【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう~けど相手が若手最強の迷惑系配信者だったらしく動画がアホほどバズって伝説になってますわ!?
第135話 死体を苗床にするタイプの毒キノコ
第135話 死体を苗床にするタイプの毒キノコ
〝おいおいおいおいやる気かお嬢様!?〟
〝ダンジョン壁が丸ごと全部襲いかかってくるとか無理ゲーってかどういう原理だこれ!?〟
〝これはさすがに待避したほうが……って思ったけど壁が全部敵とかいくら切り進んでもキリなさそうだしこんなんもうどうにか倒すしかねーですわ!?〟
〝てか倒すっていってもこれモンスターの仕業なんですの!?〟
〝デスワームあるからすぐやられたりはしないにしろ……フロア全体が敵ってどうすりゃいいんだよ!?〟
荒川ダンジョン深層第4層にてカリンを襲った脅威、蠢くダンジョン壁。
どう対処すればいいのかもわからない未曾有の異常事態に、混乱を極める視聴者たちの書き込みが多く流れていく。
だがそんななか――カリンは既に〝敵〟の存在を完璧に捉えていた。
「ダンジョン壁を操っている方は――あっちですわ!」
キン――! ドゴオオオオオオオオオン!
迫り来るダンジョン壁を切り裂き殴り飛ばし、感知スキルが捕えたその微かな気配目がけて突き進む。
ズゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオン!!
そのカリンの進撃を阻むかのように勢いを増すのは蠢くダンジョン壁だ。
カリンを押しつぶそうと迫ってくるだけではない。
壁が変形して剣山のように伸びたかと思えば、接地するカリンの足を絡め取ろうと触手のように変化、さらには突如として落とし穴のように陥没してカリンを陥れようと大口を開ける。
だが、
「遅いですわ!!」
そのすべてをカリンはことごとく完全回避していた。
ダンジョン壁の変形を感知スキルでいち早く捉え、流動する壁や地面をものともせずにデスワームで道を〝切り〟開く。
〝なんじゃこりゃあああああ!?〟
〝壁が迫ってくるだけじゃなくてなんかもう無茶苦茶なんですけど!?〟
〝SASUKEナイトメアモード!?〟
〝つーか操ってるモンスターがいるとかお嬢様言ってるけどガチなの!?〟
〝ステージギミック的ななにかじゃなくて!?〟
〝いやでもお嬢様がさっきから迷いなく突き進んでるしマジで元凶あんのか!?〟
〝てかお嬢様この無茶苦茶なステージ普通に進んでんの無茶苦茶すぎんか!?〟
そうしてカリンがダンジョン壁を吹き飛ばしながら突き進むことしばし。
思いのほかあっさりと決着のときは訪れた。
「いまさら逃げようとしても――無駄ですわ!」
キンッ!
蠢く通路を突き破って進み、一際広い場所に出ると同時。
カリンが天井付近に向け、ダンジョン壁ごと内部の気配を切り裂いた。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」
ダンジョン壁を震わせるように響くのは怪物の断末魔。
するとそれに呼応したように――それまで強引に流動させられていた反動か、周囲のダンジョン壁が一斉に崩れ落ちる。
〝うわなんだ!?〟
〝崩れた!?〟
〝え、これまさか――〟
ダンジョン崩落もかくやという惨状にコメント欄が一瞬ざわつくも、
「ほいほいですわ」
カリンは崩壊するダンジョン壁を当然のように回避、あるいは拳で吹き飛ばし、ドレスにかすらせることすらせず対処。
そうして崩れ落ちる通路からカリンが脱出すれば、浮遊カメラが映し出すのは本来の荒川ダンジョン第4階層。奥多摩ダンジョンの深層最奥と同じかそれ以上にだだっ広い大広間だった。
そしてカリンは瓦礫と化したダンジョン壁の山の上で、ちゃっかり捕獲していたそれを掲げる。
「どうやらこのドラゴン様がダンジョン壁と同化して操っていたようですわね。サクっと討伐できてよかったですわ!」
カリンが浮遊カメラに映し出すのは、ダンジョン壁と同色の鱗を持つ中型龍。
デスワームの一太刀によって息絶えた異変の元凶だった。
あまりにも無茶苦茶な映像とめまぐるしい展開にしばし呆気にとられていたコメント欄が、一拍遅れでカリンの言葉を理解したように高速で流れ出す。
〝え、うわ!? なんか討伐してる!?〟
〝こいつ斬ったからダンジョン壁が崩れたってこと!?〟
〝マジでモンスターの仕業だったんですのあの異常現象!?〟
〝はあああああああ!? なんだそのモンスター!?〟
〝そんな能力持ってるやついんですの!?
〝いや能力そのものもアレだけどなにより規模がおかしくない!?〟
〝普通に深淵ボス級でしょこいつ……いや深淵ボスの基準がもうよくわからんが……〟
〝実際深淵保有の深層ラスボスは深淵級みたいだしな……〟
〝いやこれお嬢様だからさくっと倒してるけど下手したらあの要塞ヤドカリよりよっぽどタチ悪いのでは……〟
〝通常フロアに見せかけて実は全域が能力範囲内のボス部屋でした、逃げ道塞いで潰しますは初見殺しにもほどがあんだろ……〟
〝最初のインパクトの割にあっさりだったな……と思ったけど簡単にダンジョン壁破壊する手段か事前情報なかったら絶対対処不能じゃんこんなの……〟
〝しかもこいつお嬢様がフロアの中腹にくるまで待ち構えてたっぽいしな……〟
〝殺意が高すぎる〟
〝お嬢様が普通に攻略してるから感覚麻痺してたけどやっぱ深層ボスはヤバすぎるんよ……〟
〝害悪モンスにもほどがあんだろ……〟
〝まあでも討伐できてよかったわ〟
〝てかこれ実質荒川ダンジョンの悲劇の元凶を突き止めた&討伐したってことか!?〟
〝この時点で相当な偉業でしてよ!?〟
と、唖然としていたコメ欄が徐々に高揚していくのだが――そのときだった。
「あ、いえ皆様。すみません、勘違いさせてしまったようですけど」
カリンが龍を手放すと同時にモンゴリアンデスワームを再び構えて、
「第4層の攻略はここからが本番ですわ」
ズ――ゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
〝え〟
〝は!?〟
〝なんだ!?〟
だだっ広い広間に、とてつもない轟音が響き渡った。
と同時にカリンの足下で山となっていたダンジョン壁のガレキが波打つように大広間の奥へと吸収されていく。
かと思えば――薄暗い大広間の奥で、ギガント・フォートレスに匹敵する巨影が2体同時、凄まじい速さで隆起した。
『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』
轟く雄叫びはマイク越しでも視聴者たちの原始的恐怖を想起するような轟音。
ダンジョン壁によって構成された巨大な龍――ゴーレムドラゴンとでも言うべき怪物が、同胞を潰された怒りに震えるながらカリンを睨み据えていたのだ。
〝え〟
〝はあ!?〟
〝なんだアレ!?〟
〝待て待て待て待て! アレってダンジョン壁操ってないか!?〟
〝は!? ボスがリポップするには早すぎ……ってかそれ以前に2体いるんだが!?〟
〝なんだこれ!?〟
〝え、おい、これまさか……ボスモンスターじゃない、とか?〟
〝はあ!?〟
〝嘘だろ!?〟
〝通常モンス――いやこのデタラメ、深層強化種の類いなんですの!?〟
〝うわマジか!?〟
〝ランダムボスダンジョンで15年前の悲劇とボスがかぶるもんかと思ってたらそういうことなのか!?〟
〝マジでふざけろよなんなんだよこのダンジョン!?〟
〝は!? てかこいつらフロア丸ごと支配の強化種ってまさか出現モンス全部食ってんじゃねえだろうな!?〟
〝下手したらリポップボスすら……〟
あまりにもあり得ない光景にコメント欄が大混乱に陥る。
そしてその「強化種」という視聴者たちの推測は当たっていた。
カリンたちは預かり知らぬことだが――かつて犬飼洋子たちは隠しダンジョンを獲得する前、高難易度であるため極端に人の少ないこの荒川ダンジョンにて、ランダムボスからいい強化種が生み出せないかと密かに実験を行っていた。そしてその様子を見て学び勝手に成長した高知性のイレギュラーモンスターが、いま眼前に立ちはだかる怪物たちなのだった。
本来は周囲のダンジョン壁を操るだけが精々だったモンスター、アースドラゴンが高い知性で自らを強化する術を学び規格外の能力規模を手に入れ、仲間を増やすという発想まで手にしたイレギュラー中のイレギュラー。
犬飼たちが荒川ダンジョンでの実験を放棄したのは隠しダンジョン入手の目処が立ったことや調査隊が頻繁に出入りするようになったからというのもあるが……犬飼たちすら原因が把握しきれないまま偶発的に生まれたこの厄介極まる強化種の存在も大きかったのである。
〝い、いやでも既に1匹倒してるしいけるはずですわ!〟
〝さっきと同じように大暴れすればいいだけですの!〟
〝(あくまで命最優先で)やっちゃえですわお嬢様!〟
「しっ!」
2体同時出現とはいえ既に攻略したモンスターなら大丈夫だろうとコメ欄が応援で埋まり、カリンもまた巨大なゴーレムドラゴン内部に潜む強化アースドラゴン本体まで掘り進むべく大刀を振るう。
飛ぶ斬撃が巨体を切り裂き、カリンが潜り込むための足がかりを築いた。
が――ゴギュウウウウウウウウウウ!
〝え〟
〝は〟
〝なんだぁ!?〟
先ほどの迫り来る壁とは比べものにならない速度。
ゴーレムドラゴンを構成するダンジョン壁が斬られた側からそれこそ液体のように凄まじい勢いで蠢き、その切り傷をあっという間に補修。
『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』
それこそ核を破壊されない限り永遠と回復を繰り返す再生系モンスターのように、傷など気にせずカリンに襲いかかってきた。
「しっ!」
カリンがその巨体攻撃を躱しながら繰り返し何度か斬撃を放つが、やはり無駄。
ダンジョン壁内部におびき寄せて潰すというスタイルがそもそも舐めプで外殻の高速操作こそが能力の神髄だったのか、あるいはその巨大なゴーレムドラゴンを操る2体が〝15年以上にわたって自らの能力を磨いてきた熟練個体〟なのか。なんにせよ外殻の操作速度は先ほどの「迫る壁」とは比べものにならず、カリンが内部に突撃する隙がないほどの速度で回復しまくっていた。
〝はあ!? なんじゃこれ!?〟
〝ただでさえ硬すぎるダンジョン壁を纏ってその回復速度はズルだろ!?〟
〝こんなんもうミストの霧がダンジョン壁になったようなもんじゃん!?〟
〝え、じゃあどうやって倒すんだこいつら?〟
〝なんだこいつ!? 能力熟練個体とかってやつか!?〟
〝くそったれすぎんだろ!?〟
視聴者たちが悲鳴をあげるなか、カリンもまた魔龍鎧装・嵐式の空気抵抗低減で縦横無尽に駆け回りながら思案するように眉根を寄せる。
「うーむ。ここまで早く回復されてしまうとなると、外部から強引に突入するのは少々難しいかもしれませんわね」
まあ強引に突破できなくもなさそうだが……少々お優雅でなくなってしまうし、真冬からも最奥までは(あくまで命最優先前提で)可能な限り手の内を晒しすぎないよう言われている。なんとかもう少し別の手を考えたいところだった。
〈モンゴリアンデスワーム〉の斬撃範囲もそう長いものではなく、あの巨体を相手に本体まで一気に切り裂くというのも難しい。まだ発展途上のハッケイも同様だろう。
「視た感じ内部の壁操作はそんな早くないみたいですし、本体も奥深くにいるようなので、先ほどみたく体内から戦闘を始められると楽そうなんですが……あ、そうですわ!」
〝ん? お嬢様なんかアイテムボックス漁ってる!?〟
〝もしかして新装備ですの!?〟
〝今度はなに出すんですの!?〟
と、なにやら思いついたようにアイテムボックスを漁るカリンに視聴者たちを期待するような声をあげる。するとカリンは「ふふふ。ある意味では新装備ですわね」と軽くドヤ顔しつつ、
「ほーらモンスター様~。美味しい美味しいハンバーグですのよ~」
唸り声をあげる巨竜2匹に対し、お皿に載った熱々のモンスター肉ハンバーグを頭上に掲げはじめた。
〝は?〟
〝は?〟
〝は?〟
〝お嬢様なにしてますの!?〟
突然の奇行(n回目)に困惑の声が爆速で流れていく。
するとカリンは得意げに、
「あの回復を繰り返す巨体を相手取るなら先ほどのように体内から攻めたほうが効率的だと思いまして! そしてそのためにはこの美味しい美味しいハンバーグをエサにしてわたくしごと食べてもらうのが一番だと思ったんですのよ!」
相手はガワこそダンジョン壁でできた巨竜だが、本体は普通の肉体を持つ竜だった。加えて恐らく同種のモンスターを食べて強化種となっただろうことを考えるとモンスターの肉は好物のはず。
シャリーがこの場にいないため魔法効果こそ消えているが、それでもダンジョン内なら味も絶品のハンバーグは垂涎ものだと考えての作戦だった。
〝発想が寄生虫とかエイリアンの類いなんですけど!?〟
〝やはりお嬢様はアニサキスだった……?〟
〝このアニサキス胃に穴開けるどころかお腹食い破ってきそうなんですけど〟
〝猛毒の生き物が自分から美味しいアピールするのタチ悪すぎて草〟
〝食べて死んだ生き物の身体を苗床にして増えるタイプの毒キノコじゃん!〟
〝言われてみればそれっぽい色してますわねカリンお嬢様のドレス〟
〝どく かくとうタイプお嬢様!?〟
〝ドクロッグかな?〟
〝い、いやでもうまくキマればいけるのではなくて!?〟
とカリンの作戦にそんな声があがるのだが――、
『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』』
完全無視。
ゴーレムドラゴン2体はハンバーグになど目もくれず、同胞をぶっ殺したカリンに引き続き猛攻を仕掛けてきた。
「な、なんでですの!? こんなに美味しいのに!」
〝毒キノコだから、ですかねぇ〟
〝いましがた眼前で仲間がお腹から食い破られてたの(多分)見てるから……〟
〝フグを2番目に食べた人ですら手を出さないレベルの代物〟
〝モンスターにも選ぶ知性はあるんですのよ!〟
〝てかお嬢様アホな作戦やってる場合じゃありませんわよ!?〟
〝これマジでどうすんだ!?〟
〝パラサイトアタックが失敗したとなるとあのデカ〇チャンハンマーとカゼナリのコンボで強引に粉砕とか!?〟
〝こいつ下手したらそれも回復してくるのでは……?〟
〝とりあえずやってみないことには――〟
〝もうこうなったらダンジョン壁カットして下に……行っても壁ごと追いかけてきそうですわこいつ!〟
「シャリー様と一緒に作ったハンバーグが通じないなんて……所詮はモンスターということですわね! しかしそうなるとどうしたものやらですわね……」
と、ハンバーグをしまいながら攻撃を凌ぎつつ、なんだか視聴者とは少しずれた方向で声をあげていたカリンだったのだが……そのときだ。
「って、あ! なんだ、内側から潰すなんて簡単なことじゃありませんの! うっかりですわ!」
ずっと発動させていた感知スキルに引っかかったその気配に、ひとつの閃きが降りてきた。
途端、カリンは迷いなくアイテムボックスからひとつの武器を取り出した。
〈モンゴリアンデスワーム〉と同時に構えるのは、お優雅トリングである。
「魔力充塡完了。目標完全補足。威力よりも弾速重視。それでは――ファイヤーですわあああああああああ!」
ドガガガガガガガガガガガガ!!
構えた一丁のガトリングから複数の魔力弾が放たれる。
それは本来、ダンジョン壁を破壊するほどの威力はない飛び道具だ。放たれた弾の数も普段に比べて少なく、有効打にはなりえない攻撃。
だが――キンッ!
弾が相手に届く直前。
〈モンゴリアンデスワーム〉の斬撃によってゴーレムドラゴンの堅牢な身体に刻まれた狭い隙間にその魔力弾が侵入していった刹那――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
ゴーレムドラゴンの内部で凄まじい爆発が発生した。
巨体が内側から大きく抉れ、少なくない領域が崩壊、脱落していく。
〝は!?〟
〝え、なんですの!?〟
〝お優雅トリングで爆殺した!?〟
〝は!? でもなんかいま内側から爆発してなかったか!?〟
〝新機能ですの!?〟
「いえ、いまのは爆炎石による爆発ですわ!」
突然の有効打に驚愕する視聴者たちへカリンが口を開く。
爆炎石。
絶大な破壊力を持つその鉱石はかつてブラックタイガーの鬼窪王虎が偽装していたように、ダンジョン壁の内部から生まれ時折地表へと出てくるアイテムだ。
そしてそれはこの荒川ダンジョンでも採れるものであり――敵がその爆炎石ごとダンジョン壁を操っていたことをカリンは感知で見抜いていたのだ。
つまりなにが起きたのかといえば、
「あの方々の操っている壁のなかにある爆炎石まで届く切り込みを入れて、そこに着火剤となる炎か魔力弾を流し込めば――内側からドカンですの!」
そしてそれを証明するように――ドガガガガガガ! キキキキンッ! ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
『『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』』
魔力弾と斬撃を食らったゴーレムドラゴンが内側から次々と爆炎の華を咲かせ身体が大きく削られていく。
爆炎石は普通に爆発させてもダンジョン壁を破壊する威力を持ち、さらには採れる階層の魔力が濃いほど
荒川ダンジョンは国内トップクラスの大ダンジョンで、ここは深淵手前の深層最奥。
そんな場所で採れる爆炎石を衝撃の逃げ場のほとんどない壁の内部で爆発させれば、外からの強力な攻撃よりも遥かに効率よくダンジョン壁を吹き飛ばす痛打となった。
フロア全体に他のモンスターもいない状況なら臭いで余計な脅威を呼び寄せる心配もなく、ほとんどリスクなしで敵に大打撃を与えられるというわけだ。強いて言えば激しく飛び散る破片が危険だが、そんなものを食らうカリンではない。
〝おいおいマジか!?〟
〝そういや爆炎石ってダンジョン壁内から採取できるんだっけ!?〟
〝トラブル起こしまくりの爆炎石君がここにきて役に立ってる!?〟
〝単純な威力はカリンお嬢様の攻撃のほうが強そうなんだが……内側から爆破してるから倍率ドンってことですの!?〟
〝マジかこのお嬢様!?〟
〝いや待って!? じゃああのバケモンに痛手与えてる内部爆発を以前普通に握りつぶしてたカリンお嬢様のお手てはなんなんですの!?〟
『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』』
視聴者たちが再度驚愕に色めき立つなか、身体中で爆発が起きるゴーレムドラゴンたちの悲鳴が再度響く。
だが相手もさるもの。
高速で蠢くダンジョン壁によって大きく崩落した箇所をすかさず高速再生させ、壁内にある爆炎石が尽きるまで耐えればそれで済むとばかりに守りに徹しようとする。だが、
「そこですわ!」
ボッ!
カリンの手から凄まじい勢いでなにかが投擲された。
その複数の球体は高速で修復されるダンジョン壁に飲み込まれるようにして内部に取り込まれて――次の瞬間。
ドッッボボボボボボボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
『『グオオオオオオオオオオオオオッ!?』』
大穴の開いたダンジョン壁が完全に修復しきる前に、その内部から再度とてつもない衝撃が解放された。爆炎石よりもなお激しい破壊がゴーレムドラゴンの巨体を内部からさらに大きく吹き飛ばす。
〝ちょっ!? 今度はなんなんですの!?〟
〝えげつないくらいダンジョン壁が吹き飛んでますけど!?〟
〝あ、お嬢様これまさか――!?〟
「ええ! 以前お見せした衝撃波爆弾ですわ!」
視聴者たちの声に応えるカリンの手にさらにいくつも握られていたのは、衝撃の吸収解放能力を持つ深層モンスター、インセクト・ウォーリアーインパクトから作られたマジックアイテム。
カリンの打撃を何十発と溜め込み一気に解放する能力を持った規格外の魔法兵器にして、シャリーにその威力を披露したあの日から「思ったより便利ですわねこれ!」と量産、そのすべてにしっかりと衝撃を溜め込んできたブツである。
そしてカリンは以前より威力上限の増しているそれを先ほどと同じく――修復途中のダンジョン壁に向けて投げまくる!!
ドゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』』
正確無比の精密性で投げ込まれまくる剛速球毒まんじゅうに、ゴーレムドラゴンたちからいよいよ一切の余裕を失った悲鳴があがる。
自分たちの身を守るダンジョン壁を修復すればそこにとんでもない爆弾を抱き込んでしまうこととなり、かといって修復しなければカリンの攻撃でジリ貧は確定。
そのとんでもない衝撃波爆弾だけ取り込まないようにできればよかったのだが……カリンの手の平ほどのサイズしかない爆弾などゴーレムドラゴンの巨体に比べれば砂粒も当然。その極小の異物だけ選んで排除するなどいかに熟練個体といえども不可能で、どう足掻いてもダンジョン壁の防壁が吹き飛んでいくのを止められない。足下からいくら新たなダンジョン壁を補給しようが間に合わない。
それでも長年に渡って第4層に君臨してきたそのイレギュラーたちは必死にダンジョン壁を補修し打開策をひねり出そうとしていのだが……そのあがきはもうとっくに手遅れだった。
「ふぅ。やっと射程圏内ですわね」
言ってカリンが刀を構えるのは、中心部の近くまで大きくえぐれたゴーレムドラゴンの胸元。人の足で跳躍することなど本来は不可能な高高度の中空。そして、
「これで――おしまいですわ!」
ボボッ!
カリンが壁の奥に潜むアースドラゴン超強化種2体へ連続で鋭い斬撃を放てば、
ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
無敵にも思えたダンジョン壁の巨龍2体が力を失ったように並んで崩れ落ち――墓標のような物言わぬ瓦礫と化した。
――――――――――――――――――――――――――
カリンお嬢様「いい感じに最小限の消耗で討伐できましたわね!」
ちなみにアースドラゴン様も普通の地層と接している外周のダンジョン壁は操れないようですわね
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