司祭苺

ミジーで影喰らいとあのリッチの事を報告した。

そしたら、カイナさんは頭を抱えた。

「なんてこと…もし彼らが国に入ってきたら、私にはどうすることも出来ない…!」


カイナさんは地属性、風に弱い属性の使い手だ。

風の再生者である流未歌の力を受けた者に国に入りこまれては、ひとたまりもないだろう。

「ごめんなさい…私達の実力が足りないせいで…」

私がそう言うと、カイナさんはあわてて「いえいえ、そんな事はありません」と言ってくれた。


「これは我が国の問題、あなた方が思い悩む必要はありません」


「でも、だからといって放っておく訳には行きません。それに、この国が無くなられたら私達も困ります」

アメルの言う通りだ。

実は、ミジーはレークとニームのほぼ中間に位置する国で、他の国へのアクセスもそこそこ良いので、双方の水兵がこの町で待ち合わせをして、それから別の所へ行く…という事も結構あるのだ。


「ありがとうございます。確かに、あなた方水兵さんはよく我が国に来られますものね。

…しかし、どうしましょうか…。私達だけでは、彼らの相手は…」


と、1人の兵士が部屋に入ってきた。

「陛下、大司祭苺様がおいでです」


「苺さんが?…わかりました、通しなさい」


(苺…?)

どこかで聞いたことがある名前のような気がした。







そうして兵士に連れてこられた人を見て、驚いた。

白地に赤の帯が巻かれ、赤色で帽子に紋章が刻まれた装衣を着た、茶髪の女性。

一目でわかる…彼女は、大司祭だ。


修道士が僧侶を経て昇格する種族、司祭。

その中でも特に長い年月を生き、絶大な力と信仰を得た司祭の称号が大司祭。

世界でも数えるほどしかいない、偉大な存在だ。


「カイナ陛下、お久しぶりです」


「お久しぶりです、苺様」


その瞬間、私は彼女の事を思い出した。

(そうだ、この人は…!)

司祭苺、本名をサディ。

かつて、私の祖先と共に再生者と戦った三聖女の1人。

まさか、こんなタイミングで会えるなんて。


「おや?先客がおられたのですか。これは失礼しました」

彼女は、私達の方を片目に入れて言った。


「いえいえ、大丈夫です」


「でしたらよかったです。…」

苺さんは、私をじっと見てきた。


「あ、あの…」


「あなたは、再生者星羅こころの妹ですね?」


「は、はい…アレイ・スターリィと申します…」

すごく緊張する。

この心の底から震わせられるような威圧感と、荘厳な雰囲気は、サリスさんの時とは訳が違う。


「そうですか。ならば、まずは一つ言わせてください。…生きていてくれて、よかった」

苺さんは、やわらかな表情でそう言ってきた。


「カイナ陛下。最近再生者を倒して回っているというのは、この者たちで間違いありませんね?」


「はい。そちらの槍を持った水兵さんは、まだ新参のようですが」


「私だって、彼らのサポートくらいは出来ます!」

アメルが怒ったように言った。


「ふふ、左様ですか。…」

苺さんは、次はアメルに目を移した。


「な、何でしょう…?」


「あなたには、武術の才があるようです。相応の所で鍛えれば、真価を発揮出来るでしょう」


「え、私に武術の才が…?」


「ええ。あなたはこれまで、多くの仲間のために武器を作ってきたようですね?それには自身の異能もあるでしょうが、一番は武器…ことに戦いが好きだったからではありませんか?」


「…。それは…」


「好きこそものの上手なれ、という言葉もあります。あなたは単に武器を鍛えるだけでなく、それを扱う才もある。

ちょうど、私の部下に槍の使い手がおります。よければ、その者の下で修行しますか?強くなりたいのでしょう?」


どうしてわかるんだろう。

確かに、アメルは戦いが好きな印象があったし、強くなりたいって言ってた事があった。

私も、彼女ならきっと槍の名手になれると思ってはいた。

でも、苺さんは…どうして、一目見ただけでわかるんだろう。


「やらせていただけるなら、喜んで!」


「わかりました、当人にも連絡しておきます。

そして、あなたは…」

次に苺さんは、龍神さんを見た。

「…」


「殺人鬼…しかし、明確な悪意や殺意があるわけではないようですね。しかも、相当な強さも備えている。彼女の守り手に相応しいと思えます」


「そうですかい」


「あなたになら、彼女を託してもよいでしょう。

既にお気づきかとは思いますが、彼女はあなたと同じ組織の一員となる資格もあります。しかし、今はそれより全ての再生者の撃破を目指すのです」


「元よりそのつもりだ」


「よいでしょう。では、最後に…」

苺さんは、私の目を見てきた。


「あなたは…」




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