遭難、そして

翌朝、幸いにも雪は止んでいた。

寒さも、昨日までと比べるとマシになっている。


俺達は交代で風呂に入った。

そして最後…アメルが入っている間に、アレイが心配そうに言ってきた。

「龍神さん…昨日の夜、アメルに襲われたりしませんでした?」


「ん?ああ、まあ…」


「ならよかったです」

そしてアレイは、申し訳なさそうに言った。

「水兵って、気に入った人には遠慮なく関係を迫るんです。特に龍神さんは、私達を助けてくれた前例があるので…きっと、みんな狙うと思います。

これからも、私以外のレークの水兵に会う事があったら、その点に留意しておいて下さい」


やはり、そうなのか。

「わかった…ありがとな」




町を出て森に向かう。


アメルは、まるで騎士のような立派な槍を背負っている。

水兵…というか海のものの槍は三叉のイメージがあるが、アメルの槍は見た感じ普通の槍だ。

二メートルくらいある柄は黒く、刃は鈍い銀色の光沢がある。


「その槍が君の武器か」


「そうよ。ガラムレトって言うの」


「誰が名前をつけたんだ?」


「私。これはね、私が魔力と精魂を込めて鍛えた、この世に一本だけの槍なの」


ここで、アレイが軽く解説してくれた。


「ガラムレトっていうのは、昔海人の間で使われてた言葉で「火の槍」って意味なんです」


「へえ…てことは、その槍には火の力があるのか」


「ええ。この槍には、火の魔力が宿ってる。まあ、私自身の術も火属性なんだけどね」


「水兵にも火属性がいるのか。…あれ、てことは、結果的に火と水を使えるのか」


「そうよ。火と水は相性が悪いって思われがちだけど、術で合わせて使う分には全然そんなことないの」


「まあそれは…な。ところで、君は戦闘の経験はあるのか?」


「もちろん。私、これでもセレンと同じくらい戦い好きなのよ」


「ほう…」

俺がそう言うと、アメルは妖しげに笑った。


「信じてないの?…まあ、見てなさい。戦いになったら、私の槍さばきをしかと見せてあげる」




そうしてるうちに森に着いた。


この森のどこかに奴らが…という事で、とにかく歩き回った。

どこにいるかはわからないが、とにかく歩き回って見つけてやる。



…だが、そんな無計画に歩き回った所で見つけられるはずもなく、あっという間に数日経ってしまった。

しかも、デタラメに歩き回ってるうちにアレイ達ともはぐれてしまった。


こんな事なら、影喰らいが森のどこにいるのか、ロザミなりイクアルなりに聞いておけばよかった。


      




       ◇




龍神さんとはぐれてもう3日になる。

アメルも、どこかへ行ってしまった。

今、どの辺にいるのかもわからない。


また雪が降ってきた。寒い。

あれからだいぶ歩いたけど、ただ疲れただけだ。

もう日も暮れる。


「はあ…はぁ…」

寒さと疲れが限界に達し、倒れてしまった。







「アレイちゃん」

聞き覚えのある声がした。

「え…キャルシィさん…?てことは、これは夢…?」


「そう、夢よ。それより、あなたに伝えないといけない事がある」


「なんでしょう?」


「あなたと彼らは生きてる。でも、今までとは違う危険が迫ってる…気をつけなさい」


「どういうことですか?」


「あなたは助かった。でも、これは次にくる脅威の前に訪れた、ひと時のかりそめの安心に過ぎない。

彼はともかく…彼女とあなたは危ないわ。くれぐれも油断しないようにね…」

そう言い残して、キャルシィさんは去っていく。


「ちょっと、待ってください…!」





目が覚めた。

そこは、小屋のような建物の中だった。

どうやら、誰かが私を見つけてくれたようだ。


(私…助かったのね)


でも、すぐに夢で見た事を思い出した。

キャルシィさんは、未来に起きる事を夢に見る事ができ、誰かの夢に入ってそれを伝えることもできる。


(危険が迫ってる…って言ってた。でも…何のことだろう?)


その時、部屋の扉が開いた。

そして、一人の女性が入ってきた。


「よかった…目が覚めたのね」


「わ、私は…」


「森の中で倒れてたの。ここは私の家よ」

女性は白い長髪に赤い目をしている。

なんだか、不思議な雰囲気の人だ。


「あなたが助けてくれたんですか。ありがとうございます」


ここで、アメルが部屋に入ってきた。


「あ!アメル!」


「アレイ…起きたのね。よかった」


「無事でよかった!」


「あなたこそね。私も、さっき起きたところなの。この人に救われたわね」


「いえいえ…あなた達を助けたのは、善意でやったことだから」


「でも、おかげで命拾いしたわ。ありがとう」

アメルは、女性に頭を下げた。


「…あっ、そうだ!龍神さんは!?」

私がそう言うと、女性は残念そうに言った。


「ごめんなさい、見つけられたのはあなた達だけなの」


「そうですか…でも、助かってよかったです」


「とりあえず、食事にしましょう」



出されたのは野菜サラダとカレー。

お腹が空いてたのもあって、とてもおいしかった。


……なんか、ふと龍神さんに初めて会った時のことを思い出した。



食事をしながら聞いたのだけど、女性はカナという名前で、ここに数百年前から住んでいるらしい。

殺人者系種族らしいけど、何もしていないので影喰らいには狙われないという。





「ごちそうさま。ねえ、少し休んでいい?」


「ええ。じゃ、私は片付けてくるわ」


そうして、女性は去っていった。




「んー、おいしかった!」


「本当ね。こんな森の中で、あんな美味しいものを食べられるなんて思わなかった」


「アメル、少し休んだら、龍神さんを探しに行きましょうか」


「そうね。この寒さだもの、ほっといたら凍えてしまうわ」


アメルは携帯を取り出し、何かし始めた。

「何してる?」


「ネットが繋がるか試してみようと思って…」


「あっ、そう。どうなの?」


「一応は繋がるみたい」


「そう…」


私は座り込み、ぼんやりと空を見上げた。


この部屋は暖かい。

長居すると、外には出たくないと思ってしまう。


でも、そういう訳にもいかない。

アメルにも言ったけど、龍神さんを見つけないと。


「龍神さん…どこにいるんだろう…」





その時、空間に奇妙な歪みが走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る