第47話 バーサーカー配信
〝ええええええええええええ!?〝
〝レベル30が中層近接最強格を倒したあああああああああああ!?〝
〝うっそだろおい!〝
〝超絶劣化とはいえ中層のミノタウロスって異名もあんだぞダンジョンボアは!?〝
〝てかなんだよあの切れ味!? 完全に魔法機能追加されとるやんけ!?〝
〝マジで魔法装備の改造成功してるううううううううううう!?〝
〝おいおいおいおい! いくらお嬢様が下層素材供給しまくったとはいえこの短期間で改造までできるようになるとか〈神匠〉ぶっ壊れすぎんだろ!?〝
〝加工専門親方のなかでもマジのトップしかできない超絶技巧ですのよ!?〝
〝よく考えたら神の名を冠するユニークが弱いわけなかった(熱い手の平返し)〝
〝てか魔法装備もヤバイけどなんでレベル30があの高速戦闘装備をいきなり使いこなせてんだ!?〝
〝まぐれ……の動きではなかったですわよ!?〝
〝穂乃花様ポテンシャル半端ないのではなくて!?〝
魔法装備の作成と改造。そしてダンジョンボアの討伐。
レベル30である穂乃花が成し遂げた信じがたい偉業に、コメント欄がお祭り騒ぎとなる。
そしてそんな偉業を最も信じがたいと思っているのは穂乃花自身だった。
「カ、カリンお嬢様……いま、いまわたし……ダンジョンボアを……っ」
「ええ、やりましたわね!」
声が震える。夢かと疑う。
だが力強く断言するカリンと湧き上がってくる力がそれを現実だと穂乃花に確信させた。
レベルアップ。
モンスターを倒すことで自身の力が増すダンジョンの神秘。
詳しい原理はいまだ不明だが、自らの手で屠ったモンスターから魔力を吸収することで起こるとされている現象だ。
その吸収率には大きな個人差があるというのが定説だ。
恐らく穂乃花は加工職ゆえにモンスターをあまり倒せなかったことに加え、この吸収率が低かったためにレベル30程度で留まっていたのだろう。
だがそんなハンデも……中層モンスターをソロ討伐したとなればあってないようなものだ。
「……っ」
魔法装備とは別に自分自身の力が跳ね上がる感触。
次はもっとブーツを使いこなせるという確信。
その信じがたい感覚に打ち震えていれば、カリンが笑顔で拳を握る。
「では穂乃花様、その調子でどんどん
「……はい!」
力あれば憂いなし。
最初に打ち立てた方針に従い、〈神匠〉師弟は中層ダンジョンに繰り出した。
「「「「グギャアアアアアアアアアッ!?」」」」
ダンジョン中層にモンスターの悲鳴が響きわたる。
だがそれはカリンの手によるものではなかった。
「凄い……凄い凄い凄い……っ!」
刃のついた黒ブーツで舞うようにモンスターたちを切り裂いていくのは神代穂乃花。
上層すら危ういと言われていた加工職の面影などもはやどこにもなく、次々と中層モンスターの群れを切り裂いていく。
〝うわああああああああっ!?〝
〝なんじゃこりゃああああああ!?〝
〝ほ、本当にさっきまで下層で泣いてた子ですの……!?〝
〝なんかどんどんレベルアップしまくってんのかまた速度が上がってませんこと!?〝
〝〈神匠〉ヤバすぎない!? これそのうち自分で下層まで素材採りにいけるようになったら……〝
〝てか穂乃花様、下層アタックに〈神匠〉鍛錬とヤベーこと続いてんのに体力どうなってますの!?〝
ブーツの魔力効率に加え、連続レベルアップに伴い魔力や体力も少なからず回復しているのだろう。ダンジョンボア討伐で力の使い方と強さへの実感が伴った穂乃花の快進撃は止まらない。
「ギイイイイイイッ!?」
中層の害悪モンスター、フライキャタピラーの厄介な引き撃ちも感知で躱し、速度強化ブーツで強引に距離を詰めて蹴り殺す。
「凄い……すごいすごいすごい!」
モンスターの返り血をものともせず戦い続ける穂乃花の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「あは、あははははははは! 凄い! 凄いですよカリンお嬢様! カリンお嬢様のおかげで私……! ひぐっ、私、こんなにやれたんだ……! 全部カリンお嬢様のおかげだから胸を張れることじゃないけど……それでも私、こんな、こんなに――あはははははははははは!」
ズバババババ!
いままでの鬱憤を爆発させるように戦闘を楽しむ穂乃花の大暴れ。
その少しばかり狂気的な様子と量産されるモンスターの死体に戦慄するのはコメント欄だ。
〝ちょっ、なんか穂乃花様がヤベーですわ!?〝
〝最高にハイってヤツですの!?〝
〝ま、まあついさっきまでブラッククランに酷使されてたレベル30の子が中層モンスター相手に無双できる力を身に付けたら誰だってそうなる。俺だってそうなる〝
〝いやでもなんかヤベースイッチ入ってるように見えますわよ!?〝
〝普段大人しい子ほど色々と溜め込んでるから……〝
〝た、多分大丈夫だと思うけど力に溺れた闇落ちフラグ立ってない!?〝
〝このままブラックシェル殺しに行ったりしない!? 大丈夫!?〝
〝穂乃花さま鬼つええ! このまま逆らうクラン全員ブッ殺していこうぜ!〝
〝やめろバカ!〝
〝本当にできそう&やりそうになってる人にそんなこと言っちゃいけません!〝
〝ナギサ様にカリンお嬢様!? これちょっと穂乃花様のバーサーカー化とめたほうがよろしいのではなくて!?
〝なんか闇落ちフラグ立ってますわよ!?〝
『あんなに楽しそうに笑ってる穂乃花ひさしぶりに見た……! えへへ、なんか私まで嬉しくなってきちゃった! いけいけ穂乃花! そのままどんどん強くなっちゃえ!』
「うおおおおおっ! 穂乃花様いいですわ! まるでダンジョンアライブきっての戦闘狂、
〝ダメだこいつら!?〝
〝常識人がいねぇぞこの配信!〝
〝ツッコミ不在の恐怖(ガチ)〝
〝片やバーサーカーお嬢様、片や同接70万の前でカリンお嬢様に電話代われできる友達思いバーサーカーなので……〝
〝バーサーカーしかいねえのかこの配信は!?〝
〝優雅と上品? だいぶ前に便所でお亡くなりになってましたわよ〝
〝コスプレ魔法装備とかいう頭おかしくなりそうな単語さらっと出さないでくださいまし!〝
〝ブラックシェル、お前らの闇が怪物二号を生み出したんだぞ……責任取れですわ〝
〝悪の組織に生み出された脚力特化の怪物……仮面ラ〇ダーかな?〝
同接100万越えのなかでも好き勝手に振る舞う3人の狂戦士たちにコメント欄が戦々恐々とツッコミを入れまくる。だがそんな視聴者たちの危惧に反し、
「はぁ、はぁ……なんか、全力で暴れたらスッキリしました……! 戦闘って、楽しいんですね! これなら毎日ダンジョンに潜りたいくらいです……っ」
さすがに連続レベルアップでもカバーしきれない体力の限界が来たのだろう。
戦闘が一段落すれば先ほどまでの高笑いは鳴りを潜め、穂乃花はいつもの大人しい様子に戻っていた。
〝よ、よかったですわ……むしろ暴れ回ることで闇落ち回避した感がありますの〝
〝真面目な子ほどああいう発散が必要ということですわね……!〝
〝ちょっと安心ですわ!〝
〝けどなんか口ぶりからして今度も戦闘時はバーサーカーになりそうな穂乃花様おハーブ〝
〝わたくしそういうの好きですわ!〝
〝↑隙あらば自分(の性癖)語りお嬢様〝
「穂乃花様もダンジョンで暴れ――もとい舞う楽しさに気づかれたようですわね! 良い傾向ですわ! そしてお身体のほうも良い感じに仕上がりましたわね!」
肩で息をする穂乃花を凝視してカリンが両手をあわせる。
中層での大暴れにより、穂乃花は2時間と経たずレベル150まで力を伸ばしていたのだ。
度重なる連戦で戦闘スキルも芽生えており、〈神匠〉で作り上げた破格の魔法装備をもはや完全に使いこなしている。明日以降も鍛えていくつもりではあるが、ひとまず装備を破損しても最低限戦えるだけの地力を身に付けた穂乃花にカリンも大満足だ。
「あ、ありがとうございます……本当に……!」
穂乃花が感極まったように頭を下げる。
「ずっと成長できなかった私がこんなに……! それでも信用できる移籍先を見つけるのは少し難しいかもしれませんけど……カリンお嬢様にこれだけしてもらえたんですから……私、頑張ります!」
〝穂乃花様ほんとうによかったですわ……〝
〝不遇だった子が成長し報われる場面からしか摂取できない栄養がありますの……成長しすぎでちょっと怖いですけど〝
〝〈神匠〉のヤバいポテンシャルをこれだけ見せつけたなら引く手あまたですわ!〝
〝鍛錬の最中にネット民お嬢様や御剣弁護士たちのおかげでブラックシェルを抜けられる算段はついたみたいですし、あとは移籍先のクラン探しだけですわね!〝
〝なんならクラン同士で抗争起こりそうなレベルの勧誘合戦はじまってておハーブ〝
〝そりゃ(あんな無茶苦茶っぷり見せつけられたら)そうですの〝
穂乃花の成長っぷりと感極まったような涙、裏で進んでいたブラックシェル脱退の目処&移籍先立候補の多さにコメント欄がほんわかする。
だがその一方で、
「……あー、移籍先探し。それ、よく考えると案外難しい課題ですわよねぇ」
カリンは少しばかり難しい顔で腕を組んでいた。
コメントにあったように、ブラックシェル脱退はしっかり検証がなされ、騒ぎに気づいたギルドの介入などもあっていますぐにでも強制脱退できそうだった。
なんならヒートアップしすぎたネットの追及でブラックシェルの社会的抹殺&解体までいきそうな勢いで、カリンが軽くビビりながら「み、皆様殴り殺したい気持ちはわかりますがお優雅でないやり方はよろしくなくてよ~?」とブレーキをかけるまでの事態になっていたのだが……まあそれはいいとして。
問題は穂乃花を受け入れてくれるクラン探しだ。
同接100万の影響力。そして穂乃花を鍛え上げるというカリンの作戦が功を奏し、手を上げてくれているクランは大量にあるらしい。
だが改めて考えてみれば、その1つ1つを精査して信頼できるクランか調べるのはかなり大変そうだった。
ネット の口コミやギルドからの紹介などを参考にすればすぐ判断はつきそうなものだが……なにしろ事の始まりは学校から紹介されたクランがブラックだったことなのだ。
学校に騙されたという状況は未成年にとってかなりのショック。カリンとしてもそのような話を聞いては安易に穂乃花を送り出すことはできなかった。
(いちおう真冬に相談すれば良い案が返ってきそうではありますけど……)
気丈に振る舞いつつもやはりどこか不安が拭い切れないような穂乃花。
いまここで彼女を安心させてあげられる方法はなにかないものだろうか……とカリンが考えていたそのときだった。
「あ」
その〝妙案〟がカリンの頭に降りてきたのは。
「そうですわ! 安心してくださいまし穂乃花様! もし信頼できるクランが見つからなくとも、 いざとなればわたくしが新しいクランを立ち上げますので!」
「え?」
『え』
〝え〝
〝は?〝
〝ちょ〝
〝カリンお嬢様!?〝
〝ちょっ、待っ〝
突然の爆弾発言に、穂乃花と電話越しのナギサ、そして同接100万オーバーのコメント欄が凍り付いた。
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長くなってしまったので分割して明日更新します
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