第94話 お稽古コラボ


※ダンジョン女王編本格スタートの前にまたちょっとだけ別のお話を挟みますわ!

――――――――――――――――――――――――



 耐性スキルと呼ばれるものがある。


 毒や麻痺といった厄介な状態異常に対して耐性を獲得し、スキルLvに応じて症状の緩和や早期回復、完全無効化などの効能を得られるスキルのことだ。


 基本的なスキルを除いて各種スキルの具体的な獲得方法がほとんど体系化できていないなかにあって、この耐性スキルは珍しく習熟方法が確立されている。一定以上の規模のクランでは取得方法がマニュアル化されていることも多く、探索者ギルドでも基本的な情報が公表されているほどだ。


 が、実際にスキルを発現している者は意外にもそう多くない。


 なにせその習熟方法というのが、実際に状態異常を食らい、解毒薬を使わず自力克服したり長時間症状に耐えることで発現、スキルLvが上がっていくという非常に危険なものだからだ。


 少量摂取からはじめて徐々に増やす、という方法ではまずスキルが発現しないことも確認されており、普通に命の危険もある。さらにそれだけの危険を冒してなお実際にスキルが発現するかどうかは資質にも左右されるようで、徒労に終わることもざら。そのため解毒薬などを常備して早期服用したほうがいいという声も根強く、一定以上の強者を除いて耐性スキルの保有者はそう多くないのだった。取得率が高いのは麻痺耐性くらいだろうか。


 ただ、そんな習得方法しかない耐性スキルのなかでも毒や麻痺などはまだマシなほうとされていた。持ち帰ったモンスターの毒腺などを使い、治療体制の整った地上で状態異常を引き起こすことでスキル獲得に挑戦することができるからだ。


 これが悪名高い「催眠」の耐性を獲得しようとするとかなり酷い。


 元々催眠魔法を使うモンスターが希少であることに加え、モンスターが催眠に使う部位をまず落とさないため、安全な地上で催眠を再現することが難しいのだ。仮に再現できたとして、地上では催眠の結果周囲に被害をもたらす可能性も高いため事実上禁止されている。


 そのためスキルを獲得しようと思えばダンジョン内で催眠を食らい、長時間催眠状態になってスキル獲得を祈るしかないという非常にアレな手段しかなかった。解毒薬を使うと毒耐性がつかないのと同様、衝撃による催眠解除では耐性がつかないというのもいやらしい。ほぼ無理ゲーである。


 確認されている獲得事例も比較的危険の少ない催眠モンスターとの遭遇や周囲に偶然モンスターがいなかったなどの複合要因であり、意図的に発現した例など(公式記録においては)皆無。基本的には催眠モンスターの出現する数少ないダンジョンを避けるかパーティで挑みさえすれば比較的容易に対処可能な状態異常ということで、催眠耐性スキルを積極的に取得しようなどという物好きはまずいないのだった。


 そしてそれを踏まえたうえで――、


「皆様ごきげんようですわ! SNSで先ほど詳細告知したとおり、今日の配信はちょっとだけ特別、催眠耐性スキル獲得を目指すお稽古の様子をお届けしますの。催眠耐性スキルを取得して目標のスキルLvに到達するまでダンジョンから帰れない、いわゆる耐久配信ですわ!」


 スパチャ総額30億事件の数日後。週末。

 真冬と一緒にご飯を食べるなどしてどうにかいつもの調子を取り戻したカリンは、普段の配信時間とは異なり日の高いうちからダンジョン配信を行っていた。



〝ごきげんようですわー!〟

〝カリンお嬢様のダンジョン配信久々ですの!〟

〝いや目標のスキル獲得まで帰れませんは草〟

〝催眠耐性獲得ってそれマジでやるんですの!?〟

〝本気!?〟

〝このお嬢様はいっつも本気なんだよなぁ〟

〝ほんとこのお嬢様ぶっ飛んだことしかしないですわね!?〟

〝ダンジョン配信者の耐久動画って言ったら普通はモンスターを〇〇体討伐とか特定素材を一定数獲得とかなんよ〟

〝特定のスキル獲得まで帰れないとか下手したら一生帰宅難民ですわよ!?〟

〝いやでもこのお嬢様だしな……〟

〝ま、まあ耐性系スキルはいちおう獲得の方法がある程度確立されてるし……危険な取得方法しかないって点を度外視すれば〟

〝そもそも催眠耐性スキルを任意で取得しようとするのがまずおかしいんだが????〟

〝ヒュプノシスバットに催眠食らってお優雅じゃない戦闘を見せてしまったのよっぽど根に持ってたんですのね……〟

〝実質ノーダメで攻略しておいてまだ不満とかどういうことですの????〟

〝てか鍛錬系動画って探索者の配信じゃそこそこメジャーなネタだけどカリンお嬢様がやるのはもしかして初? 

〝カリンお嬢様がお稽古の様子を配信するってなんだか意外ですわね〟

〝これは参考になりそうですわ!〟

〝絶対参考にならないに影狼の魂を賭ける〟



 久々のダンジョン配信にカリンがテンション高めに挨拶すれば、開始数秒で一気に膨れ上がった視聴者たちのコメントがわっと流れていく。


 コメントにもあるように、今日のダンジョン配信はいつもと少し毛色が違っていた。

 

 まずひとつめは、今回の配信がダンジョン攻略ではなくいわゆる「鍛錬動画」の類いであることだ。まあ通常の鍛錬動画といえば既に獲得しているスキルの練度を伸ばす様子を撮影したり、習得の用意な基礎スキルの獲得を実践するのがほとんどなので、今回の耐久配信を鍛錬動画に分類していいかは微妙なところだが……なんにせよ普段の配信と違うのは間違いなかった。


 そしてもうひとつ。今回のダンジョン配信がいつもと違うのは、カリンが1人ではないという点だった。


「これも事前に告知していましたが、催眠耐性スキルの獲得を目指すにあたって今回はほかの方にも協力してもらうことになりましたの。耐性スキル獲得のためにはある程度長時間かつ何度も催眠状態になる必要があるので、さすがに1人でやるのはダメと言われてまして……というわけで今日は先日のお茶会に続いてこのお二方とのコラボ配信ですわ! 光姫様と穂乃花様、どうぞですの」


「ご紹介にあずかりました、色々あって実家に戻ることにした四条光姫です。本日はカリンお嬢様の修練にサポート役として呼んでいただき大変光栄です。誠心誠意お役に立てるよう努めますので、全世界5000億人のカリン党の皆様よろしくお願いいたします」


「え、ええと……神代穂乃花です。今日の訓練はもともとカリンお嬢様と光姫さんがプライベートで行う予定だったらしいのですが……光姫さんが催眠状態のお嬢様になにかよからぬことをしないよう私もついてきました。あと私だけではいざというときレベル950にまで成長してしまった光姫さんを止められないので……今日の訓練は配信形式にするようお嬢様を説得した次第です。配信は不慣れなので2人に比べればあまり上手く喋れないですけど……皆さんも私と一緒に光姫さんの見張り務めていただけると嬉しいです」



〝草〟

〝おハーブ大農園〟

〝穂乃花様たしかに喋り慣れてない感じだけど内容はキレッキレでおハーブ〟

〝光 姫 さ ん が な に か よ か ら ぬ こ と を し な い よ う に 私 も つ い て き ま し た〟

〝ナイス判断!〟

〝警察は基本的にことが起こってからじゃないと動けないのに穂乃花様は見習いの段階で犯罪の防止にまで気を配れるとは……やはり天才か〟

〝穂乃花様やっぱり将来有望ですわね!〟

〝見習いとはいえ対探課のお巡りさんが一緒なら安心ですわね!〟

〝というか今後は光姫様とカリン様のコラボ時には監視役の穂乃花様同伴も必須にしましょうですわ〟



「ちょっと穂乃花さん!? カリンお嬢様の前でいきなりなにを――って視聴者の皆さんまで!」


 いきなりぶっ込んできた穂乃花とコメント欄のノリに光姫が叫んだ。


 そう。

 実は今日の耐性スキル獲得チャレンジは本来、光姫とカリンがプライベートで行う予定だったのだ。


 質問回答配信のあと、カリンは前に光姫と約束していたお茶会を開催。ダンジョン入り口の警備に参加してくれていた穂乃花も誘い雑談配信形式で行っていたのだが、その配信が終わったあと、


『そういえば色々バタバタしてて後回しになってましたけど、そろそろ催眠耐性スキル獲得にも挑戦しないとですわ』


『それは確かに。いちおう催眠が効いてしまうお嬢様になにかよからぬことを考える輩がいるかもしれませんし急いだほうがいいですね。ただ催眠耐性獲得となるとどうしてもダンジョン内で長時間かつ何度も催眠にかかる必要が出てきます。いくらカリンお嬢様が催眠状態で戦闘を継続できるとはいえ万が一がなくもないので修練時の護衛は必須でしょう。よければお供しましょうか?(早口)』


 とカリンと光姫の間ですぐに話がまとまった。

 そしてそれを横で聞いていた穂乃花が色々と危惧して参加を表明。


 元々カリンは『お稽古しまくること自体はお優雅ですけど、その様子を公開するのはあまりお優雅ではないのでは?』というスタンスだったのだが、『地道に努力している様子やみんなで仲良くダンジョン攻略している姿を公開するのもジェノサイドイメージの払拭には有用だと思います……』と穂乃花から説得され、今回だけ特別に配信しながらスキル獲得を目指すことになったのだった。


 穂乃花がそこまでやった理由はもちろん、先ほど彼女自身が口にした通り、カリンの熱烈なファンである光姫の暴走防止である。


「し、心外です! 私はなによりカリンお嬢様が大切で……! 一度は捨てた実家にも『家族は大切にできるときにしておくべきですわ』と仰るカリンお嬢様の言葉を受けて戻ったくらいんなんですよ!? 耐性獲得は往々にして危険が伴うわけで……いくらお嬢様が最強無敵とはいえダンジョン内で変なことなどするわけがありません! そもそも私1人では不測の事態があってはいけないと最初からほかに人を誘うつもりでしたし!」



〝ほんまかー?〟

〝めっちゃ早口でおハーブ〟

〝ほい。ヒュプノシスバット戦で催眠食らったお嬢様に対する光姫様の反応切り抜き〟

〝『カリンお嬢様って催眠効くんですね……へぇ……』〟

〝何回見ても声のトーンがガチで草〟

〝完全に獲物を見る捕食者の目なんですがこれは……〟

〝声の抑揚と目つきだけでコンプラに抵触してそうとか言われてるのほんま草〟

〝ピク○ブ百科事典にある『闇姫様』記事のメイン画像がこのシーンを描いたイラストなのほんと好き〟



「ぐっ……!? やはり一度広まったネットのイメージとノリは払拭が困難……え、ええと、ではさっそく耐性獲得を目指していきましょう!」


「ですわね! 耐久配信とは言いましたがダンジョンの出入りを記録されてる以上は時間制限もありますし。それにしても穂乃花様、トークが苦手という割には盛り上げがお上手ですわね! わたくしそういうネットウケするネタ? には疎いのでありがたいですわ!」


「あはは……ありがとうございます」



〝光姫様反論できないとみて話逸らすの草〟

〝カリンお嬢様はそのまま純粋なカリンお嬢様でいてくれ〟

〝穂乃花様まったく目が笑ってなくておハーブ〟

〝穂乃花様、すっかりたくましくなられて……〟

〝これ光姫様が実質対探課にマークされてると考えると面白すぎるだろ〟

〝殲滅されたブラックタイガーに次ぐ脅威はおハーブ〟



 と、そんなこんなで視聴者数があっという間に100万を超えるなか、カリンたちは早速ダンジョンを進みスキル獲得へと乗り出した。




 今回の催眠耐性スキル獲得挑戦配信にあたり、カリンたちは少しばかり遠出をしていた。

 催眠魔法を扱うモンスターは元々かなり希少。

 加えて催眠耐性スキル獲得にはカリンがダンジョン内で何度も催眠にかかる必要があるということで、催眠のかけ方やら催眠の内容やら、耐性獲得においてできるだけ都合の良い催眠モンスターと出会う必要があったのだ。いくらカリンの感知スキルが催眠を貫通するとはいえ、たとえば同士討ちを誘ってくるようなような催眠モンスターを避けるに越したことはないのである。


 幸い、下層くらいまでのモンスター情報なら金銭のやり取りなどせずとも入手は容易であり、危険度の高い催眠モンスターともなれば注意喚起がてらギルドが出現ダンジョンを詳しく公表している。


 そうして目をつけた催眠モンスターはいくつかのダンジョン下層に出現するとのことで、潜っているダンジョンの特定も避けられることを確認したカリンたちは行き先を決定。


 電車を乗り継ぎ到着した埼玉北部のとあるダンジョンにて配信開始の挨拶をしたあと、爆速で下層に到達した一行は目的の催眠モンスターを探して薄暗い岩窟を練り歩いていた。


 当然、出現モンスターたちをなぎ倒しながら。


「「「「「グギャアアアアアアアアアアアッ!?」」」」」


 カリンは当然として、光姫も穂乃花も危なげなく下層モンスターに対処していく。

 レベル950で下層のソロ攻略も可能な領域に達している光姫は幾度かの剣閃で下層モンスターを切り裂き、ここしばらくの修練であっという間にレベル400まで伸びたという穂乃花も〈神匠〉装備をフル活用。光姫やカリンのサポートもあり、速度強化効果を持つ漆黒の刃付きブーツを駆使して下層モンスター相手に善戦してみせていた。



〝おいおい瞬殺だよ〟

〝光姫様レベルが影狼に迫ってるし、スキル熟練度や剣技の技術は突出してるし、これもう普通に下層ソロ配信もいけるのでは……?〟

〝ダンジョン崩落時の奮戦で各種スキルと剣技が相当伸びてたらしいところにお嬢様の深淵攻略に触発されて最近かなりダンジョンに潜ってたみたいですしね〟

〝最近光姫がヤバい、ってホワイトナイト幹部の呟き、成長してるって意味だったんですのね……てっきり奇行のほうかと〟

〝てかカリンお嬢様と光姫様は当然として、穂乃花様もいつの間にかマジで強くなってんな……〟

〝いや強くなりすぎじゃない!? 対探課入ってから1ヶ月ちょいで下層に通用してるんですけど!?〟

〝カリンお嬢様が色々やらかしてる裏で順調にバケモノが育ってますわよこれ〟

〝そもそもお嬢様と出会ったその日に中層で無双やってのける壊れっぷりだったから……〟

〝対探課での指導+〈神匠〉装備で格上狩りまくってるだろうからそりゃ強くなりますわ〟

〝バーサーカーっぽさは少し落ち着いてきたけど穂乃花様の戦闘時の眼光ヤバくない?〟

〝復学したって聞きましたけど学業と両立しつつ短期間でこんだけ強くなってるってマジですの……!?〟

〝いくらお嬢様が催眠貫通できるとはいえ万が一に備えての護衛が2人だけで足りる? と思ったけどこれなら十分そうですわね……〟

〝しかし光姫様と穂乃花様のまともな装備と並べるとダンジョン内で手ぶら&ドレス姿のカリンお嬢様マジで浮いてんな……いやお優雅ですけど〟

〝魔龍鎧装・嵐式を装備するまでもなくぷかぷか浮いてるお嬢様はおハーブ〟

〝浮き輪かな?〟

〝カリンお嬢様が手ぶらなんてタチの悪い誇張ですわ! ちゃんとティーカップ持ってるときもありましてよ!〟

〝↑余計に頭がおかしいんだよなぁ〟



 その安心安全すぎるモンスター殲滅の様子やいつの間にか成長していた穂乃花の戦いっぷりにコメントも盛り上がり、同接もぐんぐん伸びていく。


 カリンの登録者数が2000万を超えていることに加え、光姫のチャンネルも前回の深淵突入騒ぎの余波(+リアクション芸)で登録者数800万に到達しており、その2人のコラボ配信とあってなかなかエグい数字になっていた。


「さて、ではここで改めて耐性スキルとその習得について説明を。耐性系のスキルは攻撃や防御、感知などの一般的なスキルと違い、通常の修練で習得、習熟できるものではありません。状態異常を実際に食らい、それを解毒剤などに頼らず耐え抜くことで発現、成長するとされています。しかし危険なやり方なうえに習熟は資質にも左右されるので、解毒薬などを常備して早めに服用するほうがコスパがいいと言われることも多いですね。実際は解毒薬の効きもよくなるので、Lv1でも獲得しておくに越したことはないのですが」


 しかしそんなとんでもない数字を前にしても配信者としてはさすがにベテラン。光姫はモンスターを排除しつつ、臆することなくトークを回す。本来は上層中層で安全マージンを取りつつ初心者向けの詳しい解説を行うのが光姫の配信スタイルだが、カリンという超戦力とパーティを組めば下層でも解説をする余裕があるようだった。


「そしてそのなかでも、催眠耐性は様々な要因から習得が非常に難しいとされています。基本的にはダンジョン内しか耐性獲得機会がないため、発現者がほとんどいないようですね。果たしてそんなレアスキルを本当に習得できるのか、今日の配信では要注目です。まあカリンお嬢様なら絶対にいけるでしょうけど」


「あー、やっぱり催眠耐性って習得機会の限られるスキルですのね。実際わたくしも万が一があってはいけないのでこれまで速攻で催眠を衝撃解除してきて、そのせいか耐性スキルがまったく発現しなかったですし。いちおう感知スキルを使えば催眠状態を継続しつつ周囲のモンスターと戦えますけど、基本的にはそういう感知の類いも信用できないと思って対処すべきなのが催眠なので、ソロ攻略メインだと速攻解除以外の選択肢がなかったですのよねぇ。けど今日は良い機会、光姫様の期待にお応えするためにもゴリゴリスキル習得していきたいですわね!」



〝さらっと光姫様からカリンお嬢様への期待が重い!〟

〝いやまあカリンお嬢様なら機会さえあれば……ね?〟

〝てかすげぇ……さっきから光姫様がカリンお嬢様の隣でまともに振る舞ってる……〟

〝お茶会で少し耐性がついたのかもしれませんわね……

〝あと隣に保護観察官(穂乃花様)もいるしな〟

〝ねえちょっと皆様方! それよりもカリンお嬢様がなんか常識的なこと言ってません!?〟

〝!? ホンマや! 催眠が怖いものってちゃんと把握してるとか偽物か!?〟

〝さっきからさらっと下層モンスター消し飛ばしてるこの戦闘力を再現できる偽物がいたら世界の終わりなんよ〟

〝カリンお嬢様の戦闘力再現した偽物とか汚ねぇ花火5秒前じゃん〟

〝いやお前ら冷静に動画見返してみろ! 催眠にかかっても感知スキル使えば普通に戦えるとか言ってるのは常識発言じゃないからな!?〟

〝あとナチュラルに耐性スキル獲得できる気満々なのもよく考えたらおかしいからね……〟

〝皆様お嬢様に常識を侵食されすぎですわよ……〟

〝やべぇ……素でなんか普通の発言とか思っちゃってたわ……まともな状態の光姫様の配信を見て常識を回復しないと……〟

〝あの深淵配信を見ちゃった以上もう手遅れな気がしますわ……〟



 と、光姫が上手く話題を繋げていることもあり、配信は視聴者の反応も上々に進んでいく。


 だが――、


「なかなか出ない……」


 下層を突き進むことしばし。

 穂乃花がぽつりと呟くように、配信開始からしばらく経っても目的の催眠モンスターが一向に現れない。穂乃花たちの無双っぷりに視聴者たちは盛り上がりを見せているが、さすがに少し絵面も単調になってきている。

 

「まあもともと覚悟してましたからね。催眠モンスターは基本希少種で、奥多摩ダンジョン深層第2層が特殊すぎなんです。それもまた催眠耐性獲得者がほとんどいないと言われる理由ですから」



〝まああんなヤバい魔法持ちがぽんぽん出てたらダンジョンの危険度跳ね上がりますしお寿司〟

〝探索者あるあるですわね。会いたいモンスターに限って出てこないとか〟

〝ダンジョンさんにも物欲センサーあるんですのね……〟

〝これは催眠モンスに遭遇できるかどうかも含めて耐久配信になりそうですわー!〟

〝すげぇ……カリンお嬢様がいるのになんか普通のダンジョン配信っぽくなってて感動してる……〟

〝耐性スキル獲得まで帰れまテン配信が普通であってたまるか!〟



 と、配信告知の時点である程度は察していた視聴者も多いのか、ほとんどの者が光姫のフォローに同調。反応は概ね寛容だ。


 しかし、


「うむむ。確かに思ったより全然遭遇しないですわね……。さすがにこれはちょっとよくありませんの」


 カリンは1人、配信が間延びしつつあることを危惧していた。

 チャンネル登録者数が怖いくらいに跳ね上がったこともあり、そのあたりに関してちょっとばかり過敏になっているのだ。ここ最近は『ジェノサイドイメージ払拭のための緩い配信』を心がけており、今回の耐久配信もその一環であるとはいえ、チャンネルのメインコンテンツであるダンジョン配信でぐだるのはちょっとどうなのだろうと。


 ゆえに、


「本当は自然に遭遇して盛り上げたかったんですけど、さすがに高望みでしたわね。下層攻略は光姫様と穂乃花様お二人にとっても良い修行お稽古になるだろうとはいえ無駄に長く付き合わせるのもお優雅ではありませんし……ここはちょっとズルしちゃいますわ!」


 言って、カリンは突如として感知スキルに膨大な魔力を投入。

 かと思えば、


「――お、それっぽいのがいましたわね。ラッキーですわ」


「え? カリンお嬢様なにを――」


 と穂乃花がカリンの異変に気づいて振り返ると同時――ドッ!!!


 浮遊カメラを一時的にその場に残してカリンが疾走。

 その場から掻き消えたかと思えば1分と経たず戻ってきて、


「捕まえてきましたわ! 目的の催眠モンスター様はこの方であってますわよね光姫様?」


「グギョギョギョギョ!?」


「「え……!?」」


 カリンが鷲づかみで捕まえてきた巨大なクモ……探していた希少催眠モンスターであるバッドステータス・タラテクトに、光姫と穂乃花がぎょっとしたように目を見開いた。



――――――――――――――――――――――――― 

Q.どうして今回の光姫様はカリンお嬢様が隣にいてまともに人の形を保てているの?

A.お茶会で少し耐性がついた&実況解説配信ならいざしらずカリンお嬢様の配信に直接出演している以上は変な真似できないと初邂逅時並みの精神力を振り絞って猫を被っている&隣に保護観察官(穂乃花様)がいるから……ですわね!


※お茶会についてはいずれかの機会にお出しできるときがあれば、といったところですわね…!

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