第25話 加工スキル配信開始

【今日も】カリンお嬢様自宅配信実況スレ5【お優雅】



 ――――カリンの自宅配信が終わってしばらくしたあと。


 709 通りすがりの名無しさん

 あれ? そういえばいまさらなんだけど、未成年のダンジョン素材持ち帰りって全面禁止だよな? 私的利用に限ってはOKとかあったっけ?


 710 通りすがりの名無しさん

 いや、換金は当然として普通に一律持ち出し禁止だろ


 711 通りすがりの名無しさん

 だよな? じゃあカリンお嬢様の明日の配信ってどうすんだ?

 配信機材はもちろん紅茶も切らすような懐事情じゃ、ソファを作れるだけの素材入手って無理じゃね? 上層素材でもそこそこの値段するし


 712 通りすがりの名無しさん

 そういやそうじゃん

 あれ? 言われてみればマジでどうすんですんだこれ?


 713 通りすがりの名無しさん

 てかあの変態ドレスも自分で作ったからタダとか仰ってましたけど、よく考えたら素材はどうやって……?


 714 通りすがりの名無しさん

 え? これまさか素材持ち出してる……?


 715 通りすがりの名無しさん

 いやさすがにカリンお嬢様もそこまでアホではないと思われ……


 716 通りすがりの名無しさん

 でもあの方フィストファックお嬢様ですわよ?


 717 通りすがりの名無しさん

 無敵の返しやめろですわ


 718 通りすがりの名無しさん

 禁止カードやめろですわ


 719 通りすがりの名無しさん

 お嬢様はルール無用だろ


 720 通りすがりの名無しさん

 それはカリン様だけのお話でわたくしたち一般お嬢様には秩序と常識がありましてよ


 721 通りすがりの名無しさん

 いやマジな話、明日の配信どうすんですの? なんか不安になってきましたわ


 722 通りすがりの名無しさん

 さっきはカリンお嬢様のドレスの秘密や加工スキル持ちって衝撃の事実に面食らって完全に忘れてましたわね……


 723 通りすがりの名無しさん

 いやでもこの間の配信で足切り骸骨の希少ドロップちゃんと捨ててたし…

 未成年が素材持ち出し禁止ってルールはカリンお嬢様もちゃんと知ってるはずですわ


 724 通りすがりの名無しさん

 確かに

 え、じゃあ本当にどうするつもりなんだカリン様


 725 通りすがりの名無しさん

 もしかして金欠なのはあのドレスの素材を買ったからとか?


 726 通りすがりの名無しさん

 いやそれなら普通のドレス買ってダンジョン内で着替えたりウィッグつけりゃいい話だし…


 727 通りすがりの名無しさん

 カリン様のSNSアカウントは最近リプ多過ぎだから質問しても埋もれるだろうし……とりあえず明日を待つか


      ●


「皆様ごきげんよう~。山田カリンのお優雅なダンジョン配信の時間ですわ~」


 翌日。

 学校を終えたカリンは早速配信を開始していた。

 

 場所は都内の某ダンジョン。

 配信がはじまった時点で既に中層まで潜っており、背後にはダンジョン壁が写っている。



〝待ってましたああああああ!〝

〝深層モンスターをぶっ倒すお嬢様が加工スキル持ちと聞いて!〝

〝加工スキル配信ってのがそもそもあんまないから新鮮ですわ!〝

〝ん……? あれ、でもなんか背景がダンジョンなんですがそれは……?〝

〝もしかして加工スキルお披露目配信は延期ですの???〝



「いえいえ、予告した通りちゃんと加工スキルのお披露目ですのよ! ちなみに新しいソファがほしいので、今日は下層以降の素材しか加工できない〈神匠〉ではなく普通の加工スキルを使っていこうと思いますの。というわけでまずはここ、中層での素材集めからやっていきますわ」

 


〝!?〝

〝ダンジョンで素材集めから???????〝

〝どういうことですの????〝

〝カリン様は未成年だからダンジョンで集めた素材は使えないのではなくて???〝



 昨日の配信後から一部掲示板などで懸念されていた問題。

 カリンがいきなりダンジョンで素材を集めると言いだしたことで、開幕早々コメント欄に大量の疑問符が並ぶ。


「ふふふ。それなんですけど、実はちょっとした抜け道があるんですの」


 カリンは珍しくもったいぶるように、あるいは自慢げに笑みを浮かべる。


「まあそのあたりは後々のお楽しみということで。まずは先ほど言ったように素材集めからやっていきますわ! 新しいソファー、最高のものにしますわよ!」


 と、視聴者の疑問をいったん脇に置いたカリンはいつものようにダンジョン中層を突き進んでいった。





「……っ!? なんだか今日は最初から随分と人が多いですわね」

 

 配信をはじめてから10分と経たず、同接は6万を突破していた。


 元々、ここ1週間ほどのカリンのダンジョン配信は平均して同接8万前後。


 さらに昨日の配信で判明した『山田カリン加工スキル持ち』という話は瞬く間にネットで拡散されており、あれだけの戦闘力を持つ探索者が本当に加工スキルまで持っているのかと興味を抱いた者が大量にやってきているのだ。


 同接はいまもぐんぐん増えており、8万を超すのも時間の問題である。


「お、ダンジョンブルですわ! あのモンスターの革は手触りも吸湿性も抜群ですの! 角がドロップすることも多くて面倒ですが……とりあえず狩りますわ!」

「ブモオオオオオオオオオッ!?」


「あ、あっちのスプリングホッパーは尻尾のドロップが良いスプリングになるんですのよねぇ……ということで狩りますの!」

「ギュピィ!?」


「出ましたわあああああ! シープスキラーの群れ! あの毒の毛皮がふわふわしてて最高なんですの! ドロップ率を考えると――最低50頭は狩りたいですわね!」

「「「メエエエエエエエエエッ!?」」」

 


〝お嬢様イキイキしすぎで草〝

〝エキサイトお嬢様!〝

〝ジェノサイドお嬢様!〝

〝相変わらずドレスへの被弾0。モンスターからしたら悪夢すぎるww〝

〝モンスターで作ったドレスを纏って家具の材料としてモンスター大量殲滅……これもう令和のエド・ゲインだろww〝

〝なにそれ?〝

〝殺した人間で服や日用品を作ってた猟奇殺人鬼〝

〝お嬢様でエド・ゲインってそれはもう中世の残虐貴族なんよ〝

〝中世貴族……つまりお優雅ですわね!〝



 カリンがいつも通り中層のモンスターを一方的に殴り殺す間もコメント欄は活発で、カリンのお優雅なダンジョン攻略にわいわいと盛り上げる。


 そんななか、その戦闘スタイルに改めて戦慄したような質問がカリンの目にとまる。


〝あ、あの、昨日から疑問だったんですが加工スキル持ちってことはカリン様は武器も作れるんですわよね? どうしていつも素手で戦ってますの?〝


「あー、それは色々と理由があるのですが――」


 カリンは素材の種類ごとに分けた袋を背負い直し、次の獲物を探しながら配信らしく質問に答える。


「いまもそうですけど探索者をはじめた頃はお金がなくって。武器を買えなかったので最初は落ちてたバットでダンジョン攻略してたんですの」



〝落ちてたバット????????〝

〝ファー!?wwwwww〝

〝やっぱりチンピラお嬢様じゃありませんの!?〝



「ですがバットもすぐに壊れてしまって。そこで試しに素手で戦ってみたらこっちのほうが丈夫だし壊れても治るのでコスパがよかったんですの。で、そのうち武器も作れるようになったのですがすっかり素手での戦いに慣れてしまっていまに至りますわ。まあなにより大きな理由はセツナ様の基本戦闘スタイルが素手だったからなのですけれど!」



〝うっそだろwww〝

〝っぱやべぇですわこのお嬢様www〝

〝素手のほうが頑丈とは??????〝

〝ま、まあレベルが上がるってのはそうやって人外化していくのと同義らしいし……〝

〝拳なら壊れても治るからコスパ良いって発言が完全に蛮族なんですがそれは〝



 カリンが自らの戦闘スタイル確立の経緯を語ればコメント欄がさらに盛り上がる。



〝というかいまさらだけどカリンお嬢様ナチュラルにお金ない発言してて草〝

〝初心者用の武器すら買う金がないって……〝

〝もしかしてカリン様普通に苦学生ですの?〝

〝前々から推測されてる方はいらっしゃいましたわね〝

〝言うて探索用の武器って初心者向けでもまあまあ良い値段しますものね〝

〝割と普通の学生でもキツいですわあの値段〝

〝まあ上層ならあんま心配ないとはいえ命がかかってること考えると普通に音楽はじめるくらいの初期投資はいるしなぁ〝

〝お金がないからバットって……マジで未成年の素材換金解放してあげてほしいですわ……〝

〝つってもそれやると選択肢のない貧困層ほど無茶して死ぬからな……なんなら苦学生を守るための法律まである。ってダンジョン専門弁護士みつるぎたんも解説動画で言ってた〝

〝まあ確かに未成年の換金なんて解禁されたら貧困家庭とか毒親とか、子供をガンガンダンジョンにいかせてもおかしくないですわね〝

〝なら未成年のダンジョン配信も収益化禁止しろ定期〝

〝そこまでいくと若いうちから探索者に憧れてくれる人が減っちゃうので……〝

〝なんにせよ未成年の素材換金解禁ってあんま現実的じゃないですの……〝

〝まあ解禁されるかどうかはいいとして少なくともいまは普通に禁止なわけで……お嬢様どうするつもりなんだ?〝

〝そういやそうですわ。なんか抜け道があるらしいですけど……〝

〝本当に大丈夫なのか……?〝


 

 カリンが素材集めに奔走する傍ら、「そういえば」とコメント欄が最初の疑問に戻りはじめる。

 未成年がダンジョンからの持ち出しを禁止されているドロップアイテムをどうやって活用するんだ? という声が改めて多く流れるようになっていた。

 

 と、ちょうどそのとき。


「ふぅ。ひとまず素材はこのくらいでよさそうですわね」


 ダンジョンブルの皮やシープスキラーの毛など、カリンは獲得したドロップアイテムごとに分けた袋を満足気に覗き込む。


 そしてコメント欄の不安を払拭するように、


「それでは、未成年であるわたくしはドロップアイテムをダンジョン外に持ち出せないので、加工していきますの。本格的に加工スキルを使う前の下処理として、まずは〈シープスキラーの毛〉の毒抜きからやっていきますわ!」


 集めたドロップアイテムをダンジョン中層にある水場にぶちまけそのまま加工し始めた。


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