結果報告
2日後には通り魔達への尋問は終わったらしく、シルトは部屋に俺達を呼んできた。
「彼ら一人一人に尋問をしてみたのだけど、いくつか情報を得られたわ。でも、その前に…」
なぜか俺を見てきた。
「一応確認したいのだけど、あなたは奴らとは何の関係もないのよね?」
「ああ。種族的には仲間みたいなものだけどな」
「ならオーケーね。通り魔たちの中に、自分達が町に入ってきたのはあなたに指図されたからだ、って言う者がいてね…」
まったく、目ざとい奴らだ。
いつの間に、俺が来たことを知ってたんだ。
確かに、上位の殺人者が通り魔や反社会人をけしかけて悪さをさせることはある。だが、俺は奴らとはもう長いこと関係を持っていない。
それに、今はアレイがいるのだ。奴らと絡むなど、あるわけがない。
俺が言えた義理じゃないが、殺人者は平気で嘘をつける。自分の利益のためとなれば、尚更だ。
流未歌は、それも知っての上で奴らを利用したのかもしれない。
「奴らと俺が手を組むわけないだろ?そもそもそんなことしたら、アレイにすぐバレる」
「そうですとも。仮に彼女が気づかなかったとしても、私ならすぐにわかります」
「それもそうね。…で、得られた情報なのだけど」
俺はさっきまでの話より、こちらに意識を向けた。
「まず、流未歌はやはりネフィラーの岩山に張り巡らせた巣にいるらしいわ。そして、巣に入るには純風の結界を破る必要がある」
純風の結界は強力な風の魔力で作られた結界で、破るには相応の強さの風の攻撃が必要になる。一応、風の力をまとう者なら破らずにすり抜ける事も出来るが、どちらにせよ風属性を持つ者でないと対処できない。
「そうか…そりゃ面倒だな」
「誰か、強い風属性を持つ人を動向させなきゃない、って事ですか…でもそんな人、どうやって見つければ…」
アレイが言うと、みんな黙ってしまった。
俺としては、カティーヤか朔矢が適任か…と思ったのだが、それは一瞬だけだった。
まずカティーヤはミジーの展覧会に出席してるから、こっちには来れない。
次に朔矢は、今は恐らく本業に絶賛まい進中だろう。
そもそも、今どこにいるかよくわからない。
でも、あいつは一応反社會の組長だ。さすがに自分の本職を投げ出すような真似はしないと思われる。
いずれにせよ、ご両名の邪魔をする訳にはいかない。
えーと、どうすればいいか…それは、そうだ。とりあえず、後で考えよう。
「それは、とりあえず後で考えましょう。今は、通り魔達から得られた事実を述べさせて」
シルトさん、グッジョブだ。
「次に、流未歌の部下はまだいる。正確な事は言ってなかったけど、この町を狙ってるのは俺たちだけじゃない…って言ってたわ」
「まあ、それはそうだろうな」
流未歌が町の崩壊を狙うのに、通り魔しかよこさないわけがない。
おそらくは、他にもアンデッドか誘惑した異人か人間を派遣してきているのだろう。
そしてたぶん、それはもう町の中にいる。
今はまだ、所業が明るみに出てないだろうが…いずれ花が咲くだろう。そうなる前に、阻止したい所だ。
「そして最後。流未歌は、空を飛ぶことができる人型のアンデッドの大群を送ってくるつもりでいる」
「どこにだ?」
すると、シルトは目を見開いて言った。
「この国よ」
「え…!」
「ほほう…で、それはいつなんだ?」
「正確にはわからないけど、1週間以内だと言っていたわ」
「おお…マジかよ…」
空を飛べる人型のアンデッドで、かつ流未歌が送ってきそうなやつとなると、考えられるのは負の吸血鬼か、ガラーレスか、クローバンドか、メイラシアか、マーラヴか、マーラスといった所か。
ガラーレスは有翼人と呼ばれる異人のアンデッドで、クローバンドは
そして、マーラヴとマーラスは流未歌に心酔し、文字通り全てを捧げた者の成れの果て。
前者は全て女、後者は全て男だ。
恐ろしいことに、流未歌の美しさは同性すらも虜にしてしまうのだ。
奴らは命を直に吸い取られ、他のアンデッドよりも強大な力を与えられた、リッチに近いアンデッドになる。
それがたとえ、元は人間であっても。
奴らはリッチ同様、生者の姿に化けてくる。そして、その変身を見破るのは困難だ。
だが、放っておけばリッチ以上の悪行を働きかねない。故に、何としても見つけ出して殺す必要がある。
そして、今考えたアンデッドには全て共通していることがある。
それは、ひとえに強いということだ。
ガラーレスは有翼人が元なわけだが、これが鳥の能力を持っているもので無駄に強い。そしてそれはアンデッドになっても健在だ。
クローバンドとメイラシアは素で強く、下手な異形より苦戦しやすい。負の吸血鬼にしても、最低ディープランク以上のものを送ってくるだろう。
そうなると、少々怠い。
増して、それが大群で来るのだ。
いくら俺でも、それなりの実力を持つアンデッドの大群を連戦で相手するのは骨が折れる。
いや、できなくはないかもしれないが…それでも相当にきついだろうし、時間もかかる。
まあ、そもそも一人で挑むような相手ではない…と言われればそれまでなのだが。
「敵の数は、どれほどなのでしょう?」
「2000と言っていたわ。我が国の兵力とほぼ同等ね」
「いや、そんなもんじゃ済まないぜ」
そう言うと、みんながこっちを見てきた。
「お忘れじゃないよな?奴らはアンデッドだ。普通のやり方じゃあ殺せない。吸血鬼狩りならともかく、普通の異人が奴らの群れに向かうなら、向こうの倍は頭数がいないときついぜ」
「…。となると、どうしましょうか…」
困り顔をするシルトに、カイナがこう提案した。
「それなら、私の兵を送りましょうか?」
「え、いいの?」
「もちろんです。今派遣できるのは1000人ほどですが、いないよりはましでしょう」
「でも、あなたの軍は地属性でしょう?」
「ええ…なので、『
「あ、なるほど!それなら、風属性の敵が相手でも問題ないですね!」
アレイは
また、主に光属性を扱う者が創るというところも
そして、これら作り物の兵士には唯一無二の強みがある。
それは、どんな属性のどんな攻撃でも出来るということだ。
創造者か、それに準ずる者が属性を吹き込めば、どんな属性の使い手にもなれるのだ。
「そう…それは助かるわ。ならカイナ、とりあえず2000人作ってくれるかしら」
「あら、それだと合計で3000、向こうの2倍には足りないわ。残りの1000人はどうするのです?」
「私が作る。…当たり前でしょ?この国は私の国。私が守らなくてどうするのよ」
「ふふっ…そうでしたわ」
そうして、城の中庭へ向かった。
そこには丁寧に手入れされた植え込みや芝生が広がっていたが、シルトはこれらをありったけ使おうと言った。
「…それ、なんか別のものを犠牲にしてないか?」
「いいのよ。後でいくらでも直せるわ」
そうして、皇魔女2人はさっそく
こうしてみると、植物をメインとして作られた異人そっくりの人形がなぜまともに戦えるのか不思議だ…まあ、今更ではあるが。
お二方の作業が終わるまでの間、俺達は中庭の片隅で休んでいた。
ちなみにアレイは何か読書をしていたが、俺は寝ていた。
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