アリス城
右側の階段を降りた先に、下の階へ通じるらしい階段があった。
そこを降りると、細長い通路があった。
その通路を進んだ先は2つに分かれていた。
「左に進もう」
龍神さんの言う通り左に進んだら、その先には大きなトカゲのような怪物がいた。
「何?異形…!?」
「いや、異形ではあるまい。何だ…?」
二人はわからないようだけど、私にはわかった。
「あれは、クローザード。疑似的なアンデッドです」
「…そうか、なるほどな」
「疑似的なアンデッド…?何それ?」
「『疑似アンデッド』。アンデッドに似せて作られた、魔力で動く人形のことだ。吸血鬼狩りの訓練でも使われる事がある」
「へえ。てことは、あれは作り物なのね」
「油断するなよ、奴らは本物とさして変わらない能力を備えてる。誰でも倒せるアンデッド、と思った方がいい」
「了解」
アメルは槍を左脇に構え、術を放つ。
「炎法 [ブレイズガーン]」
焼き払えばいいと思ったのかもしれないけど、これは少々悪手だ。
クローザードは見ての通り、一種の爬虫類系の異形がアンデッドになったもの。
体の表面は硬い鱗で覆われており、斬撃や弓矢は通りが悪い。
属性では、水と地に耐性がある他、火にも若干の耐性がある。
そのため、火ではあまり有効打にならないのだ。
「どうかしら」
アメルはちょっと誇らしげに言ったけど、ブレスを食らって飛ばされた。
「ああ…あいつには火は効きづらいんだよな。っと!」
龍神さんは、ブレスをかわしながら言った。
「アレイ、行ってくれ!」
「はい!」
私は魔導書を開き、魔法を放つ。
「[アイシクル]!」
冷気の風を吹き付け、相手を氷に閉じてダメージを与える中級の魔法。
それなりの威力があり、私はよく使う。
魔法を受け、足の一部に氷がついたクローザードは、動きが遅くなった。
そこで、次は魔弾を放つ。
「[スレイブレイト]!」
これもよく使う術で、氷の魔弾を飛ばすものだ。
魔弾を当てると、クローザードは完全に動きが止まった。
そこに弓技の[ブレイクスリンガー]を決めると、跡形もなく崩れ去った。
「なっ…こんな簡単に…」
「弱点をついただけだ。こいつは氷に弱いからな」
クローザードはもとが爬虫類であるためか、氷…というか冷気には耐性が全くない。
なので、氷属性を扱える人がいると楽に倒せる。
「氷に弱かったのね。というか、あっ…」
アメルは気付いたようだ。
「まあ、どの道アレイに任せるに越したことはなかったみたいだし…ね?」
いや、アメルも何とかできるでしょ、と思った。
クローザードには打撃は効く。そして槍には、打撃系統の技もあったはず。
それを、アメルが使えないわけがない。
「…」
まあ、いいんだけど。
先に進むと、青い絨毯が敷かれた通路に出た。
同時に、通路の脇に豪華なタンスや棚、その上に置かれた花瓶やツボ、燭台などが現れた。
「なんか、神秘的ね」
「だな。いかにも高位の吸血鬼の城、って感じだ」
せっかくなので、花瓶やツボは一個一個じっくり観察していく。
一つの花瓶には一種類の花が束になって挿されており、花瓶ごとに花の種類が違っていた。
中には、今の時期は見かけない花もあった。
そうした花瓶が、一定の間隔を開けながら奥までズラッと並んでいる。
私はその眺めに、この通路が小さな植物園であるかのような印象を受けた。
なんか、ナアトの城内で見た花壇に似ている。
アリス三世も、花が好きなのだろうか。
花が挿されていないツボを一個覗いてみたけど、何もなかった。
代わりに、私の後ろの天井から妖精のような姿のアンデッドが落ちてきた。
「おっと!」
私達が驚いている間に、龍神さんが首をはねて倒した。
「これはエルビィ…『狩人』っていう異人のアンデッドね。まあ、疑似アンデッドみたいだけど」
「これも疑似アンデッドなの?…しっかしさ、いきなり出て来られると心臓に悪いわね」
「一種の罠か。ま、当然だな」
「当然…?こっちは向こうに会いに行ってるのに?」
「要は、試練みたいなものなんじゃないかしら。ただ渡すだけじゃ面白くないとか思ってるのよ、きっと。彼女、言ってたでしょ?『どうか生きてたどり着いて下さい、期待しています』って」
「そうかしらね」
「向こうは高位の魔人であり、吸血鬼なんだぜ?そのくらいの考えがあっても不思議じゃないだろ」
「…そうね。え、てか彼女、魔人なの?」
「ありゃ、知らないか?…そっか、仕方ないかもな。
「そうなの?アンデッドだと思ってた」
「気持ちはわかるけど、アンデッドなのは負の吸血鬼の方な。正の吸血鬼とは全くの別物だし、
「わかった。彼女…というか高位の異人って、キレると怖いものね」
「だな。ま、俺はなぜかキレさせちまうことが稀によくあるんだけどな」
「えっ…?」
ここで、私は半ば呆れながら言った。
「彼はね、思った事をそのまま言うのよ。だから、周りの人は怒っちゃうの」
「あー、そういうことね。…てかさ、それだと友達とか出来なくない?」
「ああ。実際、俺は1000年以上、ほぼ一人だったしな」
「よく孤独に耐えられたわね」
「むしろ、人と関わる方が疲れる。コミュニケーションは苦手だ。何でかわからんが、自分でも会話してる途中、ちょくちょく妙な違和感を感じるしな」
「なにそれ。じゃあ仕事とかはどうしてるの?」
「なんにも」
「は?…あ、もしかして無職なの?」
「そうさ。俺は人間だった時から、
「え?じゃ、どうやって生活してるの?」
「
彼は、不敵に笑って刀に手をかけ、アメルを見た。
彼女は、顔を引きつらせて震え上がった。
「き、聞かないでおくわ」
しばらく進むと、通路に疑似アンデッドが現れるようになった。
人間やスライム系、鳥系の異形のゾンビから、元が何だったのかわからない霊魂まで、多種多様なものが揃っていた。
それらが、てんでんばらばらに通路を闊歩している。
「なにこの状況…」
「さすが、吸血鬼の城だな」
「いや、それで済ませられる事ですか?」
「…ま、倒していけばいいだけだ」
「いや、どう考えても多すぎでしょ」
「そうか?んー、ならこうしよう」
龍神さんは手を合わせ、疑似アンデッドたちに小さな電撃を浴びせた。
すると、アンデッドたちは動かなくなった。
「た、倒した…の…?」
「気絶させただけだ。今のうちに行こう」
疑似アンデッドが現れるようになったのと同時に、通路から通じる小さな部屋がやたらと増えた。
龍神さんが、それらを一つ一つ調べていこうと言い出した。
時間が無駄になる、と言いかけたけど、「いいかもね。この雰囲気をもっと味わいたいし」というアメルの言葉で、ぐっとこらえた。
最初は、「そうかな…?」という感じだったけど、色々見ているうちに二人の気持ちがちょっとわかってきた。
城内にたくさんある、広いけど、誰もいない部屋。
そこに、大きなベッドや見るからに高級そうなテーブル、立派なタンスや古びた本棚、豪華で色鮮やかな絨毯が置かれている様子は、どこか神秘的で謎を感じさせる。
しかも、2つと同じレイアウトの部屋はない。
通路にある、武器を持った何かの異人の像や、金色の燭台に立てられ、紫の火が灯るろうそくも、神秘的な雰囲気を演出している。
よく考えてみると、なかなかに素敵な場所だ。
疑似アンデッドがいなければ、最高なんだけどな。
□
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