第26話 法律にも穴はある



〝は!?〝

〝ちょっ、ちょっとお待ちになって!?〝

〝どこで作っとんねん!?!?!?!??!?!〝

〝ファーwwwwwww〝

〝マジでなにしてんだこの頭おかお嬢様!?〝

〝え、まさか素材は持ち出せないからダンジョン内で加工するってこと!?!?!?!?!〝



「その通りですわ! ダンジョン内でしっかり加工して装備品や家具に変えてから持ち出すなら未成年のわたくしでも完全合法ですの!」



〝うっそだろ!?〝

〝本気か!? 本気で言ってんのか!? カリンお嬢様の妄想ではなくて!?〝

〝ダンジョン内で加工すればOKってそれ本当に法律的に大丈夫なの!?〝

〝法律以前にそもそもダンジョン内で加工するってのが物理的に可能なのか!?〝

〝おいこれ大丈夫だよな!? 犯罪自白動画とかにならないよな!?〝

〝お嬢様本気ですの!? なんか自信満々ですけど本当にそれ合法ですの!?〝



 暴挙、奇行、妄想としか思えないカリンの言動にコメントが乱れ飛ぶ。

 そんななか、


〝@御剣みつるぎ弁護士:わ、わたくしダンジョン関連の法律を専門にしているのですが……加工後に譲渡売買するなら別として、私的利用なら未成年でも完全合法ですわ。いや……実際にこんなことをやる未成年がいるとはまったく想定されていないのでニュアンス的には脱法が近いですが……〝


〝ゆ、有識者お嬢様!?〝

〝いやこれアカウントに飛んだらガチのダンジョン法律系チャンネルの人やんけ!?〝

〝なにしてるんですの御剣先生!?〝

〝御剣弁護士!? 登録者数80万の!?〝

〝いやまあダンジョン関係者でいまのカリン様をチェックしてない人なんていないでしょうけどまさかすぎませんこと!?〝



「まあ! 専門の方ですの!? それは心強いですわ、アカウント固定しちゃいますわ!」 


 素材集めをしている間に10万を超えていた視聴者のなかにどうやら有名な法律関係者がいたらしい。カリンは喜んでコメントが目立つよう設定する。


 まさかの専門家降臨とそのお墨付きに困惑するのはコメント欄である。



〝ええ……マジでOKなの? なんで?〝

〝まあアレかな……誰にもできないことをわざわざ法律で禁じる意味はないっつー〝

〝生身で空を飛んではいけませんとか時速100㎞以上でランニングしちゃいけませんなんて法律は確かに作る意味がないな……〝

〝法律にも(カリン様が拳で無理矢理こじ開けた)穴はあるんだよなぁ〝

〝もうなんもかんも無茶苦茶すぎるだろwwwwwwww〝


〝@御剣みつるぎ弁護士:マジレスすると加工品に関する規定がないのは、ダンジョン素材で作った武器を装備してダンジョンから出る際、その装備品がダンジョン内で加工したものかどうか厳密には区別がつかないから、という理由ですの〝


〝@御剣みつるぎ弁護士:ダンジョン出入り口の検知器がドロップアイテムでできた装備品にも反応してしまうので(今回は家具ですが)、加工品をアウトにすると恣意的に法律を運用することで未成年から装備を取り上げることが可能になってしまうのですわ。なので立法の際に調整するよう探索者組合ギルドが政府に掛け合ったんですの〝


〝@御剣みつるぎ弁護士:実際そのような恣意的運用はまずあり得ないのですが……法律は1度作ってしまうと改正が難しく、ダンジョン発生初期は探索者と国の間で揉め事が多発していたので探索者組合ギルドが立法に際しかなり過敏になって国と交渉してきた歴史がございますの。その結果がご覧の通りの脱法お嬢様ですわ〝



〝はえー〝

〝脱法お嬢様wwww〝

〝マジで合法(脱法)なのか……〝

〝御剣お嬢様の解説わかりやすいですわ!〝

〝理解できないのはその脱法行為を本当にできてしまうカリン様の存在そのものですわね…〝

〝個人利用限定とはいえ未成年がダンジョン素材利用するのにこんな抜け道あったんか……〝

〝なるほど完璧な方法っすねー! ダンジョン内で素材加工するなんて無謀通り超してアホの所業ってことに目をつむればよー!?〝

〝てか合法なのはいいとして加工が終わるまでモンスターが寄ってこないわけないですわ!?〝

〝言ってる側からモンスターが寄ってきてますわよ!?〝



「グルオオオオオオオオオオオオ!」


 と合法であることに視聴者が安心したり驚愕したりしていれば、当然の脅威がカリンに襲いかかる。いかに紅茶をこぼさず中層を踏破できるカリンといえど、大量の素材を加工しながらモンスターと戦うなどさすがに無謀だ。


 ――と誰もが思ったが、


「あ、それはこうするといいですわよ」


 素材の下処理をしていたカリンの足下。

 先ほど討伐されてまだダンジョンに吸収されていなかったモンスターからカリンが骨を引きずり出して適度な大きさに握り砕く。そして、


「えいっ」


 バチュン!!


 親指を弾いて撃ち出された骨片が、襲いかかるモンスターの頭を遠距離から吹き飛ばした。

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