城下町にて
その後、私達は通り魔達への調査が終わるまでの間、城の客室を使わせてもらえることになった。
ちなみに、この城には専属の司祭が何人かいるのだけど、彼女達は当初、私と龍神さんが部屋を同じくする事を不安がっていた。
わからなくはないけど、今までにこのような事は何度もあった。だから大丈夫だと伝えると、渋々ながらも納得したようだった。
調査は数日間続くらしく、その間は好きにしていて構わないということだった。
ただ、何故か通り魔達に対する調査を行っている地下室へは行かないように、とシルトさんに釘を刺された。
了承はしたけど…一体何故だろう?
申し訳ないけど、気になってしまう。
◆
城の3階の客室にぶちこまれて数日が経った。
今は、アレイと共に町に繰り出している。
幸いにも、夜は城の客室に戻るなら、昼間は町に出てもよいと言われたのだ。
特に城下町でしたい事はないが、部屋に閉じこもっているよりはましだと思ってのことだった。
やはりというか、何もすることがないのは苦痛だからだ。
まあ、俺は一人の時はいつも読書かゲームばかりしているのだが…今はアレイもいるし、そういう訳にもいかない。
それに、あの城はなんか気に入らない。
正確には、あの城の司祭どもはなんだかいけ好かない。理由はわからないが、一緒にいたくないと感じさせる違和感があるのだ。
立場は違えど、苺やサリスなどと同じ種族、同じ性別の連中であるはずなのだが…一体、何なのだろう。
あと、町に来たのはアレイを引き止めるためでもある。
通り魔達の調査は地下で行われているということだった。それでアレイが興味を持っていたようなのだが、俺はあの『調査』がどんなものか知っている。
だから、アレイに見せたくなかったのだ。
王国の被疑者や殺人者への『調査』とか『取り調べ』ってのは、聞こえはいいが基本的に建前だ。
その実態は、暴力も詰問もなんでもありの生き地獄。
まるで拷問…いや、拷問そのものだ。
もっとも、受けたことはないが。
何にせよ、一介の水兵に見せるにはあまりにも毒なものだ。アレイに鋼のメンタルがあれば別だが、ちょっとそれは望めない。
なので、こうして町へ連れ出す事で関心を背ける作戦に出たわけだ。
幸い、アレイも城にこもりっぱなしは嫌だったらしく、町中のあれこれに興味を示していた。
これなら、すぐに忘れてくれそうだ。
さて、せっかくなのでこちらも町巡りを楽しむことにする。
ただしその前に一応術で顔を微妙に変え、目に光沢を付与しておく。
本来俺の瞳には目の前にあるものが映り込まないが、それを加工し、映り込むようにしておくのだ…「光のない瞳」は殺人者系の上位種族に共通する特徴だからな。
顔で気づかれなくても、目で気づかれれば同じこと。
城ではともかく、町ではいつも通りお尋ね者なのだ。
市場にて、なんか適当に食べる物を見て回ることになった。
アレイは野菜をふんだんに使ったサラダとか魚介料理とか、結構色々と食いついていたが、俺はそれらにはほとんど反応しなかった。野菜はほぼ全部嫌いだ。
魚介は…まあ寿司とか刺身には好きなものもあるが、焼いたものや揚げたものなどは基本食べない。
そして俺は、嫌いなものはとことん食べない主義だ。
でも、しばらくしてアレイが見つけたスイーツに関しては反応した。
甘いものは好きなのだ。
ドーナツみたいな食べ物…「エルティーラ」を食べ終えた後は、町の一角でしばしアレイと話した。
「この町、良い所ですね」
「そうか?」
「町の人達の雰囲気が明るいし…まあ個人的な話になるんですが、美味しいものもたくさんありますし」
「美味しいもの、ねえ…」
「龍神さんは、野菜とかをほぼ食べないんですよね。否定はしませんけど…それで体は大丈夫なんですか?」
「意外とな…それに、まったく食べない訳じゃない」
「まあ、それはそうでしょうけど…」
アレイは途中で言葉を詰まらせ、話題を変えた。
「あ、そう言えば通り魔達への調査はどうなったんでしょう?」
「どうだろうな…でもまあ、言うて結構経ってるし、あと2日もかからずに終わると思うぞ」
「そうでしょうか。…彼ら、流未歌の居場所を知ってると思いますか?」
「知らない…とは言えないな。言うかどうかは微妙だが」
「もし言わなかったら…どうしますか?」
「その時は、どうにかして突き止めよう。あいつは活発な奴だから、いずれ何か行動を起こしてくるはずだ。」
「確かにそうですけど…この国や他の国に、被害が出ないといいですが…」
「もちろん、出ないに越したことはない。だが、まったく出さないというのは難しいこともある…それは覚悟というか、理解が必要だ」
「まあ、それは…」
アレイが気づいているかはわからないが、残念ながら犠牲をゼロにしつつ勝つというのは難しい事なのだ。
もちろん努力はするが…完璧というわけにはなかなかいかないのが現実だ。
「流未歌は生者に対してかなり敵対的だと聞きます。もしかしたら、いずれこの国に攻めてくるかも…」
「否定はできないな。だが、その時は俺達が全力で抗う。…違うか?」
アレイは、力強く頷いた。
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