ナアトへ
森を抜け、ミジーに戻った私達は、3日だけ滞在することにした。
というより、カイナさんにそうしてほしいと言われた。
なぜそんなことを言ったのかはよくわからない。
でも、特にとどまって困るようなこともないし、素直に好意を受けておいた。
それに、私は正直ありがたかった。
色々と、考える時間が欲しかった。
3日後、私達は城に呼び出された。
影喰らいたちを倒し、国の脅威を打ち破った者として讃えられ、恩賞という肩書で400万テルンと祈願のオーブを3つ貰った。
「お、このきれいな宝玉は…まさか、祈願のオーブか!いいものもらったな!」
龍神さんも、これの価値がわかるのか。
そう思ったけど、喜ぶ場所を考えてほしい。
まさか貰ったその場でそんな事を言うなんて思わなかった。
けれど、カイナさんはそんな彼を見て笑った。
「素直ですね。知っているかと思いますが、祈願のオーブは困難に直面した時、使用者にとっての親しい人の幻影を呼び出し、助けてもらう事ができるアイテムです」
幻影…と言うけど、実際に呼び出されるのは本人の幽体で、本人にも後から記憶が与えられる。
そして、それはしばしば短い時間の冒険として記憶に残る。
「俺も何回か、これで呼ばれたことがあるんだ。いやー、あの時は楽しかったなあ…」
それを聞いて、彼が羨ましいと思った。
祈願のオーブを始めとした召喚系のアイテムで呼び出されるのは同族の仲間である事が多く、しかもその人が信頼を寄せている人しか呼び出されない。
つまり、召喚されるのは仲間に頼りにされている証拠だ。
私は同族に自身の戦力を頼られた事がないから、自分に頼ってくれる同族がいる彼が羨ましく感じた。
「おや、あなたはこれで呼ばれた事がおありでしたか。…いや、でもあなたほどの強さをお持ちの方なら、お仲間に頼られない方が不思議ですが」
「俺はいつも一人だ…仲間なんていない。今はアレイがいるけどな」
いつも一人というのは寂しい気がするけど、彼の場合は強さを物語っているように思える。
強者はいつの時代も孤独だ、なんて誰かが言ってるのを聞いたことあるし。
「ふふ、そうですか。アレイさん。あなたはよい仲間を持ったものですね。殺人者と仲間を持つのは苦労が絶えない事ですが、時として大きな見返りが得られる事もあるものです」
それは何となくわかる。
私も、彼がいなければここまで来られなかった。
「感謝したいのはこっちだ。水兵を仲間にできるなんて滅多にない経験だからな」
「確かにそうですね。さて、話は変わりますが、先ほどシルトより連絡がありました。そろそろ樹海へ行くとよいだろう、との事でしたが…樹海とは、ブイクタのことですよね?あそこに何の用があるのですか?」
「ブイクタの樹海にいる反逆者に会いに行こうと思ってるんだ」
すると、カイナさんは目を見開いた。
「反逆者…!やはり、反逆者は実在するのですね!」
「まあ、そう…だな。あんたも来るか?」
「可能なら、そうさせて頂きたいです」
「まあそうだよな。でも別にいいよな、アレイ?」
「もちろんです」
そう答えると、カイナさんはいつにも増して嬉しそうにした。
「ありがとうございます。それともう一つ、シルトは一度ナアトへ来て欲しいとも申しておりました。このまま向かいますか?」
「そうしよう。何となくだが、嫌な予感がする」
奇遇にも、それは私も一緒だった。
「では、これを使いましょう」
カイナさんは、緑色の偶像を出した。
「そりゃなんだ?」
「これは"回歴の偶像"。記憶にある場所へ行くことが出来ます。当然ながら、私はナアトへ行ったことがありますので、これでワープが可能です。…あっ、その前に…」
カイナさんは月の術を唱えて自身の分身を作り出し、国を頼みますと頭を下げた。
分身も喜んで、と答えた。
「では、いきましょうか」
カイナさんが偶像を高く掲げ、私達はワープした。
ワープした先はナアトの町の入口。
前来た時にも思ったけど、この町にはほんのりといい香りが漂っている。
カイナさんは、息を大きく吸い込んで言った。
「やはり、いい香り。シルトの花好きは、200年間変わっておりません」
「…香り?俺は何も感じないんだが?」
龍神さんは感じないのか。
でも、これは感じない人もいるかもしれない。
「では、城へ行きましょう。彼女が私達を待っています」
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