第27話 山田カリンの加工スキル


 ソファ作製のために集めた素材をダンジョン内で下処理している最中に寄ってくるモンスター。その頭を先に討伐したモンスターの骨片射出で遠距離撃破したカリンはドヤ顔を浮かべる。


「こうすれば加工途中の素材を傷つけられることなくダンジョン内でも安全に作業を進められますわ。とはいえモンスターがダンジョンに吸収されてしまう関係上、足下に確保しておいた死体も割とすぐに消えてしまうので、たまにはモンスターを引きつけて――こうですわ!」


「グルアアアアアッ!?」


 ぐちゃっ!


 ダンジョンボアの頭が消失。

 綺麗に残った体がその場に崩れ落ちる。


「はい、こうやって時々モンスターを近くで倒してを補充するのがコツですわね」(ダンジョンボアの体から骨を引きずり出して握り砕きながら)



 そうして弾を補充したカリンは再び親指で骨片をはじき、寄ってくるモンスターの頭部を遠距離から粉砕。その傍らで集めた素材の下処理を進めていった。



〝ファーーーwwwwww〝

〝力業すぎるwww〝

〝下手な魔法スキル持ちよりよっぽど遠距離攻撃力高いだろこれww〝

〝それはまあダンジョンボア大砲の時点で……〝

〝コツですわね! とかいっぱしの解説動画みたいに言われても誰も真似できねえよ!〝

〝骨(コツ)だけに……〝

〝↑ギロチンですわ〝

〝蛮族すぎる……〝

〝脳筋を超えた脳筋〝

〝さ、さすがはカリンお嬢様ですわね!〝

〝お、お優雅ですわ……〝

〝視聴者お嬢様ドン引きでおハーブ〝

〝ゴリ押しを超えたゴリ押しで草すぎるwwww〝

〝このお嬢様(?)ほんとになんなんだよ!〝



 コメント欄が加速するなか、カリンは作業を続行。

 時折モンスターを駆逐しつつ〈シープスキラーの毛〉の毒抜きや〈スプリングホッパーの尾〉の皮むきなど、加工スキルを使う前の下処理を慣れた様子で進めていった。


 その作業の傍ら、



〝@御剣みつるぎ弁護士:というか純粋に疑問なのですが、カリンお嬢様は「完全加工済みかつ私的利用なら未成年でもダンジョン素材の利用・持ち出しOK」という裏技にどうやって辿り着いたんですの……?〝


〝@御剣みつるぎ弁護士:こんな抜け穴、失礼ながら一般の方が辿り着くのはちょっとハードル高いですの。知り合いにダンジョン専門の弁護士でもいらっしゃいまして?〝


〝カリン様は一般人ではないので……〝

〝逸般人だもんな……〝

〝それはそれとしてカリンお嬢様が自力で思いつけるはずがないってのは完全同意ですの〝



 視聴者お嬢様たちが一斉に首を傾げる疑問。

 カリンは作業を続けながら少し自慢げに、


「それなんですけど、実は頼りになる親友がいまして。『このやり方なら未成年のカリンでも加工スキルを活かせる』って教えてもらったんですのよ!」


 

〝なるほど参謀がいたか……〝

〝親友ちゃん有能!〝

〝有能ですわね。けど絶対まともな人種ではございませんわ……〝

〝類は友を呼ぶってやつですわね……〝

〝明らかに一般人を超えたダンジョン法律知識とそれをカリンお嬢様に吹き込んじゃうヤバさの一般人とは……?〝

〝@御剣みつるぎ弁護士:え、なんですのその方……カリン様の親友ということは学生さんですわよね? 普通にうちの事務所に欲しいですの……〝

〝そこら中のクランから目をつけられてるカリンお嬢様だけじゃなくて親友ちゃんの勧誘もはじまりそうで草〝



「まあ、友人が褒められると嬉しいですわね! そうなんですの、まふ――彼女とは中学の頃からの友人で、機械やネットに疎いわたくしがこうやって配信を始められたのもあの子のおかげなのですわ。ほかにも助けてもらったことは多々あって――」

 


〝あら^〜〝

〝あら^〜〝

〝あら^〜〝

〝いいですわゾ^~〝



 下処理をしながら真冬とのアレコレを(個人が特定されない範囲で)楽しげに語るカリンに百合の波動を感じたコメント欄が荒ぶりだす。


 そうこうしていれば、


「――さて、下処理はこんなところですわね」



〝え、早くない!?〝

〝カリン様の友達自慢に夢中になってて見落としてましたわ!?〝

〝これカリン様の動きがくっそ速いのに加えて普通に手際が良いですわね…〝

〝セツナ様のコスプレ衣装でも思いましたけどカリン様これガチで手先器用ですわ!?〝

  


 大量にあったドロップアイテムの下処理はあっという間に終了。

 

「ここからは加工スキルを使って一気に仕上げていきますわよ!」



〝おお、マジで加工スキル使うのか……〝

〝加工スキルが見られる動画って希少なので普通に楽しみですわ〝

〝どんな感じなんでしょう〝



 カリンはそれぞれの素材を1箇所に集め、ドレスから取り出した小さな金槌のようなものを装備。両手に膨大な魔力を込めた。

 そして、


「ですわ! ですわ!」


 トンテンカン!


「ですわ! ですわ!」


 トンテンカン!


 カリンがなにやらリズムをとりながら手を動かせば――ボウン!


 コミカルな煙がドロップアイテムを包み込み――革張りの高級ソファーが出現していた。


「完成ですわ! イメージ通り良いソファができましたの!」



〝え?〝

〝は?〝

〝なんかいきなりでっかいソファが出現したんだが!?!?!?〝

〝ゲームのクラフトシーンかよ!〝

〝手品ですの!?〝

〝いやそうはならんやろ!?〝

〝なっとるやろがい!?〝

〝なっとるやろがいおじさんもちょっと自信なさそうなの草〝

〝トンテンカン♪ じゃねえですわ!?〝

〝ソファを作る音と道具じゃねえ!〝

〝え、え、ちょっ、カリンお嬢様どういうことなんですの!?〝

〝いくら加工スキルっていってももっとこう、作ってる工程とかあるんじゃありませんこと!?〝


「え? そうは言われましても……加工スキルとはこういうものでしてよ?」


 カリンは出来たてソファーに頬ずりしながらコメント欄の反応に首を傾げる。


「いつの間にかイメージ通りの品が出来上がってるのは確かにちょっと不思議ですが……人が生身でモンスターを倒せるようになるんですし、ダンジョンやレベルの存在に比べればこのくらい普通ではございませんこと?」



〝ま、まあそれは確かに……〝

〝そうかな……? そうかも……〝

〝言われてみれば探索者なんて上位層は物理法則無視してるような連中ばっかだし、下処理を終えた素材が加工スキルでいきなりソファに変わるくらいなんでもない、のか……?〝

〝みなのものしっかりいたせー!〝


〝いやちょっと待ってくださいまし! わたくしも加工スキル持ちですけど、普通はもっとちゃんと加工してる過程がありましてよ!?〝

〝うちの工房の親方もちょいちょい工程すっ飛ばしてますけどここまで異次元ではありませんの!〝

〝加工スキル持ちの探索者ニキたち!〝

〝カリンお嬢様!? 有識者お嬢様もこう仰ってましてよ!?〝



「あー、確かにわたくしも最初の頃は家具をひとつ作るのもかなり手間取ってましたわね。それこそ下処理と同じくらいに。使う道具も沢山で」


 コメント欄の指摘にカリンは昔を懐かしむように目を細める。


「けど色々と作りまくってるうちに作業速度が上がって最終的にこうなってましたの。なのでコメントしてくださった加工スキル持ちの皆様方ももう少しレベルをあげればきっと同じことができるようになりますわ!」



〝いやいやいやいや!〝

〝それができれば苦労はしねーんですのよ!?〝

〝あのこれ……戦闘力だけでなく加工スキルもちょっと家具が作れるどころのレベルじゃないっていうかそこらへんの工房の親方さえぶっちぎってませんこと……?〝

〝そっか! これきっと夢なんですわ!〝

〝そうだよな……夢だよな……でないと深層モンスターを無傷で殴り殺す実力がありながら加工スキルまで天元突破してるとかおかしな話になるし……〝

〝っしゃ! もうちょっとすやすやしたら目を覚ましますわよ!〝


〝あかん、カリンお嬢様が戦闘スキルと加工スキル両方かっ飛んでる可能性が出てきて探索者クラスタが発狂しはじめた〝

〝そんな凄いことなの?〝

〝各スキルの獲得方法やレベル上げの方法がいまいち解明されてないから適切なたとえになるかわかりませんが……大げさに言えば大谷○平が今季の成績維持しながら将棋で藤井○太に勝つようなもんですわ〝

〝草〝

〝バケモノすぎるwwww〝

〝小学生が考えた最強の合体モンスターかよwwww〝

〝さすがはカリンお嬢様ですわ!(思考停止)〝

〝カリンお嬢様のあれこれがヤバすぎてまたトレンド入ってますわwww〝



 とカリンの発言にコメント欄が大騒ぎ。

 これまでのカリンの所業がまたSNSで拡散されているようで同接もいつの間にか12万を突破していた。


「うん、座り心地も良いですし、これで完成でよさそうですわね。良いソファーが出来ましたわ! あとは持って帰るだけですわね」


 カリンも家具の具合を確かめてご満悦。

 ここ1週間の配信でもっとも多い同接も記録し、加工スキルお披露目配信は(色々と混乱はありつつ)大盛況に終わりそうだった。


 と、そんなとき。

 

〝ん? あれ? でもこのでっかいソファ持ち帰るって……そんな目立つ真似してなんでいままでの家具は騒ぎになってませんでしたの?〝


 コメント欄に流れた素朴な疑問が、さらなる混乱を呼ぶことになった。

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