背後の危機

族長が戻るまであとどれくらいかかるのか気になったので、みんなにその事を伝えた上で術を使い、確かめてみることにした。

「星術 [星詠みの時計]」

魔力で特殊な時計を作り出し、目的の事象が起きるまでの時間を測る。

一部の種類の術には系統というものがあり、それは攻撃や回復、補助などその用途や効能によって分けられている。

そして、星の術には戦闘とは関係なく、それ以外の場面で使われる「特殊系」と呼ばれる系統のものが多く、これもそのうちの1つだ。


結局、族長がここにくるまで30分ほどかかることがわかった。

これくらい時間があれば、まあなんとかなるだろう。


ちょっと、考えごとをしたかった。

さっき龍神さんと話した際にふと思い立ち、時間を取れるか確かめるために術を使った。

まあ、私は普段からあまり考え事をするタイプじゃないし、考えすぎたりする癖もないから、30分もあれば大丈夫だろう、と思った。


昨日の夜、よくわからないけど怖い夢を見た。

めちゃくちゃに破壊され、大災害の後のようになった町。

至る所で煙が上がり、焦げ臭い匂いが充満している。生存者らしきものはおらず、ただ、瓦礫に覆われた大地のあちこちをアンデッドが歩き回っているばかり。

まるで、地獄のような光景だった。


一体、何があったの?

そう思った直後、どこからともなく声が聞こえてきた。

「これは未来よ。やがてきたる、恐ろしい未来…」


その声には、聞き覚えがあった。


「…キャルシィさん!?」

私の後ろに、翼を現した状態のキャルシィさんが現れた。

「アレイちゃん。私が、未来に起きることを夢という形で予知出来ることは知ってるでしょ?」


「はい…でも、一体どうしてこんなことに?それと、ここはどこなんですか?」


すると、キャルシィさんは辛そうに言った。

「信じられないかも知れないけど…ここはナアトよ」


「えっ…?ナアトって、シルトさん…今私達と一緒にいる魔女さんの国ですか?」


「ええ…」


私は、思わずキャルシィさんにすがりついた。

「そんな…!どうしてですか!どうして、こんな事に…!」


「それは…」

キャルシィさんは、なぜか口ごもった。

それを見て、私はなんとなく察した。

「ひょっとして、私たちのせいですか…?」


「いえ、あなたたちが悪いわけじゃない…でも、人々はそれを理解してくれそうにないわ…」


「どういうことですか?」


「…。とにかく、急いで国に戻ることね。今戻れば、まだ間に合う。そっちの用件が済んだら、すぐにみんなを連れてナアトに戻りなさい」


「わかりました。…なんとしても、未来を変えて見せます!」


「…お願いよ。あの国の未来は、あなた達にかかってるからね」



そして、目が覚めた。




思い返すと、厄介なことになったものだ。

もちろん、ナアトの国自体に危機が迫っているのならそれを最優先で対処したい。でも、今私たちは流未歌が派遣してくるアンデッドを迎え撃つために進んでいる最中だ。

戻ることも出来なくはないけど、そうなると最悪挟み撃ちにされる。


流未歌の軍が来るまで、およそ一週間だと聞いた。国に戻った時に何が起こるのかはわからないけど、もし国で起こった事への対処で時間が潰れれば、押し寄せてくるアンデッドに対処できず、国は潰れるだろう。


これは、どうすればいいのだろう。

急いで国に戻り、なるべく早く向こうでのことを解決して迎撃の構えを取る…という策しか思いつかないけど、果たしてそれが出来るだろうか。

そもそも、向こうで何が起きるのかもよくわからない。

本当に、大丈夫だろうか…。




「アレイさん?」

考えていた最中、カイナさんの声が耳に入ってきた。


「…はい!」


「まもなく族長さんがお見えになるそうですよ」


「!わかりました!」



そうして、鳥人の族長が姿を現した。





それはわしのような顔と翼を持った、男性だった。

彼は「これはこれは、大変お待たせしましたな」と言いながら、階段を降りてきた。

そして、私たちに椅子に座るように勧めてきた。


「さて…シルト様、お久しぶりですな。客人を連れて我らの村に来られるのは、初めてではありませんか?」


「確かにそうかもね。でも、私達は今、緊急の用件があって動いているの」


「緊急の?…もしや、風の再生者のことですかな?」


「あら、知っているの?」


「はい…」

族長は、難しい顔をした。

「シルト様もご存知の通り、この村では常に風が吹いているのですが、最近、その風に嫌な匂いが混じるようになりましてな。しかも、その匂いは日に日に強くなっていくのです。そこで、わしはちょうど先ほど、風の吹いてくる山の方へ行ってみました」


「山…って、ネフィラーの山?勇気あるのね」


「村の皆のためですからな。そしてわしは、その中腹の空洞に数えきれんくらいの数の不死者を見つけました。匂いの主は、奴らだったのです。幸いにも、まだ外へ出ようとはしておらんかったのですが、あのままではいつ出てくるかわかりませぬ。かと言って、我らにどうにかできるわけでもない。どうにかせんとな、と思いながら帰ってきた所なのです」


十中八九、これから私達が迎え撃とうとしているアンデッド軍団だろう。

でも、まだ動いていないのなら好都合だ。今のうちに叩いてしまえば、幾分か楽に潰せる上に、町に戻る時間も取れる。

シルトさんも同じように考えたのか、族長に確認を取った。

「それは間違いないの?居場所も、そいつらがアンデッドであることも」


「はい…奴らの中には、かつて我らの同族であったと思しきものもおりました。場所はネフィラーの岩山の南側、外から中が見える空洞です」


「その入り口に、何か結界はあった?」


「はっきりとは確かめておりませんが…風の結界が張ってあるように見えました。…もしや、シルト様!」


「ええ…今からそこに行って、奴らを潰す」


「…!シルト様御自らが行って下さるのなら、何も心配はありませんな!どうか、お願いいたします…!」

族長は頭を下げた。


「言われなくても行くわ。領地の民を守るのは、皇魔女の務めだもの」

そうして、シルトさんは私達みんなを見て言った。


「みんな、聞いたわね?奴らはまだ準備をしている。今がチャンスよ、急ぎましょう」





そうして、私達は村の中で最も高い木のてっぺんまでやってきた。

地上までは、目測70mはある。


「本当に、大丈夫なのですか?」

カイナさんは何やら怯えている。


「大丈夫だろ。ここは鳥人の村だし、それに…シルトは風の皇魔女だぜ」


「私が術を使っておいたので、流未歌に見つかることはありません。安心して飛びましょう」

龍神さんと私が、カイナさんを説得した。

まあ、カイナさんは地の皇魔女だし、飛ぶことに慣れてないのかもしれない。


「準備はいい?さあ、飛ぶわよ!」

シルトさんが両手を広げ、木から飛び降りる。

そして、グライダーのように滑空した。


「私達も行きましょう!」

同様にして、私達も飛んだ。



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