第48話 世界崩壊クラン


「そうですわ! 安心してくださいまし穂乃花様! もし信頼できるクランが見つからなくとも、 いざとなれば!」


 突然の爆弾発言に、穂乃花と電話越しのナギサ、そして同接100万オーバーのコメント欄が凍り付いた。


 しかしそんな空気にも気づかず「あ、そうですわ!」とカリンはさらに続ける。


「どうせクランを立ち上げるなら、ほかにも〈神匠〉持ちの方々を呼び集めて〈神匠〉持ちメインの物作りクランにしましょう! もしかするとわたくしのせい? で良くない扱いを受けている〈神匠〉持ちの方々が穂乃花様のほかにもいらっしゃるかもしれませんし! ……うん、なんだか考えれば考えるほど良いアイディアですわ! 本当はパーティを組んだりするのはもっと力をつけてからと考えていましたが、〈神匠〉持ちの皆様で一緒に高めあっていけばいずれ他の方も使えるアイテムボックスとか作れるかもしれませんし、これはこれで悪くありませんわね!」



〝あかんあかんあかんあかん!〝

〝おい待てマズイぞこれ!?〝

〝お嬢様がクラン結成示唆しただけでも大事件なのに他者使用可能なアイテムボックス作製まで目標にしてておハーブ枯れる〝

〝そんなヤベェクラン作ったら日本が世界から標的にされちまうううううううううう!?〝

〝物作りクランじゃなくて世界崩壊クランの間違いでは?〝

〝わたくしこれまで職場で〈神匠〉をバカにされてきたお嬢様……絶対にヤバいとは思いつつもし本当にそんなクラン立ち上げることになったら退職&引っ越ししてでも参加しますわ〝

〝↑こういうことがあるから他人をバカにしたりしちゃダメなんだなって……〝

〝マジであかんぞこれ!〝

〝アイテムボックス云々を抜きにしてもあんだけの潜在能力見せつけた〈神匠〉集めたクランとかそれだけで国滅ぼせる勢力になりそうで草〝

〝カリンお嬢様1人だけでも大概大災害なのに……〝

〝穂乃花様に才能があっただけだと思いたいですが……集めた〈神匠〉を全員カリンお嬢様がまとめて鍛えるとしたら……〝

〝ガチで世界から狙われてもおかしくないですわよ!?〝

〝ちょっ、穂乃花様! お嬢様によく言って聞かせてくださいまし!〝

〝カリンお嬢様は膝にフィストファックを受けた影響でネットの声をろくに信じてくれませんのー!〝



 カリンのトンデモ発言にコメント欄が大混乱に陥る。

 しまいには現場にいる穂乃花に助けを求める者までいた。が、


「わ、私……カリンお嬢様の覚悟を見誤ってました……!」


 穂乃花が身体を震わせながら言う。


「まさかカリンお嬢様が私だけじゃなく、いざとなれば不遇な扱いを受けている〈神匠〉持ちの人たち全員を助けるために世界と戦う覚悟まであったなんて……!」


「? 世界?」


「自分だけが助けてもらってそれで満足なんて私が間違ってました! カリンお嬢様がそこまでしてくれるっていうんです! もし本当にそんなクランを結成することになったら……私、命を賭けてカリンお嬢様のために働きます! たとえ世界を敵に回しても!」


『わ、私もそうなったらレベルを獲得して協力します! 〈神匠〉は出ないと思うけど、こんなことになっちゃった原因だし……!』


「? よくわかんないですけどその意気ですわ! 世界を敵に回しても……ふふ。ダンジョンアライブみたいでテンション上がる宣言ですわね。まだクランを結成するか決まったわけではありませんが、そのときはよろしくお願いしますわ!」



〝穂乃花様もナギサ様もやるき満々で終わったああああああああああああああ!〝

〝そうだったあああああ! この配信バーサーカーしかいねえんだったああああああ!〝

〝いやちょっと穂乃花様なんか言ってることおかしくありません!? わたくしたち以上のパニックになってませんこと!?〝

〝そら(命を救ってくれたうえにとんでもない修行つけてくれた恩人が自分のために世界から狙われかねないクランの結成示唆したら)そうよ〝

〝カリンお嬢様は世界を敵に回そうとしてる自覚ないだろ!? なんやいまの「?」浮かんでそうなアホヅラ!?〝

〝カリンお嬢様よくわかってないことに適当なお返事しちゃダメですわ!?〝


〝なんですのこの状況!? わたくしが内閣お嬢様だったら泡吹いて倒れてますわよ!?〝

〝一般市民お嬢様でも卒倒ものなんだよなぁ〝

〝いつの間にかブラックシェルの未成年酷使が吹っ飛ぶくらいの事態になってて草〝

〝こんな酷いピタゴラスイッチ見たことありませんわ!〝

〝ブラックシェル潰すどころの騒ぎじゃねーぞマジで!〝

〝あのクソクランのせいで日本がやばいんだが!?〝

〝ブラックシェル「僕ぅ!?」〝


〝いやこれ本当に早く穂乃花様の受け入れ先探さないとマジでカリンお嬢様が激ヤバクラン作っちまうぞ!?〝

〝でもいまの穂乃花様を受け入れられて信用できるクランってどこだよ!?〝

〝そ、それこそ国内トップクラスのホワイトナイトとか……?〝

〝どこでもいいからちゃんとしたとこ早く穂乃花様を雇ってくれ!〝

〝お、おい……なんか日本のダンジョン関連会社の株価が軒並み上がりだしてるんだが……?〝

〝半分ネタで騒いでたけどお嬢様が〈神匠〉クラン作るかもってちょっと漏らしただけで世界にガチの影響与えはじめててこれは……〝



 とコメント欄が大騒ぎになる一方、


「それでは穂乃花様の体力も限界のようですし、良いアイディアが浮かんだところで本日の配信は終了ですわ! 移籍先やクラン結成についてはまた進展があればお知らせするとして……今日のところは乙カリンですの~。……ふぅ、もし移籍先が見つからなくても次善の策があると考えるとちょっと気が楽ですわね!」


 と、呑気なカリンの挨拶によって配信は終了。


 念のため穂乃花の身の安全に配慮したほうがいいというコメントが目に入っていたこともあり、その日カリンは穂乃花を自宅に送り届けてそのままお泊まりすることになるのだった。



      ●


「あ、あのバカ……!?」


 佐々木真冬は自宅のマンションにて絶句していた。


 ちょっと野暮用がありカリンの配信を遅れて開いたところ、知らない女を鍛えていたうえにとんでもないクラン結成の可能性まで宣言していたのだ。


 動画コメントにあるような「日本が狙われる」「世界がヤバイ」は大げさにしろ……本当にカリンが〈神匠〉クランなど結成すればとんでもない大騒ぎになることは間違いなかった。


 公安から凄まじい勢いで電話がかかってきているのがその証拠である。


「しまった……しばらくクランを作る気はないと言っていたから油断してた。まさかこんないきなりクラン結成の可能性を口にするなんて……っ」


 

 せめて『登録者数500万という数字が持つ影響力を意識したほうがいい』くらいはしっかり言い含めておくべきだったと真冬は全力で自分の迂闊さを呪う。


 だがもう起きてしまったことは仕方がない。

 いまやるべきことは1つ。

 カリンがクランを結成しないで済むよう、信用できるクランを選定、紹介することだ。


 だが話はそう単純ではなかった。


(信頼できるクランにはいくつか心当たりがある。けど問題は神代穂乃花の価値が上がりすぎてることね)


 配信された穂乃花の急成長は、カリンの手助けがあったことを差し引いてもとんでもないものだった。即戦力かつ将来性の塊。アレをどこかのクランに入れるとなると、それはもう凄まじい争いになるだろう。


 加えて価値があるのは穂乃花本人だけではない。


 穂乃花を引き入れたクランは必然、〝山田カリン〝とも強い繋がりを持つことになる。


 当然その価値は計り知れず、穂乃花の移籍先選定はクラン同士の大抗争に発展してもおかしくない大事になっていたのである。


 それこそ警察の対探課と連携して探索者犯罪取り締まりに協力している善良クランでさえなりふり構わず穂乃花の獲得に動いてもおかしくないほどで――。


「……待てよ」


 と、悩ましい事態に額を押えていた真冬はそこでふと気づく。

 それは配信中に穂乃花が口にしていた「憧れ」の話。


「……そうか。神代穂乃花の移籍先候補はなにもクランだけじゃない」


 穂乃花の家の経済事情を鑑みれば選択肢は極めて限られる。

 が、決してクランだけではないのだ。


 さらに真冬は配信で見た穂乃花の急成長を思いだす。


「いままでカリンの異常な成長は本人の資質だけによるものだと思っていたけど……カリンにはほど遠いにしろ神代穂乃花も下層でかなりの成長を見せた……もしかして」


 アレはなにも穂乃花がカリンに次ぐ〈神匠〉適性を持っていたから、だけが理由ではないのかもしれない。

 

 確証はない。だがもし下層で〈神匠〉を早期育成できるとすれば……。


「感知特化のあの男も配信を見てたでしょうし、提案してみる価値はあるわね。上手くいけば引退したあとも口うるさい警察の連中に逆に恩が売れそうだわ」


 カリンを利用したがっている気配のある公安にも釘を刺しやすくなるだろう。

 真冬は少しばかり悪い笑顔を浮かべ、先ほどから続いている公安からの鬼電に出るのだった。


 ブラッククラン以外、各方面Win-Winになるだろうその強引な案を引っさげて。


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