自分しか使えないようにしたってこと!? マジで!?〟
〝あ!? これ〈神匠〉の制限逆手に取ってんのか!?〟
〝冗談はよしてくださる!?〟
〝はぁ!? さすがに嘘でしょ!?〟
〝隠し持ってた新武器を「いま加工した」って体で出したんじゃなくて!?〟
と、二つの賭けに成功したカリンが大はしゃぎで暴れ倒す一方、コメント欄は当然のように困惑と疑念で埋まる。
だが、
「ですわ! ですわ!」
トンテンカン♪
あらゆる疑念を「現実」という最強の棍棒で粉砕するかのようにカリンの異常行動は止まらない。
切り裂かれて一度は地面に落ちた刀剣も完全には支配を逃れていないのかすぐ戦線に復帰して飛んでくるのだが、幾分か速度の落ちているそれをカリンは当然のようにキャッチ。
加工物は自分以外に使えないという〈神匠〉が持つ制限を利用して敵の武器を完全に奪い取ったのだと再度証明するように加工スキルを発動させ、とっ捕まえた剣の欠片を1本の剣へ集約させるようにひたすら加工。
「できましたわ!
と加工が終わるたびに一瞬制止してはどんどん強化されていく剣を視聴者たちに見せつける。周囲の剣が減っていくごとにカリンが持つ剣は刀身と纏う魔力を増し、どんどん強大になっていくようだった。
〝はあああああああああああああああああ!?〟
〝おいおいおいおいおいおいおい!?〟
〝マジのマジで〈神匠〉の仕様を逆手にとって相手から武器の操作権奪ってんじゃん!?!?!?!?〟
〝いくらなんでも無茶苦茶すぎんだろ!?〟
〝BSS(ボスが先に所有してたのに)……ってコト!?!?!??〟
〝深淵ボス「脳が破壊される」〟
〝草ァ!?〟
〝ちょっと待てよ!? 〈神匠〉ヤバすぎじゃねえか!?〟
〝いやもうこれ〈神匠〉じゃなくてお嬢様個人がヤバいやつだよ!〟
〝戦闘中に敵の武器に加工かまして自分しか使えないようにするとかいくらなんでも反則すぎません!?〟
〝加減しろバカ!〟
〝ほとんどバグ技やんけ!〟
〝おい運営どうなってんだナーフしろナーフ!〟
〝加工物を本人しか使えないって部分ナーフしたら世界が終わるんだよなぁ(アイテムボックス洪水の切り抜きを見ながら)〟
〝どっちみちヤバくておハーブ枯れる〟
「……っ!?」
そのカリンの無法っぷりに混乱するのは視聴者たちだけではない。
絶対的な支配と統率を誇る自らの刀剣が次々と奪われ敵の手中でとんでもない武器へと変じていく異常事態に、無機物モンスターであるはずの鎧が動揺するような様子を見せる。
そして数を減らした武器を補充するようにすぐさま大量の刀剣を再召喚。
暴れ回るカリンへと慌てて殺到させるのだが、
「どりゃあああああああああああああああ! ですわあああああああああああああ!」
無意味。
度重なる加工によってもはや動く鎧が生み出す刀剣類とは強度も切れ味も別次元のものとなった巨剣をカリンが振るえば、それだけで無数の刀剣が木っ端微塵の鉄くずと化す。
そしてその砕かれた破片をカリンがいままでのように拾っては加工。
もはや刀剣召喚はカリンという埒外の存在にエサを与えるだけの愚行となっていた。
そして、
「これなら――いけますわああああああああああああああ!」
「………………………っ!?」
動揺する鎧の隙を突くように、カリンが数の減った空飛ぶ刀剣の合間を縫って突撃。
カゼナリの機動力で一気に鎧との距離を詰めたかと思えば――バギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
カリンの振るった巨剣が、動く鎧の周囲に展開する剣の結界を粉々に打ち砕いた。
どれだけの数と速度、切れ味で剣戟の絶対防御陣を敷こうが、それを遥かに上回る頑丈さと質量で一蹴すれば無意味という身も蓋もない究極の
〝うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?〟
〝あの反則結界も真正面からぶち破りましたわあああああああああああああ!?〟
〝なんなんだよマジでこのお嬢様はよおおおおおおおお!?〟
〝いやまて! あのボスまだ生きてんぞ!?〟
「……!!」
視聴者の一部が警告するように、剣の結界を破られてなお深淵ボスは生きていた。結果が粉砕されるまでの一瞬の間に、自らの体を高速飛翔する刀剣に乗せて逃がしたのだ。
追い詰められた深淵ボスは、切り札とばかりに自分の周囲に刀剣を集約させる。
自らの全身を刀剣で覆い、さらには何十もの剣を束ねた巨大剣を握ったかと思えば、その空っぽの兜のなかに広がる闇がカリンを見据えて腰を落とす。
「あら……居合いですの」
そしてカリンもまたボスが見せた動きに、腰を落として応じた。
「ではこちらも――光姫様に習った抜刀の構えで勝負ですわ!」
そうしてカリンが巨剣を構えた刹那。
「――――ッ! ……ッッ!!!」
空間が歪むような速度で、動く鎧がその場から掻き消えた。
自らに密着させた複数の刀剣を操ることによって実現した最高速度の突進。
束ねて握った数十の刀剣もまた高速操作によってよどみなく宙を一閃。
そこに小柄ながら仮にも深淵ボスである自身の腕力も乗せて放たれる
が、
キン――――――――――――――――――――――――――ッ!
「ごめんあそばせ」
ほんの微かな金属音とともに、勝負は一瞬で決着を見せた。
なにせカリンがその手に握る剣の性能はもちろん、大切な友人の1人から教わり今日まで磨き続けてきた剣の技量も最早相手とは雲泥の差と言えるものとなっていて、
「光姫様の名前を出した以上、わたくし剣術勝負で負けるわけには参りませんの」
バチバチバチバチィ!
その場から一歩も動くことなく自らの腕力と技量のみで巨剣を振るったカリンは〈カゼナリ〉の紫電を奔らせつつ……数多の刀剣とともにバラバラに崩れ落ちた動く鎧の前でお優雅にドレスを翻すのだった。
―――――――――――――――――――――――――
恐らく全員が察していると思われるので言ってしまうと光姫様はもう完全にイっちゃってますわ
※そして応援コメにあったBSSが秀逸すぎてコメントに追加してみましたがアレだったら消しますわー!(あとdeathわdeathわ!も秀逸すぎてよろしければどこかで使うかもですの…!)
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