第101話 掲示板回8、5と新たな敵
【もうやめて!】カリンお嬢様新人育成配信実況スレPart450【行政のライフはもう0ですわ!】
600 通りすがりの名無しさん
今日は駆け出し探索者をお優雅に指導する比較的平和な案件配信みたいだな
そんなふうに考えていた時期がわたくしにもありましたわ……
601 通りすがりの名無しさん
いやマジであのシャリーちゃんとかいう銀髪褐色っ子はなんなんですの!?
なんでカリンお嬢様レベルのバケモンが気軽に生えてきてんだ!?
602 通りすがりの名無しさん
帰化2世の14歳とかぜっっっっっっったいウソじゃん……
603 通りすがりの名無しさん
カリンお嬢様(16歳)とかいう怪異がノイズすぎるけどそれはそれとしてさすがに14歳はねぇよな……いくら幼少期からダンジョン放り込んでる国がちょいちょいあるとはいえ……
604 通りすがりの名無しさん
でもだったら帰化2世でも14歳でもなさそうなあの子はマジでなにもんですの……?
コメ欄にもあったけどなんか海外からの刺客って感じでもないし……
605 通りすがりの名無しさん
なんかめっちゃお嬢様と意気投合してたからな……
606 通りすがりの名無しさん
河原ならぬ海辺で殴り合って仲良くなるとかやっぱりチンピラヤンキーお嬢様じゃありませんの!
607 通りすがりの名無しさん
別スレであった考察なんだが……
・エジプト系? の顔立ち
・女性
・広域殲滅に適した魔法特化=戦争で効率的に敵勢力を殲滅できそうな戦闘スタイル
・特徴的な喋り方から本当はどっかの古い言語を喋ってて、超高級な翻訳系マジックアイテムを使用してる可能性がある=そういうツテや金がある身分疑惑がある
・明らかに自分の存在や実力が世界に与える影響を自覚して発言してるし、無茶苦茶やってるのは間違いないけどなんか細かい立ち回りに政治的な気遣いが見え隠れしてる
って諸々の考察からアフリカ統一ダンジョン女王さんご本人じゃないかってトンデモ説出てるな……
608 通りすがりの名無しさん
ダンジョン女王!?
609 通りすがりの名無しさん
あの中学生に普通に混じってカリンお嬢様の指導配信終了の挨拶ニッコニコで大人しく聞いてる子が!?
610 通りすがりの名無しさん
さ、さすがにそれは色々飛躍しすぎではありませんこと……?(震え声)
611 通りすがりの名無しさん
けど確かにあのヤバい強さはそんくらいの存在じゃないと説明つかんか……?
612 通りすがりの名無しさん
い、いやいやいや、さすがにありえねーですわ!
というかあり得てほしくないですわ!
613 通りすがりの名無しさん
そもそもダンジョン女王とか実在すら疑われてるやつじゃん!?
それにアフリカの女王がわざわざ正体隠してお嬢様に接触とかそれこそアニメじゃないんだから……もし本物だったらケツにダンジョンボア突っ込んで中層攻略配信してやってもいいくらいですわ!
614 通りすがりの名無しさん
ダンジョンボア君がなにしたってんだよ!?
615 通りすがりの名無しさん
ダンジョンボアを解放しろ
616 通りすがりの名無しさん
てかそもそも年齢があわなくないか?
ダンジョン女王ってアフリカ連邦発の怪しげな情報信じるなら確か27歳くらいって推定されてるし
そうじゃなくてもアフリカ連邦爆誕が10年前くらいだから女王が実在するならそれなりの年ではあるでしょ。シャリーちゃんが年齢偽ってるとしてもどのみち20代後半には見えないですわよ。14歳どころか10歳くらいに見えるし
617 通りすがりの名無しさん
それなんだけど……
嘘か真かレベルあげまくると老化が遅くなるんじゃないかって説があるんだよな
身体能力が上がると同時に内蔵とかも強化されるのと似た原理で
アフリカとかそれこそ戦国時代は4、5歳の子供をダンジョンに放り込んでるヤバい地域や軍閥もあったっていうし小さい頃からレベルあげまくってたらそういうこともあり得なくもない……?
618 通りすがりの名無しさん
い、いやぁ、さすがにそこまでいくと与太でしょ……
トップ探索者でも外見と年齢が乖離してるとかほぼないし……
619 通りすがりの名無しさん
荒木○呂彦は超高レベル探索者だった……?
620 通りすがりの名無しさん
でもあの異次元バトルを見た(見えてない)あとだとどんな仮説も頭ごなしに否定できないのがね……
621 通りすがりの名無しさん
いやいやいや!
でもやっぱありえねーですわよ!?
だってもしあの子が27歳のダンジョン女王だったとしたら「20代後半の独裁者が不法入国した挙げ句ダンジョン庁を欺くレベルの公文書偽造で14歳を自称し未成年の女子高生お嬢様に近づいてきた」ってことになりますわよ!?
622 通りすがりの名無しさん
>>621
草
字面がヤバすぎておハーブ農園倒産するわ
623 通りすがりの名無しさん
でもあの子がダンジョン女王じゃなかったらなかったであのレベルの怪物が最低もう1人いる可能性が出てくるんだけどお前らそれでもええんか……?
624 通りすがりの名無しさん
とはいえ本当にダンジョン女王だったら各国上層部の胃が蜂の巣ですわよ!?
625 通りすがりの名無しさん
ダンジョン女王じゃなくても既に蜂の巣確定だからセーフ!
626 通りすがりの名無しさん
カリンお嬢様に一撃当てるバケモンがカリンお嬢様と意気投合して一緒にダンジョン攻略しはじめてるとか指導者層にとっては悪夢以外の何物でもないからな……
627 通りすがりの名無しさん
「一緒に奈落挑戦しませんこと!?」
↑この問題発言を切り抜いて霞ヶ関や各国首都に流し続けたら政治家と官僚全員胃潰瘍でまとめて病院送りに出来そう
628 通りすがりの名無しさん
メンタルに直接ダメージを与える音響兵器とか斬新だな……
629 通りすがりの名無しさん
新手の非人道兵器を生み出すな
630 通りすがりの名無しさん
あ、あのこれシャリー様がダンジョン女王だろうとなんだろうと下手したらカリンお嬢様が深淵ボス撃破したとき以上の国際情勢案件じゃございませんこと……?
631 通りすがりの名無しさん
お気づきになられましたか……
632 通りすがりの名無しさん
なのでいま世界中の掲示板やSNSが大騒ぎを超えた大騒ぎだよ☆
633 通りすがりの名無しさん
ジェノサイドイメージ気にしてたお嬢様が最近大人しくしてたおかげでやっとネットも落ち着いてきたなと思ってたらこれだよ!
634 通りすがりの名無しさん
なんでこんな国際情勢案件がぽんぽん連発されてるんですかねぇ
635 通りすがりの名無しさん
そりゃあ核ミサイルの擬人化お嬢様が配信してれば……ね?
636 通りすがりの名無しさん
今回は向こうから核ミサイルが飛んできたんですけど……
637 通りすがりの名無しさん
核ミサイル同士がぶつかって核融合起きてませんこと……?(誤用)
638 通りすがりの名無しさん
ま、まあなんかもうシャリー様の正体とか考察してても埒があかないですし、なにも考えずカリンお嬢様の突発ダンジョン配信を楽しみましょうでわ!(思考停止)
あ、カリンお嬢様とシャリー様が潜るダンジョンを仲良く相談してて微笑ましいですわね~~(白目)
639 通りすがりの名無しさん
果たしてこの配信が終わる頃、日本は無事でいられるのか……
いやまあこの2人が意気投合してたらむしろ前より安全度高いんだけど
640 通りすがりの名無しさん
なんかわたくしたちいっつもカリンお嬢様の配信で日本の行く末心配してますわね!
641 通りすがりの名無しさん
ま、まあカリンお嬢様のことだから最終的になんやかんや丸く収まるでしょ……(お祈り)
642 通りすがりの名無しさん
いま世界でいったいどんだけの大物が頭抱えとるんやろなぁ
※
国内でもトップクラスの規模を誇る複合企業体。
犬飼工業を中核とした複数の製造業によって構成される犬飼グループ。
都内の一等地に居を構えるその巨大なオフィスビルに、甲高いハイヒールの音が響いていた。
「「「お疲れ様です社長」」」
「はいお疲れ」
多くの優秀な社員に頭を下げられ女帝のごとく社内を進むのは、父である先代社長から犬飼工業及び犬飼グループ全体を引き継ぎ強権的なやり口で経営を拡大させてきた女社長、犬飼洋子。
40を越えているにも関わらず20代前半にしか見えない美貌は社長というより女優かなにかのようで、その顔に浮かぶ上機嫌な笑みはいっそ妖艶ともいえた。
「相変わらずだな社長は……20年くらい年取ってないんじゃないか?」
「社長業も忙しいだろうにどうやって維持してるのか……」
「下請けや傘下企業社員の魂吸ってるなんて言われるわけだ」
「おいおい、バカな下請けどもの恨み言なんて真に受けんなよ? 社長に聞こえるぞ」
「しかし今日も上機嫌だな社長」
「そりゃあずっと経営も順調だしな。下の会社が休み返上して俺たちの要望どおり働いてくれるおかげで」
秘書もつれず1人で社長室のあるフロアに消えていった女社長に、社員たちがそんな声をかわす。事実、年齢をまるで感じさせない犬飼洋子の顔には周囲に人がいなくなったあとも極めて上機嫌な笑みが浮かんでいた。
だがその笑みは強引に買収した企業や下請け、傘下企業の社員たちを使い倒すことで順調に業績を伸ばしている自社の現状に満足してのこと――ではなかった。
「くく、あははははははははは!」
社長室の椅子に座りタブレットを眺めていた犬飼洋子が哄笑をあげる。
その画面に映っていたのは、いくつかのニュース記事やそれに対するネットの声だ。
『【速報】ダンジョン庁のアドバイザー、今年度以降も国内最大手クラン、ブラックタイガーで継続』
『またかよ』
『マジでこいつらはよなんとかしろ』
『対探課や公安もだいぶ頑張ってるって話は聞くんだがなぁ』
『それで成果ありませんじゃあな。こいつらがいつまでものさばってんのマジで国益に影響あるやろ』
『不正や違法行為の証拠が全然出てこんってそんなことある?』
『ダンジョン庁とも癒着してんのが厄介すぎるんだよなぁ』
『ゲロの迷惑配信を野放しにしてるクランがまともなわけないだろなに考えてんだダンジョン庁』
『ダンジョン庁さん今年も相変わらずな模様』
『誰か全部吹き飛ばしてくれマジで』
『特集:ダンジョン後進国と呼ばれる日本の現状と未来への課題~長引く荒川ダンジョンの悲劇の爪痕~』
『かなり気合い入った記事だな。それだけに読んでると気が滅入るけど……』
『いまの日本がダンジョン後進国扱いなのは荒川ダンジョンの件だけが理由じゃないだろうけど、そんでもやっぱこの事件がなぁ』
『いまも水準は悪くないけど、これがなかったらトップクランの数が倍くらいには増えて頭抜けたクランも生まれてたはずってのはずっと言われてるよな』
『ほかに要因はあれどこれがめっちゃ痛手だったのは間違いない』
『これさえなきゃ深層ソロ攻略達成可能なバケモノも生まれてたとか言われてるしなぁ』
『↑公表されてないだけで裏には既にそういうバケモノがいるって噂あるぞ』
『↑さすがにそれは願望がすぎんか?』
『やっぱ外国に倣って14歳未満でもダンジョン挑戦OKにして未成年の素材換金も解禁すべきでは? 探索者の母数が跳ね上がれば現状も変わるでしょ』
『ただでさえ少子化なのにダンジョンで死ぬ数増やしたら子供だけじゃなくて将来的に経済も死ぬぞマジで』
『少子化はほかのダンジョン先進国も同じだし……って普通に労働者人口減って経済ヤバいとこもあるんだっけ』
『それでトップ探索者が増える保証もないしなぁ。それに与党がリスク承知で動こうとしてもマスコミに叩かれまくって終わりでしょ』
『つってもこのままじゃ国防はもちろんダンジョン素材の質や供給量が増えないから将来的に経済も不安じゃね?』
『そのあたりのさじ加減は一生答えが出なさそう』
『国も綺麗事ばっか言ってらんないから自衛隊や公安あたりじゃ秘密裏にアレな方法で戦力拡充してるなんて話も聞くけどどうなんだろ』
『与太でしょ』
『なんかいきなりとんでもない新人でも生えてこないかなとはずっと思ってる』
タブレットに映る文字はいずれも、日本におけるダンジョン社会の現状を憂う記事やネット民の声。
国全体の景気がいいに越したことがない経営者にとって、それらは決して面白い記事ではない。ましてや既存の常識を越えたダンジョン素材が様々な形に活用され製造業にも大きく関わる昨今、素材確保用のクランを独自保有しているおかげである程度カバーできる犬飼グループといえど、日本の探索者界隈が多くの問題を抱えている現状は喜ばしいものではないはずだった。
しかし、
「あははははは! 順調、あまりに順調。計画通りにいきすぎて怖いくらいだわ」
日本のその現状に、犬飼洋子は目に怪しい光を宿して大笑いしていた。
――ダンジョンが社会に出現してしばらくのち、特にダンジョン先進国と位置づけられる国々でダンジョンテロリストと呼ばれる集団が猛威を振るった時期がある。
ダンジョンは危険。個人が強力な武力を得ることが可能なダンジョンは閉鎖すべき。ダンジョンの利用ではなく破壊や消滅の方法を考えろ――反ダンジョン思想と呼ばれる考えを声高に叫びながら、自分たちもダンジョンで手に入れた力をもとに世界中で暴れ回っていた武装集団である。
ダンジョンの入り口を勝手に封鎖するくらいなら可愛いもので、ダンジョンを攻略する探索者との暴行トラブル、ダンジョン利用を推し進める政治家への襲撃など、その活動は年々エスカレート。各国の有力クランと武力衝突する事態も頻発し、とある国が「これは内戦だ」と声明を出す騒ぎになったこともあるほどだった。その統率された動きや尽きることのない活動資金からダンジョンテロリストたちは「某ダンジョン大国が各国の力を弱めて侵略しやすくるために世界中にばらまいた工作部隊」ともいわれ、明らかに浸透工作の痕跡が見られる反ダンジョン思想とともに忌み嫌われていたのである。
しかしそれもいまは昔。
各国が正規の探索者たちとも連携して全力かつ早急にテロ対策を進めたこともあり、現在ではその動きも鎮静化。いまでもたまに騒ぎはあるもののテロリストの存在はダンジョン黎明期の混乱のひとつとして過去のものとなり、活動は長く下火になっていた。
だが――その〝侵略の本隊〟はもっと根深く……。
ダンジョンテロリストの派手で愚かな動きが目を引く裏側で巧妙に狡猾に、侵略の魔の手は何十年も前から各国の奥深くに根を伸ばしていた。
そしてそれはダンジョン後進国と呼ばれる日本も決して例外ではなく……その悪意は国内トップクラスの大企業を完全に掌握、特殊な力の数々を用いて長年にわたり少しずつ侵略の布石を打ち続けていた。
(計画は順調。我が祖国がこの世界の支配者になるまであと少し……!)
犬飼洋子はタブレットにまとめられた日本の現状を見てほくそ笑む。
すべては順調だった。
日本はもともと甘いところがあり、大した工作もなく14歳未満のダンジョン侵入禁止や未成年の素材換金禁止が決定。強力な探索者の絶対数が比較的増えづらい土壌を簡単に作れた。
怪しまれない程度の頻度でイレギュラーを発生させては若い芽を摘み、〝力の開花〟を促してやったブラックタイガーなどの問題クランや犯罪組織が治安維持部隊の負担を増大。公安や対探課の目を引きつけると同時に彼らの修練の時間を削ってくれた。
荒川ダンジョンの悲劇など最高だった。
色々と偶然が重なった結果でもあるとはいえ、日本の戦力を大きく削ることができたのだから。
侵略計画の最終段階において、日本を筆頭に各国の戦力を可能な限り削っておくことは極めて重要。
なかでもとある理由から「最重要戦略地点」とされている日本の戦力拡充を妨げ、ダンジョン後進国と呼ばれる現状にまで落とすことができたのは大きな功績といってよかった。
2人の荒魂級という特級戦力が隠れてはいるが、それでもなお十分なほどに。
(くくく、本当に考えれば考えるほどなにもかもが順調すぎる)
犬飼洋子はほくそ笑む。
誰かから奪い虐げることしか頭にない〝このクズの身体〟とともに手に入れた犬飼グループは計画に必要な研究をはじめ、侵略工作部隊の活動資金確保にも役立っている。あとは祖国の準備が整うのを待ちながら計画の最終段階に必要な研究を進めるだけ。引き続きダンジョン後進国日本の現状を眺めていれば、祖国の侵攻後に日本担当の代表たる自分が極めて美味いポストにつけることは最早疑いようがなかった。
「本当に最高の気分。もう研究の続きも面倒な仕事も、生意気なNO.2や部下に任せちゃって昼間から酒でも飲んでいたいくらいだわ。約束された勝利の美酒を」
言って、侵略事前工作部隊日本担当代表である犬飼洋子は怪しく破顔。
なにもかも思いどおりである現状と自らの輝かしい未来に笑声を響かせていた。
――というのがいまから数ヶ月ほど前までの話。
「ぬ、あああああああああああああ!?」
ほんの少し前まで毎日上機嫌で表向きの仕事をこなしていたその社長室でいま、犬飼洋子はタブレットを凝視しながらデスクに突っ伏すような体勢で頭を抱えていた。
その液晶画面に表示されているのはダンジョン社会において国際的に後れを取る日本の現状を憂う言説――などではない。
『ち、違いますのおおおおおおおおおおおお!』
そこに表示されていたのは、ブラックタイガー壊滅や未成年の深層ソロ攻略などここ最近のアレコレをまとめた目を疑うような記事の数々。そしてフリフリドレスの自称お嬢様が絶叫しながらジェノサイド疑惑を否定する場面を切り取った動画だった。
山田カリン。
ダンジョン後進国であるはずの日本に突如として出現した異常戦力である。
「な、んなのこの頭おかしいバケモノは……!?」
先日までの上機嫌とは一転。
犬飼洋子は頭を掻きむしらんばかりの勢いで「ふざけるな……!?」と繰り返す。
荒魂――国家転覆級と呼ばれる探索者のなかでも明らかに上澄みのデタラメな存在。
しかもその頭のおかしさと戦闘力に反してどうにも善性が強いようで、こんな心優しい怪物がいては計画の最終段階に支障が出る可能性が極めて高かった。
加えて目障りなのはその底知れない戦闘力だけではない。
山田カリンの配信活動によって、ブラックタイガーやそれに連なる不穏分子が大掃除されてしまったのである。
犬飼洋子一派が力を与えた件についてはブラックタイガーたちも完全無自覚であるため自白からこちらに捜査の手が及ぶことはないとはいえ……せっかくいい目くらましになっていた連中が一掃されるのは極めて面倒だった。
いまはまだ対探課や公安も騒ぎの後始末に追われているし、ほかにも目くらましになりうる犯罪集団はもちろんいるのだが……それでも時間さえおけば両部書にそこそこ余裕ができてしまいそうな有様で、諸々の暗躍をしづらくなるのはほぼ確実。というか山田カリンを守るためなのか既に公安外事課あたりは人員を拡充しはじめているようで、犬飼洋子たちが各国の同志と連携しつつ暗躍を続けるにはこれまで以上の慎重さと労力が必要となるのは間違いなかった。
もちろん警察程度に自分たちの存在を補足されることはないし、暗躍を続けること事態は十分可能だが……諸々の労力が増えるというのは極めて煩わしい。
「せっかく怪しまれないよう少しずつ少しずつ日本の成長を妨げて計画の準備も整えてきたのに! なんでこんな突然変異がいきなり……!? しかもこんな短期間のうちに日本を蝕むゴミどもまで一掃して……! くそっ、いますぐ消してやりたい……! けどこの身体じゃあ太刀打ちなんてとても……!」
長年積み上げてきた実績や計画の最終段階に向けた布石。なにもかもをぶっ飛ばされかねない現状に、犬飼洋子は歯ぎしりして画面のお嬢様を睨み付ける。
「い、いや、けど落ち着け私……! 確かにこの状況は都合が悪いけど、山田カリンがいくら強かろうと所詮はダンジョン後進国の単騎一強! 荒魂がほかに2人潜んでいることを考えても脅威は山田カリン1人に限られる!」
そうだ。
どれだけ高い戦闘力を有していようが山田カリンはたった1人。
やれることには限りがあるし、その手が届く範囲は有限。
計画最終段階の性質上、たった1人ですべてを完全に防ぐことは不可能と思われた。
「そう、そうよ。落ち着いて考えればなんてことないわ。計画に支障はない。もちろんかなり都合が悪いことは間違いないけど、それこそ山田カリンが急に2人にでも増えない限りは大丈夫なんだから。多分」
自分に言い聞かせつつ、犬飼洋子はここしばらくの日課となっている山田カリンの動向チェックのためSNSを開いた――その瞬間だった。
犬飼洋子の目に、いくつもの不穏な単語が飛び込んできたのは。
『ドリームチーム結成』
『(行政にとって)ナイトメアパーティ爆誕』
『カリンお嬢様に一撃』
『ぅゎょぅι゛ょ(?)っょぃ』
『殴り合って仲良くなるヤンキーお嬢様」
『ダンジョン女王密入国疑惑』
「あ?」
猛烈に嫌な予感のする単語の数々。
いやそんなまさか……と思いながら、犬飼洋子は凄まじい再生数を叩き出している切り抜き動画をクリックした。
「……………………………………………は?」
途端、再生されるのは常識を逸脱した戦いの光景と、山田カリンが自分に一撃当てたその模擬戦相手に奈落挑戦がどうこうと目を輝かせている映像。
そしてその意味不明な映像に愕然としたまま、犬飼洋子は切り抜きに添付されたリンクをタップ。いまも続いているらしい山田カリンの配信に飛べば、
『イエーイなのじゃー! 皆の者見ておるかー!?』
『それじゃあこれからシャリー様と一緒に仲良くダンジョン攻略していきたいと思いますのー!』
「……………………あ、そっか。これ夢なんだ」
頭抜けた戦闘力を持つ女の子2人がメチャクチャ仲良くなりつつあるその微笑ましい()映像に、犬飼洋子は現実逃避するように感情の抜け落ちた声を漏らすのだった。
―――――――――――――――――――――――
というわけで新章のヴィラン様登場ですわ。実は結構なファインプレーだった可能性のある女王様のやらかしとダンジョン庁長官の育成配信企画(というのがわかりやすいよう、こちらのエピソードを新章冒頭で出しておくべきでしたわ……!)。
今回のお話で一番頭を抱えていたのは行政ではなく敵側だったようです
※また、お嬢様バズの2巻発売が3月18日に決まりましたわー!
前にもお知らせしましたが書き下ろしが3万字ほどありますので、楽しみにしていただければ幸いですの!(3月に書き下ろしの冒頭試し読みを掲載予定ですわ!)
※そしてあとがき多いですが…このたびお嬢様バズが☆30000を越えましたわ!
カクヨム内11位(多分)の☆数でビビり散らかしましたの…!
短期間でここまで来れたのは皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございますですわ! ☆やフォローで応援していただけるとより多くの人にお嬢様の活躍が届くので、評価していただけたこととあわせて二重に嬉しいですの!
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