アリス城・中盤

ある部屋にいた疑似アンデッドのゾンビを全滅させて通路に戻ったら、一部の壁が消えて新しい通路ができていた。

「あら、こんな通路あったっけ」


「さっきの部屋の敵を全滅させるのが、カギになってたのか。行ってみよう」


その通路は一直線で、突き当たりにピンク色のドロドロした疑似アンデッドがいた。

「なにあれ…気持ち悪い…」


「『ネクロジェル』…スライム系の異形のアンデッドだな。物理は効かないから、術で攻めよう」

龍神さんは魔導書を出した。

「[スパーク]」

一筋の稲妻が走ったかと思うと、無数の火花が弾ける。


あれは、電の初級魔法だ。

どうして、あんな弱い魔法を使うのだろうか。


と思ったら、スライムはブルッと震え上がってからへちゃぁっと地面に広がり、動かなくなった。

「え…今ので倒したの…?」

その瞬間、私にも理解ができた。

「スライム系異形は基本的に電に弱い。そして、アンデッド化するとその弱点はさらに顕著になる。だから、弱い魔法でも簡単に倒せる。そういうこと、ですよね?」


「そうだ。よくわかるな」


「マチェットを手にした時と同じ感じです。なんでかわからないんですが、自然と頭に浮かんでくるんです」


「ほう…もしかしたら、受け継がれたシエラの記憶が生きてるのかもしれないな」


「そうなら…いいですね」


もしそうなら、なんか安心する。

私には、偉大な先祖の記憶があるということになるからだ。

それと同時に、私が自分自身に能力を使えない事が余計に悔やまれる。

なぜ、私は私の過去を見る事が出来ないのだろう。

考えても仕方ないけど、気になって仕方ない。






スライムの疑似アンデッドを倒した先には、下の階へ続く階段があった。

今更だけど、この城は下に降りていくタイプのようだ。


「しっかしまあ、何とも雰囲気が最高な城だな。

神秘的で色々と謎が多いのも…いい!」

龍神さんが、突然わりと大きい声で言った。

「な、何をいきなり…」


「ん?あーいや、思ったことを口走っただけだ」


「そ、そう…」


階段を降りた先には、霊魂の疑似アンデッドが数体。

これにも物理は効かないので、魔法で攻める。

「[ホーリー]」

今のは、光の初級魔法だ。

細い柱状の光を叩きつけ、攻撃する。


思った通り、霊魂はすぐに消えた。

霊魂のアンデッドは光にめっぽう弱く、例え初級の魔法でも光属性の攻撃を食らえば致命的なダメージを受けるのだ。


「いいなあ…光魔法使えるの…」

悲しげにぼやくアメルに、私は助言した。

「アメルも魔導書持ってるよね?」


「ええ、火と地なら」


「それでも大丈夫。霊魂系のアンデッドには、火も十分通るから」


「そうなの?」

アメルは龍神さんの方を見、彼が頷くと「なら大丈夫そうね」と魔導書を出した。


てか、何よ今の。

まるで、私の言葉は信じられないみたいな感じね。


そう思うと、ちょっとだけ腹が立った。


「[フレイマー]」

アメルが放ったのは、火の上級魔法。

大きな火の玉を作り出し、相手にぶつけるというもの。

見た目はシンプルだけど、威力は高い。


案の定、霊魂は一瞬で消滅…いや、蒸発した。

ちょっと、もったいないような気もする。



次のフロアには亡霊系の疑似アンデッドが複数いた。

亡霊と霊魂は同じ霊体系のアンデッドだけど、一応の違いとして外見が異なる。

霊魂は魂そのもの、あるいはモヤか霧のような姿をしているものが多いのに対して、亡霊は生前に近いかどうかはともかく、ちゃんとした人型あるいは異形の姿をしている事が多い。


ただ、両者の違いはほぼそれだけで、どちらも肉体を持たず、常に浮遊している。

属性の耐性的にも、ほとんど同じだ。

どちらも闇と氷に強く、光と火に弱い。

そして、強い日光を浴びると消滅する。

だから、正直区別する必要があるかは疑問ではある。


「[フレイマー]」

またしてもアメルが火の魔法で疑似アンデッドを倒す。

「そんなに飛ばして大丈夫か?」


「飛ばす、って?」


「この城はたぶん、結構な長丁場になるぞ。魔力の消費は大丈夫なのか?」


「それなら大丈夫。ポーションを持ち歩いてるから」

アメルは、手に青い液体が入ったビンを出した。


「まあ、大丈夫ならいいが」




その先には、狼みたいな獣の疑似アンデッドが4頭ほどうろついている通路があった。

「今度は何?獣のアンデッドみたいだけど」


「ハスタム、ね。ハスティのアンデッドよ」

ハスティとは、狼に似た獣系の異形。

1頭ならそんなに怖い相手ではないけど、集団で狩りをする習性があるので、群れで出てくる事がしばしばある。

それが一度死に、ゾンビ系のアンデッドとして蘇ったものがハスタム。

群れで現れる習性はそのままに、生前よりも狂暴性が増している。

しかも、痛覚が死んでいるために耐久力が上がっている、厄介な相手だ。


「なるほどね。確かに、ハスティに似てる」

その時、奴らは私達に気付き、一斉に向かってきた。

飛びかかってきたのを避け、アメルはつぶやく。

「スピードが早くなってるけど、動き自体は変わってないのね」


「そうだな」

龍神さんは、正面から飛びかかってきたハスタムの口に刀を刺して後頭部を貫通させ、その死体を引き抜きつつ、横から飛びかかってきたハスタムを袈裟懸けに切り裂いた。


私は、近づかれる前に矢を放って仕留める。

もちろん普通に射つだけでは効き目が薄いので、技を使う。

「[矢の雨]」

大量の矢を降らせるという、至ってシンプルな技。

別に強力な相手でもないので、そこまで強い技を出す必要はないと判断してのことだった。


「[アームスイング]」

アメルはハスタムを引き付け、槍を振るって倒す。

これで、通路のハスタムは全滅した。



その先にはまた下の階へ降りていく階段があったのだけど、今までのものとは違って大きな折り返しの階段になっていた。

それを降りきると扉があり、それを開いた先にはすぐにまた階段があった。


「えっ?」

私は驚いた。

今私達がいる所の数メートル下にはまた下へ降りる階段が続いているのだけど、この扉の向こうはすぐにその階段に繋がっていたのだ。


「魔法で繋がってるだけじゃない?」


いや、それはそうなんだろうけど…なんでこんな仕掛けを作ったのかわからない。

こんな扉で繋がずに、普通に階段を下まで繋げればよかったような気がするのだけど。





やたらと長い階段を降りると、その先はなんと城の外だった。

いや、正確には外観か。

「えっ?」

これには、アメルも驚いていた。


しかも驚いたことに、下に落ちるギリギリの所まで行くと、城に入る時に通ってきた道が見下ろせた。

つまり、ここは城の上層階ということになる。


「えーと、つまり私達は上の階に登ってたの?でも、階段降りてきたわよね?」


「そのはずだ。けど、ここはどう見ても上の階だな」

どういうことだろう?

さっきの謎の扉といい、頭がおかしくなりそうだった。

これらもアリス三世の意向によるものなら、彼女の感性を疑う。

彼女はいいのかも知れないけど、こんなの、来る方は混乱するだろう。


…いや、でもよく考えれば、この城はアリス三世ではなく彼女の祖先…アリス一世が作ったものだから、彼女の考えとは関係ないか。

まあそうにしても、その考え方に疑問を感じるのは変わりないけど。




あたりをしばらく歩き回っていたら、壁に扉を見つけた。

「ここっぽいですね」

私が扉に手をかけた瞬間、龍神さんが止めてきた。

「待て。この扉の先から、やたら強いアンデッドの力を感じる」


「え…それって何?本物のアンデッドがいるって事?」


「いや、疑似だ…ただ、恐らくは本物…それも結構な高位のやつと同等の力を持ってる。一体どんな性質を持ってる奴がいるかわからん、気を付けて行こう」

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