第138話 水中戦!


〝はあああああああああああああ!?〟

〝待って!? いまなにが起きましたの!?〟

〝なんか画面が歪んだと思ったら魚雷? が全部遠くで破裂してんだが!?〟

〝未来視シャークさんもまとめて悶え苦しんでるのなんなんですの!?〟

〝なんだ!? お優雅念力!?〟

〝お嬢様なにしたんですの!?〟



 水中エリアの存在を知りながらろくな準備をしていなかったカリンに先ほどまで大慌てだった視聴者たちが、いまは別種の混乱のなかにいた。


 なにせ深淵の水中でカリンに襲いかかってきた水中戦特化の深層ボス――未来視のグングニルシャークたちが突如血反吐を吐いて苦しみ、フォートレスクラブの群れが放った魚雷弾幕がお嬢様に辿り着く遥か手前で爆散したのである。


 一体なにが起きたのか理解できず、「もしや本当は水中戦用の魔法装備をちゃんと装備していたのでは!?」という疑問すら飛び交うなか――しかしカリンの答えは極めてシンプルだった。


「魔法装備なんて使ってませんわ! 普通に水中でお優雅にハッケイモドキを打っただけですの!」


 防水カバー付きスマホでコメントをちらちら見ていたカリンが水中マイクにお返事しながら再度拳を振るえば――ドッッッッッッボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


「「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」


 ドゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオン!!

 

 水中で核爆弾でも爆発したのかと錯覚するような衝撃が轟き伝播。

 先ほどの場面をリフレインするように、再度サメたちが悶え苦しみカリンを狙う魚雷が爆散した。


 なにが起きたかといえば答えはシンプル。

 カリンの身体能力が放つ破壊の衝撃が水中を伝い、ボスモンスターたちに回避も視認も不可能な範囲攻撃として襲いかかったのである。


「ふう! やっぱり水中はいい感じにお優雅な拳の衝撃波? が伝わって戦いやすいですわね! 光姫様の紹介で教えていただいたハッケイを応用したら衝撃波伝播の効率や指向性も上がりましたし!」


 などとカリンは呑気に言うが……大騒ぎなのはコメント欄だ。



〝はああああああああああああああああああああああああ!?〟

〝嘘だろ!? なんだよこれ!?〟

〝なんか解説されても頭が追いつかないんですけど!?〟

〝このお嬢様マジで言ってんのか!? って何回書き込めばいいんだよ!?〟

〝え? は? 衝撃波で……? 深層ボス級を??? まとめて??? 遠距離で???〟

〝いや確かに言われてみればお嬢様の拳の威力ならそういうことが起きても……いややっぱりなんか物理法則とかねじ曲げてませんこと!?〟

〝それはまあ東京の地下にこんなヤバい空間がある時点で物理法則なんてとっくに……いやそんでも限度がありましてよ!〟

〝あれこれつまり範囲攻撃&不可視の水中衝撃波だからサメ君が未来視してもいきなり血反吐吐く自分しか視えなくて対処不能とかそういう……〟

〝未来死やんけ!?〟

〝サメ君「未来見たろww」→  突 然 の 死 〟

〝水中は戦いやすい ← 肺呼吸の地上生命体から出ていいセリフじゃないんですが????〟

〝このお嬢様そもそも地球上の生命体かも怪しいだろもう!〟

〝いやちょっと待ってこれもしかしてお嬢様水中のほうが強くねぇ!?〟

〝はあ!?〟

〝事前情報あんのに水中マイクとかしか用意してないのいつにも増して頭おかしいと思ったらそういうことですの!?〟


 

 拳を振るうだけで深層ボスをまとめてなぎ払うカリンの異次元すぎる水中戦に、しばらく呆気にとられていた視聴者たちの間でそんな声があがる。


 もちろん水中では(特にドレスへの負担などで)どうしても機動力が制限されることを考えれば、地上での戦闘のほうがずっとお優雅ではあるだろう。

 

 ただ衝撃の伝播しやすい水中ではただでさえ威力の高いカリンの殺人拳が問答無用の遠距離範囲攻撃と化す。


 そのため相手モンスターにもよるが……カリンは水中で回避の必要すらなくなっていた。


 こんな風に!


「どりゃりゃりゃりゃりゃですわあああああああああ!」


 ドッッッッボボボボボボボボボオオオオオオオオオオオオン!!!


「「「「グゲエエエエエエエエエエエエ!?」」」」


 四方八方から迫る魚雷は相変わらずカリンに欠片も届くことなく爆散。サメたちもまたいくら未来を視て高速で泳ぎ回ろうが回り込もうがカリンに近づくことすらできず、遠距離から一方的にボコられまくっていた。


「ふーむ。水中はいい感じに遠距離攻撃できて便利なんですけど、やはり地面にしっかりと足腰を固定できないのが難点ですわね。無反動砲スキルなどを使って衝撃の方向を絞って集中させつつハッケイを応用して小さな動きでも威力が出るようにしてみますけど、なかなか仕留めきれませんし。……ま、そのぶん同時に広範囲を攻撃できますし、威力が低めになるぶん多く殴ればいいだけですわね!」


 そして「まだまだ修行不足ですわねぇ」と若干不満げに漏らしたカリンがその言葉どおり水中で拳を振るいまくれば、血反吐をまき散らしたサメたちは命が尽きたことを示すように次々とその身体を崩壊させていった。



〝うわああああああああああああああ!? サメさんたちが接近すらできずに全員逝ったああああああああああああ!?〟

〝いやいやいやこれマジかよ!〟

〝一方的すぎませんこと!?〟

〝サメやカニを差し置いて水中戦にアドバンテージあるお嬢様isなに!?〟

〝水中戦が全探索者の忌避する難関とはなんだったのか……〟

〝てかさっきから息継ぎなしでぼんぼこ衝撃波放ちまくってるけど肺活量どうなってんだよ!?〟

〝なんかもう肺活量とかそういう次元の話じゃねえぞこれ!?〟

〝肺活量とか誤差だよ誤差!〟〟

〝お、おいこれマジで完全回避とかするまでもなく完封ノーダメクリアすんのか!? 深淵の水中で魔法装備もなしに!?〟



 次々と撃破されていく水中深層ボスにコメント欄がどよめきまくる。


 とはいえもちろん、カリンも衝撃波だけで完璧に戦えるわけではない。


「「「「ギシャシャシャシャシャシャ!!」」」」


 さすがに衝撃波と魚雷では射程が違う。

 それを理解したフォートレスクラブたちがその巨体に見合わない速度でカリンから一斉に距離をとり、引き撃ちに徹し始めたのだ。



 元々グングニルシャークに比べて遠距離からカリンを狙っていたことで巨大ガニたちはダメージも少ない。砲門を多く残したまま高速移動〝要塞〟と化してカリンに消耗戦を強いる姿勢だった。



〝うわ中層クソモンス代表のフライキャタピラー戦術ですわ!?〟

〝あのヒトガタといい深淵で流行ってんですの!?〟

〝最悪のトレンド!〟

〝深層ボスが、それも水中ですることじゃねえんだよなぁ!?〟

〝これはさすがに厳しいのではなくて!?〟



 水中では魔龍鎧装・嵐式の機動力強化もフルには使えず、ドレスへの負担も考えると水中での高速機動は難しい。視聴者たちの懸念は正しく、カリンをして面倒な展開ではあった。


 だが、


「まあそう来ますわよね。ですが――配信もぐだってしまいますし、わざわざ付き合う必要はありませんの!」


 ドッパアアアアアアアアアアアアン!


 瞬間、カリンは衝撃波拳によって魚雷を一掃すると同時に水中で爆裂けのび。嵐式によって水中でも僅かに操作できる空気を使いドレスへの負担を(完全とはほど遠い限定的なものではあるが)減らしつつ空中へと飛び出した。


 すると今度は当然魚雷ではなく水中からミサイルが飛んでくるわけだが――カリンはここにきて魔龍鎧装・嵐式をフル装備。人知を越えた空中機動と風の鎧で砲撃を完全回避しつつ、取り出したのはダンジョン壁から作り出した超重量武器。クソデカハンマーだ。


 そしてカリンはそれを握ったまま嵐式を出力全開。飛んでくるミサイルを暴風で弾き飛ばしながら空中で高速回転し、



「これで――一網打尽ですわあああああああああ!!!」



 キュイン――ドッボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!! ドバシャアアアアアアアアアアアアアアン!!


 

 それは奥多摩ダンジョン深淵でも披露した高質量超速度の隕石めいた一撃。


 遠心力とカリンの膂力によって撃ち出されたクソデカハンマーが音すら置き去りにして深層ボスひしめく水面めがけて放たれたかと思えば――本来なら銃弾ですら数メートル進むのが精々と言われる水中をクソデカハンマーが


 とんでもない衝撃が弾けて階層全体の水面が、着弾地点から全方位に津波が発生したかのような有様になる。


 そしてそんな無茶苦茶な光景に視聴者たちが絶句するするなか――ぷかぁ。


 拳とは比べものにならない範囲を蹂躙した衝撃波に体内から完全破壊されたように……フォートレスクラブの大軍が水面に浮かび上がって動かなくなった。



〝う、うわあああああああああああああ!?〟

〝なんだそりゃああああああああああああ!?〟

〝なんかカニさんたちがまとめて死んでるううううううううううう!?〟

〝ちょっ、なんか拳でサメ仕留めたときとは比べものにならん範囲でお亡くなりになってませんこと!?〟

〝マジで奥多摩の深淵第1層より効率よく深層ボスの大軍潰しまくってるのなんなんですの!?〟

〝ダイナマイト漁かよ!?〟

〝ダイナマイト漁(物理)〟

〝ダイナマイトは元々物理なんだよなぁ〟

〝ダイナマイトお嬢様!?〟

〝↑これがダイナマイトボディとかじゃなくて深淵でダイナマイト漁をするイカれお嬢様を意味することなんてある!?〟

〝AIが描いたトンチキイラストかよ……〟

〝ま、まじで水中戦用の新装備もなんもなくこの水中ステージ無傷で無双してるううううううううううううううう!?〟



 地上と同様に、いやある意味地上よりもとんでもないカリンの大暴れにコメント欄の加速が止まらない。そのお優雅っぷりに光姫がお亡くなりとなってコメントを書き込む余裕すらなくなっていることに誰も気づかないほどだ。

 

 そして水中ステージにおけるカリンの大暴れはまだ終わらない。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「っ!」


 フォートレスクラブたちが浮かぶ水面から突如出現したのは、凄まじい勢いで放たれる無数の触手だった。さらには黒い液体が空を切る勢いで吐き出され空中のカリンを狙う。


 果たして崩れていくフォートレスクラブたちの死骸を押しのけるようにして現れたのは――巨大なイカのモンスターだった。



〝うわ!? なんだこいつ!?〟

〝でっっっっか!?〟

〝もしかしてクラーケンってやつですの!?〟



「お、新しいモンスター様ですわね!」


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 言ってカリンが再度アイテムボックスから量産しておいたクソデカハンマーを取り出し、挨拶代わりの投げナイフとばかりに先ほどと同じ勢いで投擲する。


 だが――、


「ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!」



〝え〟

〝え!?〟

〝なんだ!?〟



 ほとんど勝ちを確信していた視聴者たちが驚倒を漏らす。

 

 カリンが放ったクソでかハンマーにあわせて素早く水中に一時避難したクラーケンが、周囲一帯に広がる衝撃波をものともせずほぼ無傷で再浮上してきたからだ。


 しかしカリンは最初のハンマー投擲でクラーケンがカニたちと一緒に死んでいなかったことから攻撃が通用しないことも織り込み済みだったようで、


「なるほど。その軟体で衝撃波をはじめとした各種物理攻撃を受け流してくるタイプですわね! ハンマー落としも効きが悪いようですわ!」



〝なんじゃそりゃ!?〟

〝ただでさえ戦いにくい水中でそれは反則だろ!?〟

〝うわこいつダイナマイト漁で死んだカニどもの近くから現れたのどうなってんだと思ったらそういうことか!?〟

〝こ、これはデスワームちゃんとかの出番では!?〟



「いえ、せっかくの水中ステージ、ここはもっとお優雅にいきますわ!」


 言ってカリンは嵐式を纏った速度のまま――水中へ再突入した。。

 それもクラーケンと密着するほどの近くに。



〝え、ちょっ、お嬢様!?〟

〝なにしてんですの!?〟

〝そいつ衝撃波も効かないなら水中はもうアドバンテージが……ってか近すぎでしてよ!?〟

〝おいおいこれ着水場所ミスってないか!?〟



「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 視聴者たちの懸念どおり、クラーケンが無数の触手を振るう。

 その速度は水中でもかなりのもの。

 いくら体格差があろうと見逃すかとばかりにカリンを絞め殺そうと殺到した。


 が――次の瞬間である。


「ふんっ!」


 カリンがクラーケンのすぐ近くで自らの拳を思い切り打ちあわせた刹那――ガギィン!! 


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


 カリンの拳が凄まじい轟音を奏でると同時、周囲に大量の気泡が発生し発光。

 そのまばゆい閃光とともにとてつもない威力の衝撃波が発生し――クラーケンが悲鳴を上げた。



〝は!?〟

〝なにいまの!?〟

〝なんかいまお嬢様の周りが……いや拳が光ってなかった!?〟

〝てなかんか普通にイカが苦しんでるんだけどどういうことなの!?〟

〝お嬢様これなに!? どういうこと!?〟


 

「それがわたくしも最近気づいたんですけど、水の中で思い切りパンチしたりある程度の力で拳を打ち鳴らすと光ってお優雅な拳になるんですのよ! ついでに普通に殴るより威力の高い衝撃波も出るので、近距離で打ち込めばこの程度の攻撃受け流し能力ならぶち抜けると思いまして。案の定でしたわね!」


 とカリンは当然のようにチェックしていたコメントに応えたかと思えば――クラーケンのすぐ近くでガギンガギンガギンガギンガギンガギン! ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!! 拳を打ち鳴らして破壊の音色を奏でまくる。


 それは水を殴るというより破壊の衝撃を伝えるよう力を振るっていた「ハッケイモドキ」とはまた別。水中で拳同士を凄まじい速度で打ち鳴らすことで水が圧縮され大量の気泡とプラズマを生み出す、いわゆるキャビテーション。


 すなわち拳を打ち鳴らす際の角度により指向性すらもたせた、クラーケンでは受け流しきれない威力を伴う極大衝撃波である



〝はああああああああああ!?〟

〝もうさっきからなにがどうなってんですのこのお嬢様は!?〟

〝拳を打ち鳴らす音じゃないんだが!?!?!?!?〟

〝なんか当然のようにイカさんも死んでるううううううううううう!?〟

〝ぷかぁ(死)〟

〝てか水中で光る衝撃波って……テッポウエビのハサミパッチンプラズマやんけ!?〟

〝テッポウエビお嬢様!?〟

〝な、なんかテッポウエビって単語がコメント欄埋め尽くしてるけどなんなんですの!?〟



 ¥10000 

 テッポウエビは身体に比べて非常に巨大かつ強力なハサミを持ち、これを素早く閉じて打ち鳴らすことで衝撃波を生み出し獲物を仕留めますわ。その音は1、6㎞先の水中でも聞こえるほど大きく、衝撃波発生時に生まれる気泡は1000気圧にもなり、温度は4400℃と太陽の表面温度に匹敵、気泡内部では水分が蒸発したうえにプラズマ化して発光しますの……体 長 5 ㎝ の エ ビ さ ん が や る だ け で こ れ だ け の こ と が 起 き ま す わ 



〝有識者ニキ!?〟

〝ネットによくいるピンポイント有識者ニキすこ〟

〝いやつーかなんだこの説明ガチなの!? お嬢様これ再現したの!?〟

〝ま、まあただのエビさんができるならお嬢様ができねー道理ありませんし……〟

〝虫が人間サイズになったら色々ヤバいとはいうけど……〝人間サイズのお嬢様〟がテッポウエビの真似したらもっとヤベェことになりましたわね……〟

〝↑ナチュラルにカリンお嬢様を人以外のなにかだと思ってるコメきたな……〟

〝つ、つまりお嬢様はアレか……?〟 水中ステージだと遠距離の敵は空から近づいて生物絶滅隕石ハンマー落とし、中距離は回避&視認不能なハッケイ衝撃波、近距離はもっと高威力のテッポウエビキャノンを完備してるってことなのか……?〟

〝水中お嬢様? 強いよね。遠、中、近、隙がないと思うよ。だから……おいら勝てないよ〟

〝いやマジでなんなのこのお嬢様!?〟



 攻撃を受け流すはずのクラーケンすらゴリ押しで潰してみせたカリンにコメントが止まらない。そしてこの階層における新規モンスターは先ほどのクラーケンくらいだったようで、


「ふむ、なんだかあとは同じ方ばかりのようですわね。ではとっとと先に進んでいきますわ!」


「「「「グゲエエエエエエエエエエエエエエエ!?」」」」


 広大なエリア内で立ちはだかるモンスターたちをカリンはこれまでと同じやり方で蹂躙。

 もはやカリンの進撃を止められる脅威はこの第1階層に存在しなかった。



〝 いやいやいやいや!? このお嬢様マジで水中でも変わらず大暴れすぎるんだが!?〟

〝冗談抜きで水中ステージのほうが強いまでない!?〟

〝機動力とか考えると多分そうでもないんだろうけど……なんにせよなんで水中戦でここまで深層ボスを圧倒できますの!? ヤバすぎでしてよ!?〟

〝魚人かよマジで!?〟

〝お嬢様はテッポウウオの魚人だった……?〟

〝最強最強お嬢様! 魚人最強お嬢様!〟

〝怒濤の魚人弾幕ほんまおハーブ〟

〝なんでそこで人魚じゃなくて魚人なんだ草〟

〝誰一人として人魚とは言ってなくて海草〟

〝人魚なんてきらきらふわふわしたもんじゃないからね、仕方ないね……〟

〝ドレスはあんなにふわふわしてますのに……〟

〝むしろダンジョン(しかも深淵の水中)でドレスふわふわさせてるから魚人呼ばわりまである〟

〝なんでやカリンお嬢様にも人魚要素あるやろ! 歌声で船沈めそうとか!〟

〝それ船員を惑わせて沈めるんじゃなくてクソでかボイスで物理的に船破壊してますよね?〟



 そして深淵水中ステージをなんの問題もなく突き進むカリンに様々なコメントが流れていくなか、


「っと、いい感じに出現モンスター様を大体潰せたところでボス部屋に着きましたわね!」


 魔龍鎧装・嵐式で空を飛びつつ時折水中に潜むモンスターたちを殲滅していたカリンが、水平線の彼方にぽつんと存在していた陸地に着地。


 恐らくは大海原の底に通じているのだろう扉の前に降り立った。



〝おいおいおいもうボス部屋かよ!?〟

〝最初にあんだけ心配してたのが嘘みてぇな快進撃ですわ!?〟

〝いやマジで深淵の水中ステージ無傷で踏破したのかよこのお嬢様!?〟

〝冗談だろ……!?〟

〝なんかもうここまできたらボスも楽勝では……?〟

〝あのふざけた空間魔法ボスを実質無傷で潰してるわけだしな……〟

〝ボス部屋もいちおう陸地からいける感じの設計でちょっと手心あるっぽいし……〟

〝さすがにそれは油断しすぎでしてよ!? いやまあこんだけふざけた攻略見せられたら気持ちはわかりますけど!〟



 と、カリンが見せたあまりの大立ち回りに危機感を若干麻痺させられた視聴者たちの声とともにカリンが階段を降りていくのだが……視聴者たちの麻痺した危機感はすぐさま叩き起こされることになった。


 なぜなら、


「おお? これは……ボス部屋もでっけぇプールみたいな感じですのね」


 カリンが階段を降りきった先に広がっていたのは、ギガント・フォートレス戦ほどではないにしろボス部屋にしてはだだっ広い空間。


 そしてその全域が先ほどまでのフロアと同様、大量の水で満たされていたのである。



〝は……?〟

〝お、おいこれまさかとは思ってたけど……〟

〝ボス部屋まで水中ステージですの!?〟


 

 と視聴者たちの脳裏に最悪がよぎった直後。

 その最悪を容易く越える脅威が水面を割って現れた。


「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 山と見紛うほどの高さまで水面を盛り上げて現れたのは、ヒレのような手足を持つ純白の超巨大龍。だが真の脅威はギガント・フォートレスをも凌ぐその体躯などではなく、


 ズ――――ズゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオン!


 ボス部屋を満たしていた水がまるで意思を持ったように――いや、純白のボスモンスターの意思に従うかのように荒れ狂い――ドドドドッドオオオオオオオオオオオン! 


 巨龍が自らの身を守るように水中へ再び姿を消すと同時、ある水塊は無数のウォーターカッターのように射出され、ある水塊は大質量のまま津波と化し――カリン目がけて一斉に襲いかかってきたのだ。



〝はぁ!?〟

〝なんじゃこりゃ!?〟

〝おいこれって――!?〟

〝フロアの水を操ってんの!?〟

〝ズルがすぎんだろ!?〟

〝荒川ダンジョンお前次から次へとふざけんのも大概にしろよ!?〟

〝いややっぱ深淵ヤバすぎんだろ!?〟

〝お嬢様これはいくらなんでも対策なしはヤバいってええええええええええええ!〟


 

「水中ステージは難易度が高い」どころの騒ぎではない反則めいた光景に、コメント欄が一瞬で半狂乱となる。が、


「なるほどそういう感じですの」


 カリンは相変わらずその双眸に怯えも怯みも映すことなど一切なく、


「フロア全体が敵という意味では先ほどお相手したダンジョン壁同化ドラゴン様と似てますわね。では早速攻略していきますわ!」


 魔龍鎧装・嵐式、出力最大!


 機動力強化の魔法装備で四方八方から押し寄せる水の軍勢を回避するように上空へと飛翔。


 神話生物めいたその巨大ボスとの戦闘を開始した。


――――――――――――――――――――――――

白状するとこの水を操ってるボスモンスのモデルはモンハンの古龍、ナバルデウス様ですわ


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