第75話 レベル〝深層〟オーバー




 ダブルシャドウ撃破(?)後もカリンの快進撃は留まるところを知らなかった。


「「「「グゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?」」」」


 第3層にはダブルシャドウがたびたび現れるも、カリンの力をコピーした途端盛大に破裂。カリンを倒すどころか足止めにすらなっておらず、「コピーモンスタアアアアアアアアアアア!(笑)」「くwさwがwおwいwしwげwるw」「お嬢様しかコピーする相手がいないから出会った瞬間爆破の運命から逃れられないのおハーブすぎるwwwww」とコメント欄を盛り上げる舞台装置にしかなっていなかった。


 なんならダブルシャドウが爆発四散することでほかのモンスターたちが「え!? なに!?」「どうした急に!?」と大きく隙を作ってはカリンに速攻撃破されるという足手まとい状態になっており、カリンの快進撃を食い止めてくれるとブラックタイガーから期待されていたコピーモンスターは色々な意味でお嬢様のサポート役に成り下がっていた。


 そしてカリンは第2層とほぼ同等の速度で3層を突破。

 そのままの勢いで第3層のボス部屋へと飛び込んだ。


「ガルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 バチバチバチバチィ!! 

 

 カリンの前に立ちはだかったのは、黄金に輝く巨大な獅子。

 全身に強力な雷を纏う百獣の王だ。


 暴風龍と同様、身体全体に魔法属性そのものを分厚く纏う能力は凶悪の一言。


 長いリーチのある最上級絶縁武器でもなければ攻撃した途端こちらが感電してしまううえ、暴風龍と同じようにガトリングの魔弾さえ弾き飛ばす。


 加えて強力な電撃の鎧は空間をもねじ曲げているのか、「斬撃を飛ばす」ことでリーチを広げるモンゴリアンデスワームの繊細な斬撃すらギリギリで凌いでみせた。


 攻防一体の凶悪すぎる特性。


 しかしその反則じみた深層ボスの能力も〈神匠〉武器を解禁したお嬢様には通用しない。


「こういう場合はお優雅にゴリ押しですわああああああああ!」


 カリンが〈モンゴリアンデスワーム〉で切り刻んだのは雷獅子ではなくダンジョン壁。


 天井に放った斬撃によって落ちてきた四角柱をさらに切り刻み、作り上げるのは石切場にあるような正方形の巨大な岩塊。


 そうしてカリンは雷獅子の攻撃を避けながら無数の〝弾〟を作り上げたあと、


「だりゃああああああああああああああああああ!」


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオ!!


 持ち替えた武器――すなわちダンジョン壁から作り上げたクソでかハンマーにて、正方形の岩塊を超速度で打ち放った。


「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 雷獅子に連続で見舞われるのは重さ数トンに及ぶ岩塊の砲撃。

 雷の鎧では純粋な物理砲撃を防ぐことはできず、クソでかハンマーを担いで縦横無尽に走り回っては遠距離からホームランを放つカリンの砲撃によって全身をボッコボコに粉砕された。


 そして、


「第3層のボスモンスター様も無事に討伐ですわ!」


 崩れ落ちダンジョンへと吸収されていく雷の獅子を背後に元気いっぱい宣言。

 カリンはこれまでに続き、無傷で深層第3層の完全踏破を成し遂げていた。



〝第3層ボス撃破キタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!〟

〝しかもまた無傷だああああああああああああああ!〟

〝最強最強お嬢様! チンピラ無敵のお嬢様!〟

〝おめでとうございますですわああああああああ!〟

〝ブラックタイガーの到達階層に並びやがったぞおおおおおおおおおお!〟

〝キー局がほぼ同時にニュース速報流してんの草ァ!〟



「……っ、み、皆様ありがとうございますですわー!」


 爆速で流れていくお祝いコメント、そして乱れ飛ぶお祝い赤スパにビビり散らかしながらも、カリンはどうにか笑顔でお礼を返す。


 第3層突破という区切りはかなり大きいようで、カリンが自分を落ち着かせるようにお紅茶で軽く一杯やっている間も視聴者たちの興奮は留まるところを知らなかった。



〝やべぇ……国内最強級クランの開拓最前線までガチでソロ到達したぞこのお嬢様……〟

〝トップ層の探索者は実力隠すからいくらお嬢様がバケモノでも日本最強はさすがにないとか言われてたけど最強どころかトップクランの総力より上までありますわよこれ……〟

〝無傷でここまで辿り着いてんだから確実に上ですわよもう!〟

〝無傷、ドレス、配信しながら、完全初見、しかも道中は体力温存せず下層でお紅茶攻略……異次元すぎて笑いが止まらねぇですわー!wwwwwwwww〟

〝てかこれブラックタイガーが必死こいて切り開いた奥多摩ダンジョンの情報全部出ちゃったのではwwwwww〟


 ¥10000

 えー、ブラックタイガーの情報資産損失、諸々詳細に検討し直した結果40億いったようです


〝ファーーーーーーーーwwwwwww〟

〝モンスターの情報に加えてお嬢様が正規ルート真っ直ぐ突き進んでるからそのぶんも上乗せかwww〟

〝なんで初見ダンジョンを迷わず真っ直ぐ進めるんですのこのお嬢様wwwww〟

〝これまで独占供給してた深層素材の現金収入にまで響くと考えたら今後数年の損失マジで軽く100億超えるだろこれwwww〟

〝大丈夫大丈夫! ブラックタイガーさんは強いから毎日休まずダンジョン潜って素材採り続ければそのくらいの損失すぐに埋められるって!〟

〝工作員がだいぶ前から息してねえですわーwwwww〟

〝なんかもう疑惑もクソもない感じだけどいくとこまでいったれお嬢様―!〟

〝文句のつけようのない世界記録まであと一歩ですの!〟

〝次の第4層踏破で世界記録!〟

〝ここまできたら深層第4層も楽勝でしてよー!〟



「それではいよいよ最後の領域を攻略していきますわね!」


 お紅茶休憩も早々に終えたカリンはドレスを翻してボス部屋の先に進む。

 目指すは遠隔感知にて奥多摩ダンジョン深層の最終エリアと判明している第4層だ。



〝日本トップクランの深層開拓記録にソロで並んだ女子高生の配信ってここ!?〟

〝は? なにこれドレス? 動画間違えたか?〟

〝ニュース速報に釣られて見に来たら同接800万ってなんやねんこれwww〟

〝ご新規お嬢様の困惑からしか摂取できない栄養ぱくぱくですわー!〟



 ブラックタイガーの開拓記録に並ぶ偉業。さらには未成年による深層ソロ攻略の世界記録達成間近と報道された影響だろう。


 新規と思しきコメントがさらに増え、同接の増加も止まらない。

 800万というあり得ない数字を越えてなお増加速度は落ちず、カリンがちらちらと目をやるたびに数千単位で増えていく有様だった。


(す、すっげぇ数ですわ……800万って……つまり800万くらいですの……!?)


 なんだかもう数が多すぎてわけがわからないが、とにもかくにも疑惑払拭という目的のためには数字がなにより大事。

 

(来てくれた方々が飽きて帰ってしまわないよう、もっと沢山の人に見てもらえるよう、ラストスパート頑張りませんと!)


 カリンは軽い足取りで天然の階段のようになった通路を下へ下へと進んでいく。

 だがそこでふと違和感がよぎった。


「なんだかこの通路、やけに長いですわね……?」


 それは視聴者たちも感じていたようで「なんか長くない?」「普通の通路の倍くらいありませんこと?」「第4層まだー?」という書き込みが散見されるようになる。


 そこでカリンが足早に階段を駆け下りたところ、ようやく開けた空間に辿り着いた。


 いや、開けすぎていた。


 カリンが降り立ったそこは、まるで階層すべての壁をぶち抜いてひとつの部屋にしたような広大な空間だったのだ。薄い燐光に照らされているため真っ暗闇ではないものの、天井や広間の端を視認することすら難しいほどに。


「なんですのここ……?」



〝え、なにこれ〟

〝ひっっっっっっろ!?〟

〝え、なにここ本当に地下空間か?〟

〝ダンジョンの下のほうは空間が歪んでるって聞くけど歪みすぎやろ〟

〝え、もしかして第4層さんここだけとか?〟

〝まさかのクリアですの?〟

〝さすがになんかありますわよ〟

〝なんか不気味だな……まあここまで無茶苦茶やってきたお嬢様ならなにが来ても平気ですわ!〟

〝一気に突破ですのー!〟



「ほえー、こんな階層もあるんですのねぇ」


 はじめて見るだだっ広い空間にカリンはキョロキョロと視線を巡らせる。

 

 ――と、そのときだった。



 ゴゥン――……。



 ブラックタイガーの黒井が〈事前危機察知〉によってクラン主力メンバーの全滅を予期し、攻略挑戦はおろかまともな威力偵察すらストップをかけていた層域。


 その中央で、静寂と薄闇を突き破るように、大山が鳴動した。


 そして――、


 ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 

 ダララララララララララララララララ!!!


「っ!」


 戦いの火蓋はあまりにも唐突に切られた。


 薄闇を切り裂くような怒濤の弾幕。

 突如として地下に太陽の光が届いたと錯覚するような火線の輝き。

 すなわち怒濤の一斉砲撃がカリン目がけて降り注いだのだ。

 


〝は!? なんだ!?〟

〝急になに!?〟

〝え、なに、戦争!?〟

〝なにが起きてんだ!?〟

〝お嬢様無事なの!?〟

〝爆発と光でなんもわからんぞ!?〟

〝は!? これモンスターの攻撃なの!?〟


 

「なるほど」


 弾丸が空を切る高い音と砲弾の炸裂する轟音が大広間を揺らす。

 広間を埋め尽くすような凄まじい弾幕と爆発をドレス姿で走り回って回避しながら、カリンは確信とともに呟いた。


「この大広間全体が第4層にしてボス部屋ですのね」


 と、カリンが人並み外れた視力と感知スキルによって敵の全容を把握すると同時。カリンに向けて放たれる砲撃の嵐を避けるように遥か上空へ避難していた浮遊カメラもまた、時間差で砲撃の主を捉えていた。


「ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!」


 奥多摩渓谷ダンジョン深層第4層兼ボス部屋。

 その中空に留まったカメラが配信画面に映し出したのは、うごめく要塞だった。


 一見して、だだっ広い空間の壁かなにかと勘違いしてしまうほどに巨大な威容。

 全体像は比喩でもなんでもなく山のようであり、シルエットも三角形に近い。

 その巨大すぎる「殻」に墓標がごとくびっしりと生えるのは、大小様々な火器火砲。

 山岳要塞もかくやというその巨体を支えるのは、分厚い甲殻に覆われる巨大な多脚だった。


 機械と生き物が融合したような歪な姿――すなわち超弩級の要塞ヤドカリ型モンスターが部屋の奥に陣取り、カリンを一斉砲撃していたのである。



〝ちょっ!? なんだよこれ!?〟

〝地元の山みてーな大きさなんだけど!?〟

〝デカ過ぎんだろ…〟

〝モンスターじゃなくて要塞じゃねーか!〟

〝いや要塞でもこんなバカみてーな過剰火力してねえんだが!?〟

〝いくら深層でもおかしいだろなんだこのモンスター!?〟

〝爆発で地面がほとんど見えないんですけどカリンお嬢様これ生きてますの!?〟

 


 ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 



 超巨大ヤドカリ型モンスター、のちに〈ギガント・フォートレス〉と命名される深層最奥ボスがカリンに向けて放つ弾幕は尋常ではなかった。


 いくつもの主砲から放たれるのは、ドラゴンカノンのブレスに匹敵する熱線。


 無数の砲門から一斉に放たれるのは〈お優雅トリング〉が可愛く見えるほどの濃密な弾幕。


 仮に地上に出現したなら1日とかからず大都市を灰燼に帰すだろう夥しい火力が、カリン1人目がけてぶっ放されていた。


「皆様ご安心を! わたくしこの通りピンピンしてますわ!」

 

 と、そんな弾幕の雨あられのなかでお優雅な声が響き渡る。

 その尋常ならざる弾幕を全速力で走り避けまくっていたカリンである。

 念のためにと光姫から渡されていた高性能の骨伝導マイクに切り替えて視聴者に生存を知らせる。


「ですが、むぅ、これはなかなか厄介ですわね」


 迫る弾幕の動きを感知スキルで仔細に把握しながらしかし、カリンの口からそんな声が漏れていた。

 

 無尽蔵に放たれる無数の砲撃。

 そのなかにカリンを執拗に追い続ける追尾弾が大量に混じっていたからだ。


 それこそカリンがぶっ放す魔弾がごとくどこまでもついてくる。

 

「しっ――!」


 カリンは縦横無尽に地面や壁を走り回り、追尾弾をほかの弾幕や壁と接触させ誤爆を促すなどしてなんとか凌ぐ。その曲芸めいた回避はベテラン探索者らしき視聴者たちが「なんだこりゃ!?」「意味わからんのだが!?」とコメントするほどに鮮やかだったのだが、


「なかなかやりますわね!」


 回避はできるが、ただそれだけ。

 カリンの身体能力と感知能力をもってしても回避がやっとで、無尽弾幕を放つボスモンスターに近づけないのだ。


(キャノンクラブ系のボスモンスターだと思いますけど、ここまで大きくてゴツい装備をした方は初めて見ますわ)


 ドガガガガガガガガガ!

  

 機動力が多少落ちることも承知で〈お優雅トリング〉を放ち弾幕の相殺を図るも焼け石に水。


 ボス本体に近づくことは叶わず、完全に防戦一方の展開が続いていた。



〝おいおいおいおい洒落にならんぞなんじゃこれ!?〟

〝弾幕がヤバいうえになんか普通に熱線が床貫通して足場も減っていってるんですけど!?〟

〝え、ちょっと待っていきなり強すぎじゃない!?〟

〝いままで出てきたモンスター全部まとめて皆殺しにできるだろこいつ!?〟

〝コピーモンスターが破裂するレベルじゃねえこれ!?〟

〝頭おかしい弾幕避けまくってるカリンお嬢様も意味不明だけどこれ相手がおかしいって!?〟

〝どうなってんだ!? イレギュラーボスってやつ!?〟


 ¥10000

 お嬢様それもしかしたらガチでヤバいやつかも! 深淵保有ダンジョンの深層ラスボスは深層最奥に君臨するってよりは深淵の入り口を守るボスって意味合いが強いって聞いたことが……さすがにコメント見る余裕ないと思うけどそいつ普通に深層レベル越えてる可能性ある! 撤退も視野に入れてくれマジで! 現状でも十分すぎるほどの記録だから!


〝はあ!? なんだそれ!?

〝下手したら深淵クラスあるってことか!?〟

〝ここまできてなんだよそれウソだろ!?〟

〝この無茶苦茶っぷり考えるとマジでそのくらいありそう……高難度ダンジョンやばすぎるだろ……〟

〝食い入るように動画見てる光姫様がほぼ静止画で草……とか言ってる場合じゃねえ!〟

〝は? 高難度ダンジョン頭おかしすぎでは……?〟

〝どうすんだこれ!?〟

〝いままでの特殊能力持ちと違ってとにかく地力がヤバいタイプだから付け入る隙も攻略方法もなくねぇか!?〟

〝てかこんだけバカスカ撃たれまくってたら撤退も簡単じゃねえですわよ!?〟



 カリンでさえ手に余る異常な弾幕。

 そして赤スパにてもたらされた情報とあわせ、視聴者たちから突破口なんて思いつかないとばかりに悲鳴があがる。


 だがそれも無理はないだろう。


「ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!」


 画面内で蠢く要塞は、これまで相対した深層モンスターたちとはまるで違う。

 小賢しい魔法能力など皆無。

 ただただ純粋な破壊と殺戮の権化として君臨する暴力の塊だ。

 

 ゆえに攻略法もクソもない。


 人智を超えた無尽の弾幕と砲撃の嵐を搔い潜り、山のような威容を叩き潰すほかに倒す方法などありはしなかった。あまりにも無謀だ。


 しかしそれでもカリンお嬢様ならどうにか――誰もが心のどこかでそう思っていたそのとき。


「仕方ありませんわね。少々お優雅ではありませんが――」


 カリンが少しばかりなにか逡巡するかのように小さく呟いた、刹那――ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 その一瞬の迷いが命取りとでも言うように、爆炎がカリンを包み込んだ。

 カリンの近くに着弾した一撃が、とてつもない広範囲で爆発したのだ。



〝え〟



 小さくコメントが流れる。 

 だがそのカリンの被弾に視聴者たちがまともに反応するより遥かに早く、


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 追撃と呼ぶにはあまりにも無慈悲かつおびただしい数の弾幕がカリンを包む爆炎へと叩き込まれた。



〝え〟

〝は!?〟

〝おいウソだろ!?〟

〝カリンお嬢様!?〟

〝え、冗談だよな!?〟

〝おいおいおいおいおい!〟

〝あ!? お嬢様死んだ!?〟

〝やっぱりさすがのお嬢様も高難度ダンジョンソロは無理だったんだって!〟

〝いや生きてるよね!? お嬢様だもんね!?〟

〝お嬢様ああああああああああああああ!?〟



 多くの視聴者が呆然としているのか、コメントは少ない。

 流れる声は悲痛な叫びにまみれ、しかしそんな悲鳴などなんの助けにもならないとばかりに〈ギガント・フォートレス〉の爆撃は止まらなかった。


「ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!」


 そして塵すら残してやるものかとばかり、蠢く要塞の〝主砲〟がカリンに向けられた――そのときだ。

 


「こんな状況を想定していたわけではないのですが……お優雅な着脱のためにアイテムボックスを少々改造イジっておいて正解でしたわ!」



 その元気な声が配信画面を震わせて――ビュオオオオオオオオオオオッ!


 凄まじい風が、ボス部屋に満ちる爆炎を蹴散らした。


〝え!?〟

〝あ!?〟

〝なんだ!?〟



「変身中は攻撃無効。戦いの基本でしてよ!」


 爆炎から無傷で現れたカリンがいつもの調子でトンチキを叫ぶと同時、その周囲に風を生み出しながら展開する異物があった。


 生み出す強風によって数多の爆撃からカリンを守り抜いた魔法装備。


 グリーブや肩当て、漆黒のスカート。アニメに出てくる女性用西洋鎧を各部位で分割したようなパーツたちが、アイテムボックスから射出された勢いのまま空を飛び、自動でカリンに装着されていく。


 それはまるでアニメの変身シーンのようで――瞬間、カリンの周囲に改めて吹き荒れるのは莫大な魔力から生み出される埒外の暴風だ。



〝へ?〟

〝なんだ!?〟

〝カリンお嬢様生きてる!? つーか無傷!?〟

〝なんだあれ!?〟

〝ドレスにあわせた鎧!?〟

〝なんなんだよマジでなにが起きてんださっきから!?〟



 カリン自慢のドレスを彩るように自動装備されたのは魔力を帯びた軽装鎧。

 全身のパーツが揃っているわけではなく、あくまで肩や足、スカートなどの上に重ね着されるに留めた、しかしそれだけで膨大な力を発揮する漆黒の魔法戦闘衣マジックバトルクロス


 それはこの日のために作られた3つの魔法兵装が2つ目。


 


〈神匠〉で鍛えしその装備の名は――、


魔龍鎧装まりゅうがいそう嵐式らんしき


 さかまく風に金の長髪をなびかせて。

 カリンが纏うその疾風に、もはや何人たりとも追いつけない。

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