第70話 大暴れお嬢様!(深層版)
〝それにしても……お嬢様が一番おかしいってのは前提として深層ヤバすぎない?〟
〝冗談抜きで通常モンスターが全部下層ボスと同じかそれ以上の脅威でおハーブ枯れる〟
〝つーかブラックタイガーもヤバくね? このダンジョン開拓してんだよな?
〝虎はこの高難度深層の第3階層ボス倒すとこまでいってるんだよなぁ……〟
〝なんやかんやで調子乗って好き勝手できるだけの実力はあるっつーね……〟
〝腹立つけど日本最強級クランは伊達じゃないな……ところでそんな魔境を事前情報なし、ソロ、無傷、ドレスで突き進んで全世界に攻略情報無料公開してるこの一般お嬢様は一体……?〟
〝山田カリンお嬢様だが?〟
〝無敵の返しやめろですわ定期〟
¥20000
って、そんなこと言ってる間に同接500万ですわー!?〟
〝500万!?〟
〝うわマジやんけ!?〟
〝お嬢様の戦闘がヤバすぎて全然チェックしてなかったけどいつの間にかまたがっつり数字が伸びてますわー!?〟
〝500万wwwwww 400万でもヤバいのにそこから勢い落とさずまだ伸びるのほんまおハーブ〟
〝配信の内容考えれば当然なんだがそれにしたって勢いヤバいななんだこれwww〟
「っ!? うぇ!? 500万ですの!?」
カリンがお優雅にトコトコとダンジョンを進むなか、改めて深層の脅威に戦く視聴者たちの声でコメント欄が溢れかえる。
そこに投下された同接500万突破の声に、カリンの声がひっくり返った。
慌てて同接の数字を見れば確かに500万を超えており、そのうえ同接の増加速度はまったく鈍っていない。むしろカリンが歩を進めるごとに加速しているようにすら見える。
〝うわほんとにダンジョンでドレス着てる!〟
〝え……これ本当に深層なんですか?〟
〝光姫の言っていたクレイジーガールの動画はここかな?(英語)〟
〝頭のおかしいお嬢様がワールドレコードに並ぶ可能性アリと聞いて〟
〝ダンジョン配信なんてはじめて見たけどこれ本当に合成とかじゃないんですか!?〟
しかもコメントを見る限り完全ご新規の声がかなり多い。元々のファンとは別に、普段配信を見ないような人までもが流れ込んできているようだった。
光姫やもちもちたまご先生のおかげで新規視聴者の導線が確保されているのはわかっていたが、それにしたってここに来て異常な伸びだ。深層攻略の真っ最中とはいえ、まだ世界記録の深層踏破には遠いだろうに。
「ど、どうなってんですのこれ……?」
〝そりゃもうネット中がこの深層攻略の話題一色だからなぁ〟
〝ミストの素手討伐切り抜きとか速攻で600万再生突破してるしそりゃ同接も伸びますわ!〟
〝トレンドワードもトップ25まで全部この深層配信関連で埋まってるし当然ですわよ〟
¥10000
クレイジーお嬢様、深層ドレス、ミスト素手討伐、ポケッ〇モンスターきったねぇ花火/綺麗な花火、#ブラックタイガーの情報資産損失総額試算、#解説して光姫様、ちからもちデカヌチャン……書き切れねえほどですわ!〟
〝相変わらず光姫様がトレンド食い込んでて草〟
〝つよい〟
〝あとわたくしたちの拡散以前に世界記録タイ間近ってのもでかいですわ!〟
〝有志が調べた結果どうも深層第1層ソロ突破だけでも16歳の世界記録に並ぶっぽいですのよ!〟
〝ひとくちに深層といっても難易度の違いとかややこしいですが、とりあえず世界タイ記録は確実!〟
〝あと配信しながらの深層第1層踏破は間違いなく世界初らしいですのよ!〟
〝第1層突破だけでも大ニュースらしくてそれで人が集まってるみたいですの!〟
「え、世界記録タイですの!?」
なにが起こっているの教えてくれた書き込みにカリンは目を見開く。
公式世界記録は深層踏破だと思っていたのだが、どうやら第1層を踏破しただけでも十分賞賛に値する記録とのことだった。
真冬からは「まあとりあえず深層踏破すれば確実に公式世界記録の偉業って思っておけばいいよ」としか言われていなかったので全然意識してなかったのだが……有志いわくタイ記録に絞れば世界記録はもっと浅いらしい。加えて配信をしながらとなると16歳では間違いなく世界初。
カリンがボス部屋到達間近ということでその情報が改めて拡散し、人の集まりが加速しているようだった。
(せ、世界記録って随分と緩いんですのね……まあそれもあくまで「公式」の記録。ダンジョンアライブで描かれていたように、真の強者は無闇に実力を明かさず裏に潜むもの。きっとこのくらいのことができる方は何人もいらっしゃるのでしょうけど……)
カリンは自分を戒めつつもお優雅な笑みを浮かべ、
「その公式記録が疑惑払拭に、ひいては皆様にお優雅な配信を楽しんでいただける未来に繋がるなら、わたくし甘んじて歴史に名を刻ませていただきますわ! あくまで
ドレスを翻して歩みを加速させた。
本来ならば多少歩みを鈍化させるほうが同接の伸びには有効なのだろうが(そして真冬もそれを期待してカリンには曖昧な情報しか与えていなかったのだろうが)、お優雅なダンジョン攻略を目指す配信者のサガというものか。
カリンはボス部屋目がけ張り切って突き進む。
が、そのときだ。
「「「「ガルアアアアアアアアアアアアア!」」」」
「「「「「キイイイイイイイイイイッ!」」」」」
「「「「ギチギチギチギチギチッ!」」」」
まるでカリンの記録達成を邪魔するように、というわけでもないだろうが。
カリンの進路上に大量の深層モンスターたちが立ちはだかった。
ドラゴンカノンの砲撃によって各ルートが繋がった影響もあるのだろう。
衝撃の吸収放出能力を持つインセクトウォーリアー、深層の広い通路を飛ぶ飛竜、さらには光沢のある甲殻で覆われた初見の昆虫モンスターなどが大挙して押し寄せてくる。
〝うわあああああああああああああ!?〟
〝なんじゃこりゃ!? スタンピードか!?〟
〝おいおいおいおい深層モンスターの大群とかさすがにヤバいだろこれ!?〟
〝世界記録タイ間近だったのにいいいいいいいいいいい!?〟
〝カリンお嬢様これはさすがにいったん待避したほうがよろしいのではなくて!?〟
〝画面越しでも圧力半端ないんですけど!?〟
が、
「邪魔ですわああああああああああああああ!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
「「「グガアアアアアアアアアアアアッ!?」」」
大群の襲来を事前に感知していたカリンは既に迎撃を開始していた。
アイテムボックスから速攻で取り出し魔力充填を完了していたお優雅トリングをぶっ放す。
下層ボスさえ容易く吹き飛ばす魔力弾の嵐が深層モンスターの群れに炸裂し、数多の悲鳴を轟かせた。が、それですべてのモンスターがダメージを受けたわけではなかった。
「「「ギイイイイイイイイイイッ!」」」
光沢のある甲殻に包まれた虫型モンスターはまったくの無傷。
それどころか――その甲殻に当たった魔弾がカリン目がけて凄まじい勢いで跳ね返ってきたのだ。
〝うええええええええええええ!?〟
〝お優雅トリングキタアアアアアアア! と思ったらなんだあの虫!?〟
〝衝撃吸収の次は魔法反射かよ!?〟
〝しかもあの魔弾を跳ね返すってなんですの!?〟
〝え、ちょ、この大群に魔法使えないってクソゲーすぎない!?〟
〝深層えげつなさすぎだろ!?〟
「なるほど厄介ですわね。けど甘いですわ!」
跳ね返された魔弾を当然のように避けたカリンが魔力を凝縮させる。
ガトリングの能力はただの魔弾乱射だけにあらず。
渋谷決戦にて逃げ惑う人々を避け正確にモンスターだけを狙ったように、通路を埋め尽くす大群のなかから魔法反射虫以外のモンスターだけに照準を定める。
「ファイヤーですわああああああああああ!」
「「「グルアアアアアアアアアアアッ!?」」」
「「「ギ、ギイイイイ!?!?」」」
そのあまりに正確なピンポイント狙撃に再びモンスターたちの悲鳴が響き、魔法反射虫たちが困惑の声をあげる。そして同胞たちを魔弾から守ろうとその体にとりついて盾や鎧のような役割を果たそうとするのだが――バッ!
既にカリンは次の一手を打っていた。
ガトリングを担いだまま高く跳躍し、深層モンスターの大群のど真ん中に着地。
そしてそのまま――ダラララララララララララララララララ!!!!
群れのど真ん中にて全方位に魔弾を乱射しまくった。
魔法反射虫の装備が遅れたモンスターたちが悲鳴をあげる一方、魔法反射虫を上手く活用したモンスターたちによって一部の魔弾は確実に反射される。しかし、
ドガガガガガガガガガガ!
「「「グルアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」
反射された魔弾はカリンが放ったときと違いホーミング性能があるわけではない。大群のなかで反射すれば、待っている結末は当然のように同士討ち。
ドガガガガガガガッ! ガトリングを乱射し続けるカリンは反射される魔弾とモンスターたちの攻撃を自分だけは避けまくり、確実に群れを削っていく。
さらには、
「えいえいえいえいっ! ですわ!」
片手でガトリングを乱射していたカリンがもう片方の手でインセクトウォーリアーを何度か殴りつける。その衝撃は当然吸収され、極上の攻撃を溜め込んだインセクトウォーリアーが「馬鹿め!」とばかりに衝撃波を放とうと口を開いた。瞬間、
「あっち向いてホイですわ!」
「ギッ!? ギイイイイイイイイイイイイッ!?」
ドッゴオオオオオオオオオオオオン!!
「「「グガアアアアアアアアアアアアアアア!?」」」
衝撃波放出のタイミングを完全に見切っていたカリンがインセクトウォーリアーの体を異常な速度で持ち上げ一回転。
明後日の方向に炸裂した衝撃は魔法ではなく純粋な物理攻撃に分類されるらしく、魔法反射虫や飛竜たちをまとめて吹き飛ばしていた。さらに、同胞の放つ衝撃波は少々吸収効率が悪いようで、ほかのインセクトウォーリアーたちは盾にしていた魔法反射虫を吹き飛ばされると同時に転倒。あえなく魔弾の餌食になっていく。
「おお! もしやと思って試してみましたが、やはりあなた衝撃波の吸収は少し苦手なんですのね! 良い発見ですわ! えいえいえいえいえいえいえい!」
「ギイ!? ギイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」
そしてカリンは逃げようとするインセクトウォーリアーをとっ捕まえて再び連続殴打。容量限界を超えてたまらず衝撃を吐き出すインセクトウォーリアーへの容赦なきあっち向いてホイ! と魔弾掃射を繰り返し、瞬く間に群れを蹂躙していった。
〝ええええええええええええええええ!?〟
〝ちょっ、待て待て待て待て! 動きも展開も早すぎる!〟
〝ちょっと待ってなにが起きてんのこれ!?〟
〝深層の群れ相手にこれって……!?〟
〝お嬢様これまで配信映えや敵の生態観察優先してどんだけ力おさえてたんですの!?〟
〝戦い方エグくておハーブ〟
〝群れの真ん中に突っ込んでいって魔弾連射した挙げ句に反射された魔弾を自分だけは避けまくるの無法すぎますわよ!?〟
〝てかなんで魔法反射されてるのに刀を使わずにガトリング撃ってますの!?〟
「こっちのほうがお優雅かつ配信映えする戦闘になるかと思いまして!」
〝うわあああああああ!? この状況で答えが返ってきたアアアアア!?〟
〝イカれた戦闘しながらイカれたレスするのやめてくださいます!?〟
〝配信映え気にするのやめて本気出したのかと思ってたら全然普通に配信映え気にしてたでござるの巻(白目)〟
〝このお嬢様どうやったら倒せますの……?(純粋な疑問)〟
〝それはいまブラックタイガーが一番聞きたいやろなぁ〟
〝というかなに当然のようにインセクトウォーリアーを武器扱いしてんですのこの人!?〟
〝〈神匠〉で武器に加工するまでもなく使いこなしてて草ァ!〟
〝虫君オロオロでおハーブ〟
〝お、自我がある刀とかそういうヤツかな?(震え声)〟
〝自慢の衝撃吸収反射能力で仲間がボロボロになっていくのどんな気分なんでしょうね〟
〝ま、まあきったねぇ花火に加工される絶望を味わうよりマシでしょ……〟
とコメント欄があまりの戦闘に愕然とするなかあっという間に戦闘は終了。
「ふう! いっちょあがりですわ!」
当然のように無傷でスカートを揺らすカリンの眼前で、深層の広い通路を埋め尽くすモンスターの死体がダンジョン壁に吸収されていった。
〝うおあああああああああああ!? マジで全部刈り尽くしたあああああああああああああ!?〟
〝なんなら途中から逃げようとするモンスターも狩ってたでしょ(震え声)〟
〝深層モンスターが人間から逃げ出すってなに……?〟
〝これもうカリンお嬢様のほうが人の形をしたイレギュラーなのでは……?〟
〝うっわ……なんかすげえたくさん素材が落ちてる……〟
〝そういやいままで深層じゃほぼ素材ドロップしてなかったから気にしてなかったけど……これって当然……〟
〝※カリンお嬢様は未成年なのでドロップアイテムを持ち帰れません〟
〝うわあああああああああああああああああああ!?
〝損失額何十億だこれええええええええええええええ!?〟
〝ダンジョン庁の野郎が融通きかせないせいで希少素材の数々があああああああああああああああああああああああああああああ!!!!〟
〝高難度ダンジョンの深層素材放置とかこんなの精神的ブラクラ配信ですわあああああああああああ!〟
〝深層経験ある探索者や研究加工職っぽいアカウントが軒並み発狂してて草〟
〝タイタンナイトボーンの特殊行動ドロップ以来の阿鼻叫喚ですわね……〟
〝クレームはダンジョン庁と政治家先生のほうへどうぞ〟
そうしてカリンの大暴れにコメント欄が色々な意味で爆発するなか、
「お、着きましたわね!」
群れを殲滅してしばらく進んだカリンの視線の先。
暗がりの奥に重厚な扉が出現していた。
深層第1層の最奥。ボス部屋への入り口だ。
〝ボス部屋キタアアアアアアアア!〟
〝うわマジで砲撃打ち返した方角をまっすぐ進んで辿り着きましたわ!?〟
〝前々から思ってましたけどカリンお嬢様って普通に初見ダンジョンの地形全部見えてませんこと……?〟
〝さすがにあの砲撃もボス部屋を貫通するほどではなかったようですわね……〟
〝高難度ダンジョンの深層ボスか……さすがに緊張するな〟
〝まあ深層の大群相手にあんな無茶苦茶な大立ち回りしたお嬢様ならいけるでしょ!〟
〝渋谷のダンジョン崩壊で深層ボス(暴風龍)2パンだったお嬢様なら余裕余裕!〟
〝いやいやマジでどんなバケモンが出てくるかわからんし油断は禁物だぞ!〟
〝頑張れカリンお嬢様!〟
〝ここ突破したら世界記録タイですわよ!〟
「それでは、深層第1層のボスに挑んでいきますわ!」
カリンはコメントの応援に応えるようにその重厚な扉を押し開いた。
途端――ゴオオオオオオオオッ!
カリンの頬を撫でるのは、これまでの魔法生物が雑魚に感じるほどの膨大な魔力。
殺意に満ちた風。
そしてボス部屋に踏み込んできた無粋な侵入者への咆哮だった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
それは黒い鱗を持っていた。
それは血色の瞳をしていた。
持ち上げた首は数十メートルの高さに及び、迸る咆哮が大気を揺らす。
暴風龍。
全身を凄まじい風の鎧で覆ったモンスターの頂点種が災害めいた魔力を纏い、絶望の顕現とばかりの威容でカリンを見下ろしていた。が、
〝あ〟
〝あ〟
〝あかん〟
〝オワタ(相手が)〟
〝草〟
コメント欄に緊張感の欠片もない書き込みがずらりと並ぶ。
「あらまぁ」
そしてカリンもまた頬に手を当て、
「まさか見知った顔が現れるなんて。あんまり配信映えしませんわねぇ」
言いつつ、即座にアイテムボックスから取り出した
小虫がなにやらほざきよるわ、とばかりに膨大な魔力を練り上げたボス部屋の主めがけて一気に駆けだした。
そして――、
「どっせい!!」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
カリンはかつて渋谷でそうしたように、風のブレスを真正面から打ち破って暴風龍を2パン撃破。
500万人を優に超える視聴者の前で深層ボスをなぎ倒し、高難度ダンジョン深層第1層の踏破を成し遂げるのだった。
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