下僕
結論から言うと。
影喰らいは間違いなく、この森の東にいる。
けれど、今私達が挑んでも勝てるか怪しい上に、そもそも倒すべき存在であるのか疑わしい。
というのも、今回白水兵達を襲った影喰らいは、簡単に言えば流未歌の傀儡だからだ。
一ヶ月前、この森に突然流未歌の部下のリッチがやってきた。
それは影喰らい達の集落を訪れ、彼らに対して流未歌に服従するよう要求した。
当然、彼らはこれを断った。
すると、リッチは術を使い、影喰らい達の自我を奪うと同時に、自身の…いや、正確には流未歌の力を注ぎ込んだ。
そして、彼らは流未歌…もといリッチの下僕となって、その命に従って行動するようになった。
わざわざ遠出して白水兵達を襲ったのも、リッチに命じられたからだった。
つまり…
「奴らは、生きながらにしてアンデッドになっている、ってか」
龍神さんが、重々しく言った。
「生きながらにして…ってどういうこと?」
「生きた屍、ってことさ。ただし、アンデッド…『動く死体』とはまた違う意味だけどな。
肉体は生きてるが、本人の意識は死んでいる。
まあ…そうだな。『
「…ええ、よくわかったわ」
長らく目撃例がなかったけど、復活の儀の直後からちょくちょく見かけるようになった。
その正体は生きた人間や異人に術を施し、術者の思うがままに操れる奴隷にしたもの。
生きてはいるけど、自我や感情を持たず、主の命に従ってのみ動き、しかも大抵は一般の人間や異人に対してかなり攻撃的だ。
そのため、結果的にはアンデッドと大差のない存在と認識されている。
これらは「目に付くものは全て抹殺せよ」という命を受けている事が多く、私達を見つけるや否や襲いかかってくる。
そして、とにかく数が多く…何より厄介なのは、元は善良な人であることだ。
「でも、そうだとしたら、彼らに術をかけたやつを倒せば、彼らとは戦わずに済むんじゃないかしら?」
「そうね。私も、それがいいと思う。それに今の彼らは、流未歌の力を受けている。まともに戦ったとしても、勝てるかわからない。今は、退いた方がいい」
龍神さんは俯き、無言になった。
でも、私が声をかけると、顔を上げて言った。
「…悔しいが、仕方あるまい。ミジーに戻って、イクアルに話をつけよう」
歩き出そうとしたら、突然強い風が吹いてきた。
「な…何…!?」
「この風…まさか!」
すると、目の前で紫色の風が渦巻いた。
そして、その中から1人のリッチが現れた。
「…!」
それは、恐らくは男性…だった。
奴は私を見て、
「これはこれは、星羅様の妹様。お会いできて、光栄に思います」
と言ってきた。
「あなたは…!」
「失礼しました、私はジスト。再生者流未歌様の使いにございます」
「…てことは、お前が影喰らいどもをけしかけた犯人か!」
奴は龍神さんに目を移し、あざ笑うように言った。
「生憎ですが、私は殺人者などに興味はない。興味があるのは、この方だけです」
そして、奴は私に気味悪く微笑みかけてきた。
「私ども一同、あなた様のご無事を心より願っておりました。
そして我が主もまた、あなた様のご帰還をお待ちです…星羅こころ様の妹、アレイ・スターリィ様」
「アレイは…あんたなんかに渡さない!」
アメルが突っかかったけど、奴は平然としている。
「ご存知ないのですか?この方は、紛うことなき星羅様の妹君。あなた方の側にいるべき存在ではないのです」
「そんなの、あんたが決めることじゃない!アレイは、私の同族よ!」
「一介の水兵が何を…この方の力は、あなた方などに活かせるものではありません。この方の力は、我々の側でこそ活かせるものなのです」
それに、私は反論した。
「私の力は私のものよ。他の誰にも使わせない。そもそも私は、あなた達の側につくつもりはない!」
「そうですか…やはり、星羅様の妹様ですね。
意思が強く、他者が何を言っても耳を貸さない…。
であれば、やむを得ません」
そして、奴は手を翳して魔力を溜め始めた。
「我が主の力…ご覧にいれましょう。
風法 [アル・ストーマー]」
奴が術を放つと、強烈な竜巻が現れて襲ってきた。
私は氷の壁を作り出して防ごうとしたけど、それでも防げなかった。
竜巻は氷を粉砕し、私達を巻き込んできた。
全員派手に吹き飛ばされ、地面に強く打ち付けられた。
その衝撃は凄かった。
人間だったら、体がバラバラになっていたかもしれない。
「っ…」
何とか立ち上がると、龍神さんが若干ふらつきながら術を使おうとしていた。
「ら…雷法 [サンダーライト]…!」
リッチに太い黄色の電撃が降り注いだ。
かなり強い魔力を感じたから、相当な威力がある事が感じられた。
けれど、リッチはさして傷を負っていないようだった。
「電の術…ですか。しかし、流未歌様のお力をもってすれば大した脅威ではない。これほどの攻撃を受けても、私はさしたる傷を受けていないのが、確たる証拠です」
そして、リッチは私に手を伸ばしてきた。
「さあ、星羅の妹様。私と共に来ていただきましょう。流未歌様がお待ちです。…」
リッチはその手を切断され、血を噴き出した。
その原因は、アメル。
アメルが槍を振るい、腕を切り裂いたのだ。
「…!」
「そんなことさせない。アレイは私達にとっても希望なんだもの、死にぞこないなんかに渡さない」
「…」
リッチは黙り込んだ。
とその刹那、
「…二人とも伏せろ!」
龍神さんが叫んだ。
そして、リッチを中心に嵐のような風が吹き荒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます