第73話 第2のソロ殺し

「………………………………」


 実況解説配信中にもかかわらず、光姫は全身から力が抜けた状態で放心していた。


 つい先ほどまで喉が張り裂けんばかりに叫んで取り乱していた反動でろくに頭も働かないほどである。


 なにがあったのかといえば、先ほどまでカリンお嬢様がヒュプノシスバットの催眠にかかって大ピンチに陥っていたのだ。


 カリンお嬢様なら大丈夫。絶対に切り抜けられる。

 頭ではそう確信していても催眠は非常に強力な状態異常。


 しかも回避不能かつ重ね掛けされまくる音声由来の催眠などソロで遭遇すれば死あるのみであり、カリンへと迫るモンスターの殺意溢れる攻撃に光姫はキーボードを破壊しながら配信画面にかぶりついて絶叫していたのである。


 だが結論から言えばそれは結局大いなる杞憂で。

 カリンは当たり前のように催眠を自力解除したあげく、ばかでかボイスで催眠音声を撃滅。大声さえあげていればなんの問題もないとばかりに深層第2層を驀進し続けているのだった。


 

〝疑惑の配信者が爆音リサイタル開催しながら深層攻略してるとかいうデタラメ怪文書がSNSで流れてきたんだけど……え、これ本当にそのまんまのことやってるんです!?〟

〝ご新規さん困惑で草〟

〝ボー〇ボの文字バレが欠片も信用されなくてリーク野郎が狂人扱いされたのと同じような流れでおハーブ〟

〝爆音リサイタル(マイクなし)〟

〝ジャイ〇ンの完全上位互換やんけ!〟

〝てか光姫様もう完全に実況解説とか忘れて放心してて草〟

〝実況解説を忘れてたのは割と最初から……〟

〝まあでもわたくしも光姫様とまったく同じ反応してたから笑うに笑えねえんですのよねぇ〟

〝まあこれはしゃーない。絶対詰んだと思って事故配信覚悟してたもん〟

〝今回ばかりはさすがに光姫様の反応にも完全共感だよ!〟

〝光姫様の絶叫がおさまったと思ったら引き継ぐようにカリンお嬢様の騒音リサイタルはじまって草ァ!〟

〝お嬢様たちによる騒音公害メドレーはおハーブ〟



 視聴者たちも光姫と同様にカリンの快進撃に安堵したようで、先ほどまでの絶叫や悲観は完全に払拭されていた。


 カリンの無茶苦茶な催眠攻略に唖然とする者や爆速拡散した情報をもとにやってきた新規視聴者、光姫のリアクションに共感を示す者など、カリンと光姫の配信両方で平和なコメントが流れていく。


 光姫はそれらの書き込みをしばらく眺めてようやく現実を認識できたように安堵の息を吐いた。


「はぁ……カリンお嬢様が無事で本当によかったです……それにしても……」


 まだ少し放心状態が続いているためか、頭に浮かんだ考えをそのまま口にするかのように、


「実質効いてないようなものでしたけど……カリンお嬢様って催眠効くんですね……へぇ」



〝通報した〟

〝通報しました〟

〝通報しましたわ〟

〝対探課、出動!!!〟

〝穂乃花様この人です〟

〝親友ちゃんこの人です〟

〝穂乃花様の対探課での初仕事は光姫ちゃん逮捕かぁ〟

〝光姫ちゃん獅子身中の虫で草〟

〝やっぱりブラックタイガーからの刺客やんけ!〟

〝光姫ちゃんには失望しました影狼のファン辞めます〟



「っ!? え!? ちょ、違っ、違いますよ!?」


 書き込まれる怒濤の通報コメに光姫が泡を食う。

 なんたる誤解!

 なんたる冤罪!


「あの完全無欠のお嬢様に通用する可能性のある攻撃をどこかの不届き者が悪用しないか警戒しているだけですよ! いざというときは僭越ながら私が守護まもらないと! というだけの話です! どうしてそんな不埒な話になるんですか!」


〝日頃(ここ数日)の行い、ですかねぇ〟

〝なんならこの数時間だけでそういうイメージになったまである〟

〝不埒な悪用方法云々なんて誰も書き込んでないんですけど!〟

〝これ光姫様ちょっとはそういう想像しましたわね〟

〝声のトーンが「ガチ」だったんだよなぁ〟

〝これは疑惑の配信者〟

〝疑惑の配信者お嬢様が増えてて草〟

〝そういえば今回の光姫様のリアクションに共感してる書き込みがたくさんあったな……〟

〝お、予備軍か?〟

〝誤解です!〟

〝酷い流れ弾!〟

〝不埒なことを考えてるのは光姫様もとい闇姫様だけですわ!〟

〝光姫ちゃん秒で売られてて草〟

〝俺のサイドエフェクトがなにも囁いてないんだが……これはいちおう警戒だな〟

〝サイドエフェクト兄貴なにも囁いてないなら普通にただの言いがかりじゃねーか!〟


¥10000

てか釈迦に説法ではあるけど催眠ってのは名前こそ夢が膨らむ感じだけど要するにただの錯乱魔法だから! 都合の良い命令なんてできないし術士をモンスターと誤認したお嬢様にぶっ殺される可能性がめっちゃ高いよ! なので絶対にやめましょうね光姫様!〟 


〝こんな欲望にまみれた釈迦いないんだよなぁ〟



「あ! そんなことよりも!」


 なんだかなにを言っても曲解されるノリに突入してしまったコメント欄から目をそらし、光姫が声を張り上げた。


「カリンお嬢様がもう第2層最奥に到達したみたいです! ボス戦ですね!」



〝露骨に話そらしてて草〟

〝いやでもこれはしゃーないぞ!?〟

〝はっっっや!?〟

〝カリンお嬢様早すぎない!?〟

〝アホみたいな下ネタこすってる場合じゃねえ!〟

〝これ本来なら多分ヒュプノシスバット対策しながらほかのモンスターの相手しないといけないからトップクランパーティでも攻略にめっちゃ手間取る階層なんだろうな……〟

〝リサイタル驀進でコウモリさん全滅でしたものね……〟

〝歩くMAP兵器かな?〟

〝ここ深層じゃなくて中層かなんかだろと勘違いしそうになる攻略速度〟

〝ミュージカルみてぇな大声配信で深層第2層突破はお優雅すぎるだろ!?〟



『お、もうボス部屋に辿り着いちゃいましたわ! いきなり催眠を食らって出だしはアレでしたけど、なんやかんやで楽な階層でしたわね!』


 カリンのほうもボス部屋到着を宣言し、さきほどまで放っていた大声を停止する。



〝や、やっと終わりましたわカリンお嬢様のリサイタル攻略が……!〟

〝マジで大声だけで深層催眠モンスター完封しやがったですわ!?〟

〝あの……カリンお嬢様これもしかしてカラオケで人を殺せるのでは……?〟

〝カラオケ屋が吹き飛ぶからやめてください〟

〝防音パネル爆散しそう〟

〝カラオケ屋「来ないで」〟

〝カラオケ屋「出禁」〟

〝てかカリンお嬢様あんだけ絶叫し続けて声がまったく枯れてないのなんなんですの……!?〟

〝お紅茶パワーでしょ(適当)〟

〝影狼が早期退院してたみたいに高レベル探索者は頑丈さだけじゃなくて自然治癒力も高まるからな〟

〝お嬢様クラスなら喉にダメージが入るそばから回復してるんじゃね?〟



 カリンの第2層踏破宣言に、光姫のチャンネルだけでなくカリンのチャンネルでも無数のコメントが流れていった。光姫の催眠悪用疑惑についても一気になかったことになる勢いだ。



〝深層第2層ボスか……どんなバケモンだろうな〟

〝暴風龍を2パンしたお嬢様ならもうどんなバケモノが来ても平気ですわ!〟

〝催眠もゴリ押し突破したお嬢様に怖いものなんてねーですの!〟

〝このまま2層ボスもボコですわ~!〟

〝いや油断は禁物ですわよ! 逆に言えばあの暴風龍でさえ1層ボスだったんですから!〟

〝噂によると暴風龍って普通は深層の最奥ボスらしいからな……〟

〝普通の深層ならラスボスになるようなのが第1層ボスやってるとか高難度ダンジョン頭おかしいだろ……〟

〝カリンお嬢様とどっちが頭おかしいか勝負ですわね!〟

〝それもう勝負見えてませんこと?〟

〝なんにせよこれまでのバケモノオールスターっぷりから考えてマジで油断はできませんの……!〟



 これまで無茶苦茶な方法で深層の魔法生物を蹂躙してきたカリンといえどやはり油断は禁物とコメント欄が緊張を帯びる。


『それでは第2層ボスに挑んでいきますわね!』


 そしてコメント欄とは対象的に、カリンが喫茶店にでも入るような軽いノリで重厚な扉を押し開き、だだっ広い大広間へと足を踏み入れた。途端、


『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』


 凄まじい獣声が共鳴しあうようにしてダンジョンを揺らした。



〝!?〟

〝うわなにこいつ3つ首の狼!?〟

〝でっけぇバケモノ犬ですわー!?〟

〝うん!? こいつケルベロスか!?〟

〝うっわめんどうくさ強いボス筆頭! ……あれけどこいつって下層ボスじゃありませんでしたこと?〟

〝なんで下層ボスが深層ボスやってんだ?〟



 深層ボスの威容と砲声に圧倒されるコメント欄。

 そしてそのなかには少なくない困惑の声が混じっていた。


 なぜならいくつもの書き込みが示すように、3つ首の巨大狼は下層に出現するボスだったからだ。


 ケルベロス。

 

 それはヴェノクラゲと並んで下層最強と評されるボスモンスターだった。

 

 高い身体能力に首が複数あるがゆえの死角のなさ。

 3つの首から吐き出される獄炎は生半可な防具をあっという間に溶かし探索者を消し炭に変える。


 そしてなにより厄介な性質は、3つの首をほぼ同時に落とさなければ無限に回復してくるという生命力にあった。


「ケルベロス……首を同時に落とさなければならない不死性から通称ソロ殺しとも言われる強力なボスモンスターですね。ですが多くの書き込みがあるようにこのモンスターは下層のボス。なぜこんなところに……」


 光姫が真面目に解説すると同時に首を捻る。

 だがここは高難度深層。

 絶対にただのケルベロスのはずがないと光姫が真剣な瞳で画面を見ていた、そのときだ。


『『『ガルルルルルルウルルッ』』』


 カリンと対峙していた異形の巨大狼の姿ブレた。

 かと思えば、


『ガルアアアアアアアッ!』

『グルアアアアアアアッ!』

『ゴアアアアアアアアッ!』


 その体が3つに分かれ、3体の巨大狼がボス部屋に出現していた。



〝は!?〟

〝え!?〟

〝なんだ!?〟

〝分身した!?〟



『なるほどそうきましたか』


『『『ガルオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』

 


 ボスの行動を冷静に観察するカリンに、分裂したボス狼たちが一斉に襲いかかる。



〝はっっっっや!?〟

〝俯瞰映像でも捉えきれん高さ5メートル超えの狼ってなに!?〟

〝下層ケルベロスなんかとは比べものにならん速度なんだが!?〟

〝いままでの戦闘もクッソ早かったけど3体のクソでか狼と入り乱れる戦闘とか頭も動体視力もカメラのフレームもなにもかもついていきませんのよ!?〟

〝カリンお嬢様この乱戦普通にさばいてるー!?〟

〝いやけどケルベロスが分裂っておいこれまさか……!?〟



『この方たちの生命力、まずは一度試してみる必要がありますわね』


 カリンもまた一部視聴者と同じ可能性を脳裏に描いたのだろう。


『どっせい!』


 ドッゴゴン!!!! 


 アイテムボックスから取り出し流れるように装備したのは無骨な超重量級魔法兵装パイルバンカー。相手の動きを完全に先読みし、未来が見えていると錯覚するような精度で攻撃を回避。


 空中をお優雅に回転した勢いを利用し、暴風龍をも容易く屠る豪拳でボス狼のうち1体の頭を叩き潰す。


 そしてそのまま2体目の頭を潰すべく走るのだが、


『グル゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!』


 頭を潰されたボス狼が、凄まじい勢いで頭部を回復させつつ、しかし回復しきる前からゾンビのように襲いかかってきた!


『やはり』


 パイルバンカーをしまい、ガトリングへと換装しながらカリンが確信の声を漏らす。


『通常のケルベロスと同様、同時に首を切るか頭を潰すかしなければ倒せないようですわね』



〝はあああああああああああ!?〟

〝うっそだろおい!?〟

〝クソゲー!〟

〝無理ゲー!〟

〝ほんとふざけんなよケルベロスお前下層でもあんだけ厄介だったのに深層でそんなパワーアップしてるとかほんまドロップアイテムだけ残して消えてくれ!〟

〝ケルベロスに散々苦労させられたと思しき探索者ニキおって草〟

〝ちょっと待て反則だろそんなもん!〟



 深層ボスのイカれた性質に阿鼻叫喚となるコメント欄。

 だがそれと同時にカリンは既に次の手を撃っていた。


『それでは試しに、ファイヤーですわーー!』


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

 ボス部屋にまき散らされる魔弾の嵐。

 既に頭を回復させた個体やカリンから妙に距離をとっている個体含め、3体すべてのケルベロスの頭部へ強力無比な弾幕が殺到する。


 が、次の瞬間。


『ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』


 カリンから距離を取っていたケルベロスが遠吠えを響かせた。

 かと思えばカリンの放った魔弾が見るからにしぼんでいき……ドゴゴゴゴゴゴゴン!


 魔弾はケルベロスたちに一斉着弾。

 しかしその頭部を消し飛ばすどころかろくなダメージを与えられていなかった。



〝!?〟

〝は!?〟

〝お優雅トリングが効いてない!?〟

〝いやこの感じは……!?〟

〝なんかいま魔弾が小さくなってたよな!?〟



『ガルアアアアアアアアアアア!』


 続く咆哮は、カリンから適度に距離を取っていたケルベロスの砲声だった。

 魔弾のお返しとばかりに放たれるのは地獄の業火。

 

 熱線といって差し支えのない凝縮された熱のブレスが一直線に放たれる。


 ジュアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 砲撃特化のドラゴンカノンほどではない。

 しかし凄まじい速度で放たれた熱線は当然のようにダンジョン壁を溶かし、途切れることなくカリンに襲いかかった。


『グルアアアアアアアア!』


 さらに同士討ちも恐れず突っ込んでくるのは、常にカリンに追いすがって近距離戦を仕掛けてくるケルベロス。


 3体がそれぞれ離れた位置で高度な連携をとり、カリンを一方的に攻め立てる。


「これは……!?」


 その高速戦闘を凝視し、光姫が呻くように呟いた。


「私にも戦闘速度が速すぎて詳細まで捉えられているか不明ですが……近接戦闘に秀でたケルベロスA、遠距離砲撃に秀でたケルベロスB、そして恐らく探索者の魔法攻撃を減退させる咆哮を放つケルベロスCの連携があるようです……! 頭部を同時に潰されないよう互いに距離をあけて立ち回りつつ遠距離攻撃手段の魔法も潰し、じわじわといたぶり殺す狩りの陣形……!」


 

〝えぇ……〟

〝ケルベロスの上位互換どころか害悪度が100倍になっとるやんけ!?〟

〝あまりにもあんまりすぎて光姫ちゃんの解説を聞いても脳が理解を拒んでるんだが!?〟

〝は? これ無理じゃね?〟

〝カリンお嬢様の速度ならワンチャン……と思ったけどこいつら頭の回復速度早すぎるうえに距離とってるし頭潰れた状態でも戦えるしでなんなんですの!?〟

〝頭潰されたならせめて回復するまで大人しくしとけですわ!?〟

〝おいおいカリンお嬢様これどうすんだ!?〟

〝ケルベロス……頼むから死んでくれ……お前のようなやつは生まれてさえこないでくれ……お前のようなカスが存在していると私の頭が狂うのだ……〟

〝これマジでソロじゃ無理なやつじゃねえの!?〟



『ほー。なるほど。そういう性質ですのね。魔法威力減退の個体から潰そうにも、この感じだと恐らくそれぞれの能力もスイッチ可能。だったら――』


 と、そのとき。

 ケルベロスへの怨嗟と諦観を示すコメント欄とは対照的に、カリンが速度を上げた。

 ボス部屋内を縦横無尽に駆け巡り、それぞれのケルベロスたちを殴りまくる。

 

 ヒュンッ! ドガガガガガガガン!


 しかし当然その拳はケルベロスたちに通用しない。

 凄まじい威力の拳撃が深層ボスの肉体に深刻なダメージを与えるも、すぐに回復されてしまうのだ。


『『『グルアアアアアアアアアアアアアアア!』』』


 逆に怒り狂ったケルベロスたちによって攻撃は激しさを増し、3体がカリンから一定の距離を保つフォーメーションが崩れることもなく反撃の糸口は現れない。


 むしろ激化した攻撃に冷や冷やする場面が増え、カリンが無駄な挑発で不利になったとしか思えない状況だった。



〝カリンお嬢様どうされましたの!?〟

〝ヤケクソか!?〟

〝カリンお嬢様のことだからまたなんか考えがあるんだろ!?〟

〝いやでも無駄に消耗するだけじゃないんですのこれ!?〟

〝ワンチャン相手の連携が崩れるようかき乱すしかないんじゃないってことか……?〟

〝こんなふざけたボスモンスいくらお嬢様でもソロじゃ厳しいでしょ。魔法の威力まで殺されるとか複数の近接特化探索者が必須だってこんなん〟

〝下手に粘らずいったん引き返したほうがよくない!?〟

〝アレだ! 生首ドラゴンの素材でお優雅トリングを改造しよう! あの威力を搭載できれば威力減退されてもいけますわ!〟



 カリンの行動に当然といえば当然の声が集まる。

 

 ――その、次の瞬間だった。


『――そこですわ』


 キンッ!


 甲高い音が、小さく鳴った。


 それは、空中に飛び上がったカリンが名刀モンゴリアンデスワームをアイテムボックスから引き出すと同時に抜刀を放ち、そして誰にも知覚されることなく完了した音。既に相手を斬り殺して納刀したことを示す小さな鍔鳴り。


 そして視聴者のうち何人かが〝え、なにいまの音〟と書き込もうとした刹那。


『『『カ――ッ!?』』』


 カリンが動きを誘導することで一瞬だけ一直線に並んだケルベロスたちの首が、一斉に切り飛ばされて地面に落ちた。



〝は?〟

〝え?〟

〝は?〟



 しん――。


 いましがたまでの戦闘がウソのように静まりかえるボス部屋にコメント欄も絶句する。

 

 しかし一斉に首を刎ね飛ばされてピクリとも動かなくなった深層ケルベロスの姿が10秒も画面に映れば、その沈黙は一気に爆発へと変わった



〝ちょっ、なにが起きたんだこれええええええええええええ!?〟

〝害悪ボスが死んでるうううううううううううう!?〟

〝え、ちょっ、マジでなに!? カリンお嬢様なにしたのマジで!?〟

〝え、なんかいつのまにかモンゴリアン腰に差してるけどまさか斬ったのか!?〟

〝ケルベロス同士でかなり距離とってたのになんで一瞬で首が全部飛んでんの!?〟

〝「また電波がお排泄物ですの?」じゃないんですのよカリンお嬢様! なにが起きたのかわかんなくてみんな固まってんですの!〟

〝いやこれフェイクじゃないってマジなの!?〟

〝なにがどうなってんですの!?〟



「こ、れは……!? ケルベロスたちの死体位置を見るに……彼らが一直線になった一瞬をモンゴリアンデスワームで切り捨てた……!? あの超速度の乱戦のなかで相手の動きを誘導先読みして……!?」


 視聴者と同様にしばし絶句していた光姫が、解説するように、あるいは純粋にいま起きたことを自分の中で整理するように呟く。


 カリンが光姫の言葉を肯定補足するように、


『ダンジョン壁越しにモンスターを斬り殺すときとかがそうなんですが、モンゴリアンデスワームちゃんは切れ味が鋭すぎて光姫様に教えてもらった型で抜刀すると刀身よりも遥か先まで斬撃が届きますの。飛ぶ斬撃? みたいな感じですわ! ですがさすがに斬撃を飛ばせるのは前方だけなので、ケルベロス様たちを挑発して動きを誘導、一直線に並ぶ瞬間を先読みして叩っ切りましたの!』



〝……?〟

〝……………………?〟

〝????????????????????????〟

〝(あぁ~! 脳が理解を拒む音ォ〜!!)〟

〝頼むからお嬢様語じゃなくて日本語で話してほしいですわ……〟

〝いやあの……え……マジであの速度の乱戦のなかでそんなこと狙ってやったんですの……? 

〝ほ、本気で言ってます……?〟

〝絶対ソロじゃ無理とかしたり顔で書き込んだワイ、羞恥と恐怖で心臓がヤバい〟

〝ソロ殺し(ただしお嬢様は除く)〟

〝お嬢様は一騎当億なのでソロだけど実質ソロじゃないですものね!(幻覚錯乱状態)〟

〝もう無茶苦茶すぎますわこのお嬢様wwwww〟

〝てかなんとなく察しはついてたけどデスワームちゃんの性能、頭おかしくありません……?〟

〝あの……デスワームちゃんこれ絶対下層素材が材料じゃありませんわよね……?〟



 と、コメント欄が絶句しほとんどドン引きするなかカリンがカメラ目線で言葉を続けた。


『ですがこれはわたくしに刀を作るという発想がなければできなかった戦法。つまりは光姫様との出会いがもたらしてくれた短期決着ですわね! 光姫様ー! ありがとうございますですのー!』


「う゜っ!?」


 ぱたぱたと手を振りながら微笑むカリンの不意打ち遠距離一撃必殺ファンサービスに光姫は心臓をおさえて悶絶。


 形容しがたい奇声を漏らし、再びノックアウトされるのだった。

 



 ブラックタイガー現在の情報資産損失額――20億。

 光姫再起動まで――あと10分。



―――――――――――――――――――――

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