風の使い
その風は凄まじく強く、あたりの木々は大きく揺れ、枝が折れたり、木自体が傾いたりしていた。
私達は龍神さんに言われて伏せたから大丈夫だったけど、立っていたら飛ばされていただろう。
「なんて力…!」
アメルが唸る。
今の風からは、膨大な魔力を感じた。
アメルも、それを感じ取ったのだろう。
「これぞ、流未歌様のお力…あなた方などには、到底抗えぬ風の力です。しかし、この力はまだ完全なものではない」
「どういうこと?」
「アレイ様が生きておられる限りは、流未歌様は完全に力を取り戻す事ができないのです。
故に、アレイ様には一度死んでいただかねばなりません。ですが、ご安心を。あなた様は、我々の同胞となるのですから…」
「…勝手な事を言わないで!私は死ぬ気はない!もちろん…あんた達の仲間になるつもりもない!」
私は立ち上がり、吹きすさぶ風に歯向かうように叫ぶ。
「奥義 [
吹雪を巻き起こし、それと共に大量の氷柱を落とす。
こいつが風属性なら、効くはずだ。
リッチは結界を張ったようだったけど、この奥義は結界を貫通できる。
「ぐふっ…!」
リッチの右腕や頭に氷柱が刺さり、血が迸る。
それでも、リッチはまだ向かってきた。
「やりますね…ならば、次はこうです!」
杖を高く掲げ、空中に黒い渦巻く風の球を作り出す。
それを見るが早いか、龍神さんがリッチに電撃を放った。
リッチは電撃を受け止めたけど、龍神さんが電撃を強めると受けきれずに吹っ飛んだ。
「アレイ!あれをかき消せるか!?」
「や…やってみます!」
私は手に魔弾を作り出し、魔力を高めて球体目掛けて飛ばした。
でも、ほとんど効果がなかったので、次は直接冷気を吹き付ける。
すると、球体の渦巻く風が少し弱まった。
ここで、リッチが立ち向かってきた。
「…アメル!奴の相手を!」
龍神さんはアメルに声をかけて、リッチに飛びかかる。
私はその間に、球をかき消すための努力をする。
「[氷花冷撃]!」
6つの魔弾から放った冷気を1箇所でまとめて飛ばす術。
私が使える術の中では強いほうだけど、どうだろう。
結果的に、球はますます小さくなった。
しかも、さっきより縮み方が大きい気がする。
(これならいける!)
私は魔力を維持し、術をそのまま放ち続けた。
球は、みるみる小さくなっていく。
そして、ついに球は完全に消滅した。
「やった…!」
その時、アメルが私のほうに吹っ飛んできた。
同時に、龍神さんも飛ばされてきた。
「小癪な真似を…」
呻くリッチの手には、黒い小さな風の球が浮かんでいる。
そうか、あれで二人をふっ飛ばしたのか。
「しかしお見事です、アレイ様。あの術を簡単に破るとは。しかも、それも氷で。やはり、あなた様には星羅様と同じ、偉大な力がおありなのでしょう」
「…あんた、姉の何を知ってるのよ!」
「もちろん存じておりますとも。流未歌様は、星羅様に興味をお持ちですので」
「流未歌が…!?」
そう言ったのは、龍神さんだった。
リッチは、そんな彼に一瞬だけ目を移した。
「流未歌様は、この度新たに同胞となった星羅様の事を詳しく知りたいと思っておられまして。星羅様について詳しく調べるよう、私のような者に命じられたのです。そして、数々の興味深い事実を知りました。
アレイ様の事も、その際に…」
一度言葉を切り、リッチは言った。
「流未歌様は、アレイ様が異人となっていると知り、嘆いておられました。非力な人間であったなら、容易く引き込めたのに。よりによって水兵になっていようとは…と。
ですが、私はここで提案しました。ならば水兵の町を襲えばよいのでは?…と」
それを聞いて、私とアメルは奴に突っかかり、その首に刃を向けた。
「ですが、流未歌様はそれを良しとされませんでした。女だけの種族など、襲っても無意味だと。流未歌様は、あくまで男を狩る事を主軸とする方ですから」
何それ、と思った。
異性だけを狙う再生者…なんているんだ。
どの種族でも、そういうのは存在するのか。
「そうだとしたら、やっぱりあんた達は私達の敵ね」
アメルが言った。
「おや、それはまたなぜです?」
「男がいなくなったら、私達も絶滅する。それに、私だってまだいい男を見つけてないし」
アメル…と思ったけど、この際いい。
「そうね…そもそも、私は生きた異人。それは何があっても変わらないわ」
「往生際が悪いですね…」
リッチは杖を翳して術を使おうとしてきたけど、龍神さんの電撃を受けて怯んだ。
「っ…つくづく邪魔を…!」
「アレイは渡さない…アメルが何度も言ってただろ」
リッチは舌打ちをし、龍神さんを睨みつけた。
「しかし、報告すべき事が複数生まれてしまいました。ここは…ひとまず引き下がるとしましょう」
そして、リッチは黒い風に身を包んで消えた。
「はあ…いきなり何なのよ、もう」
「アレイは、奴らにとって最重要人物だからな。
アメル。アレイと一緒にいる限りは、今みたいにいつアンデッドが襲ってきてもおかしくない。それでも、俺達と一緒に来るのか?」
アメルは少し考え、
「…行く。アンデッドと戦うのは、どうせ逃れられない運命だし」
と、決意したような顔で言った。
「そうか…ならば、止めはしない。…くれぐれも死ぬなよ」
「ええ。その代わり、あなたこそアレイをしっかり守ってよね」
「心配するな」
それから森を抜けてミジーに行くまで、敵は出てこなかった。
□
面白い、続きが読みたい、などと思って下さった方は、レビューやフォローをして頂けると作者のモチベーションも上がって更新頻度を維持しやすくなりますので、ぜひよろしくお願いします。
またコメントやいいねもお待ちしています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます