第103話 きゅるきゅるくー


「わははははははは! 急に押しかけて勝負を仕掛けたぶん、深層に辿り着くまでの道中は感知スキルで道案内してくれるカリンの代わりにちょっと張り切っちゃうのじゃ!」


 ドガガガガガガガガガガガ!


「「「グギャアアアアアアアアアアアッ!」」」


 下層においても、カリンとダンジョン女王シャリーの快進撃は留まるところを知らなかった。


 さすがに身に纏う風魔法だけですべて瞬殺とはいかないものの、シャリーのまき散らす規格外の魔法スキルは道中のモンスターたちになにもさせず一方的に粉砕。


 感知スキルでダンジョン全体の様子を完全把握するカリンの道案内もあって一度も立ち止まることなく下層のボス部屋に到着したかと思えば、


「どうりゃあああああああああ! ですわあああああああああああ!」


「おお!? これはいちいち魔法に追尾機能を付与せんでも楽に当てられてええな!」


 ドゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオン!


「ギイイイイイイイイイイイイイッ!?」


 ボス部屋に出現した身の丈20メートル近いボス、ジェネラルオークをカリンが鷲づかみ。とんでもない怪力によってお優雅にぶん回し、ハンマー投げのように空中高くへ投擲。かと思えば空中で身動きの取れなくなったボス目がけてダンジョン女王シャリーが魔法を集中砲火。なにもさせてもらえず爆散したボスの破片をひょいひょい回避しつつ、怪物2人は次の階層へと突き進んでいった。


 

〝えええええええええええええええええええええ!?〟

〝当たり前のような顔して無茶苦茶なダンジョン攻略すんなですわ!?(いまさら)〟

〝この方たちのスペックにはもう驚かないけど力の使い方が蛮族すぎて変な声でますわよ!?〟

〝カリンお嬢様、前にラージキメラぶん回したときより軽々放り投げてない……?〟

〝おいやめろよお嬢様がこの短期間で明らかに強くなってるなんて怖い話すんの!〟

〝セツナ様ブーストの効果が目に見えて現れてる……〟

〝お嬢様これわたくしたちの見てないとこでまた深淵お散歩してませんこと……?〟

〝深淵保有ダンジョンに出入りした人の記録調べたらやべぇデータ出てきそう〟

〝絵面が衝撃的すぎていまの雄叫びはお優雅なのか? なんて疑問を差し挟む余地すらねえですわ!〟

〝へー、これが熟練探索者の連携ですのね!〟

〝↑常識が手遅れになる前にいますぐ光姫様のまともなほうの配信見直してきてくださいですわ。ソロだけじゃなくて連携指南もしてるので〟

〝なにこの……なに?〟

〝なぁ……やっぱこの配信ってアニメじゃねえの……?〟

〝わぁ……まるで実写みたいな作画ですわぁ……〟

〝背景だけじゃなくてキャラまで実写みたいな神作画なんて珍しいですわね!〟

〝背景もキャラも実写なアニメはもう現実なんよ〟

〝そりゃこれ現実だからな〟

〝嘘だぽんぽこぽん〟

〝わたくし都内住み、足下でこんなバケモノ2人がきゃっきゃうふふと暴れ回っている事実に震える〟


 

 同接1千万を超えてなお増える視聴者たちが唖然としているのか、逆にコメントの流れも遅くなる。


 そうこうしていればノンストップな2人はあっという間に下層も踏破。

 目的地である深層に無傷かつ異常な速度で到達する。


「よっしゃー! 着きましたわー! 道中でも結構色々と連携できましたけど、ここからは改めてお互いにできることの確認がてら、じっくり攻略していきたいですわね!」


「じゃの! もっとお互いのことをよく知って仲良くなるのじゃー!」



〝はっっっっっや!〟

〝あの……攻略開始から30分もかかってないんですけど……〟

〝うせやろ!?〟

〝あまりに情報が特濃すぎてもっと経ってるかと思ってましたわ……〟

〝ダンジョンを切り刻んでのショートカットもなしにこれとか……〟

〝小回りの効く戦闘機が追尾ミサイルで障害物排除しながら突っ走ってたようなもんだからな……(お嬢様レーダーつき)〟

〝学生探索者パーティが攻略開始から30分……頑張って上層第2層に辿りついたくらいやろなぁ(震え声)〟

〝カリンお嬢様とシャリー様が楽しそうでなによりですわ!(白目)〟



「グルアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 と、そうこうしていれば早速深層のモンスターが現れた


 ズシンッ! ズシンッ!


 下層に比べて遥かに広く天井の高い通路の向こうから近づいてくるのは、身の丈10メートルはある怪物。


 全身筋肉の塊と表現するにふさわしい巨大な熊型モンスターだった。



〝でっっっっっ!?〟

〝ほぼボスモンスのサイズじゃん!?〟

〝この大きさでミノタウロス強化種以上のガチムチは画面越しでも圧がヤバいですわ……〟

〝爪がぶっとい斬馬刀みたいなサイズなんですけど!?〟

〝あ、こいつ知ってる! トロルグリズ リーってやつじゃね!?〟

〝前の深層配信で色々慣れたかと思ってたけどやっぱ深層ヤベェですわ……〟

〝ここは深淵保有してないダンジョンらしいから奥多摩より難易度低いんだろうけどやっぱ下層と比べると異世界だわ……〟



 見るからに凶悪なモンスターの登場に視聴者たちがざわつく。

 しかし当然、その程度の脅威でお嬢様は欠片も怯まない。


「お、出ましたわね! じゃあとりあえず、まずはわたくしが様子見ですわ!」


「グルオオオオオオオオオッ!」


 ドンッ!


 ダンジョンを揺るがす勢いでカリンが地面を蹴り、大木のような腕を振りかぶったトロルグリズリーに肉薄。凄まじい勢いで振り回される敵の両腕をドレスを翻し完璧に回避したかと思えば、


「せいっ!」


 ドッゴオオオオオオオオオン!


「ガアアアアアアアアアアアッ!?」


 振り下ろされたトロルグリズリーの腕に〈無反動砲〉を発動させた拳をぶつけ、そのまま本体ごと強引に殴り飛ばした。ボスモンスタークラスの体躯が高速でダンジョン壁に叩きつけられ轟音が鳴り響く。



〝ちょっ〟

〝ファーーーーーー!?〟

〝いくら魔力アリでもあの体格差で拳ぶつけあって完全に打ち勝つの脳がバグりますわ!?〟

〝これやっぱお嬢様身体能力あがってませんこと!?〟

〝様子見とは一体……〟



 深層モンスターに真正面から殴り勝つカリンに視聴者たちがどよめく。

 だがそこはさすがに深層モンスター。


「グ、ルルルルルッ!」


 直接殴られたのが腕ということもあり一撃ではやられておらず、殺気の籠もった唸り声を漏らす。さらには粉砕された腕が自動で修復されつつあり、カリンに再び襲いかかる。が、


「なるほど。分厚い筋肉と毛皮、あとはそこそこの再生力で物理攻撃に強い典型的な近接タイプですわね。再生以外に特殊能力とかない感じですわ。だったら――これで終わりですの!」


「グガアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 一閃。


 鍛え抜いた感知スキルと殴った際の手応えで相手のシンプルな性質を即座に見切ったカリンは、再生力の源と思しきトロルグリズリーの胸部に跳躍しながら拳を浴びせ、その体を粉砕した。


「よし! 様子見がてら討伐完了ですわ! ちょっと予想はしてましたけど、葛西ダンジョンここは深淵まである高難度ダンジョンと違ってモンスター様がちょっと弱いみたいですわね!」



〝なんか普通に殴り殺してるんですけど(恐怖)〟

〝様子見ってなんだっけ(2回目)〟

〝なんで物理耐性のある深層モンスターを空中の手打ちパンチで討伐できんだよ!?〟

〝ちょっと弱い(お嬢様基準)〟

〝い、いやまあ確かに奥多摩の特殊能力祭りと比べたらアレだけども……〟

〝わたくしたちからしたらどっちもバケモンなんですわよ……〟

〝物理に強い方みたいですわね~からの魔法特化シャリー様無視してそのまま殴り殺すのは脳筋すぎる……〟

〝カ、カリンお嬢様は年下(仮)のシャリー様に任せる前に可能な限り情報収集に努めたまでだから……〟

〝情報収集(討伐)〟



 若干物足りなさそうに言うカリンに視聴者たちがちょっと引く。

 しかし仮にも深層だけあり、その脅威はトロルグリズリー1体だけでは終わらなかった。


「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」


 まるで同族の死に激昂したかのように、通路の奥から何体ものトロルグリズリーが出現したのである。



〝おいおいおいおい!?〟

〝こっっわ!?〟

〝いややっぱ深層あかんですわこれ!?〟

〝インセクトウォーリアーとかの大軍よりは弱いんだろうけど圧が尋常じゃねえですわ!?〟

〝画面越しなのにいますぐおうちまで逃げ帰りたい気分ですの!〟



 トロルグリズリーの習性……というより恐らくはこの物量が葛西ダンジョン深層の特徴なのだろう。普通の探索者であればすぐさま下層まで引き返すような光景が広がりコメント欄でも悲鳴があがる。だが、


「お、あの数は今度こそ妾の領分じゃな!」


 それまでうずうずと力を溜めていたダンジョン女王シャリーは満面の笑み。

 前衛ってやつやってみますわー! と熊の大群目がけてたったか駆けだしたカリンの後ろで人外の魔力を練り上げる。


「しかしアレじゃな。このまま無数の魔法をぶっ放すだけでは下層までと変わらんのじゃよなぁ。それだと動画の撮れ高? とやらがよくないじゃろうし、カリンには妾がやれることを色々しっかりアピールしたいし……あ、じゃあ久々にアレやってみるのじゃ!」


 瞬間――バヂバヂバヂバヂバヂィ!


 電気の弾けるような轟音とともにシャリーの手に膨大な魔力と電撃が凝縮する。

 そして異変に気づいた視聴者たちが「え、なに?」と書き込む間もなく、それは弾けた。


 キュイン――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


「「「「―――――」」」」


 迸る轟音と閃光。

 カリンが背後で湧き上がる魔力に気づいて横に飛び退いた瞬間、深層の通路を超高速の光柱が駆け抜け、進路上にあるものをすべて消し飛ばした。


 その威力と速度は規格外どころの騒ぎではない。


 自分たちが絶命したとも気づかず、おのおの体の吹き飛んだトロルグリズリーたちが一匹残らず崩れ落ちた。ついでに言えば遥か先にあった進路上のダンジョン壁も綺麗な円形にくり抜かれて煙を上げている始末だ。威力が高すぎて無駄な破壊がないのである。



〝は?〟

〝は?〟

〝ちょっ、なにいまの!? ビーム!?〟

〝なんか光ったと思ったら熊さんたちが全滅してるんだが!?!?〟

〝命消失マジックか????〟

〝ちょっと待てなんだよいまの属性としては雷系っぽいけどマジでなに!?〟

〝いや雷系であんな破壊は起きんだろ!?〟

〝ま、まさかレールガンとか?〟

〝魔法スキルが基本高威力つったって限度があるだろ!?〟



 いきなりの出来事に視聴者は愕然。

 そしてその規格外魔法を見たカリンは大興奮である。


「おおおお!? かっけーですわー!? いまの電気バチバチビーム、ダンジョンアライブでも似たような技を見たことありますの! それどうやってるんですの!? ただの魔法スキルではありませんわよね!? 技名とかありまして!?」


「ふっふっふ。これは荷電粒子砲といってなぁ。ち~~~さい粒に電荷を付与、思い切り電圧をかけてめっちゃ早く飛ばしておるんじゃ。まあなんか既存の科学法則が当てはまらん魔力由来のせいか亜光速とはほど遠いのに成立しとったり、大気中でも真っ直ぐ飛んだり反動もあんまかなったりとよくわからん疑似荷電粒子砲といったところじゃがな。それでもかなりの威力と速度が出るぞ!」


「???? へー!」



〝はああああああああああああん!?〟

〝いま荷電粒子砲っつったかこのバケモン幼女(仮)!?〟

〝魔法スキルを応用したら荷電粒子砲撃てるんですの!?〟

〝そこはせめてレールガンであれよ!〟

〝もうどっから突っ込んでいいのかわかんねぇですわこの配信(n回目)〟

〝カリンお嬢様がまったくなにも理解してない顔でおハーブ〟

〝あ、これ警視庁コラボで置物化してたときに見たことある顔ですわ!〟

〝よ、よかった……荷電粒子砲の仕組みを学習して再現するお嬢様はいなかったんですのね……〟

〝油断するなお前ら……お嬢様がお優雅トリングや魔龍鎧装を理論的にしっかり理解して作ってると思ってるのか……?〟

〝本能で理解して完コピしてくる可能性あるぞ……〟

〝カリン党の皆様の反応がラスボスの絶望的戦力を分析する味方側の参謀で草なんよ〟

〝いやあの、疑似とはいえなんで生身の人間が荷電粒子砲撃ってんです……?〟



「やっぱりすっげぇですわ! こりゃわたくしも負けてられませんわね! 互いにできることを確認し合う場で出し惜しみはお優雅ではありませんもの!」


 と視聴者とは正反対に大興奮のカリンは鼻息を荒くしながら深層を進む。

 するとちょうどそのとき、


「「「グルアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」


 再び通路の向こうからトロルグリズリーの大軍が現れる。

 しかしそれは先ほど現れた大軍とは様子が違っていた。


「むっ、アレは少々面倒じゃな。魔法反射か」


 とダンジョン女王シャリーが眉根を寄せるように……トロルグリズリーたちはあるものを身に付けていたのだ。


 奥多摩ダンジョンでも出現した魔法反射能力を持つ甲虫モンスターである。


 まるで共生でもするかのようにトロルグリズリーたちは身体中の毛皮にその甲虫を潜ませており、守りを万全に固めていたのだ。



〝うわめんどくさ!〟

〝奥多摩のインセクトウォーリアーインパクトさんと同じ事してますわ!?〟

〝深層モンスターのトレンドかな???〟

〝とりあえず全員撲殺ですわ!〟


 視聴者たちもその既視感ある光景にカリンの突撃を期待する。

 が、


「お、ちょうどいい敵がきましたわね! アレを披露するいい機会ですわ!」


 カリンは大軍を前に突撃したりせず、アイテムボックスからあるものを取り出した。

 甲虫の甲殻を彷彿とさせるキラキラした球体。手の平サイズのボールである。


「えいえいえいえいえい!」


 そしてカリンはその球体を何度も殴打。

 なぜかカリンの拳をもってしてへこみもしなければ周囲に衝撃を漏らすこともないその球体を大きく振りかぶり、


「事前に溜めておいたうえに追加でこんだけ殴れば確実ですわね。それじゃ――えい! ですわ!」


 ぶん! トロルグリズリーの大軍めがけて投げつけた。


 瞬間――ドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


「「「グギャアアアアアアアアアアアアア!?」」」

「「「ギイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」」」


 トロルグリズリーの大軍のど真ん中で、球体がとんでもない衝撃波を炸裂させた。

 それはまるで、――生半可な防御など貫通して内蔵まで染み渡る衝撃波。


 魔法反射能力しかない甲虫はもちろん、高い近接攻撃耐性を持つはずのグリズリーたちをもまとめて粉砕し、周囲のダンジョン壁さえ消し飛ばした。


「やりましたわー! 成功ですわー!」


 カリンはその成果に歓声をあげる。

 が、騒然となるのはコメント欄である。



〝!?!?!?!〟

〝今度はなんですの!?〟

〝ええええええええええええええ!?〟

〝いやおかしいおかしい! 威力そのものもおかしいけどなんであの魔法反射虫もまとめて死んでんだ!?〟

〝え!? 魔法じゃねえのアレ!?〟

〝どゆこと!?〟

〝お嬢様今度はなに作ったんですの!?〟

〝あ、あの……わたくしあの衝撃波? に見覚えあるっていうかカリンお嬢様の「えいえいえいえい」って言いながら殴るお優雅ムーブに覚えがあるというか……〟

〝あ……(察し)〟



「ほお!? 打撃の威力を溜め込み衝撃波として放出する魔法装備か! なるほど、純粋な物理攻撃に近いがゆえに、遠距離範囲攻撃にもかかわらず魔法反射も無視してモンスターの群れを一掃できるわけか! ええのうそれ!」


「でしょう!? わたくし、あのインセクトウォーリアー? とかいう方と戦ったときからずっといい能力だなと目をつけておりまして。この間100体ほど狩ってこの装備を完成させたんですのよ! 思った以上に便利ですわ! 衝撃充填で何度も使い回せる爆弾みたいなものでコスパもいいですし、そのうち浮遊カメラみたいに投げたあと自動で戻ってくる機能もつけたいですわね!」


 そう。

 カリンがいましがた投げつけて回収したボールは、近接攻撃の衝撃を吸収蓄積放出する深層モンスター、インセクトウォーリアー・インパクトの素材を使って作られた〈神匠〉製の規格外装備がひとつ。衝撃を溜め込みすぎて汚ねぇ花火と化したインセクトウォーリアーの姿から着想した新兵器だったのである。



〝あああああああ! そういえばアレと戦ったときにそんなこと言ってたわカリンお嬢様!〟

〝あの物理攻撃全部吸収してくる虫君素材の装備か!〟

〝マジか……いや確かにあの魔法反射虫、前の深層攻略で衝撃波効いてたけどさ……〟

〝あの威力と殲滅範囲で魔法反射が効かないのはずっこいですわよ!?〟

〝衝撃波に魔法耐性は意味なし。物理耐性ある敵もお嬢様の拳数十発ぶんの衝撃なんかに耐えられるわけがない……詰みや。死ぬで君(モンスター)〟

〝いい能力だと思って目をつけてまして←能力を奪う系ラスボスのセリフなんよ〟

〝AFOかな?〟

〝てか虫君知らんとこで狩られまくってておハーブ大農園〟

〝仲間がどんどんやられていく恐怖を散々味合わされた挙げ句魔弾で撃ち殺されて痛かったぞ〟

〝↑成仏してクレメンス〟

〝畜魂碑作られるレベルで虫さん狩られてて草〟

〝虫さんは犠牲になったのだ……お互いの力量を認め合い称え合う尊い百合バーサーカー空間形成のための犠牲にな〟

〝百合バーサーカー空間とかいうパワーワード〟

〝マジでパワーに溢れてるのやめろ〟



「さて、それじゃあこの調子でどんどん深層攻略しながらお互いの理解を深めていきますわよ!」


 立て続けに巻き起こる生態兵器の大暴れに大混乱の視聴者たちを余所に、カリンたちは先に進み始めた。


 と、そのとき。



 きゅるきゅるくー



 なんだか気の抜けるような音がダンジョン内に鳴り響いた。



〝?〟

〝いまのなに!?〟

〝新手のモンスターですの?〟

〝にしてはなんだか随分と可愛らしいような……〟



 場違いなほど可愛らしい音に視聴者たちが一斉に首を捻る。

 次の瞬間、


「うぐふっ!?」


 カリンが耳を赤くしながらお腹を押さえて奇声を発した。

 明らかに異音の発生源である。



〝お嬢様!?〟

〝あ、これもしかしてお嬢様の腹の虫ですの!?〟

〝お嬢様お腹空いてますの!?〟

〝腹ぺこお嬢様は草〟

〝随分可愛らしい腹の虫ですわー!〟

〝(なんか可愛らしい音に反して随分と音量がでかいな……内臓が強化されてるから?)〟

〝お嬢様!? まだ結構早い時間ですのにお腹が鳴るってもしかしてご飯抜いてんですの!?〟

〝ダメですわよまた親友ちゃんに叱られますわよ!?〟



「い、いえ違うんですの!」


 察しのいい視聴者の指摘に誤魔化しきれないと悟ったのか、カリンが慌てて言い訳を開始する(主に動画を見ているだろう真冬へ向けて)。


「その、案件配信のときって緊張しちゃうので朝からご飯をあんまり食べないようにしてるんですの……節約にもなりますし」



〝節約って言ったいま?〟

〝これは親友ちゃん怒りのお説教確定ですわ〟

〝いやまあ緊張する仕事がある日にあんま食べたくないのわかるけども〟

〝案件のためにご飯抜いててそのあとシャリー様との探索が楽しみすぎて仕事終わったあともご飯食べ忘れてたってこと?〟

〝小学生かな?〟

〝この期に及んで節約ってスパチャや広告費まだ振り込まれてないんですの?〟

〝収益化決定からの日数考えたら普通に振り込まれてそうなんだけど〟

〝短期間の間に投げ銭されすぎて事務手続きに遅れが出てるのか……〟

〝そうじゃなくても振り込まれるの確定なんだからちゃんと食べましょうですわ!〟

〝お嬢様が核融合炉みたいなエネルギー効率してるのは知ってますけどなにか食べたほうがいいですわよ!〟


「 う、うーむ、確かにそうなんですけどいまはアイテムボックスにパンとか入ってないですし……とりあえずお紅茶でお腹を膨らませてお優雅でない腹の虫を黙らせるしか……」


「いや、その必要はないぞカリン」


「ほえ?」


 カリンが振り向けば、シャリーが少しばかり呆れたような顔をして、


「まったく。その強さをもってして節約とは。じゃがある意味ではちょうどいいタイミングじゃな! お主ばっかりユニークスキルを晒しておってフェアじゃないと思っておったし……せっかくの機会じゃ。本当はあまり公開していいものでもないんじゃが、お主とは長く付き合っていきたいしの。お主の腹の虫を鎮めがてら、妾のユニークスキルを披露しようぞ!」



〝え〟

〝ユニーク!?〟

〝え、おい、なんか言い方的にいままでの異次元魔法はユニーク関係ないっぽい?〟

〝いままでも大概だったのにこっからさらになにがあるんだよ!?〟



 と視聴者たちがその突然の発言にどよめくなか――ドゴン!


 シャリーは再び近づいてきていたトロルグリズリーを魔法スキルで討伐。

 だが不思議なことに、その巨体はいつまで経ってもダンジョンに吸収されることがなく……。

 

「刮目せよ、妾のユニークスキル、その名も〈ぱくぱくもぐもぐ〉じゃー!」


 爪や牙――通常ならばドロップアイテムとして残る部位だけが消え、逆にそれ以外の部位が普通の野生動物や家畜のように丸々残ったモンスター。


 かつて多くの配下とともに大陸を統一した女王がその巨体を見上げ、得意げな表情を浮かべていた。



――――――――――――――――――――――――

女王のユニーク能力についてはお察しの方も多いかもですが具体的な説明はまた次回、ですわね! ちなみに〈ぱくぱくもぐもぐ〉というユニークスキル名はフェイクというか正式名称は別にあるのですが、「こっちのほうがかわいかろ?」と女王が勝手に名付けたものだったりします


またちょいちょい指摘のある超絶同接のなかでのコメント欄会話ですが、恐らくは常人離れした動体視力とタイピング速度の高レベル探索者が書き込んでると思われますわ!(あとコメントは抜粋されたようなものなので、会話しているコメント同士が実際は結構時間差で投稿されてると思っていただければ!)

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