第24話 カリンお嬢様のユニークスキル
〝????〝
〝は?〝
〝なんて?〝
〝擬態能力のある魔法装備ドレスを作った????〝
〝 え? 作ったってどういうこと? 魔法装備を??? どうやって???〝
「そりゃ決まってますわ。わたくしの加工スキルで作ったんですのよ」
絶句するコメント欄。
そんな彼らにカリンは続けて、
「ちなみにドレスだけでなく後ろのお嬢様チックな家具やティーカップもモンスターの素材から作った思い入れのある品なんですのよ!」
そういえば言ってなかったですわね! とカリンはここぞとばかりにドヤ顔。
こつこつ作り上げてきたお嬢様セットを自慢する。
その言葉にいよいよもってパニックを起こすのは視聴者たちだ。
〝え!?〝
〝は!?〝
〝どういうことだってばよ!?〝
〝待て待て待て待て! え、マジで加工スキルまで持ってんのカリン様!?〝
〝蛮族系チンピラDIYお嬢様……ってコト!?〝
〝 これもう(わけ)わかんねえな……いやマジで〝
「ふぇ?」
凄まじい勢いで流れていくコメント欄にカリンは首を傾げるが……コメント欄の反応は至極当然だった。
スキルとは、レベルを獲得した状態で活動していると発現する各種特殊技能の総称。
基本的なものを除けばその発現条件やレベルアップの方法はダンジョン出現から数十年が経ったいまでもほとんど体系化されていない。しかしそれでも本人の適性やダンジョン内外での活動が強く影響することはわかっており、獲得するスキルの傾向にはハッキリとした違いがあるのだ。
俗に「戦闘職」や「魔法職」「生産加工職」などと分類されるほど、個々人の適性には偏りがある。
ゆえに深層モンスターを傷一つなく討伐するカリンが加工スキルを持っているなど、にわかには信じられないことだったのだ。
〝え、ちょい待ってそのドレスって〈ヴェノクラゲ〉素材なんですわよね!? 下層素材って魔力濃度の関係で加工スキルのレベルをかなりあげないと加工できないのではなくて!?〝
〝カリンお嬢様あの戦闘力で下層素材の加工までできるってマジ!?〝
「ああいえ、ドレスに関してはちょっと事情がありまして」
なにやら異常な盛り上がりを見せるコメント欄にカリンがちょっと慌てて訂正を入れる。
「実はわたくし、〈神匠〉ってユニークスキルがあるんですの。そのおかげで加工スキルのレベルをあげなくても最初から下層素材を加工できまして。このドレスも〈神匠〉で作ったんですのよ」
様々な条件を満たすことで発現するとされる通常スキルとは別に、ダンジョンでレベルを授かると同時に発現するものをユニークスキルと呼ぶ。
それは個々人の気質や才能に大きく依存し、しばしば通常のスキルよりも特殊かつ強力な効果を発揮するものが多かった。
そのなかでも〈神匠〉はモンスターの素材を使って様々な効果を持つ装備品やマジックアイテムを作り出す生産加工系のユニークスキルであり、その恩恵により下層素材を加工できたのだとカリンは補足する。
〝マジで!?〝
〝お嬢様ユニークスキル持ちなのかよ!?〝
〝絶対に戦闘系ユニークだと思ってたのにまさかの加工系ユニーク……だと……!?〝
〝さっきから情報量が多すぎて脳みそびっくらポンですのよ!?〝
〝すげえ!?〝
「ありがとうございますですわ! けど皆様もご存じでしょうがこのユニークスキルはそこまで大したものじゃないんですのよ」
謙遜ではなく大真面目にカリンは語る。
「〈神匠〉で作ったものは制作者本人しか使えなかったり、最初から下層素材を使って良い装備を作れる代わりに上層中層のお手頃な素材が加工できなかったり。便利は便利なんですがあまり使い勝手がよくないんですのよねぇ」
カリンの言う通り、〈神匠〉はいわゆる「外れユニーク」として有名だった。
ユニークスキルも通常のスキルと同様繰り返し使わなければレベルが伸びないにも関わらず、〈神匠〉を使うには最低でも下層素材が必要という鍛錬にひたすら金がかかる仕様。
さらに〈神匠〉による加工物はスキル使用者本人しか使えないという謎の縛りがあるため、ほとんど活用されない無駄能力扱いされているのだ。
しかしそれでも視聴者の衝撃は覚めやらない。
〝確かに有名な外れユニークだけど、カリン様の戦闘力考えると全然外れじゃないってかデメリット踏み倒してませんこと……?〝
〝いやちょっと待ってくださいまし!? ってことはドレスだけでなく家具もティーカップも下層素材ってことですの!?〝
〝ハリボテお嬢様かと思いきやマジもんの超高級お嬢様部屋やんけ!?〝
「え? ああちょっと誤解を招く言い方でしたわね。家具やティーカップは〈神匠〉スキルを使ってる間になんか生えてきた普通の加工スキルで作りましたわ。装備品とは違って、家具や調度品は魔力そこそこの上層中層素材のほうが適しているので」
〝いや結局普通の加工スキルもあるんかい!?!?!?!??!〝
〝え、いや、本気で? 戦闘系スキルと加工系スキルって鍛錬の方向も適性もまったく別ベクトルだからほぼ両立できないんじゃなかったっけ?〝
〝理論上不可能ではない。野球と将棋を同時に極めるみたいな話なだけで……〝
〝ま、まあ魔法装備ならまだしもただの家具くらいなら偶然獲得した程度の低レベル加工スキルでもいけるはずだし……〝
〝いやでもあの家具のクオリティ……〝
〝家具クラスタが最初はどこのブランドか特定しようとしていたレベルの代物……〝
〝てかそもそもユニークで〈神匠〉が出るくらい生産加工適性のある探索者があの強さって時点でなにかがおかしいのでは……?〝
〝ほんとのほんとに加工スキル持ちなんですの!?〝
〝@iesuokisoyjatietiura:さ、さすがはカリンお嬢様……!〝
カリンのトンデモ発言の数々にざわつき続けるコメント欄。
どうにもカリンの言葉をすぐには受け入れられないようで、視聴者全体に半信半疑めいた雰囲気が漂っていた。
(あっ、なんかトラウマが蘇りそうですわ)
そんなコメント欄を見たカリンの脳裏をよぎるのは、1人寂しく配信していたときに書き込まれた無慈悲なフェイク認定。
外れユニークと言われるだけあり、あまり広く掘り下げがされていない〈神匠〉とそこから生えてきた通常加工スキルに関する諸々は視聴者もなかなか信じがたいようだった。無論、これまでのカリンのとんでもっぷりからを見てきた視聴者が真っ向から否定することはないのだが……やはり言葉だけで完全に信じてもらうのは難しいだろう。
瞬間、カリンは即座に次の配信内容を決めていた。
「なるほど、皆様の言いたいことはわかりましたわ。ではこうしましょう! 百聞は一見にしかず。明日の配信は実際に素材を入手するところから家具を作成するまでの過程をお見せしますわ! 自宅配信する機会も増えてちょうど新しいソファが欲しかったところですし!」
というわけで、次回はこれまでと少し趣向を変えた配信をすることとなり、その日の配信は終了するのだった。
カリンの発言があまりにも衝撃的だったため「あれ? 金欠らしいカリン様がどうやってダンジョン素材を入手して加工するんだ……?」という疑問を誰かが発する暇もなく――。
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