アリス城・終盤
扉を開いた先には、明らかにこれまでのものとは違う疑似アンデッドがいた。
無数の人の顔がついた岩のようなものに乗り、気味が悪いデザインの赤い冠みたいなものを被り、四本ある手を広げた骸骨。
それは不気味な笑みを浮かべているようにも見え、通路を塞ぐようにどっしりと構えている。
幸い、まだこちらには気づいていない。
「あ、あれね…見るからに強そう」
「『ニダ・ヴァイ』…高位の骸骨系のアンデッドね」
「そうだな。俺もえらく久しぶりに見たぜ」
「骸骨系のアンデッド…って、エスケルとかの仲間ってこと?」
「ええ。でも、あいつはエスケルなんかと比べ物にならないくらい強い。何しろ、死の始祖の露払いとして現れるアンデッドの一体だもの」
古い文献によると、死の始祖は生者の世界に現れる際、必ず複数体のアンデッドを周りに置いているという。
その際彼が降り立つ場所には、彼に先立って数体の高位のアンデッドが現れる。
その時に現れる事があるアンデッドのうちの一体が、今あそこにいるニダ・ヴァイなのだ。
「死の始祖の…なら、強くて当然ね」
「ああ。本当はあまり戦いたくないが、仕方あるまい」
龍神さんは刀を抜き、振り向かずに言った。
「二人とも、くれぐれも油断するなよ。下手をすれば、普通に殺られる相手だからな」
「…覚悟はできてます」
「私もよ」
「ならいい。…行くぞ!」
龍神さんはニダ・ヴァイの前に飛び出し、奥義を繰り出した。
「奥義 [暴れ花鳥風月]」
高速で4連続の攻撃を打ち込み、さらに刀に電撃をまとわせて斬りかかった。
普通のアンデッドなら倒せている所だろうけど、奴はさして怯む事もなく反撃してきた。
「[
両手を交差させ、素早く払って黒い魔弾を打ち出す。
龍神さんはそれを避けたけど、すぐに次の攻撃が飛んでくる。
「[デスパイダーロープ]…」
ニダ・ヴァイの口から白い糸が吹き出した。
それは龍神さんの体に絡みつき、拘束した。
「っ…汚ねー手使いやがる…!」
私はすぐに飛び込み、敵に向かって術を放った。
「氷法 [氷閉じ]!」
敵を凍らせて動きを止め、その隙に彼を助けようとしたら、
「アレイ!」
アメルが叫んでくれなかったら、危なかった。
ニダ・ヴァイは氷を強引に剥がし、私を掴もうとしてきていた。
「私が相手よ!」
アメルが声を張り上げると、ニダ・ヴァイは彼女の方を向いた。
その間に、私は龍神さんの体に絡みつく糸を剥がす。
「大丈夫ですか…!?」
「ああ…それより、アメルが…!」
アメルはというと、ニダ・ヴァイが打ち出した魔弾を避け、槍を払って波動を飛ばしていた。
でも、やっぱり奴は怯む様子はなく、すぐに次の攻撃を仕掛けてくる。
「[炎の壁]!」
アメルはこのまま攻撃を受け続けるのはきついと判断したのか、火の術で壁を作り出した。
その瞬間、龍神さんが目を見開いた。
「!ダメだ、それは…!」
すると、ニダ・ヴァイは全ての手を火の壁にぺったりと貼り付けた。
そして、火の壁はみるみるうちに薄くなっていき、やがて消えてしまった。
「えっ…!?」
アメルが驚いている間に、ニダ・ヴァイは紫の炎?を作り出し、
「[デスファイアー]…」
アメルに飛ばした。
アメルはそれを受け、ふっ飛ばされた。
「アメル!」
「だ、大丈夫よ…。何、今の…!?」
「奴は結界や防壁を破って、そのエネルギーをそのまま技に転用できる!防御手段は、回避だけにしないとダメだ!」
「そんな…!そんなの、無理よ!」
安定して回避をするには、相手の行動をよく観察し、癖や隙を理解して攻撃を見切らなければならない。
でも、今はそんな余裕はない。
「"小娘よ…"」
「…!?あんた…喋れるの…!?」
アメルはニダ・ヴァイが話しかけてきた事に驚いたようだったけど、下位のアンデッドでも負の吸血鬼とゾンビ系の一部は言葉を喋るし、高位のアンデッドは種族を問わず喋る事ができる。
このニダ・ヴァイは疑似アンデッドだけど、本物と同等の能力を持っている。喋れても不思議はない。
「"汝の技量は、まだまだ未熟…その程度の実力で、我に挑むとはおこがましい限りよ…"」
「言ってくれるじゃない…!」
アメルは正面で槍を回し、疑似的な魔法陣のようなものを作り出すと、強烈な炎を打ち出した。
「奥義 [カルネージバルク]」
ニダ・ヴァイは炎に晒され、多少のダメージを受けたようだったけど、まだ十分とは言えない。
「まだよ…奥義 [シャインストライク]」
アメルは槍を白く光らせて振りかぶり、飛びかかってニダ・ヴァイの胸目掛けて突き出した。
「ぐ…はっ…」
ニダ・ヴァイは低い唸り声をあげたけど、すぐにアメルを掴み、壁に投げつけた。
「"多少は腕があるようだな。しかし、その程度の技量ではこの先には進めぬ…命が惜しくば、引き返すがよい…"」
アメルは「いたた…」と呻きながらも、どうにか立ち上がった。
「うぅ…なんかムカつく…!」
そして、アメルは再び構えた。
「"まだ我に立ち向かわんとするか。その根性、見上げたものだな"」
「ふん…死にきれない奴に言われたくない…!」
アメルは槍を握りしめ、ニダ・ヴァイをその瞳の中央に捉えた。
「"我は
「そんなのわかってる…!けどね、私は…私は…!」
その時、ニダ・ヴァイの両腕に鋭い斬撃が走った。
ニダ・ヴァイの腕はすべて切り落とされ、作り物の血が噴き出す。
「…!」
アメルが奴の気を引いている間に、私達は気づかれないように奴の背後に回り込み、二人で同時に奴の腕に斬撃を放ったのだ。
「上手くいきましたね!」
「ああ!アメルが気づいて、長く気を引いてくれたから助かったぜ!」
「まったく…私を体の良い囮にしないでくれる?」
「悪い悪い。それより…」
と、龍神さんの表情が急変した。
そして、唐突に叫んだ。
「…口と鼻を抑えろ!」
「えっ…!?」
次の瞬間、ニダ・ヴァイが技を放った。
「[亡者カビ]…」
青くて丸い何かが大量に現れ、霧のようなものを噴き出した。
私はとっさに手で鼻と口を覆い、吸い込むのを防いだ。
アメルも同じようにした、でも…。
「うっ…!」
アメルの顔がみるみるうちに青くなり、そのまま倒れてしまった。
「アメル…!?」
「やっぱり出しやがったか…これがあるから、俺はお前が嫌いなんだよ!」
龍神さんは悪態をつきつつも、ニダ・ヴァイに斬りかかる。
私はアメルを抱くように支え、揺さぶった。
「アメル!大丈夫!?」
アメルは、ゆっくりとまぶたを開けた。
「ああ、よかった…」
次の瞬間、アメルは勢いよく跳ね起きた。
そして、なんと私に槍を向けてきた。
□
クリーチャー解説
ニダ・ヴァイ
無数の人の顔がある岩の上に乗った、四本腕の人間の骸骨のような姿をした高位の骸骨系アンデッド。
死の始祖が高位の異人の骸骨に複数の人間の骨を融合させて作り出したものとされる。
多種多様な技を繰り出す他、胞子を吸った者を錯乱させ、敵味方問わず襲わせる「亡者カビ」を使う事で恐れられている。
同じ高位の骸骨系で、よく似た姿をしたアンデッドに「リダ・ヴァイ」というものがおり、こちらは胞子を吸った者に衰弱性の猛毒を与える「悪霊カビ」という技を使う。
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