第120話 反動代償
『ほ、本当にごめんなさいですわ! お騒がせしてしまって!』
視聴者たちが唖然とするなか、カリンが大慌てでぺこぺこと頭を下げる。
『先ほども言ったとおりこの深層ループからは問題なく抜け出せますので、シャリー様や警察の方々は撤収してもらって大丈夫ですの! わたくし以外の方がこのイレギュラーに遭遇したときに感知スキルなしでも脱出できる手順はもう少しで発見できそうですし、晩ご飯の時間までには帰れると思うので!』
言ってカリンはループする深層への歩みを再開。
『うぐぐ……大した気配でもしなかったので気軽に踏み込んだこの空間でしたけど、まさかこんな大騒ぎになってしまうなんて……不覚でしたわ……お優雅の修行が足りませんの……』
と、脱出不能ダンジョンではなく自らのうっかりで巻き起こっている騒ぎのほうにビビり散らすようにお腹をさする。
「ハ、ハッタリよハッタリ!!」
そしてそんなカリンの発言に数秒放心したあと、身を乗り出すようにして叫んだのは犬飼洋子だった。
「ただの強がりに決まってるわ! 普通の結界スキルならいざしらず、その異形ダンジョンは僅かとはいえこの次元とはズレた場所にある異空間! 脱出なんてできるはずがないもの!」
隠しアジトの一室。
部下たちが異形ダンジョンを維持する傍ら、世間を騒がす最強配信者を脱出不能の檻に閉じ込めた張本人はカリンの言葉を否定するように続ける。
「そうよね、確かにあの調子に乗った狂犬と違ってそんなすぐに絶望をさらすタマではないものね! あなたほどの実力なら
そして自分をどうにか落ち着かせた犬飼洋子はふざけたことを抜かすカリンの内心を見透かすように嘲笑を浮かべた。
「それともまだ自分が詰んでいるって実感がないだけかしら。これまでそのふざけた才覚でどんな困難も乗り越えてこられたから今回も大丈夫だろうと。けど残念! そんなものは錯覚、いまあなたが直面している状況は通常のイレギュラーなんかとはわけが違うわ! その封印は絶対に抜け出せないのだから!」
そうだ。抜け出せるはずがない。
どれだけ異常な戦闘力を持っていようと、多種多様な規格外魔法装備を有していようと。こことは次元の異なる空間から戻る術などありはしない。
ましてや自分以外の者が閉じ込められた際に脱出できる普遍的な方法を探り当てようなど荒唐無稽もいいところ。
とっくの昔に脱出方法がわかっているなどという戯言とあわせてデタラメに決まっている!
〝お嬢様実はもう脱出方法わかってるってマジ!?〟
〝え、え、本気で言ってる……?〟
〝言われてみればお嬢様探知に集中してたのか静かにはしてても一回も絶望顔してなかったような……〟
〝なんなら騒ぎに気づいたあとのほうが遥かに絶望顔晒してて草〟
〝い、いやでもいくらお嬢様が頭お嬢様でも脱出できることを言い忘れてたとかある……?〟
〝確かに珍しく長いことコメントに反応してなかったけど……〟
〝わたくしたちを心配させないよう気丈に振る舞ってらっしゃるとか……?〟
〝カ、カリンお嬢様にそんな腹芸は……〟
〝え、じゃあわたくしたちが全力で心配してる最中に脱出方法なんて通り越してイレギュラーの普遍的な対処法まで探ってたんですの!?〟
〝空間移動系ユニーク持ちがどうにもできなかったとか言われてる都市伝説イレギュラーを誰でも脱出できるようにするってのはいくらなんでも……〟
犬飼洋子が断言するとともにコメント欄にも半信半疑な声が入り乱れる。
さすがにちょっとカリンの言動がアレすぎて「視聴者を心配させないための嘘では?」と一部視聴者と犬飼洋子の意見が一致しているほどだ。
が、次の瞬間だった。
『あ! そんなこと言ってたらちょうどいい感じに脱出できそうなルートと手順がわかってきましたわ! これいけそうですの!』
〝え〟
〝え〟
〝え〟
「ゑ」
それまでコメントのチェックが滞るほど感知に集中しながらループダンジョンを練り歩いていたカリンが、異形モンスターを
『この空間はどうも普通とはちょっとだけズレた場所(?)にあるみたいなんですが、完全に離れてるわけではないようですの。言ってみれば空間の迷路を経由して隣接しているようなもの。〝視た〟感じ、とーーーっても複雑な迷路ですけど……全力で感知に集中して探ってたらそのあたりのルートと突破するための手順がわかりましたので、実証がてら解説していきますわね! この現象、なにやら割と画一的な雰囲気がしますし、ほかのダンジョンで同じことが起きてもきっとこの手順で誰でも脱出できるはずですわ!』
「な……!?」
犬飼洋子が瞠目する。
だいぶふわふわしているものの封印結界の概要を言い当てて脱出方法とやらの解説をはじめたカリンに「まさか……!?」と万が一の可能性がよぎったのだ。
『では解説しますわ。まずはループの起点となっているボス部屋からスタートですの!』
そしてそんな犬飼洋子の眼前でカリンが解説をはじめたのだが、
「……は?」
犬飼洋子はぽかんと間の抜けた声を漏らしていた。
なぜなら――脱出方法とやらの解説を始めたカリンがいきなり壁に向かって歩き始めたからだ。
しかも刀で壁を切り裂き真っ直ぐ進むとかですらない。
べたっ。とダンジョン壁にぶつかってなお操作を誤ったゲームキャラクターのように、カリンは歩く動作をやめない。
加えてカリンの奇行はそれだけに留まらず、
『はい、じゃあモンスター様の邪魔が入らないタイミングで10秒ほど壁に向かって歩いたあとは向かって左側に100mほど進んで、次はここで10回びょんびょんしますの!』
『それから10mほど下がって、その場で3回回って再び前進!』
『あ、それからここはちょっとお優雅ではないんですが……この先は壁に身体をくっつけながら100mほど進んだあと、横になって地面を40mほど転がりながら進みますの! ころころですわ!』
などなど、無茶苦茶かつ意味不明な挙動が繰り返されたのである。
〝ちょっとお嬢様!?〟
〝なにしてんですの!?〟
〝壁に向かって歩き続けるとかTASかよ!?〟
〝乱数調整お嬢様!?〟
〝いやその壁に引っかかりながら歩くやつなんなんですの!?〟
〝操作に慣れてない人が初期バイオハザードでやるやつ!〟
〝いやこれお嬢様大丈夫かいろんな意味で!?〟
〝どう考えても脱出に繋がる手段じゃないんだが!?〟
しばらく呆気にとられていた視聴者たちのコメントが爆発する。
そして同時に、「ぶふっ」と噴き出すのは犬飼洋子だ。
「あは、あははははははははははははは!! 自信満々になにをやらかすかと思えば……なるほどもうとっくに恐怖で錯乱してたってわけね!?」
どう考えても正気を失った行動を繰り返すカリンに、今日一番の爆笑をぶち上げる。
「なにが感知スキルで脱出方法を見つけた、よ。仮にその意味不明な挙動で本当に脱出できるとして、いくらなんでもなんの試行錯誤もなしに感知スキルだけで辿りつけるもんじゃないでしょ。可哀想に。そうやって脱出できると思い込むことでしか、もう精神の均衡を保てないのね?」
やはり山田カリンはとっくに恐怖でおかしくなっていた。
脱出方法が既にわかっているなどという発言も、ほかの人間でも脱出できる方法がわかったなどという戯言も、案の定すべてが現実逃避の虚言だったのだ。
そしてそう思ったのは犬飼洋子だけではないようで、
〝お、おいお嬢様これもう……〟
〝あかん……〟
〝完全に極限状態に追い込まれた人の挙動じゃん……〟
〝いくらカリンお嬢様が頭カリンお嬢様でも脱出方法が既にわかってることを言い忘れるわけないしやっぱりこれはもう……〟
〝おいこれどうにかならないのかよ!?〟
〝狂犬のときと違って国が動いてるはずだからまだ希望を捨てるのは早いって!〟
〝いやでもこれは……〟
「あはははははは! 視聴者の反応も上々ね! 無敵の探索者が怪奇現象に取り込まれてこんな風に壊れるなんて最高のホラー。これでますますダンジョンへの恐怖が強まって探索者離れにも大きく影響するでしょうね。さすがは大人気配信者、いい演出してくれるじゃないの」
完全に壊れてしまった山田カリンを見て悲観に暮れる視聴者たち。
その最高の顛末に犬飼洋子は皮肉を口にしながら、自らの完全勝利に酔いしれるようにほくそ笑んだ。
――が、その直後である。
『……それでここから3番目の横道を曲がって反復横跳び10回やったあと左側を向けば……ここですわ!』
一連の奇行の末にカリンが虚空に手を伸ばした瞬間――ずぼっ!
そのお手てが、虚空に飲み込まれるようにして消えた。
〝え!?〟
〝え!?〟
〝は!?〟
〝!?〟
〝!?〟
〝あ!?〟
「………………………………………………………………え?」
その信じがたい映像に、犬飼洋子をはじめカリン以外の者たちの時間が完全に止まる。
一瞬、アイテムボックス的なものに手を突っ込んでそういう演出をしているのではないかと疑う者も当然いたのだが……続けて決定的なことが起きた。
『んん!? なんじゃ!? いきなり現れたこの気配、カリンか!? おい急げお主らこっちじゃ!――ぬおっ!? なんか虚空から腕が生えとる!?』
『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 間違いないですこの色と形と香りは完全にカリンお嬢様のお手てですううううううううううううううううううううううううううううううううううう! お嬢様ああああああああああああああああ! 無事だったんですねええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』
『ちょっ、光姫さん気持ちはわかりますけど落ち着いてください……! 先輩、ちょっとノイズがうるさいですけど聞こえますか……いまカリンお嬢様の手を確認しました……! 同行している福佐刑事も気配を確認してて……はい、空中に腕が生えてます……! 光姫さんがどさくさにまぎれて頬ずりまでしてるので……幻とかでもないかと……!』
これまでシャリーが深層を破壊しまくる轟音すら届かなかった配信に、カリンが手を突っ込んだ虚空からシャリー、光姫、穂乃花の声が響いたのである。
〝うええええええええええええええええええええ!?〟
〝え!? これマジでシャリー様たちの声か!?〟
〝モンスターみてぇな光姫様の絶叫でかき消されてよくわからんけどこれホントに穂乃花様たちの声届いてる!?〟
〝光姫様うるせえええええええええええええええええええええ!?〟
〝人力
〝いや気持ちは分かるけど……ってかマジであの意味不明な挙動で脱出できるの!?〟
〝ゲームだったら壁抜け的なアレで「運営から修正されるやつ!〟
〝現実デバッカーお嬢様!?〟
〝うそだろ!?〟
〝いくらなんでも冗談キツいですわ!?〟
〝カリンお嬢様の感知スキルなら……っていっても限度ありますわよ!?〟
〝どうやったらあんな挙動で脱出可能って感知できんだよ!?〟
〝こんにゃくの作り方1発発見の数百倍の難易度でしてよ!?〟
〝はあ!? ほんとにあの奇行で脱出できそうなの!?〟
〝9割の視聴者はあまりにも信じがたい展開すぎて光姫様と穂乃花様が地味に深層までついてきてることに気づかない〟
あまりの事態にコメントが爆発し、それでもまだ半信半疑の声も多い。
だが、
¥10000
光姫様サイドからも生配信きてますわー! これガチで脱出いけますわよ!?
〝うわ空中からお嬢様の手とドレスがはみ出してる!?〟
〝マジでこれ出口(?)に辿り着いてんじゃん!?〟
〝ニュース速報も出たぞ対探課の刑事がカリンお嬢様の気配確認したってよ!〟
〝うわマジか!?〟
〝うっそだろ……!?〟
続々とあがってくる報告に視聴者たちは大混乱しつつも現実を受け入れざるを得ず、さらにはカリン本人も脱出方法が間違ってなかったことに安堵の息を漏らす。
『ふぃー。複雑な手順だったのでぶっちゃけ不安でしたけど成功して一安心ですわ! とはいえ今回いけただけで次に同じ現象が起きたとき本当に再現性があるかどうかの確認ができないのが残念ですけど……まあコツは摑みましたし、どなたかが巻き込まれた際は動画越しでも誘導できそうですわね!』
「バ……カな……!? あり得ない! あり得ないあり得ないあり得ない! この絶対脱出不能空間に出口なんて……!? しかもあんなバカみたいな挙動で辿り着けるわけないわ!!!」
そしてそんなカリンの言動に最も混乱しているのは誰であろう犬飼洋子だ。
この疑似ダンジョン封印は過去に1度しか発動したことがないとはいえ、数日連続で発動させるなかで魔力観測やデータ分析は手抜かりなく行っている。確かに配信やネットへの書き込みが一部可能など歪な穴こそあるが……。人間が光ケーブルを通れないように、カリンが言うような穴など、脱出に繋がる綻びなどあるはずがないのだ。
「山田カリンがいくら人外の感知能力を持ってるからっていくらなんでも……!? なにかの冗談に決まってるわこんなこと!!」
と犬飼洋子が現実逃避気味に叫んでいれば――その逃避すら粉砕するように、画面の向こうで莫大な魔力が弾けた。
「――ッ!?」
『さて。それじゃあ再現性についてだけが心残りですけど、光姫様をはじめ皆様にもの凄く心配をかけてしまったようですし……ほかの方が迷い込んでもよくないので、とりあえず今回は誰でも脱出できる方法とは別に、この危ない空間そのものをぶっ壊して脱出しますわね! 光姫様たちもいったん下がっててくださいまし! 上の階層くらいまで!』
〝え〟
〝は?〟
〝なんて??????〟
『――!? なっ!? 嘘じゃろ!? まさかとは思っておったがこやつ、育成指導のときは妾の目すら誤魔化す精度で力を隠し通して――!? こ、こりゃいかん、離れるぞお主ら!』
キィ――――――――――――ンッ!!
それこそ空間がねじ曲がるような魔力がカリンの体内で練り上げられる。
同時に改めて出力を増すのは、しばらく前からドレスの下でこっそりと発動させていたアクセサリー型の魔法装備だ。
それはカリンが埒外の異次元封印の脱出方法を短時間で探り当てることができたカラクリ。
すなわち、ストーカー対策や不審者警戒のためにと真冬に言われて増産、常時身に付けていた『感知能力を任意で増強する』規格外の底上げ装備である。
そしてその底上げされた感知能力によって通常時よりはっきり捉えられるようになったのは、虚空に浮かぶ次元の狭間。隣接する元の世界と繋がるほんの微かなひび割れ。
正式な手順さえ踏めば誰でも脱出できる出口とは別、犬飼洋子たちでは存在に気づくことすらできなかった異次元空間の小さすぎる綻びで――、
『ちょっとお優雅ではないですけど……今回ばかりはしゃーなしですわね!』
カリンは呟きをひとつ落とし……普段は〈無反動砲〉やその他スキルを使ってなお周囲に被害が及びお優雅でないからと制御している素の力を解放するように、次元のひび割れ目がけて拳を振り抜いた。
瞬間――ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
〝ええええええええええええええええええ!?〟
〝なんだああああああああああああああああああああ!?〟
〝エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!!????〟
〝なんかカメラがメチャクチャなってて意味わかりませんわあああああああああ!?〟
〝誰だ混乱のあまり変なコメ書き込んでるやつ!〟
粉砕。
爆砕。
次元崩壊。
カリン本人が脱出する方法ならとっくの昔に見当がついていた――その言葉を証明するように、振り抜かれた拳が人造の異次元空間を丸ごと破壊した。
そして、
『っし! 危ないイレギュラーを破壊しつつ、無事に脱出ですわ!』
空間粉砕の衝撃で一時電波の乱れていたカメラが元に戻れば……カリンが立っていたのはシャリーの魔法で壁やらなんやらが破壊し尽くされてだだっ広くなった深層の一角。
これまで繰り返してきたループ空間とは一目で違うとわかる場所で、
『あ、カ、カリンお嬢様あああああああああああああああああああ!』
ループ空間から無事脱出したことを示すようにレベル1000近い身体能力で光姫が襲来。
『わ!? ほ、本当にご心配おかけしてしまったようですわね……けどこのとおり、お優雅にぴんぴん脱出ですわ!』と光姫を受け止めたカリンはカメラに向かってはっきりと無事を宣言した。
〝はあああああああああああああああああああ!?〟
〝うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?〟
〝マジで脱出してるうううううううう!? てかこれさっきの出口(?)を通ったんじゃなくて強引に突破したのか!?〟
〝なんかいま画面がすげぇ歪んでてよくわかんなかったけどきさらぎダンジョンを殴って壊したんですのこれ!?〟
〝異空間(?)を拳で破壊ってなんなんですの!?〟
〝ミストをエンチャントファイア(物理)で倒すのとはわけがちがくない!?〟
〝意味わかんなすぎてもうなにがなにやらでしてよ!?〟
〝裏で作ってるだろう空間魔法ボス装備やアイテムボックスでも応用して脱出かと思ってたらゴリッゴリのゴリラ戦法で草ァ!〟
〝い、一般人向けの脱出方法見つけたムーブはちゃんと頭を使った優しき森の賢者そのものだったから……〟
〝優しき森の賢者ってそれゴリラだろ!〟
〝やっぱゴリラじゃありませんの!〟
〝と、とにかくお嬢様が無事でなによりですわああああああああああああ!〟
〝よかった! 本当によかった! けどじゃあマジでこのお嬢様、脱出の目処が立ってるって報告するの忘れてたのかよ!!!!!!!!〟
〝山田ァ! マジで報連相はしっかりしろ山田ァ!!〟
〝よかったですわあああああ! それはそれとしてカリンお嬢様は親友様にこってり絞られてどうぞですの!〟
〝お嬢様が無事で良かったって気持ちとこれ絶対あとで親友ちゃんに怒られますわって予感で変な笑いが出ますの!〟
〝うおおおおお! 最強最強お嬢様! なんでも粉砕お嬢様! お叱り確定お嬢様!〟
〝これは盗み食い叱られた犬配信再びですわね!〟
〝コメ欄に喜びとお叱り予想が飛び交ってておハーブ〟
〝いくらカリンお嬢様でも脱出可能の旨を言い忘れるわけないからやっぱり正気が……って絶望してたわたくし感情が無事迷子になる(いやマジでよかったですけど!)〟
〝やっぱこのお嬢様普段から正気じゃねえよ!〟
〝いやでもお嬢様マジであの状況でほかの探索者が同じ目に遭ったときの対処法考えてたのか……〟
〝これはお優雅〟
〝てか光姫様が光の速度で飛びついてきたのにカリンお嬢様の体幹1ミリもぶれてないのおハーブ大農園〟
〝壁かな?〟
〝誰にも超えられない壁という意味ではもう完璧なまでにめちゃくちゃ壁〟
〝うおおおおおお! カリンお嬢様VSきさらぎダンジョンの怪異決戦はお嬢様の完勝ですわあああああ!〟
〝今回マジで怪異決戦だったんだよね怖くない?〟
〝よく考えたらカリンお嬢様がコメントチェック忘れるレベルで感知に集中する必要があったイレギュラーとも言えるしな……〟
〝なんにせよ無事でよかったですのおおおおおおおおおお!〟
このお嬢様マジで報告忘れてたのかよ! という声はありつつ、完全フェイクの都市伝説とすら思われていた特級イレギュラーの完全攻略に配信は大盛り上がりを見せるのだった。
――その一方。
「…………………………………………………あり、得ない」
コメ欄とは正反対に、犬飼洋子の隠しアジトは完全お通夜の様相を呈していた。
「あり得ないあり得ないあり得ない! なんなのよこれはああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
そして次の瞬間、犬飼洋子が発狂したように取り乱す。
当然だろう。
これまでずっと使えなかった至上の異次元封印によって侵略作戦最大の障壁を運よく排除できたと思ったら、わけのわからない理屈で突破されたのだ。
天国から地獄とはまさにこのこと。
受け入れられるはずがないし、納得できるはずもない。
ゆえに頭を抱えて悶絶しつつも必死に頭を働かせていた犬飼は、作戦はまだ終わってないとばかりに血走った目を見開く。
「い、いやまて落ち着くのよ私……! そうよ、まだ手は残ってるわ! 異次元ダンジョン封印の再使用に10年以上のインターバルが必要だったのは、1度に長く発動させたからの可能性が高い! つまり今回みたいに短時間で使用が中断された場合はすぐに再使用できるはず! そう、そうだわ! だったら次はあのダンジョン女王のほうを狙えばいいのよ! いくらなんでもあんな意味不明な脱出挙動に再現性があるわけないし、カメラのない状況で女王を狙えば今度こそ確実に戦力を削れるはず……! あんたたち! 次の作戦よ! いますぐ封印の再使用が可能か試して、ダメなら〝研究所〟であんたたちにドーピングしてでも――」
犬飼洋子が再起を図るように部下たちへ目を向けた。
が、そのときだった。
「「「う……!? ぐふっ!?」」」
「え?」
それまで妙に静かだった部下たちがなにやら苦しむように低い声を漏らす。
次の瞬間、
「「「「「「ぐふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」」」」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
犬飼洋子は絶叫していた。
異次元ダンジョンを構築していた10人の部下たちが、まるで体内で暴れ回るちっちゃなカリンお嬢様に全身を蹂躙されたかのように、とんでもない量の血を吐き出して突如ぶっ倒れたのだ。
本来ならば異次元空間の破壊などあり得ないがゆえに犬飼一派は預かり知らぬことだったが――それは異次元ダンジョンという強力無比な現象を引き起こすにあたっての隠されたリスク。異次元ダンジョンが力尽くで破壊された際に術者たちへと返ってくる致命的な反動だった。
だが文字通り血の雨が降る異常事態の最中、そんな想定外すぎる
「あ……あ……な、にが……」
ずるずる……べしゃ。
そのホラーとしか思えない唐突すぎる怪奇現象にもはや完全に頭の回転は停止。
再起不能となった部下たちの惨状に腰を抜かした犬飼洋子は、心が折れたかのように呆然とへたり込むのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
部下の方々はいちおうちゃんと生きてますわ!
そして犬飼洋子様はどうにか無事だったようですわね。
というわけで次回、お嬢様バズ第121話『1度関わると逃れられないタイプの呪い』デュエルスタンバイですの!
(あといちおう注釈ですが、今回お嬢様が底上げしてたのは感知能力だけで、シャリー様が察知した拳の威力はカリンお嬢様の素ですわね)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます