食人鬼

「…!」

私たちは振り向いた。

そこには、なんと龍神さんの姿が。


「龍神さん…!?」


「…二人とも、無事でよかった!」


「あなたいたのね。てか…」


「それより、見ろ!」

彼の見た方には、先程の女性がいた…

短剣を手にしていたけど。


「彼女が…どうかしたの?」


「…わからないか!?こいつは…!」

と、女性が龍神さんに斬りかかった。


「余計な事言わないでもらえる?」


「なんでだ?すぐにわかる事だろう。それに、どの道彼女らも知ることだ」


「…それも、そうね」

途端に、部屋に異様な魔力が満ちた。


「水兵、だっけ?あなた達にも教えてあげる。私はカナ・エルネイア。この森の食人鬼よ」


私は心の底から驚き、そして震えた。

「食人鬼…?」

アメルはピンときてないようなので、私が説明した。


「食人鬼は、他種族を殺して、その肉を食べる事で生きていると言われる種族。殺人者系の上位種族よ」


「えっ…!?」


食人鬼は、知名度は殺人鬼や無双者に比べると低い。

でも、殺人鬼以上に数が少ない種族。

そして、殺人鬼と同等かそれ以上に、私達の脅威となる種族でもある。


「そう…私は、この森に来る奴を狩って生活してるの。そしてあなた達は…」

彼女は魔力の満ちた短剣を私達に向けてきた。


「な、何する気…?まさか、私達を…!?」


「ふふ…海人なんて初めて。どんな感じなのかしら」


短剣を舐めて笑う彼女の前に、龍神さんが躍り出た。


「おーっと、残念だがそうはいかないね」


「なんで?私とあなたは、同族でしょう?」


「ふん…俺とお前は、似て非なる存在だろうが」


食人鬼は殺人者系の上位種族ではあるけど、殺人鬼や無双者とは少し縁が遠く、どちらかと言うと屍食者グールに近い種族。

そして屍食者は異人や人間の肉を食べて生き、死んでも復活する事がある、アンデッドに近い異人の一種。


「あら、知ってるの?」


「当然だ。俺は吸血鬼狩りだからな…アンデッドに関係ある事は、徹底的に調べてる」


「へえ…」

女性…もとい食人鬼カナは、龍神さんに怪しげに笑いかけた。


「それで?なんであの子達をかばうわけ?」


「あの二人は、わけあって預かってるんだ。だから、こんな所で死なせる訳にはいかないんだよ」


「ふーん。なら、守ってみなさい」

カナは、短剣を右手にも持ち出した。

そして、その魔力が更に強くなった。


この魔力…今までの異人とは格が違う。

これはまるで、歴戦の魔女のような…



カナは短剣を払い、斬撃を3発飛ばした。

それらは全て、私達に向かってきた。


技名の宣言がなかったので、反応が遅れた。

でも、アメルが槍で斬撃を弾き飛ばしてくれた。


「…!」


「技の銘を言わない…って事は、本気なのね」

異人の技は、出す時必ずしもその技の名前を口に出す必要はない。

まあ、私はかっこいいから…っていう理由で技名を宣言して、技を出してるけど。

私だけじゃなく、異人はみんなそうだろう。


でも、それがない…となると、それだけで殺意というか…気迫が伝わってくる。

みんなが自然にやってる儀式的作法をやらないと、それだけで相手に格の違いを感じるのは、なぜだろう。


「本気?まさか。私は、ただ獲物を狩るだけ」

そう言いながらも、短剣を2本同時に投げてきた。

それはブーメランのように回転しながら飛んでくる。

「霜降のスノーラル」で動きを鈍らせ、確実にかわす。

そして、カウンターとばかりに矢を放つ。


「[ターンブレイド]」


カナは矢を躱したけど、すぐに背後から矢が戻ってくる。

でも、それもわかっていたかのようにかわしてきた。「!」


「返り射ち系の技ねぇ…なるほど」

カナは、私を感心したような目で見てきた。


「それなりに経験はあるのね。なら、こんなのはどう?」

短剣を構えてぐるんと一回転し、短剣を投げてきた。

避けた…つもりだったのだけど、短剣が戻ってきた。

そしてそのまま私のまわりをぐるぐると回り、全身を切り刻む。

短剣は私の頭から足までを斬った後、カナの手に戻った。


「アレイ…!」


おびただしい量の血が、私の体から流れる。

指を落とされたりはしてないけど、痛みで指を動かせない。

返ってきた短剣についた血を舐めとり、カナは言った。


「そこそこね。なんか、ちょっと人間の血に似てる。

もしかして…人間上がり?」


「だったらどうなの?」

アメルが飛びかかる。

カナはアメルの槍を受け止めたけど、アメルが槍を炎上させると「あつっ!」と声を上げて手を離した。

そこに、アメルは槍を打ち込んだ。


「…っ!」

カナが短剣を突き出すと、アメルは少しバックし、槍を突き出してしゃがみ、片足立ちでぐるりと一回転してカナを転ばせ、首目掛けて槍を打ち付けた。


間一髪、カナは槍を回避して跳ね起きた。


「あなたも、やるじゃない?これは、狩り甲斐のある獲物が来たものね…」


カナが不気味に微笑む所に、龍神さんが斬りかかった。


異人・食人鬼

その名の通り異人・人間問わず他者の肉を主食とする殺人者系の種族。

通常の食事をとることもあるが、基本的には他種族を捕食して生きており、死亡しても復活する事がある。

捕食した相手の魔力や能力を取り込む能力を有する者もいる。

昇華すると反逆者になるため分類上は殺人者系の上位種族だが、殺人鬼や無双者と比べると屍食者に近い。



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