第104話 ダンジョン女王のユニークスキル


「刮目せよ、妾のユニークスキル、その名も〈ぱくぱくもぐもぐ〉じゃー!」


 そう言ってダンジョン女王シャリーが魔法でトロルグリズリーの胸を貫き討伐した直後、不可思議なことが起きた。


 モンスターは討伐されたあと、比較的すぐにダンジョンに吸収される。

 だがシャリーに倒されたトロルグリズリーは爪と牙など通常はドロップアイテムとして残るような部位だけ消滅し、逆に身体全体を残して消える気配がなかったのである。



〝え!?〟

〝は?〟

〝ちょっ、これなんで消えねーんですの!?〟

〝さすがにあの巨体だとダンジョンに吸収されるのに時間がかかる……って吸収される気配すらない!?〟

〝ドロップ部位っぽいとこだけ消えてる……!?〟

〝どゆこと!?〟

〝お、おいこれぱくぱくもぐもぐって名前からしてまさか……!?〟



「ふっふっふ、なんとなく予想がついておる者も多いようじゃの」


 スマホから視聴者の反応を見ていたシャリーは悪戯っ子のように微笑む。

 そしてマジックの種明かしをするように、自らのユニークスキルの概要を明かした。


「そう、察しのとおりこのユニークスキルは妾と妾の近くの者が倒したモンスターの血肉をこの世に留め、誰でも食べられるようにするスキルなのじゃ!」


「マ、マジですの!?」


 得意気に断言したシャリーの言葉に、カリンがくるくるとお腹を鳴らしながら目を見開いた。



〝えええええええええええええええええええ!?〟

〝嘘でしょ!?〟

〝ガチで!?〟

〝え、え、マジで!?〟

〝モンスターの食肉化って昔ちょっと研究されてたけど無理って結論出てたやつではなくて!?〟

〝ドロップした部位以外はすぐ消えちゃうのはダンジョンの鉄則でしてよ!?〟

〝リアルダンジョン飯が出来る……ってこと!?〟

〝そんなことある!?〟

〝ユニークスキルがいくら不思議能力の見本市とはいえそれは……〟

〝そんなもんあったらマジもんのユニーク(唯一)スキルじゃね!?〟



 本来ならば例外なく灰となってダンジョンに還るはずのモンスターの肉をこの世に留め、あまつさえ誰でも食べられるようになるというトンデモスキルにコメント欄も大騒ぎになる。


「まあにわかには信じられんのも無理はなかろう。というわけで実際にやってみるのじゃ」


 言ってダンジョン女王シャリーは慣れた手つきで〝調理〟をはじめた。 

 身の丈10mを超えるトロルグリズリーを風の刃でざっくり解体。

 毛皮を雑に剥ぎ取り、これまた雑に切り出したのはモモ肉だ。


 その大きさは尋常ではなく、持ちやすいように細く削った骨の先にあるのは1メートルを軽く超える巨大な肉塊である。


 シャリーは骨部分を持ったまま、もう片方の手で魔法スキルを発動。

 まるで魚を焚き火で串焼きにするように、魔力のこもった特殊な炎で肉全体を包むように炙りはじめた。


 途端――ジュウウウウウッ


 人の本能を刺激するような肉の焼ける音が浮遊カメラを通して全世界に発信される。



〝うおわあああああああああああ!?〟

〝耳から涎が出ちゃう音ですわあああああああああ!?〟

〝突然の飯テロ〟

〝あーダメダメ(肉の焼ける音とか)エッチすぎます〟

〝マジでモンスター調理してる!?〟

〝狩って解体してその場で火あぶりって完全にジビエ扱いですわ!?〟

〝うっそだろ……!?〟

〝てか調理方法が豪快すぎるwwwww〟

〝肉でかすぎですわよ!?〟

〝これ火が通るの!?〟



 ダンジョン女王シャリーの放つ炎は魔力が通った特殊なものだからだろう。

 様々なコメントが爆発するなか、骨付きモモ肉には比較的早く火が通る。

 そして、


「よしよし。ひとまずはこんなもんじゃろ。それでは――あむ!」


 がぶりゅっ!


 ダンジョン女王シャリーが焼きたてのお肉にかぶりついた途端、黄金の肉汁が溢れ出す。旨味のたっぷり詰まったそれをこぼさないように注意しながら、シャリーが歯ごたえのあるそれを満面の笑みで咀嚼、嚥下した。


「くはー! さすがは深層モンスターじゃの! なにもせずただ焼くだけでしっかり美味いのじゃ!」



〝マジで食べたああああああああああ!?〟

〝うわ……本当に美味そう……〟

〝モンスターのくせに脂ものりまくってるしガチで美味いやつじゃんこれ……〟

〝映像だけでいい匂いがしてきますわー!?〟

〝おいおいおいおいマジかこれ!?〟

〝いろんな意味で衝撃映像すぎる……〟

〝モンスターってこんなに美味しそうな肉してるんですの!?〟

〝こんなヤベェ飯テロを不意打ちでやるなんて大罪でしてよ!?〟

〝今日の晩飯は焼肉だな(確定)〟

〝カリンお嬢様の「お優雅」とは別ベクトルで衝撃すぎますわよこの動画!?〟

〝あれ? てかなんかお嬢様が静かですわね?〟



 本当にモンスターを食べてみせた非常識極まりないシャリーの姿。

 そしてその予想を遥かに越えて美味そうな様子に視聴者たちから様々な声があがる。


 とそんななか、先ほどからカリンがだんまりなことにシャリーも気づく。


(ありゃ、もしかして戦闘はいけても肉の解体こういうのは苦手なタイプじゃったか? というか画面越しならまだしもモンスター食は初見じゃと結構引かれるし……こやつならそういうの全然平気じゃろと勝手に思っておったが少しはしゃぎすぎたかの……?)


 やけに静かなカリンのほうを恐る恐る振り返る。


 すると、


「………………………………………(だばー)」


 カリンは焼けた肉をガン見して涎を垂らしていた。

 瞳孔もガン開きである。


「ちょっ!? お主! よだれよだれ! 〝お優雅〟はどうした!?」



〝草〟

〝草〟

〝草〟

〝おハーブ〟

〝カリンお嬢様完全に飢えた野犬の顔で草〟

〝待てができるだけちょっと賢い飢えた野犬〟

〝「お嬢様」のしていい顔じゃねーですわー!?〟

〝空腹のお嬢様にその肉は刺激が強すぎましたわね……〟

〝脳内メーカーに「肉」しかなさそうな顔〟

〝シャリーちゃん大慌てで草〟

〝カリンお嬢様! お顔! お顔!〟



「――はっ!? ち、ちが! これは違いますわ!」


 シャリーや視聴者からの怒濤のツッコミに正気を取り戻したカリンは慌てて涎を拭う。


「これはその……わたくしよくダンジョンアライブやほかのアニメでお肉食べるシーンを見ながら薄めた焼肉のタレをかけたモヤシをお肉だと想像しつつ食べたりしてて……! それでつい条件反射で!」



〝かつてないほどなんの言い訳にもなってなくて草〟

〝お嬢様お行儀悪いですわよ!?〟

〝いやまあグルメ漫画見ながらご飯食べると箸が進むのはわかるけども〟

〝お嬢様が送ってきた悲惨な食生活の解像度あげないでくださいます!?〟

〝(´;ω;`)ブワッ〟

〝投げ銭ー! 早く(お嬢様の通帳に)来てくれー!〟

〝そら親友ちゃんも隙あらばお嬢様に鍋詰め込みますわ〟

〝おハーブ〟



「くく、ははは! そうかそうか。まあお主はそうじゃろうな。よしじゃあ遠慮なく食べるといい!」


「! いいんですの!?」


「いいもなにも、さっき言ったじゃろ。わざわざユニークを明かしたのはお主の腹の虫をおさめがてらじゃ。材料費もゼロじゃし気兼ねせず食うがいいぞ」


「……! そ、それでは……!」


 ほっとしたように笑う女王シャリーの言葉にカリンがごくりと喉を鳴らす。


 さすがに直接かぶりつくのははしたないと最後のお優雅精神力を振り絞り、カリンは脂が手につかないほど鋭い手刀でお肉をカット。アイテムボックスから取り出した割り箸(スーパーでもらえるものを溜め込んでいた)でキャッチし、ジューシーな匂いに誘われるようにして頬張った。


 ジュワッ!


「!」


 瞬間、口内に広がる旨味の爆弾。

 それは勝手に口が動いてあっという間に飲み込んでしまうほどで。


「~~~! う、うんめぇですわああああああああああああ!?」


 飲み込んでしまった次の瞬間、ずばばばばば!

 カリンはさらに手刀を駆使し、切り取ったお肉を次々と口内に運んでいた。


「こんな、モンスターのお肉ってこんなに……焼肉のタレやお塩なしでも美味しいんですの!? おほっぺがいくつあっても足りませんわよ!? こんなのまるで、まるで……美味しいですわ!」



〝凄い勢いで食いついてておハーブ〟

〝ガトリングみたいな勢いでエサ食べるアヒル!〟

〝飢えた野犬通り越して飢えたケルベロスやろこれww〟

〝実際口が3つある勢いで食べてるなww〟

〝語彙力ゼロの食レポで草〟

〝いやでもお嬢様めっちゃ幸せそう&美味しそうに食べますわね!?〟

〝なんかマジでお肉食べたくなってきましたわ……〟

〝これは語彙力ゼロでも食レポ案件がくる顔〟

〝食レポパントマイマーかよwwww〟

〝あ、あの、なんか普通に手でお肉カットしてませんこと?????〟



「わはは! いい食いっぷりじゃな! それだけ喜ばれると妾もユニークスキルを開示した甲斐があるわ! にしても……」


 カリンの幸せそうな食べっぷりにシャリーが上機嫌に笑う。

 しかしふと少しばかり心配げな表情を浮かべて、


「食べさせてから言うのもなんじゃが……お主、会ったばかりの者から振る舞われた怪しい料理など食べまくってええのか? そもそもモンスターの肉じゃし。知り合いは大体みな腹が空いておる状況でも最初は結構な難色を示したもんじゃが」


「食べて大丈夫かなんて視ればわかりますもの! それにこれ、とってもとっても美味しいんですのよ!」


 シャリーの懸念にカリンは引き続き幸せそうな笑みを浮かべ、


「以前ダンジョン内でお腹が空いて試しに焼き殺したモンスター様のお肉を食べてみたときは口のなかでじゃりじゃり灰になって最悪だったんですけど、このお肉はそんなことありませんし!」


「お主なにやっとんじゃ!?」



〝カリンお嬢様!?〟

〝なにやってんですの!? マジでなにやってんですの!?〟

〝なにやってんだ山田ァ!?〟

〝嘘でしょ……!?〟

〝さすがにそれは誇張エピソードですわよねお嬢様!?〟

〝野生児を越えた野生児〟

〝最近チンピラやジェノサイド成分が鳴りを潜めてたと思ったらこれだよ!〟

〝掘れば掘るほどトンデモ戦闘力とお優雅スキャンダルが出てくる女〟

〝ネタの宝石箱かな?〟

〝ネタの宝箱かな?〟

〝こんなんもうネタのミミックだよ〟

〝なんでまだこんなエピソードが眠ってんだよ!?〟



「え、あ、い、いやいや違いますわよ!?」


 ドン引きのシャリーと視聴者にカリンが食べる手を止めて慌てて釈明する。


「ちょ、ちょっとでも節約になるかなと思って食べてみただけというか好奇心というか……き、気の迷い! そう! 気の迷いというだけで何度もやってるとかそういうわけではないんですのよ!?」



〝普通の人はただの気の迷いでモンスターに食いつかねぇんだわ……〟

〝ま、まあ山で遭難した人が苦肉の策でオタマジャクシ飲み込むとかあるらしいし……〟

〝この遭難もなにもしてないお嬢様は一体……?〟

〝相変わらずなんの言い訳にもなってなくておハーブ〟

〝こ、これに関してはお嬢様じゃなくて貧乏が悪いから……〟

〝わたくしも結構な貧乏生活ですけど一緒にしないでくださいます!?〟

〝お嬢様にひたすら鍋を詰め込む親友ちゃんの気持ちがわかる配信〟

〝モンスターを食べられるユニークスキルなんて超絶トンデモを披露した相手をツッコミに回らせる女〟

〝トンデモスキルにトンデモ言動だけで張り合ってるお嬢様はなんなんですの????〟



 と、カリンのうっかり黒歴史お漏らしに怒濤のツッコミが入る。

 シャリーの披露したユニークの話題がすっかりそちらに持って行かれてしまったほどだ。


 しかしその直後。

 またすぐに話題の中心がシャリーへと戻る。


 なぜならアフリカ統一ダンジョン女王の持つユニークスキルのトンデモ具合はただモンスターが食べられるだけに留まらなかったからだ。


「……ん? あれ?」


 と、視聴者たちに必死の言い訳をしていたカリンが首を捻る。

 なにやらお腹の中心から力が漲ってくるのだ。


「なんだか力が沸いてくるような……というかこれ、間違いなく魔力と体力が回復してますわね? え、これってもしかして――」


「お、気づいたな」


 先ほどまでカリンの黒歴史お漏らしにドン引きしていたシャリーが「んふふ」と得意げに笑みを浮かべる。


 そして自らのユニークスキル〈ぱくぱくもぐもぐ〉が持つさらなる効果を口にした。


「妾のスキルで食えるようになったモンスターの肉はな、種類に応じてバフや体力回復など様々な効果が出るんじゃよ。特に濃密な魔力を身に宿す下層以降のモンスターに顕著でな。この熊の場合は魔力と体力回復の効果があったようじゃ」


「! そんな効果までございますの!? ただでさえ美味しいお肉ですのに!」


「ふふふ、凄いじゃろ! まあせっかくの肉も妾から離れすぎたりダンジョンの外で食うとただの美味い肉になってしまうがな。なんにせよダンジョン攻略にはなにかと役に立つぞ」



〝え〟

〝!?〟

〝は!? マジで言ってます!?〟

〝そんな効能まであんの!?〟

〝いや確かにモンスターの肉なんて普通じゃないだろうけどそれにしたってさあ!?〟

〝モンスター素材から作った回復補助薬や体力増強剤もあるからなくはないだろうけど……〟

〝え、じゃあつまりかさばるアイテムや食料もたずにダンジョン内で直に無限補給できるってこと!?〟

〝効果の度合いがわからんけどなんにせよダンジョン内無限補給は無法すぎんか!?〟

〝なんか補給どころかバフがかかるとか言ってんですけど!?〟

〝モンスターの肉が食えるだけならただのトンデモだけど特殊効果つきってこれは……〟

〝え、ぶっ壊れでは……?〟



「い、いいなーですわー!」


 そのとんでもない効能を実際に体験しているカリンは視聴者と一緒になって叫ぶ。


「ダンジョンのなかでこんなに美味しいご飯が食べられるうえに体力や魔力の回復まで! ダンジョンの奥でお腹を空かせることなくどこまでも進めてお稽古し放題ではありませんの!」


「ふふふ、そうじゃろうそうじゃろう。……ん? でもお主はお主で大容量のアイテムボックスがあるではないか。そこに食料を詰めておけば妾ほどじゃないにしろ荷物に悩まされず補給できるはずじゃろ?」


「……。いくらアイテムボックスでも最初からないものは出し入れできませんわ……」


「あ……そ、そうじゃったな……」



〝草〟

〝幼女ちゃん再びドン引きでおハーブ〟

〝深淵に羊羹1個とお紅茶だけで突っ込んでいったお嬢様の悲哀が見えますわね……〟

〝お嬢様、アイテムボックスなんて必要ないくらいの携帯食しか持てませんものね……〟

〝いやでも、カリンお嬢様が羨むのも納得のぶっ壊れスキルじゃないかこれ……?〟

〝ダンジョン内で食える限りバフと魔力体力回復いけるとかうらやますぎなんだがー!?〟

〝てかダンジョンの外に肉持ち出せるのがガチなら特殊効果抜きにしてもヤバいですわよ!?〟

〝な、なぁこのユニーク……恐らく肉ばっかとはいえ下手したらダンジョンひとつ確保しとくだけで兵站とかめっちゃ有利にならない……?〟

〝軍の指揮官が喉から手が出る能力……〟

〝……大陸統一の大戦争とかで随分役に立ちそうなスキルですわね〟

〝↑君のような勘のいいガキは嫌いだよ〟

〝おいおいおいおいおい〟

〝いやあの、各所で考察されてるけどやっぱこの子ホントにダンジョン女王本人なんじゃ……〟

〝ちょいちょいコメントあったけどその説ガチなの!?〟

〝さ、さすがに女王本人ってのは……〟

〝ぱくぱくもぐもぐさん、ダンジョンに3ヶ月潜伏とかって女王の逸話とも合致すんだよな……〟

〝飲み水だけなら湧くダンジョンも普通にあるしこのスキル下手したらモンスターの血も飲料水代わりにできそうだし……〟

〝(てゆーか肉をダンジョンの外に持ち出した発言の時点でこの子やっぱ日本の14歳じゃないのでは……???)〟

〝なんかトンデモ説がどんどん否定しきれなくなってくのがマジで怖いですわ!?〟

〝なんにせよそんな疑惑が出るくらいトンデモスキルなのは間違いないですわよ!?〟



「ま、でもこの〈ぱくぱくもぐもぐ〉も欠点があってなぁ」


 本気で羨ましがるカリンとざわつく視聴者の言葉を受けてシャリーが補足するように言う。


「下層以降のモンスターの肉はある程度の大きさまで切り分けることはできても、それ以上の細かい調理ができんのじゃよ。ほれこんな風に」


 言って女王が風の刃でまだ火の通っていない熊肉を細かく裁断すれば……ずさぁ。


 それまで瑞々しい輝きを放っていた生肉が突如として灰に変わりダンジョンに吸収されてしまった。


「中層までの肉ならソーセージだのなんだのと細かく調理できるんじゃがな。下層以降の肉は見てのとおりろくな加工ができん。さっきの熊肉のように雑に切って雑に焼くぐらいが精々なんじゃよ。〈神匠〉が下層以降の素材しか加工できんのとちょうど真逆に近いな」


 シャリーが悩ましげに続ける。


「とはいえ〈ぱくぱくもぐもぐ〉の場合、下層以降の肉も雑に切って焼く程度ならできる以上はなにかしら抜け道があるとは思うんじゃが……いくら検証しても細かい調理を施す術がとんと見つからん。まあ深層以降の肉は焼くだけで十分美味いからええんじゃが、それだけだと味変しても飽きやすいし、ちゃんと調理できればもっともっと美味いと思うんじゃよなぁ」



〝ほえー〟

〝出ましたわねユニークスキルあるあるの謎仕様〟

〝〈神匠〉がああいう仕様だし割と納得の制限〟

〝え、いやそれ欠点ですの……?〟

〝下層以降の食材が食えないってならまだしも焼けば食えて特殊効果まで出てるんだが……?〟

〝欠点と言いつつ味の話ししかしてないの草〟

〝欠点って魔力消費が激しいとか肉にできる量に限りがあるとかそういうんじゃないのかよ!〟

〝い、いやまあ食事の味はメンタルに直結するし……〟

〝飽きがくるつっても切って焼くだけで十分美味そうなんだよなぁ〟

〝というかモンスターの種類が多いし調理法が単一でも飽きがこなさそうだよな〟

〝ダンジョン内で食うならそもそも切って焼くくらしかできなさそうだし〟

〝これつまり実質欠点ゼロの壊れユニークでは???〟

〝いやまああんだけ美味そうな肉が切って焼くしかできないのが惜しいのはわかりますけども!〟



「ほえー、そうなんですのねぇ。これだけ美味しいお肉が食べ放題なのに、それは確かにもったいないお話ですわ」


 シャリーの語る欠点に視聴者たちが首を捻る一方、カリンはシャリーに共感するように深く頷く。


(まあでもこのスキルってお肉という名の素材が絶対にドロップするみたいなものですし、そう考えると妥当な制限かもしれませんわね。とはいえ本当にもったいないですわ……この熊肉とか色々な料理を想像するだけでよだれかけ必須ですのに……)


 とカリンは諦めきれないとばかりにじーっと熊肉を見つめていたのだが……そのときふと「ん? 素材? ……あ!」となにかに気づいたように声をあげる。


 そして、


「シャリー様!」

 

「え? な、なんじゃカリン」

 

 いきなり声を張り上げて駆け寄ってきたカリンにシャリーが肩を揺らす。

 するとカリンは目を輝かせて、


「その加工できないお肉、わたくし調理できるかもですわ!」


「……え!? ど、どういうことじゃ!?」


 シャリーが戸惑っていればカリンは早口で、


「モンスターから入手できるお肉ならドロップアイテムのようなもの。そして加工職は通常では加工できない素材を、スキルで作った魔法工具で加工することがございますの! つまり! わたくしが〈神匠〉で魔法装備ならぬ魔法調理器具を作り、それを使って通常加工スキルを発動させればほかの方も食べられる形でお肉を調理できるかもですの! というか視た感じいける気がしますわ!」


「!」

 

 じゅるりら。


 そんな音を微かに響かせながら目が肉になっているカリンのその言葉に――〈神匠〉と〈ぱくぱくもぐもぐ〉が思わぬ相乗効果好相性を発揮しそうな可能性に、女王シャリーが目を丸くした。



 深層での加工スキル発動。

 それがもたらす効果までは思いが及ばないまま。


――――――――――――――――――――――――――――――

いちおうフォローしておくと、カリンお嬢様は餓死寸前まで追い詰められてとかではなく本当に出来心半分でモンスターにかぶりついてます。余計に酷い。

また、女王様はユニークスキルの全容を明かしてはいなかったりします。明かした情報も「嘘は言ってない」部分があったり。当たり前といえば当たり前ですが、さすがにそのあたりはちゃんと情報を出し過ぎないようにしてますわね。お嬢様と違って。


※あと言及し忘れていましたが102話に出ていた「イヌと和飼せよ」の赤スパは普通に犬飼洋子様でしてよ!(本人が直接書き込んでるかスケープゴート経由かは不明ですが)。文体が敬語だったせいかちょいちょい光姫様が疑われてておハーブでしたわー!(やりかねないと思われているという意味で)

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