第112話 カリンお嬢様のさらなるパワーアップフラグ


「皆様ご機嫌ようですわ~」



〝カリンお嬢様の配信キターーーー!〟

〝ご機嫌ようですわー!〟

〝お優雅お優雅お嬢様! 女王とマブダチお嬢様!〟

〝あの大騒ぎのあとでも通常運転で雑談配信助かりますわ!〟

〝マジで通常営業なの本当にシャリー様の正体疑ってないんですのね!?〟

〝待ってましたの!〟

〝雑談配信の待機人数100万はおハーブ大農園すぎるwww〟



 口座に億単位のお金が振り込まれた翌日。

 カリンは事前告知したとおりに雑談配信を行っていた。

 ダンジョン女王シャリーとの一件がまだ尾を引いているのか、開幕直後にもかかわらずとんでもない数の視聴者が集まっている。


「えー、事前告知でも書きましたけど、とってもありがたいことに、このたび皆様の投げてくださったスパチャ代や広告費が振り込まれまして……今日はそのあたり改めてお礼をお伝えするための配信になりますわ……!」

 


〝やっっっと振り込まれましたわね!〟

〝よかったですわー!〟

〝これでようやくカリンお嬢様がモンスターをかじるような生活から本格的に脱却できますの……!〟

〝モンスター試し食いの件、永遠に擦られてておハーブ〟

〝てかお嬢様、大金が手に入った人の顔じゃないですわよwww〟

〝スパチャへの反応でわかってたけど大金への耐性がなさすぎるwww〟

〝深淵に突っ込んでいったときとは比べものにならんくらい消耗してておハーブ〟

〝いやまあわたくしもウン千万とか億単位のお金が入ったら同じ顔になりそうですけどww〟 



 視聴者たちが指摘するように、開幕の挨拶を告げるカリンのお顔はなんだか少しだけげっそりしていた。しかしそれも無理はないだろう。

 なにせ昨日はあのあと大変だったのだ。


 億単位のお金をひとつの通帳に入れておくのは紛失時や(確率は低いが)銀行が破綻したときのリスクがどうとかで、真冬に言われるがまま複数の口座を新たに作り、両親の遺してくれた口座をもとの金額に戻すかたちでお金を分散。一部のお金は定期預金に回したり、複数作った通帳やカード、印鑑の類いを預かってもらうためにカリンの後見人を務めてくれている親戚に確認をとって貸金庫を契約したりと、色々と慣れないことだらけだったのである。税理士さんとの本格的な顔合わせの予定も組まれたりと、かなりめまぐるしかった。

 

「あとはまふ……親友いわくこういうお金はしっかり使ったほうが視聴者の皆様も喜ぶし節税?になるとかで。お金の大半は前にも言ったようにダンジョン崩壊復興基金に寄付する予定なのですが、これも事前告知したとおり、寄付とは別にわたくし今回一世一代のお買い物をしましたの……! それもあってまだ心臓がドコドコしてるのですわ……!」



〝あー、それでちょっと疲れた顔なさってましたのね〟

〝お嬢様の普段の食事事情とか考えると節税レベルの買い物は精神的な負担でかそうですものね……〟

〝ドキドキ通り越してドコドコしてて草〟

〝カリンお嬢様ハート「ドンドコ┗(^o^)┛ドコドコ┏(^o^)┓ドンドコ┗(^o^)┛ドコドコ」〟

〝お嬢様がお高い買い物とか意外と思ってたらなるほど〟

〝視聴者への還元+親友ちゃん提案の節税兼ねてたのか〟

〝税金対策はマジで大事ですわよー!(マジで!)〟

〝年収1000万超えると税金ヤバいからな。所得税率40%で収入の半分近くもってかれるし〟

〝そこに市県民税とか保険料とか重なるとマジで死ねる(1敗)〟

〝市県民税も保険料も所得税も収入が一定ライン超えると本気でヤベェ事になるからな……〟

〝あと1000万超えると時間差で追加徴収される消費税とかな……〟

〝税金は怖いですわよ……へたに年収1000万超えるより7、800万のほうが使えるお金多いとか普通にありますし……〟

〝経費扱いにできるもんはしちゃうのが吉ですわ!〟

〝農家とか節税のためだけに新しいトラクター買ったりするらしいしな〟

〝トップ探索者もあんま使わない高級装備買ったりな。まあそれが工房の収入や職人の成長機会にも繋がるんだが〟

〝もの凄い数の税金への怨嗟と知識が集まってきてますわー!?〟

〝税金の悪魔と確定申告の呪霊が生まれそうな勢いでおハーブ〟

〝とはいえ配信者みたいに年ごとに浮き沈み激しい触手だと税率は結構下げてもらえるみたいだけどな〟

〝↑性癖バレ変換草〟

〝てかこういうのさらっと提案誘導するあたり親友ちゃんやっぱ有能〟

〝寄付も親友ちゃん提案っぽいしな〟

〝こうやってお嬢様を大金使用に慣れさせてちゃんと毎日お腹いっぱい食べる方向へ誘導してくのですわ!〟



「とはいえ!」


 と、コメント欄に税金への怨嗟や注意喚起が並ぶなか。

 カリンはこれまでの緊張したような雰囲気を残しつつ纏う空気を変える。


「わたくしこういうお高いお買い物ってしたことがなかったので色々とおっかなびっくりなのは確かなんですけど……それでも皆様のご厚意のおかげで本当に本当に、とってもいいお買い物ができましたの! きっと一生で一番のお買い物ですわ!」


 視聴者たちに感謝を伝えるように、同時に本心からとっても嬉しそうな笑顔でカリンが告げる。そして先ほどまでの様子とは一点、「早速お見せしますわね!」とその購入物をとりに軽い足取りで席を外す。


 視聴者たちが「なに買ったんだろう?」と待機するなか、


「これですの!」


 と、戻ってきたカリンは今日の配信のために加工スキルで少しスペースを広げていた机のうえに大きな紙袋をそっと置く。


 そして、


「わたくしがこれまでずーっとほしいと思っていたダンジョンアライブの関連商品ですわー!」

 

 紙袋の中身を子供のような笑みで披露した。


 ダンジョンアライブのDVDボックス、最近重版されまくっている原作コミック全巻、ファンブックに画集、セツナ様ねんどろいど――ダンジョンアライブファンアイテムの数々だ。



〝おお!?〟

〝なるほどダンジョンアライブ商品ですの!〟

〝これは確かにいい買い物〟

〝ん? てかカリンお嬢様こういうのいままで持ってなかったんですの!?〟

〝あ、そっか! カリンお嬢様ネットでアニメ視聴するくらいが精々でいままでこういうの持ってなかったのか!?〟

〝嘘でしょ!?〟

〝そういやいままでそういうの持ってる素振りなかったですわね!?〟

〝お嬢様のダンジョンアライブ愛が天元突破してたのもあって盲点でしたわ!?〟

〝確かにあんな食事してるカリンお嬢様がこういうの買う余裕あるわけないすぎる……〟

〝言われてみれば……〟

〝原作者様からセツナ様とのコラボイラストとかオリジナルアニメメッセージとかもらってるのにこういうの持ってなかったのバグすぎますわよ!?〟

〝DVDボックスとかだいぶ前に生産終わってるはずなのに最近の騒ぎで当時の特典そのままに再販されたやつ新品で購入できてておハーブ〟



 そう。

 カリンはいままでダンジョンアライブのアニメを配信サイトなどで視聴するくらいが限界で、こうした品を購入することができなかったのだ。原作漫画もクラスメイトに借りて読んだことはあれど、ダンジョンアライブは中古でもあまり値崩れしないタイプで、全巻揃える踏ん切りがつかず断念していたほど。


 しかしそれも昨日までの話。

 真冬の説得に背中を押されたこともあり、いまこうして長年ほしかったダンジョンアライブ関連商品を買いそろえることができたのだ。



〝ファングッズいいですわね!〟

〝いやでもこれ……〟

〝基礎控除以下ですわ!?〟

〝めっちゃいい買い物ですけどそれはそれとして億超え収入の税金対策にこれは誤差でしてよ!?〟

〝学生としては十分贅沢ですけどちょっとお高いお年玉もらえる子供でも買えるやつですわ!?〟

〝お嬢様もっとドカンと贅沢していいんですのよ!?〟



 一世一代の買い物、税金対策と謳っていたこともあり、もっとお嬢様っぽい買い物をしていいのではという声も当然あがる。


 だが、


「さすがに全キャラフィギュアとかまで網羅しようとするとキリがないのでこのくらいに留めてますけど……それでも本当にすんげー嬉しいですわ! ……うぅ、本当に、わたくしのお部屋にこんなにたくさん……セツナ様のねどろいどまで……いままで本屋様とかで眺めるだけでしたのに、夢みたいですの……! 本当に皆様のおかげですわ……! ありがとうございますですの……!」



〝わたくしさっき野暮なこと書きましたけどお嬢様が幸せならOKですわ〟

〝これは文句なしで一番いいスパチャの使い方〟

〝渋谷で救われた勢としてはもっと贅沢してもらっても……と思ってたけど鉄塊しますわ。最硬の還元配信ですありがとうございます〟

〝↑六式使いおっておハーブ〟

〝お嬢様めっちゃ嬉しそうでこっちまで嬉しくなる!〟

〝スパチャした甲斐がありましたわー!〟

〝視聴者怒濤の手のひら返しで草〟

〝こんだけ嬉しそうにしてくれてたらそりゃもう手のひらドリル天元突破よ〟


 ¥10000 @motimotimotimoti

 私、ダンジョンアライブを描いて本当によかったです

 改めて本当にありがとうございます

 ダンジョンアライブの世界とキャラクターをこんなに愛してくれて


〝たまご先生!〟

〝カリンお嬢様の精神的負担軽減のためかスパチャ控えめで草〟

〝必死に5万入れるの我慢してそう〟

〝お嬢様、最高のお買い物でしてよ!〟

〝そもそもカリンお嬢様からしたら税金で半分くらいもってかれたほうがほっとするまであるしな! 今回はひとまずこの使い方でええんや!〟

〝もっと上の贅沢はこのグッズ購入を皮切りにちょっとずつ慣れてけばいいんですの!〟

〝なんなら親友ちゃんもそれ狙いやろ!〟



 購入品の数々を眺めて心底嬉しそうなカリンに税金関連の指摘は霧散。


 さらには当然のように現れたもちもちたまご先生にカリンは目を剥いて、


「も、もちもちたまご先生!? そ、そんなのこちらこそすぎますわ! そして繰り返しになりますけど、皆様も本当にありがとうございますですの! ……というわけで、実は今日の開封動画のためにまだほとんど中身を見ていないので、ここからは購入したものの紹介がてら内容を軽く楽しんでいきますわね!」


 そうしてカリンは感極まった勢いのまま、原作コミックやDVD特典をチェック。

 あまり中身を配信に乗せすぎてもよくないのである程度は配慮しつつ、DVDについていた新規イラストや連載当時のカラー収録、セツナ様描き下ろしイラストなどに歓声をあげて目を輝かせる。



〝カリンお嬢様めちゃくちゃ楽しそう&嬉しそうでほっこりですわ!〟

〝セツナ様だけじゃなくてほかのキャラにもお目々キラキラさせてめっちゃカラーの魅力とか語ってるのモノホンって感じですわー!〟

〝モンスターのお肉食べたとき以上に楽しそうでこっちも頬が緩みますの!〟

〝これもう実質ダンジョンアライブの宣伝案件ですわねwwww〟

〝まあお嬢様はそもそもが歩く販促みたいなもんですし〟

〝歩く反則?〟

〝まあ間違ってはないですわwww〟

〝いやマジでいいスパチャの使い方を見たわ〟

〝これまたダンジョンアライブ関連の商品が売り切れるやろwwww〟



 もはや配信とは関係なく純粋にダンジョンアライブグッズの開封を楽しむカリンだったが、むしろその様子が好評でコメント欄に微笑ましい雰囲気が流れる。


 と、そうこうしているうちにカリンがまた新たに1冊の書籍を手に取った。


 ダンジョンアライブ公式ファンブック。


 キャラクターや作品世界の設定まとめにはじまり、本編では語られなかった小話や裏設定、未公開資料などが盛り込まれた本だ。ナンバリングは2まであり、いまカリンが手に取っているのは1冊目のファンブック。


 そして当然、一番にカリンが開くのはあのキャラクターのページである。


「わたくしダンジョンアライブのキャラクターは皆様大好きですけど、やっぱり一番にチェックするのはセツナ様ですわね! とはいえファンブックって確か身長とか血液型とかそういうのが載ってたりするんですわよね? わたくし何度も何度も視たアニメからセツナ様の身長やスリーサイズを割り出して可能な限り近づけるよう頑張ってみたこともありますし、そんなに真新しい情報はないかもですけど」



〝え〟

〝怖い怖い怖い〟

〝またなんかさらっとやべー情報が出てきたんだが?〟

〝やってることがストーカーなんですけど????〟

〝いやこれ自分のスタイルを近づけようとしてるからストーカーとは似て非なるナニカですわよ!?〟



「あ、でもこれもしかして書き下ろしイラストとかありますの!? わたくしの知らない衣装とかあったら今後の新装備デザインの参考になるかもですわね……!」


 と、カリンは若干どよめくコメント欄に気づかずわくわくした表情でファンブックのページをめくった。


 瞬間、


「え」


 セツナ様のページを目にしたカリンが突如停止する。



〝ん?〟

〝カリンお嬢様?〟

〝どうされましたの?〟

〝なんだ? ラグですの?〟



 いきなり固まったカリンに視聴者たちが「どうしたんですの?」と呼びかける。

 すると数秒後、カリンがぷるぷると震えて、


「え……セツナ様ってただ完全回避しながら拳ですべて粉砕するだけじゃなくて、合気道や拳法系列の習い事とスキルを組み合わせた技術で攻撃を受け流すような戦闘スタイルもあるんですの……!?」


 本編では語られなかった、あるいは原作漫画内でのほんの些細な描写で臭わせるに留まっていたその裏設定に、カリンが愕然と声を漏らした。


――――――――――――――――――――

ファンブック、ちょいちょい「え!?」ってなる設定が普通に載ってたりしてビビりますわよね(直近で一番びっくりした&面白かったのは鬼滅の刃の鳴女さんの過去)


ちなみにカリンお嬢様は以前ダンジョンアライブ新装版の帯コメを依頼されてたりしますが、それの発売や献本送付がまだなので今回は通常版コミックの購入になりました。新装版に関するお話はお嬢様バズ書籍2巻の特典情報にあわせて番外編を書きますの(また2月29日あたりに詳細告知しますが、メロンブックス様にて色々特典がある予定なのですわ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る