第23話 ドレスの秘密
「皆様ごきげんよう~。山田カリンのお優雅な自宅配信の時間ですわ~」
〝待ってましたわあああああああ!〝
〝ごきげんよう!〝
〝ごきげんよう~〝
〝今日もカリンお嬢様はお優雅ですわ~(調教済み)〝
カリンが自室で配信を立ち上げると同時、大量のコメントが画面に流れる。
その数はカリンが影狼ボコ後にはじめて自宅配信を行ったときよりもなお多かった。
見れば同接もみるみるあがっていき、あっという間に2万を超える。
ダンジョン探索メインであるチャンネルの自宅配信としては異常な増え方だ。
深層モンスターを討伐したあの配信からおよそ1週間。
カリンはほぼ毎日配信を続けてきたわけだが、その間安定して平均同接8万前後という業界トップクラスの同接を未だに維持している。雑談系の自宅配信でも6万は必ず超える有様で、アーカイブもかなりの再生数を稼いでいた。
さすがに1週間もすれば多少は落ち着くだろうとカリンは思っていたのだが……開幕からこれだと恐らく今日も安定して6万を超えるだろう。
つい朝方カリンのことを話している女子グループに出くわしたことといい、先週のダンジョン配信によるバズはまだ続いているようだった。
(きょ、今日もこんなに来ていただけるんですの……!?)
この数の視聴者を前にした配信には慣れてきたつもりだが、非現実的な数字には気を抜くとまたテンパってしまいそうになる。カリンはそんな自分を頑張っておさえつつ、
「本日もたくさんお越しいただいてわたくし感激ですわ! それでは告知していたとおり、今日は雑談しながらトゥイッターやコメント欄の質問を拾っていきますわね」
開幕の挨拶を継続。
ある程度人が集まったことを確認し、本格的に配信を始めるのだった。
「――というわけでセツナ様に習ってクランへの所属予定はありませんわ。セツナ様も終盤は集団行動が増えていましたが、わたくしはまだまだ未熟。お紅茶も切らすようではセツナ様の領域には届きませんので、仮に所属するにしてももっと腕を磨いてからですわね!」
〝まだ腕を磨くつもりなのか……〝
〝向上心が半端ないですわ!〝
〝セツナ様の領域ってそれ最終話基準だと深層を超えた深淵を超えた奈落とかそういう話になってくるんですがそれは……〝
〝世界でも滅ぼすおつもりですの……?〝
カリンの回答に安定してコメントが流れていく。
そうして配信開始からしばらく経ち同接が安定の6万に達した頃、ふとひとつの質問がカリンの目にとまった。
〝カリン様のコスプレしてもいいですか? 攻略風景がとってもお優雅で真似したくなってしまって!〝
「まあ、本当ですの!? もちろんOKですわ!」
どうやら自分の攻略風景に憧れてくれたリスナーがいたようで、カリンは満面の笑みで許可を出した。
「ほかにもコスプレしたいという方がいらっしゃいましたら遠慮は必要ございませんわ。節度のある範囲で楽しんでいただければ万事OKですの。わたくしも昔はセツナ様のドレス装備を手作りしてはしゃいでましたし。ほらこれ」
視聴者の思わぬ質問に嬉しくなったカリンはコスプレ質問者@iesuokisoyjatietiuraのアカウントをピックアップ固定しつつスマホを取り出す。
そこに映っていたのは、その昔セツナのコスプレをして楽しんでいたときの自撮りだ。
〝ふぁっ!?〝
〝これカリン様が自分で作ったんですの!?〝
〝素材は写真でもわかるくらい素朴ですが普通にクオリティ高いですわね!?〝
〝なんかいまより初々しいし幼いカリンお嬢様が新鮮ですわ!〝
〝めちゃくちゃ楽しんでるのが伝わってくる良い写真ですの!〝
〝いまさらですが本気の本気でセツナ様が好きなんですのね……!〝
〝【朗報】カリンお嬢様普通に女子力が高かった〝
カリンのコスプレ写真にコメント欄が色々な意味で盛り上がる。
〝@iesuokisoyjatietiura:ありがとうございます! コスプレ衣装ものすごく丁寧で尊敬します! あ、けどもうひとつ質問があって――〝
と、固定していたコスプレ視聴者のコメントが再び投下される。
〝@iesuokisoyjatietiura:カリン様のそのドレス、なにか特別な製品だったりするんでしょうか? 質感を再現しようと思ってもどうも上手くいかなくて……。素材とかわかりますか?〝
その質問にカリンは「あ~……」と少し悩ましげに声を漏らす。
「実はこのドレス、名前は忘れましたけどダンジョン下層に出てくるでっかいクラゲさんの皮? でできてますの。なので質感を再現しようとすると、ダンジョン上層に出現する下位互換クラゲさんの皮などを利用する必要があるかもしれませんわ」
〝@iesuokisoyjatietiura:え……?〝
〝え?〝
〝は?〝
〝(コスプレガチ勢視聴者のおかげで)流れ変わったな……〝
〝コスプレネキ絶句しとるやんけ!〝
瞬間、コメントの雰囲気が様変わりした。
〝は? 下層のでかいクラゲ?〝
〝ちょっ、カリンお嬢様!? それってもしかしてえげつない再生力と猛毒に擬態能力まである下層ボスの〈ヴェノクラゲ〉じゃございませんこと!?〝
「あ、そうそうそれですわ! その方の素材でできてますの」
〝うっそだろ!?〝
〝ちょっ、ヴェノクラゲって深淵まである上位ダンジョンにしか出てこん下層最強級のボスモンスやんけ!?〝
〝その素材でできたドレスとか超高級品じゃん!?〝
〝【悲報】カリンお嬢様バケモノの皮をかぶったバケモノだった〝
なにやらコメント欄が騒然とするなか、ひとつの長文コメントが投下される。
〝え、ちょっと待って……? こんな目立つドレス来たカリン様がいままで人の多いダンジョンの出入り口や上層中層で目撃情報なかったの不思議だったんだけど……まさかそのドレスに〈ヴェノクラゲ〉の擬態機能が残ってるとか言いませんわよね?〝
「あら、勘の良い方がいらっしゃいますわね。さすがはわたくしのリスナー様ですわ!」
カリンはあっけらかんとそのコメントを肯定。
さらには着ているドレスに軽く魔力を通し、
「いくつかの決まったパターンしか無理ですが……ご覧の通り、ちょっとした変身機能がございましてよ」
するとカリンの着ていたドレスがごく普通の
色はもちろんそのデザインまで先ほどのものとはまったく違う。
さらにはカリンの髪色も服にあわせて真っ赤に染まっており、顔は同じはずなのに数秒前までとはまったく印象の違う外見となっていた。
実はいままで、カリンはドレスに秘められたこの機能を使い、ダンジョン上層や中層では普通の探索者を装っていたのだ。真冬から身バレ防止云々とお説教されたからである。
まあ一番の理由は、探索者の数が多い上層中層では同業者と鉢合わせする確率が高く、ドレス姿でいると周りに止められたり諫められたりと煩わしいことが多いからだったりするのだが……とにかくドレスでの悪目立ちを防止するため擬態機能をフル活用していたのである。
ドレスの能力を当たり前に使っていたカリンはあっけらかんとその性能を明らかにするが……そんなカリンの告白に衝撃を受けるのは視聴者たちだ。
〝!?!?!?!?〝
〝おいこれアプリかなんかでリアルタイムに映像加工してるわけじゃ、ない、よな……!?〝
〝ダンジョン内で着替えてる説やウィッグ説がここに来て崩壊、だと……!?〝
〝すげえ! 魔法装備ってやつじゃん!?〝
〝え……い、いやあの、これってつまり都内ダンジョンで活動してる俺もダンジョン上層や出入り口で擬態したカリンお嬢様とすれ違ってた可能性がある……ってコト……!?〝
〝こっわ……〝
〝ちょっと急に怖い話しないでくださる?〝
〝怖すぎて下半身がお花畑ですわ……〝
〝本日の怪談配信はここですか?〝
〝皆様ダンジョンマナーにはお気を付けなさいまし……ドレスを着ていなくとも、髪色が違っても、それがカリン様でないとは限らないのですから……〝
〝探索者クラスタ戦慄で草〝
「なんで皆様恐怖してますの!?」
〝いやそりゃあ……〝
〝だって……〝
〝サファリパークは好きだけど車から降りたくはないというか……〝
コメントの
〝ていうかいくらかかってるんですのそのドレス!?!?!?!?〝
〝そもそも下層ボスの素材を加工できるほど生産系スキルを極めた職人系探索者自体が希少ですのに……〝
〝下層モンスターの素材でできた魔法装備なんて相当なお値段ではなくて??〝
〝撮影機材も揃えられないほど金欠のカリンお嬢様に手が届くんですの????〝
〝素材だけでもバカ高いし下層素材扱える親方クラスへの依頼料も含めたら軽くウン千万とかじゃないの!?
〝おいくら万円ですのそのドレス!?〝
「え? タダですわよ。だってこれわたくしが自分で作ったんですもの」
流れていく質問に、カリンは当然のような顔で言い放った。
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