風の通り魔
城を飛び出し、町へ繰り出したのはいいけど、どこに通り魔がいるのかわからない。
それは龍神さんも同じなのか、「誰か、餌がいればいいんだがな…」とぼやいていた。
だから、私が囮になりますと言った。
彼らが流未歌に操られているなら、私を狙ってくると思ったからだ。
でも、彼はそれを良しとしなかった。
「それはダメだ、危険すぎる」
「なら、私の分身を作って、それで誘い出すのはどうでしょう?」
「分身?作れるのか?」
「太陽術を使えば簡単にできます」
「ふーむ、分身か…微妙なところだが…まあ、いいか。試してみよう」
「はい」
私は太陽術の「幻日の鏡」を使い、「
月術などで生み出す「
ものをすり抜けたり攻撃を無効化したりは出来ないけど、攻撃を受けてもすぐには消えない。
要は、限りなく本人に近い影なのだ。だから、囮に使う分には申し分ない。
ちなみに、これは私が自分で身につけた知識じゃない。
以前取り込んだ殺人鬼の記憶に由来するものだ。
「何をすればいいの?」
呼び出した影は、私に礼をしてそう言ってきた。
「この町に通り魔がいるらしいの。でも、どこにいるかがわからない。だから、私の代わりに彼らをおびき出す囮役をやってほしい」
「…わかった」
影は何も手にせず、町中へ歩き出した。
まるで、レークにいる時の私のように。
「寄ってきたら、弓で仕留めましょうか」
「いや、奴らは反射神経が優れてるから、弓は躱される可能性が高い。俺が電撃で気絶させる」
「なら、私も術を使います。氷に閉じ込めて、彼らを拘束します」
「そうか…なら、やってもらおうじゃんか」
そうして、私達は隠れながら影についていった。
しばらくしても、それらしいものは現れない。
なんか、自分で言っておいてなんだけど、本当に食いついてくるか不安になってきた。
「大丈夫でしょうか…」
そう口走りそうになったその時、一人の男がさっと現れ、影に近づいてきた。
その男は影に対して、レークの水兵である事を確認してきた。
影がそれを認めると、次は私の名前を言ってきた。
「アレイ・スターリィ…で間違いないか?」
「…ええ、間違いないわ」
「そうか。…来てもらおうか」
男が影を連れて行こうとした瞬間、龍神さんが術を放った。
男はたちまち意識を失い、その場に倒れ込んだ。
私は手を伸ばし、
これは、「それを持って、こっちに戻ってきて」という影への指示だ。
もちろん、影は男を担ぎ上げて無言でこちらへ戻ってきた。
「下ろして」
私が下ろさせた男を、龍神さんはまじまじと見た。
「…やっぱり、通り魔だ。アレイ、拘束できるか?」
「はい。…[氷閉じ]」
氷で、手錠のような形で男の両手を拘束し、さらに全身を氷に閉じる。
相手は殺人者だ。決して油断せず、念には念を入れる。
「まだいますか?」
影が、龍神さんに尋ねた。
「ああ…まだ気配がする。だが、ここではもう今のやり方は使えないな、他の所に行こう」
そうして、別の通りにやってきた。
再び影を一人で歩かせると、やはりすぐに通り魔が現れる。今度は一気に4人、固まってだ。
「例の妹だな?一緒に来てもらう」とか「やっと見つけられたな…さっさとあの方に突き出そう」とか言っているあたり、やはり流未歌の下僕らしい。
それを聞いて、私は自然と術を放っていた。
「氷法 [ブリザードレイ]」
通り魔たちは、私の術で簡単に気絶した。
どうやら、氷属性の攻撃には弱いらしい。
「見事だ…というか、これが一番いいかもな。奴らは基本風属性だから、氷には弱い。変に俺が手を出すより、君に任せたほうがいいかもしれん」
「それなら、任せてください!」
私は喜んで引き受けた。
なぜかはわからないけど、彼らを捕えることに喜びを感じられたのだ。
その後、私達は次々に通り魔を捕まえていった。
彼らは、私の影に面白いくらい食いついてくる。
なんと、1時間程で全ての通り魔を捕まえられた。
まるで、釣りをしているかのようだ…
「もう気配はないな…城に戻ろう」
龍神さんがそう言い、私は影にお礼を言った。
「ありがとうね。あなたのおかげで、だいぶ楽が出来た。『影武者のあなたに感謝を』」
最後の言葉は、生み出した影を消す時に言う言葉だ。
因みに「陰」の影を消す時には『不正完了』と言う。
私の影は、笑顔で消えた。
城に戻り、全ての通り魔を捕縛したことをシルトさんに伝えた。
シルトさんは、国に34人もの通り魔がいた事に驚きつつ、私達に感謝の言葉をかけてくれた。
そして、通り魔達には精神鑑定をかけた上で、流未歌に魅了されている者には相応の処分を下すと言った。
その際、私はシルトさんに言った。
「可能なら、流未歌がどこにいるか聞き出して下さい」
シルトさんは、頷いた。
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