反逆

たちまち辺りは騒然となった。

「水兵が、男に変身した…?」


「え、殺人鬼だって…?」

男の兵士たちがざわつく。

水兵たちも若干だがざわめいていた。


「…者共、何をしておるのだ!

さっさとこやつを捕らえろ!」

王が怒鳴ると、すぐに周りの兵士が襲ってきた。

向こうは槍と盾を構えて、俺を囲んで走ってくる。

対処は難しくない。適当に引き付けたらかがんで回転斬り、雷月落としを撃てば大半の奴は片付けられる。

「うぬぬ…

ならば娘ども!貴様らがこの男を始末しろ!」

王はそう叫んでさっさと逃げ出した。

「待て!」

電撃で追撃したが、奴は逃げる途中で突然消えてしまった。


「ちっ…まあいい」

今は奴の追跡より大事な事がある。

すぐに振り向いて、動揺する水兵達に弁明した。

「…脅かしてすまなかった。さっき言った通り、俺は殺人鬼だ。けど勘違いするな、君らの同胞の声を聞いて君らを助けにきたんだ」

見れば、武器を持っている子は意外といた。

まあ、武器と言っても短剣がメインだったが。

「これからどうするの…?」

誰かが言った。

「じきに仲間がくる、そいつについていってくれ。

大丈夫だ、安全な場所に避難させるだけだから」


「…わかりました!」

正面から見て最左列の後方から、アレイの返事が飛んできた。

それと同時に、水兵たちは再びざわめいた。

「あ、それともうひとつ。

数人でいいから、まともに戦えそうな子は来て欲しい。

特別な栄養剤を用意してあるからな…」

何やらひそひそと話し声が聞こえる。

「殺人鬼と一緒に戦うの…?」とか「どういうつもりなんだろう…?」とか言ってるな。

だがまあいい。

「…私でよければ」

最初に名乗りを上げてくれたのは、なんとセレンだった。

言いたい事はあったがこらえた。

「わかった。他にはいるか?

あと二、三人欲しいんだが」


「私も行きます」


「…アレイが行くなら、私も」

アレイと、あと…あれは誰だ?

取り敢えず、二人も名乗り出てくれた。

「あとはいないか?」

声をかけたが、それ以上は名乗り出てこなかった。

「そうか…ならいい。

取り敢えず…」


ここで、入り口の扉が開いて朔矢が現れた。

「お!丁度いい所に。

今名乗り出てくれた子は俺についてきてくれ。

残りは、今きた女についていって欲しい」


「…あの人が、あなたの仲間なの?」


「ああ…

朔矢、そういう訳だから頼むぞ!」


「はいはい…

ほら、戦えない子はこっちに来て。

安全な所まで連れてくから」

水兵たちはあっさり従ってくれた。




「来ましたよ」

三人は階段を登って来てくれた。

「ああ、すまないな。

えーっと、君は…」

1人、名前を知らない子がいる。

「アメル。アメル·ステノア。 

アレイの、前の同僚」


「へえ?アレイの元同僚?」


「はい、彼女は前まで私と同じ所で働いていたんです」


「そうか。

あ、これ栄養剤な」

例のサプリを渡すと、アメルはすぐに飲んでくれた。

「扱いやすい武器とかあるか?」


「扱いやすい、というか槍が好きなんだけど…

今は持ってない」


「じゃ、これから取りに行こう」


「武器庫に?」


「武器庫には違いないが、多分君らが思ってるのとは違うだろうな」


「?」

三人は不思議そうな顔をしていた。






「その武器庫ってのは、どこにあるのよ?」


「まずついてこい」

三人を引っ張るようにして、廊下を進む。

昨日の夜1人で城内を探索した時に、気になる所を見つけていた。

あれはおそらく…


「ついた!ここだ!」


「ここって…」

昨日セレン達に教えてもらい、襲った武器庫だ。

だが肝心なのはその奥の黄色い壁だ。

「壁が、どうかしたの?」


「見てろ…」

電気の力を込めて壁に蹴りをぶちこむ。

すると、たちまちひびが入って崩れさり、奥に通路が現れる。

「…!!」

この世界には特定の属性に弱く、該当属性を持つ攻撃なら容易に破壊できる岩があり、それぞれが有効な属性のイメージカラーと同じ色をしている。黄色い岩は電気の属性を持つ攻撃に弱い。

この壁は、その黄色の岩を用いて作られていた。

「昨日セレン達を連れてきた時に見つけてな。

恐らくそうだろうと思ったんだ」


「もしかしてこの先に…?」


「多分、だがな」

暗いまっすぐな通路を進んで行くと、すぐにその部屋に出た。

「…!」

そこは武器庫だった。ただし、特別な武器だけの。

刀身に何かの模様が入った剣、不思議なオーラを醸し出す棍…

城の兵士が使うような量産型の武器とは訳が違う。

「この中に、君の槍もあるんじゃないか?」


「…そうね。というか、探すまでもなさそう」

アメルはそう言って、右側の壁の天井近くにかけられていた刃先の赤い槍をジャンプして取った。

「それで間違いないか?」


「ええ。間違えるはずない」


「それじゃ、セレンのは…」

言うまでもなかった。

彼女は既に、柄が緑(しかも両端に刃がついてるタイプ)の薙刀を手にして小さく頷いていた。

「私ももう見つけた。

それより、これからどうするの?」


「能力も取り戻せると嬉しいんだけど」


「そうですね…

龍神さん、能力を取り戻せる算段はついてますか?」


「それはない。

だが、武器を取り戻せただけでもいいんじゃないか?」


「そうかもね。

…あ、そうだ!ユキさんは!?」


「…!忘れてた!」


「あいつがどうかしたのか?」


「レークの水兵長…要は、私達の統括者。

あの人が、私達をまとめてくれてるの。

あの人を見殺しにする訳にはいかない、すぐに助けなきゃ!」


「そうね…

龍神さん、どうかユキさんを助けてあげて下さい!」

アメルとアレイの様子から、余程大切にされている事が伺える。

「わかった。すぐに行こう」


「あの人は私たちの部屋にいるはず。

急ぎましょう!」


「待て!」

部屋に戻ろうとするセレンを止めた。

「あいつがいるのは、そっちじゃない」


「え?」


「正解は、恐らくこっちだ!」



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