第107話 同盟

 強いモンスターのほうが美味い。

 そんな情報がもたらされて以降はこれまで以上に無茶苦茶なダンジョン攻略となった。


「グギャアアアアアアアアアア!?」


 道中に現れる深層モンスターはサクッと討伐し、深層ボスである氷雪龍や炎を纏う巨大イノシシモンスターも2人がかりで速攻討伐。


 深淵を保有する高難度ダンジョンほどではないにしろ強力なモンスターが多数出現するはずの深層をなんの苦もなく突き進んだかと思えば、


「! このイノシシ様はいい油が出ますわね! 肉もいいですけど、他のお肉を焼くときの油にいいのではなくて!?」


「龍はやっぱ最高じゃな! もとから旨味のパワーが違うが、ハンバーグにするとよりいっそう美味なのじゃー!」


 と、当然のようにボスをハンバーグにして食べ比べ。

 さらには、


「それにしても、お肉が沢山ゲットできるのはいいんですけど全部は食べきれないのがもったいないですわね。ほかのモンスター様が食べて強化種になってもいけませんし、普通の武器で切り刻んで灰にするしかないでしょうか」


「それならアレじゃ! 持って帰ればええ! 特にほれ、お主はアイテムボックスあるじゃろ。ほれほれ、調理したあとのやつとかミンチとか、好きなだけ持って帰るといい! 魔法効果こそ消えるが、それを除けば地上でも美味しく食えるはずじゃぞ! お土産じゃ!」


「え、そんないいんですのわたくしだけ!?」


「無論じゃ! お主のおかげでこんなに美味いもんが食えたんじゃ! ほれほれ遠慮せずアイテムボックスに詰められるだけ詰めておけ! なあにいくら未成年の素材持ち帰りがアウトでもミンチやハンバーグは装備と同じく加工品じゃしいけるじゃろ!」


「た、確かに……!? い、いやでも確証が……あ、み、御剣弁護士様ー! さっきコメントしてくださってましたわよね!? ハンバーグやミンチを持って帰るの大丈夫か教えてくださいましー!」



〝@御剣弁護士:え!? あ、え……ええと、加工済みの素材なら未成年でも持ち出しOKの脱法お嬢様なのは前に言ったとおりですけど……ええと、生肉って素材? ドロップアイテム扱いでいいんですの……? ま、まあダンジョンで採取できたものってくくりならいちおう素材扱いが適用できるし加工スキル使ってるわけだし加工済みってことでいける……? いやでもこれ素材加工っていうか食品加工っていうか……〟


〝@御剣弁護士:でも加工食品の持ち出しがダメだったらそもそも体内に素材を隠して持ち出すのがアウトと同じで食べたあとの胃の内容物や排泄物もアウト認定しなくちゃいけなくなるような……だから多分私的利用に限るならこれまでどおり脱法扱いで大丈夫なはず……? え、ええと、とりあえずダンジョン庁と協議させてほしいですわ!〟



「え!? そ、そこまでしてくださるんですの!? 気軽に聞いてしまって申し訳ないですわ……!」



〝御剣たんが久々に突然の無茶振りされてて草〟

〝まーた御剣先生が不用意にコメントしてたせいで逃げられなくなってておハーブ大草原〟

〝カリンお嬢様がコメント固定までしてるからマジで逃げられないの草すぎるwww〟

〝御剣弁護士がかつてないほど歯切れ悪くておハーブ〟

〝そらこんな例外すぎる事例いち弁護士にすぐ判定下せるわけないすぎるわwwww〟

〝うんこアウト疑惑は臭〟

〝うんこアウト疑惑笑ったけどこんだけ無茶苦茶な状況でその可能性に言及できるのやっぱ凄いですわね御剣弁護士!〟

〝法律ってオープンワールド以上の自由度ある現実世界で悪知恵働かせるやつを想定して作るもんだからな……弁護士っつーか立法の話だけど〟

〝そんだけいろんな事態想定して慎重に作られてる法律で対処できない異常事態〟

〝い、いやまあダンジョン社会になってから新規発見アイテムなんかで立法追いついてないのは爆炎石よろしくあるあるですしお寿司……〟

〝にしたってこれはイレギュラーがすぎるだろ!?〟

〝もうこの2人専用に法律作らないかんでしょ〟

〝飛び抜けすぎた選手のせいでスポーツのルールが変わるやつじゃん〟

〝まあこの件はお嬢様が御剣たんに聞くまでもなく行政とのすりあわせ必須でしょうね……〟



 とお肉に釣られてコメントしていたせいで逃げられなくなった御剣弁護士が引きずり出され、同じく配信を見守っていたダンジョン庁から「ひとまず肉が本当に食用のみの効果なのか調査するために」という名目で加工済みお肉の持ち帰りがひとまず許可されるなど、当たり前のように行政を巻き込みながら食欲に目が眩んだ2人の深層攻略は爆速で進んでいった。




 そして、


「ふわぁ、満腹ですわ~」


「妾もいままでにない美味な食事に大満足じゃ~」



 葛西ダンジョン最奥。

 ラスボスである暴風龍を倒した先にある広い部屋。

 ダンジョン核と呼ばれる巨大な球体の浮かぶその部屋で龍のハンバーグを堪能した2人は、すべてのボスモンスターを食らい尽くして幸せそうにお腹をさすっていた。



〝いや攻略早すぎて草通り越して怖でしてよ!?〟

〝高難度じゃないとはいえ深層をこの速度は……〟

〝肉に目が眩んで攻略にほぼ遊びがなかったとはいえヤバすぎておハーブ〟

〝なんなら攻略よりハンバーグ作りのほうが手間かかってたのなんなんですの!?〟

〝Q.深層攻略で一番苦労したことは? A.ハンバーグ作りですわ ←イカれてんのか??〟

〝もう我慢できんと近所のコンビニにハンバーグ買いにいったら完売でおハーブ枯れる〟

〝コンビニのパウチハンバーグ売り切れの写真が全国で上がりまくってんのほんま草〟

〝おあああああああああ! こんな配信見せられてお口が完全にハンバーグなのにどこにも売ってねえですわああああああああ!〟

〝速攻でハンバーグと酒買いにいったニキの慧眼が光る〟

〝夕飯前の時間帯のせいかスーパーからも挽肉消え始めてるから皆急げですわ!〟

〝てかわたくし深層保有ダンジョンのダンジョン核なんてはじめて見ましたわ!?〟

〝下層で終わるダンジョンと比べものにならんくらいでかくておハーブ〟

〝これ壊しても一時的にモンスターの出現が止まるだけで割とすぐ復活するの謎ですわ〟

〝かと思えばダンジョン核関係なく消えるダンジョンたまーにあるのがもっと謎〟

〝しっかしこの攻略速度でもちゃんと深層モンスターの能力とか解説してたのヤバすぎない?〟

〝深淵ソロ攻略できそうな2人が揃ってりゃ当然の結果……なんて割り切れねえですわよこの攻略速度!?〟



 視聴者たちはそのヤバい攻略速度に戦慄の声をあげるが、2人はそんな反応もよそにダンジョン完全攻略を示すダンジョン核の前で幸せそうな笑みを浮かべる。


 特にシャリーダンジョン女王のほうはことさら満足気な様子で、腹だけでなく心まで満たされたような笑みを浮かべていた。


 カリンとのダンジョン攻略が、とってもとっても楽しかったから。


「シャリー様! 今日は本当にありがとうございましたわ!」


 と、そんなシャリーにカリンのほうから満面の笑みで声をかけてくる。


「今日の攻略とっても楽しかったですの! あんなに美味しいお肉までたくさんご馳走になってしまって……奈落に挑戦する前の連携や確認確認ってお話だったのに、わたくし途中からすっかり忘れて楽しんでしまいましたの! 改めてありがとうございますですわ!」


「そんなのこちらこそじゃ」


 本当に。

 いやむしろ、今回の件はいきなり押しかけてきたこちらが頭を下げつつお礼を言うべきだろうとシャリーは思う。


(まさか本当に、ここまで全力で遊べる相手がおるとは。妾と対等どころかそれ以上に大暴れしてくれて、肩を並べてダンジョンを攻略できて、互いのユニークスキルを高めあえるような者が。それも敵対するような間柄ではなく、こうも友好的に思ってくれる者が)


 山田カリンの存在を知ったときから期待はしていたが、そんな期待を軽々と超えた結果にシャリーは心底満たされていた。


 ……と、すっかり満足しそうになってふと思い至る。

 ああそうだ。

 カリンと遊ぶのは本当に楽しかった。


 だったら言わないといけないことがある。 

 だって自分は、を求めて13歳サバ読みを筆頭に色々と無茶苦茶をやらかしここまでやってきたのだから。


「さて、名残惜しいですけど完全攻略しちゃいましたし、時間的にもそろそろ帰らないとですわね。あ、あと本当にお肉を持って帰っていいか、いちおうもう一回確認してから――」


「の、のぉ山田カリン」


 帰り支度を始めるカリンに、シャリーはちょっともじもじしながら声をかける。


「今回のダンジョン攻略は奈落に挑戦するなら互いにできることを確認してからとかそういう話だったわけじゃが……まあ奈落云々はいったん置いておくとしてな? 妾、今日のダンジョン攻略が本当に本当に楽しかったのじゃ。だから、そのぉ」


 なんか改めてかしこまると気恥ずかしいものだなと思いつつ、


「また遊ぼう。もしよければ、妾と友達になってくれんか?」


 ダンジョン女王はその言葉を口にした。

 すると、


「? もちろんですわ! というかもうとっくにお友達ですの!」


「!」


「確かに奈落とかは冷静になって考えるといきなり誘うのはお優雅ではありませんでしたしまたいつかにするとして……今後はそれ関係なくとも一緒に色々やれるといいですわね! まだまだ未熟なわたくしはセツナ様に倣ってソロ攻略が基本ですけど、お肉……いえ折を見て穂乃花様たちも誘ってみたりして!」


 とカリンはシャリーの言葉に若干食欲を漏らしながらも無邪気な笑みを返し、


「だから、是非こちらからもよろしくお願いいたしますわ!」


「……そうか。そうか!」


 カリンの返答に、シャリーもぱぁっと満面の笑みを浮かべる。


「じゃあこれからよろしくなのじゃ! お主も配信やらなんやらで忙しいじゃろうから、また都合のいいときに遊べるとええの!」


「ですわね! えへへ、なんだか今後の楽しみが増えちゃいましたわ」


「妾もじゃ! なにか困ったことがあればすぐ助けにいくから、遠慮なく言うんじゃぞ! 友達じゃからな!」


「まあそれは嬉しいですわ! シャリー様もなにかあったら言ってくださいまし! では今日のところはひとまず帰りましょうですの!」


「うむ!」


 そうして2人は連絡先も交換。同接2000万越えというとんでもない状況のなか、正式に友達となるのだった


 ――と、ニコニコのカリンとシャリーを中心に微笑ましい雰囲気が場を満たすその一方、



〝【急報】カリンお嬢様とダンジョン女王疑惑の怪物少女、正式に友達となる〟

〝【速報】カリンお嬢様とシャリー様、同接2000万を越えるなかズッ友宣言〟

〝あ、あら^~〟

〝い、いいですわぞ^~〟

〝あのこれ……下手したら実質日阿同盟が締結されたまでありませんこと……?〟

〝いやこれもうビッグマムとカイドウの同盟だろ!?〟

〝どうやって倒すんだすぎる……〟

〝最悪の世代連れてこい!〟

〝どう考えてもカリンお嬢様自身が最悪の世代筆頭なんだよなぁ……〟

〝おわった……(英語)〟

〝おわった……(中国語)〟

〝おわった……(ロシア語)〟

〝怒濤の多国籍絶望ラッシュで草〟

〝あまりにやべぇ同盟すぎて「あら^~」の歯切れ悪いのおハーブすぎる〟

〝ま、まあ周辺国の皆様におかれましてはカリンお嬢様たちを刺激しないよう大人しくしてもろて……〟

〝どうなることかと思ったけどなんやかんやで日本が鉄壁の守りになってよかったですわ……?〟

〝や、やっぱりカリンお嬢様に任せておけばなんやかんやどうにかなりますわね!(心臓バクバク)〟


 ¥50000 @イヌと和飼せよ2

 いけませんお嬢様いけません! そうやって油断させて次はお肉に毒を盛ったりするかもしれないんです! もうそのお肉は食べちゃいけません友達なんて絶対に駄目です!


〝離間工作赤スパ垢復活してておハーブ〟

〝(耐性カンストが本当なら)お嬢様に毒なんて効かないんだよなぁ〟

〝もう無理や諦めろ。俺は諦めた〟

〝やべぇ戦力の合流すぎて海外どころか国内まで騒然としてんのほんま草〟

〝政府高官「草じゃないが」〟

 


 2人が仲良く帰還するなか、その規格外同士が結んだ同盟に大騒ぎが続くのだった。



――――――――――――――――――――――――――

シャリー様「天満大自在天神!」

金属バット装備カリンお嬢様「雷鳴八卦!」

ダンジョン庁新長官「ギ、ギリギリセーフ……!? いやこれセーフなんですか!?」


パロネタはどこまで通じるのだろうかと思いつつ、次回以降もうちょい騒ぎの後始末が続きますわ(地味に影狼様とか犬飼様とかのワンちゃんコンビが放置されたままですし)


※ちなみにちょいちょいコメントで言及されてて作中ではほんのり匂わせしかなかったので言っちゃいますと、サイドエフェクト兄貴の正体は福佐洋壱刑事ですわ! カリンお嬢様のレベルが測れず戦いていた感知特化の対探課刑事ですわね(サイドエフェクトが副作用を意味するというのが名前の由来ですの)

画面越しに色々感知できるくらいに有能なのは間違いないですが、配信の時間帯とか考えるに仕事サボってコメントしてるときもありそうですわね!


※追記:カンストお嬢様に毒なんて効くわけねえだろ! というコメントが多々寄せられていたので作中にもちょろっと追加ですわ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る