第5話

「助けてくれてありがとうなの」


 感極まった表情の小さな少女に抱き着かれる。


「どういたしまして」


 俺がそういうと彼女と目が合った。俺を認識した彼女のが驚愕の表情へ変わったいった。


「に、人間だー!!」


 彼女は大声を上げると宙に浮きこちらを警戒する様子を見せた。

 表情がコロコロと変わる彼女に思わず吹き出してしまう。


「ぷっ。あははは」

「何よ!急に笑い出して!」


 彼女が俺を叩きながら抗議してくる。痛くは無かったのでされるがままにしていると叩くのを肩で息をし始めた。疲れた様子の彼女から疑問を投げかけられた。


「あなたからは嫌な感覚を感じないの。どうして何もない森の中にいるの?」


 地球の妖精は好奇心旺盛で悪意に敏感だと学んだ。彼女もその例に漏れないのだろう。

 そんな存在である彼女なら話をしても大丈夫だと判断した俺はこの世界に来てからの出来事を勇者に関する部分を伏せながら話をした。


「異世界から来たって事はもしかして勇者様?」


 喋っていない事を言われてしまいドキリとしてしまった。


「まぁ、近い存在ではあるかな」

「すごーい!」


 俺の反応を見た彼女は嬉しそうに宙を舞う。


「もしかしたら……」


 彼女は急に何かを思いついた様子だった。


「あなたなら里のみんなを助けられるかもしれないの!着いてきて欲しいの!」


 そう告げる彼女の表情は先程までと違いとても真剣なものだった。


 その表情から頼み事が危険なものであるかもしれない。だが、この世界の情報や食糧は喉から手が出るほど欲しかった。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずかな……。


「分かった。案内してくれ」


 この森はあまりにも人の手が入っていないように感じられた。

 意思の疎通ができる生き物にもう一度会えるかどうか分からない。色々と考えた結果ついて行くことに決めた。


「ありがとうなの。私の名前はエラって言うの!こっちなの!」

「俺の名前は龍空だ。よろしく頼む」


 お互いに自己紹介を済ませるとエラに着いて行く。

 背の小さい彼女にしか通らないであろう道がいくつか合ったが、剣で道を広げられるところは広げそれ以外は避けて進んだ。


 里まで向かう道中で彼女から事情を聞く。


「里を助けるって言ってたけど、どんな危機があったんだ?」


 エラは俯きながら説明してくれた。


「ある日突然、里の近くの花園に急にモンスターが現れ襲ってきたの。私たちも必死に抵抗したの。でも勝てなかったの。綺麗だった花園は見る影もなくなっちゃったの」


 その話を聞いた俺は一匹のモンスターが頭に浮かんだ。

 中級ダンジョンの下層で出てくるとあるモンスターと特徴が似ていた。

 もし仮にアイツだったとしたら今の実力では到底足りないし、武器も必要だ。

 どう声をかけたら良いのか分からなかった俺は対処するべき方法を考えながら歩いていた。


「もう少しで里に着くの」


 エラがそう言った時だった。何処からか突然声が聞こえた。


『こちらです』

「誰だ!」


 俺は立ち止まると周囲を警戒する。


「どうしたの?」


 エラは不思議そうな顔でこちらをのぞいてきた。

 彼女には聞こえていないのか?


『あなたがここまで来てくれることを待っています』


 やはり聞こえてきた!

 何かが俺に対して訴えてかけるような声が脳裏に響く。


「何でもない。気にしないでくれ」

「分かったの」


 先導を再開するエラの後ろをついて行く。


「ここなの」


 エラの視線の先には雑木林に擬態した小さなゲート時空の歪みが存在していた。

 先に入って行った彼女の後を追い、俺もゲートに入った。


 慣れないな。

 未だ数えるほどしかゲートを入っていない。そのため全くと言っていいほどこの奇妙な感覚に慣れることができていなかった。


「私たちの里へようこそ!」


 先に入っていたエラの声で地に足がついた感覚がした。

 俺の目の前にはおとぎ話で出てくるような小さな住処が広がっていた。

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